ペンシルゴンからのオハナシ
「あ"~~~………ちゅかれた…………」
影法師との試練を終えて、劇場内からフィフティシアの裏路地へと戻ったペッパーは、戦いの反動から其の場にヘタって座り込む。ゲームという物は、種類を問わず脳のスタミナを使う。其れがVRゲームでの高速空中立体機動戦ともなれば、発揮した
「まぁ………楽しかったから、良しとするか」
事実、ペッパーの心は疲労感とは別に充実感と満足感に満ちている。自分対自分、思考深度が深い者同士による、高度な読み合いが織り成す戦いは、何時だってゲーマー魂が燃え上がるのだから。
何よりも、そう何よりも。リュカオーンがあの日刻み付けた
だが彼は忘れていた、此の戦いを誰が見ていて、自分が何を言っていたのかを。
「ペッパー君」
ふと見上げれば、クラン:
其の両目は光を無くし、黒い闇より尚も深く。深淵すら生温い、漆黒以上の黒の視線を向けていて。
「…………ちょっと『オハナシ』、しようか?」
「アッハイ」
オハナシが始まる。
NPCカフェ・蛇の林檎:フィフティシア支店。サードレマ・エイドルトのカフェと、殆ど同じ顔をした店主が経営している店の一個室を取ったペンシルゴンは、ペッパー・アイトゥイル・ポポンガの分の飲み物と食事を頼み、椅子に座った。
「あ~……其の、何から聞きたい?トワ」
「………あーくんが右手で握っていた剣の事。あの中世ヨーロッパの劇場みたいなフィールドの事。あの黒いあーくんは何者なのか。そして…………あの歌声は誰なのか」
席に座ってオハナシの内容を問うペッパーに、ペンシルゴンは至極全うな、そして自身が納得する為に必要な要素を述べてくる。あれだけ派手に暴れ散らかしたのだから、当然と言えば当然なのだが。
(さて、何れから話していくか………)
ぶっちゃけるなら、四つあるオハナシ案件の内の剣…………星皇剣グランシャリオ『以外』の三つは、全てが影法師のイベントで繋がっている。問題なのはイベント戦闘の中で、オープニング・トドメの刺し方へのヒント・エンディングを歌っている声の主たる女性が、ペッパー自身にも解らない………という事だ。
「………解った。だが先ず、最初に断っておく。あの時、ペンシルゴンが見た戦いをクランメンバー以外には、『時が来るまで』他者への口外しないで欲しい。おそらくだが………あの中世ヨーロッパの劇場染みたフィールドは、間違い無く『ユニークモンスター』━━━━多分だが、『
『プレイヤーをフィールドに引き摺り込み、プレイヤーを模した黒いプレイヤーと戦わせ、当時の戦闘状況の再現を要求する
最もペッパーは三度に渡る戦いの経験し、共通して『歌』と言う形で状況が進行していった事から、ユニークモンスターの中でも該当するのが『冥響のオルケストラ』以外考えられないと、当たりを付けたのだが。
「冥響のオルケストラ………あのおじいちゃんの言ってたユニークモンスター関係、ねぇ……」
「確たる証拠は無いから、解らないんだけどな……。次に中世の劇場に入る条件は『
「劇場内に入ると、装備者以外はステージから退場させられて、スポットライトが点火。自分の影が愉快合羽を纏って、歌声と曲名を歌った後に襲い掛かって来る。
戦闘方式は
おまけにダメージを受けても、超スピードで動き回っても、一切『疲労する様子』が見られなかった」
プレイヤーが操作する以上、脳の活動で身体操作にも影響が現れる。だが、あの黒いペッパーは一切疲労する様子も無ければ、ダメージを受けて吹っ飛んだ後でも早々に復帰してきた。
「そして黒いプレイヤーとの戦いが進んで、ある程度ダメージを与えると『トドメの指し方に関する歌』が歌われ始める。此れは当時のモンスターに使ったスキルや魔法、もしくは其の系列スキルに魔法、及び同じ武器を用いての『状況再現』が必要になって、其れが出来ないと駄目な感じ」
何よりも一番厄介なのが、彼方が示す要求通りに当時の状況を再現する事。乱獲等で其のモンスターを狩りまくっていた場合、倒し方が混在するだけに収まらず、道筋が異なれば思わぬ形で『ミス』が生まれる危険が伴う。
「相当性格が悪いね、此のユニークモンスターを作った人はさ」
「そうだな。此れが中世の劇場と黒い俺、そして歌声に関する話。で、だ…………此の剣の話をしよう」
そう言ってペッパーは、アイテムインベントリから星皇剣グランシャリオを取り出し、持ったままペンシルゴンに見せる。
「此れは星皇剣グランシャリオ。墓守のウェザエモン……ウェザエモン・天津気さんから託された『折れたバンガード』を素材として、夜襲のリュカオーンの眼を切り裂いた包丁を『真化』させた武器。一時的に装備不可状態解消と、夜の時間帯に俺が居るエリアか其の隣接エリアにリュカオーンが居たら、問答無用で『確定遭遇』する事になる聖剣。因みに俺以外装備出来ないオンリーワン」
ペッパーの言葉に、ペンシルゴンは眼を丸くして。そして夜襲の目を切り裂いた包丁の持つ、ヤバすぎる能力を知った時と同じ様に引っくり返る事となった………。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~……………。ほんっっっっっっっ………………とうに。君は少しでも目を離すと、私の予想を軽々と斜め上に越えてくるんだから………」
オハナシ開始前に注文していた料理が届き、ステーキ肉をフォークとナイフで上手に切り分けながら、ペンシルゴンが大きな溜め息を付いている。本性は外道なれども外面は清純潔白を取り繕う
「ペンシルゴンはん、ペッパーはんに振り回されてるのさ……」
「俺はペンシルゴンに振り回される側だけどな」
ステーキ肉を切り分け頬張り、咀嚼するペッパー。兎御殿晩酌膳により、美食舌による味覚制限が解放されたお陰で、ペンシルゴンは「食べられるけど、和牛ステーキよりは美味しくないなぁ……」と呟きながら食べている其れが、彼には『ちょっとだけ高めの肉の味』として、味覚に反映されている。
「でだ、ペンシルゴン。此の話の秘匿は頼んだよ?」
「OK。何せユニークモンスター・冥響のオルケストラに関する、重大情報かも知れないからね。何らかの形で手札として切りに行くから、其の時は連絡入れるね」
「よろしくお願いします」
黒く深い闇を纏っていたペンシルゴンの瞳から其れが消え、穏やかで余裕を纏った物へと戻った。ペッパーはホッと一安心しながら、シャンフロの食事を楽しむのだった………。
旅狼の手札は増える