VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペッパー、兎御殿を探索し状況を整理する。

※タイトル変更しました

※ティーブルをティークに変更しました


風来女と料理人と鍛冶師と香辛料

「う、うぅん…?」

 

ペッパーが目を覚ますと、其処には木造の天井が広がっていた。身体を起こして辺りを見渡すと、何処かの部屋のベッドの上で寝ていたようだ。

 

「ええっと確か…あ、先生って呼んだんだった!?大丈夫だったか!?ヴァイスアッシュに悪影響出てないか!?」

「独り言、其れもまた一興……。ペッパーはんはワイ等のオカシラに、きっちり鍛えて貰える事になったんさね」

 

と、横に目をやるとアイトゥイルが丸椅子に座っており、ポリポリと人参形のクッキーらしき物を囓り、背中の小さな小物入れから糸瓜型の水筒を取り出して、くびくびと飲んでいる。

 

「あとオカシラからペッパーはんに首輪着けたんと、ワイが御世話任されたきに、伝えておけと言われたけん。ペッパーはん、よろしゅう頼むさね」

「あっはい。というか、首輪?何だコレは……」

 

アイトゥイルに言われて、ペッパーは自身の首を擦ると、確かに赤い布製の白い焔の刺繍が入った首輪が巻き付いている。彼は性能を調べる為、ステータス画面よりアクセサリーとして加わった首輪の性能をチェックする。

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)

 

取得経験値が半分になる代わりにレベルアップの際に獲得するポイントが2.5倍(小数点切り捨て)になる。

 

致命兎(ヴォーパルバニー)(おう)が作り出した戒めの首輪、王の許可なくして外れること有らず。其れ即ち、弱者が強さを得るためには、尋常ならざる苦難が必要であるが故に。

 

 

 

「……普通にヤバいアクセサリーだわコレ」

 

リュカオーンの呪いを含め、戦闘による経験値半分を差し引いたとしても、レベルアップで2.5倍のポイント獲得はとんでもない所か破格の性能だ。単純計算で首輪無しが5ポイントなのに対し、首輪有りなら12ポイントになる。

 

仮にコレを装備したまま、己を鍛え上げ抜き、レベル99(カンスト)まで至った場合の総獲得ポイントは、通常のレベル99とステータスに天と地の差が生まれるだろう。

 

「あぁ其れからもひとつ。ペッパーはんが目ぇ覚ましたら兎御殿の案内しておけと頼まれたんよ。そろそろ夜になり、良き月が昇るけんど、アンタはどないするん?」

 

アイトゥイルの言葉で時間を確認すると、もうすぐ午後5時を指そうとしている。部屋の窓から外を見ると、夕焼けがラビッツを染め始め、遠くの家々にも光が灯る所が出てきた。

 

「そうだな…。じゃあアイトゥイルが、一度顔出した方が良いと思う場所に、ちょっと行ってみたいな。あとリスポーン地点を更新しときたい」

「顔を出した方が良い場所かぁ…となるとアソコとアソコやろなぁ。よっしゃ、付いてきペッパーはん」

 

部屋を出て、アイトゥイルの背中を追い、最初に来たのは赤い暖簾が掛かり、中からは出汁の香りが漂い、食欲を刺激する『食堂』だった。

 

暖簾の先には長方形の木製テーブルと丸椅子が並び、ヴォーパルバニーが30羽以上は余裕で座れるだろう、広々とした空間となっており、窓の外には夕焼けの光が射し込んでいる。

 

「此処は兎御殿の食事処でな~。弟が料理を作ってるんよ」

「ほほぅ、其れはとても気になる」

 

兎御殿の料理ともなれば、やはり主力は和食なのだろうか。期待に胸が高鳴るペッパーの横で、アイトゥイルは此処の主たる者の名を呼んだ。

 

「おーい『ティーク』~。居るかいな~?」

 

僅かな沈黙、聞こえてくるはカランコロンと鳴らす下駄の音。1人と1羽の前に歩き出たのは、白毛に真っ白な高級料亭の料理人が着る調理着を纏う、左目に十字の眼帯を掛け、腰には特注であろう鞘と、包丁を納めたヴォーパルバニーが来た。

 

「おうおうおう、アイトゥイル姉。普段酒呑んで肴食っとるんが、漸く普通のメシ食う気になったかぁ?」

「あ?酒は美味しんよ?命なんよ?舐めとらアカンでティーク」

「お?やるか?やったるか?」

「そっちがそん気なら、やっちゃるけんどな」

 

