レトロゲーマー、修羅の國に往く
「辻斬・狂騒曲:オンライン……。いや、長いから辻斬で。えっとダウンロードショップには………お、有った有った」
シルヴィア・ゴールドバーグとの一戦を終えた後、彼女に勝つ為の修行場として、ゲーマー仲間のサンラクから奨められたゲームソフトのダウンロード版を探し、御目当ての物を発見する。
「辻斬は通常ソロプレイだが、幕府軍と維新軍のどちらかに所属する事で、色々な恩恵が得られる……と」
購入・ヘッドギアにダウンロードする中で、スマフォを使ってゲームの内容を調べる。どうやらゲームの舞台は江戸時代の幕末風を模したフィールドで、幕府・維新・浪人の三つの派閥に分かれて戦うのだとか。
「幕末と言えば血を血で洗う、ヤバい時代だったからな………」
新撰組が活躍し、日本の夜明けの為に戦い、命を散らした者達が居た。血が血を呼び、仇討ちによって華が咲いた、そんな時代である。何より梓が警戒したのは『プレイヤー達は和気藹々の仲良しです!』という、公式サイトやレビュー文章から滲み出てくる、圧倒的なまでの
こういうタイプはレトロゲームで幾度も体験したし、何よりもゲーマーとしての直感が『初手に気を付けろ!』と、高らかに警鐘を鳴らしているのだ。
「まぁ、行ってみれば解るか………ダウンロードも出来たし、明日は休みでトワと逢うまで時間は有る。ほんのちょっとやってログアウトしよう」
機材確認・水分補給・トイレを済まして、ギャラクシー・ヒーローズ:バーストから辻斬・狂騒曲:オンラインに変更し、頭に装着。梓はキャラメイク画面に移行後、自身をベースとして細マッチョな体格と釣り目の男性、初期装備を其の身に纏うアバター『ブラッドペッパー』を作り、幕末の世界へと往くのだった。
彼は此の世界で、此処に生きる者達の『狂気』を知る。そしてゲーマーという生き物にとっての『ほんのちょっと』は、一時間程度では決して終わらない事を意味している………。
幕末の世界に降り立ったブラッドペッパーが、メニュー画面を開きつつも、最初に警戒したのは『初手リスキル』だった。
「「ログイン天誅!!!」」
「「ログボ天誅!!!」」
「やっぱり『リスキルやスタート地点待ち伏せタイプ』で来たか!」
ある程度予想しては居たが、やはり此の手のタイプだったと思いつつ、刀を構えて全方位に警戒網を張り巡らして、敵の襲撃を往なしていく。
此のゲームにはシステムとして『直感システム』なる物が、プレイヤーにデフォルトとして備わっている。殺意や攻撃に対し、うなじに当たる部分に『微細な静電気が走る』感覚、其れが先程から立て続けに襲い掛かり。
しかしブラッドペッパーは『剣豪アクションレトロゲーム』で感銘を受けた、剣術の師匠にして同ゲームのラスボスの動きを『
「何でビギナーなのに、ログイン天誅対応してんだオメー!?」
「ゲームで鍛えた!以上!」
「せ、せめて装備は質屋に流……ぐへぇ!?」
逆手胴斬り一閃で襲い掛かったプレイヤーを仕留め、周囲警戒を決して怠らない。此の手のゲームは『基本的』にソロプレイ、つまり『自分以外の全てが敵』という理論が存在している。
プレイヤーの落とした武器を拾って、警戒を続けながらも一先ず問屋が何処なのか探すべく、ブラッドペッパーが移動を開始した其の瞬間。突如響くは銃特有の発砲音と、左肩を弾丸が貫いた感触。
そして━━━━━
「経験値埋め合わせ天誅ぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ッ!諦めない!!!」
上段からの飛び込み一刀両断に兜割りを食らいながら、死の瞬間まで抗わんとし、逆手抜刀斬り上げでプレイヤーを殺して相討ちとなり。
ブラッドペッパーは、幕末で『初めて』の死を経験する事になった。
そして同時に考える。『自分の肩に弾丸を撃ち込んだ奴に、一体どんな最期を与えてやろうか』━━━━━と。
其の後もブラッドペッパーは、他プレイヤー達から襲撃を受け続けた。あるプレイヤーは銃撃で彼の頭を撃ち抜いて、またあるプレイヤーは味方ごと此方を団子刺し、はたまたあるプレイヤーは爆撃で仕留めて来る。
だが、ブラッドペッパーの強さは『負けて』。自身が『失敗』して。そして『死んだ』経験を糧に、己の思考として其れを『記憶に蓄積する』。一度殺されたなら、殺した相手と殺し方を、記憶に刻み付けて忘れずに。プレイヤーが複数で来るならば、途中で横槍や裏切りを考慮して立ち回る。
「天誅ーーーーーーーー!」
「其れは知ってます、よ!」
「な!?ぐへぇ!!?」
ログイン・ログボ・リスポン・経験値・其の他諸々etc…………彼等彼女等が掲げ唱える
「天誅ゥア!!」
「はい、其所ですね!」
「グアー!?」
「おい、彼処の野郎を潰すぞ!裏切んなよ………天誅!!!」
「御命頂戴天誅!!!!!」
見る、動く、斬る。見る、動く、斬る。
斬られて死ぬのは己の思考が浅いから、撃たれて死ぬのは可能性の考慮が薄いから。ならば思考を広げろ、フィールド全体を見ろ。一点に捕らわれず、相手の視線も意識して動け。
自分の動きを殺意を、相手の動きを殺意を、建物やオブジェクトの位置も、全て己の思考に入れて、目指すべき終着点を描け。
「斬りッ、割く!」
「ぶぎゃほ!?」
「アイツ何なの!?おかしいだろ!?ログボリスポン奇襲悉く跳ね返して━━━━━」
「いただきますわ、天誅」
「あ、やバボフ!?」
互いに喰らい喰らわれの蟲毒が坩堝。
信ずるは己と己の得物のみの修羅。
刀に手を置けば戦いの合図也。
「天誅!!!」
「すいません、いただきます!」
「ぎゃん!」
「アイツをぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「何処からでも掛かってこいッ!」
礼節を忘れず、挑んだ者には感謝の意を。其れは其れとして、自分を殺した奴には復讐を忘れない。
「漸く、だな。あの時、俺の左肩を撃ち抜いた分は返したよ」
「ぐっ…!次再び……逢った時には、御命頂戴……!」
「━━━━━天晴れ!」
斬ッと音が鳴り、自分を一度殺したプレイヤーが倒れる。周囲警戒は怠らない、武器を拾って即移動。
そして思った。いや………、思わずにはいられなかった。
(嗚呼……━━━━━━━━━)
そんな想いに至ったブラッドペッパーは、何処からともなく空から降ってきた、身の丈サイズの斬馬刀に脳天唐竹割を食らって死んで。リスポーン後にリスキルしてくるプレイヤー達を斬り倒し、今後の活動も踏まえて『銃と刀』での戦いが出来るという『維新軍側』に所属する事に決定し、役所に出頭。
諸々の手続きを終え、晴れて維新側のプレイヤーになったブラッドペッパーは、セーブをしつつも周囲警戒を怠らず続け、此の修羅の國からログアウトしたのだった。
そして此の日━━━━『ニュービーなのにリスキルが通用しないヤベープレイヤー』として、ブラッドペッパーの名前が幕末に拡がる事となる………。
尚、梓がログアウトした時の時間は午前三時前であったのを、此処に記載しておく。
幕末でしか味わえない感覚