片や鞘から抜刀した包丁を取り出し牙突の構えを、片や唐笠を投げ捨て薙刀を頭上で回して構え、今にも一触即発のヤバい状況になった。

 

このままでは食事処は愚か、兎御殿が半壊するかも知れないと、ペッパーは恐怖を感じて両者の仲裁に入る。

 

「ちょ、喧嘩は良くない!?刃物で人を笑顔に出来るの料理人だけだし、危ないからストップストップ!!?」

「おぉ、確かにな……。頭に血ィ上ってもたわ………スマン、姉者」

「ごめん、ペッパーはん……危うくワイの酒と晩飯抜きになるとこやった………」

 

ペッパーの必死の説得に、ティークは自身が過ちを犯し掛けた事に気付き、腰に掛けた特注の鞘に包丁を納め。アイトゥイルもまた手に持った薙刀の刃を引き、大事に至らずに済んだ。

 

「コホン…では改めてペッパーはん、こっちは弟のティーク。兎御殿の料理長やっとるさかい、仲良うしたってな」

「ペッパーです、初めましてティークさん」

「よろしゅう、オイがティークや」

 

握手を交わすペッパーは、ティークの手と肉球の感触がゴツゴツしているのを感じる。相当な時間、包丁を握り続けなくては絶対に現れない、まさに職人の手であった。

 

「噂にゃ聞いたが、おみゃさん後衛職なんやってな?」

「はい、バックパッカーをやらせていただいてます」

「成程のぉ…因みに夜襲の眼ぇ切った武器ってな、今持っとるか?」

 

夜襲のリュカオーンとの戦いで一矢報いてみせた、致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)に興味を示したティークに、ペッパーはアイテムインベントリから獲物を取り出し、其の刃を自分の方に向け、峰がティークの方を向くように両掌に持って「どうぞ」と渡す。

 

ティークは其れを受け取り、刃先や峰を職人の目で静かに見定め、こう言った。

 

「…良い(ツラ)しとるけぇの。濃いィ夜襲の『残照(かおり)』が漂っとるわ」

 

「残照?何ですか其れ」とペッパーはティークに問う。

 

「知らんのか、おみゃあさん。致命の名を冠する武器ってなぁ、全部が強者と殺り合った『記憶』を其の身に宿しとるんじゃき。アイトゥイル姉、コイツを『ビィラック姉』に見せたら、どんな反応するやろ?」

「多分やけんど、眼ぇ丸くして一晩中弄り倒しそうね。夜襲の眼ェ切っ裂いて、其の残照が残った武器自体、ワイ等でも御目に掛かれへんしなぁ」

 

情報に情報が重なって、1つ理解する間に色々置いてきぼりにされている。高校時代の授業か何かかコレは。

 

「ティークさん、残照付きの武器ってそんなにヤバいんですか?」

「普通の武器よりゃ、価値は有るな。まぁ、人間は怖がっちまって買い取っちゃくれねぇけんど」

 

そう言って包丁を返したティーク。と、アイトゥイルは其の刃を見て、当たり前な。然して、とんでもない発言を溢したのである。

 

「まぁ此の包丁は夜襲にとっちゃ、自分に傷を負わせた獲物さね。残照(かおり)を頼りにペッパーはんを追ってくるんやないの(・・・・・・・・・・)?知らんけど」

 

しれっと爆弾発言をされ、ペッパーはアイトゥイルの方に視線を向ける。確かに、復讐系統のゲームでは、主人公は家族や友人、恋人が殺害された場面で遺されたメッセージや刃物、特徴から犯人を追い、復讐を果たすのが『王道』であり『始まり』になる。

 

もしアイトゥイルが言った通り、此の致命の包丁から発せられる匂いが、リュカオーンを引き寄せる力を宿しているのだとしたならば。夜闇に紛れて神出鬼没にフロンティアを駆け回るリュカオーンを誘き出す、秘密兵器に成り得る可能性が大いに有る。

 

無論、コレはいざという時の『切札』――――――おいそれとは表に出せない上に、夜に包丁を振るおうものなら、リュカオーンがやって来る危険も憑き纏っているのだ。

 

「あああもう……どうしよう本当に………」

 

次から次に不発弾が積まれ、何時爆発する危険と隣り合わせ。おまけに大嫌いなアーサー・ペンシルゴンとも接触する中で、シャンフロをプレイする。ペッパーの胃がストレスで悲鳴を上げ、キリキリしてきた。

 

「リュカオーンめ、絶対許さあああん!!」

 

青筋をビキビキと浮かべ、ペッパーは自身の右手にマーキングを施し、トンズラこいた狼への復讐を更に強く誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎御殿食事処でティークとの出逢いを経て、ペッパーはアイトゥイルの案内の下、兎御殿の鍛冶場にやって来た。中世ヨーロッパの鉄火場を想わせる道具と器具の数々は、どれも隅々まで手入れが施されており、此の場所ではよくある炭汚れも僅かに留めており、此処を使う者の性格がよく解る。

 

「此処が兎御殿の鍛冶場さ、ペッパーはん」

「おぉ~…凄く綺麗だわ。普通煤汚れとか在ったりもんなんだが…」

「自分の道具もマトモに手入れ出来んヤツは『二流以下』じゃけ」

 

と、奥の暖簾を挙げて白い晒を胸に巻き付け、オーバーオールを履いた、黒茶色の毛並みのヴォーパルバニーが姿を現す。だが、其のヴォーパルバニーはペッパーを見た瞬間、目をキラキラし始めている。

 

「アイトゥイル、此のヴォーパルバニーが…」

「そやで、ウチ等姉妹の一番上の『ビィラック』姉さんさ。姉さん、彼がペッパーはんや」

「ペッパーです、よろしくお願いします」

 

律儀に礼を述べた矢先、ビィラックがペッパーに近寄り「おおお!ワリャがペッパーかいな!?会ってみたかったけぇの!」と、左手を掴んで握手してくる。

 

明らかに体格差が有りながら、握手された瞬間にペッパーの脳裏を過ったのは、自分がビィラックに『ぶん回されるビジョン』を見たのだ。

 

「ビィラック姉さん。ペッパーはん、そげに有名なんさね?」

「バカ垂れ!呑兵衛!アイトゥイル!何たってコイツは人間が新しく『小鎚』っちゅう武器を産み出す立役者になった男じゃ、鍛冶に関わる奴っちゃ知っとかんと恥になるけんの!!」

 

小鎚開発に関わった事が、兎の国 ラビッツの鍛冶師にまで届いているという事実に、ペッパーは改めて特殊クエストによる恩恵がとんでもない物だと冷や汗をかく。

 

下手したらもっと大変な事になるんじゃないか?と、内心気が気でいられない。そして此のテンションのビィラックに、リュカオーンの目を切り裂いた包丁を見せようものなら、間違いなく大変な事になるだろう。

 

「まぁ、ペッパーはん。アンタが成したんは、そんだけ大きって事さ。多分、人間の間でもアンタを巡って争い起こっとるんかもな?」

「大丈夫………じゃないかもなぁ」

 

マッドフロッグの皮の納品が滞れば、自分の噂は更に広まり、軈ては包囲網が形成される。そうなると、もう時間の問題になる。

 

「マッドフロッグの皮を早く集めないといけないけど、リュカオーンの呪いがある以上、収集に支障が出る…どうすれば………」

「『引き寄せれば』良いのさ」

 

アイトゥイルの発言に、ペッパーとビィラックは彼女の顔を見た。確かに的を得ている。逃げ出すならば引き寄せて、一網打尽に狩り取れば、一気に素材は集まるだろう。

 

なんと甘美なアイデアだろう、其れを実践に移せる『物資』が無いことを除けば、完璧な作戦であると言える。しかしペッパーは、ある意味で『運』を引き寄せていた。

 

「いや…確かにそうだけど、そんな都合の良い事無いでしょう?」

「特定のモンスターを引き寄せるんやったら、出来なくもないのさ」

 

素材収集の解決策は、意外な所に━━━━アイトゥイルが握っていたようだ。

 

 

 







包囲前にクエストをクリアせよ



アイトゥイル:ペッパーを兎の国ラビッツへと招待し、兎御殿へ導いた黒毛のヴォーパルバニー。一人称は『ワイ』で、ペッパーの事は『ペッパーはん』、ヴァイスアッシュの事は『オカシラ』もしくは『おとん』と呼ぶ。

衣装は極道+風来坊を組み合わせた感じで、性別は雌。ボイスはヤサカ・マオ似。

ふらりフラリと風のままに行く風来坊であり、ふらっと旅をしていれば、何時の間にか帰ってきている。


ティーク:兎御殿の料理長を務める灰色毛のヴォーパルバニー。一人称は『オイ』で、性別は雄。アイトゥイルを『アイトゥイル姉』と呼んでいる。

兎御殿では食事処で料理の研究に没頭しており、食材とマーニを使うことで彼の料理を食べたり、一部料理を『テイクアウト』することが出来る。

職業は料理人の上位クラス『食王』を持つ。

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