ライブラリとの会談
翌日、午後七時前。シャンフロにログインして、兎御殿の休憩室にて目覚めたペッパーは、アイトゥイルと共にゲートを越え、エイドルトの裏路地にやって来た。ライブラリ本拠地に向かう途中でペンシルゴンも合流し、二人と一羽のパーティーは其の足で、考察クランの本拠地に辿り着いた。
「何て言うか、アレだな。
「私もそう思うよ、ペッパー君」
クラン:ライブラリの拠点たる建物は言うなれば、図書館の其れである。入り口には階段、全長は三階建てのサイズの建物がどっしりと構えて建っている。
「さぁて、相手は狡猾な狸じ……あ、間違えた。うぉっほん、狸お爺様な訳だけど」
「ペンシルゴン、其れ言い方変えても悪口にしか聞こえてこないぞ?」
「えー、だってあの人ネカマだし」
ツッコミはしない。寧ろインテリジェンスネカマと言った方が良い気がしたが、此れも悪口になるので胸の内にしまっておく。
「さてさて、ちょっとしたクラン攻略戦みたいだねペッパー君」
「アレの事を上手く扱って、何れだけ情報を取れるか……だな」
此れは言わば
考察クラン:ライブラリ。クランリーダーのキョージュを始め、
「うわぁお………こりゃすごい」
「ライブラリの本拠地って所謂『図書館』なんだよねぇ。私も此所に来るのは何気に初めてだったし」
近くに積まれた本にしても、随分と年期が感じられる其れを見て、ペッパーは読んでみたいと考え。
「あ、アレは……」
「間違いない、ペッパーさんだ!キョージュさーん、ペッパーさんと廃人狩りが来ましたー!」
そんな折り、此方の存在に気付いたライブラリ所属のプレイヤーの一人が声を上げ、皆の視線が一気に此方へと向く。何より最大高度なるレコード保持者となったペッパーは、現在シャンフロでは其の名は広く知れ渡っている。為れば必然的に、彼等彼女等の興味はペッパーに向く訳で。
「ほぉ……此れが噂の名前隠しが可能な防具なのか……」
「最大高度を取った感想は!?」
「スキル構成ってどんな感じ?」
「ペッパーさん!
「やはり『サードレマの黒い流星』は、ペッパー君だった訳だ……」
パパラッチに寄り付かれた有名人ってこんな気持ちなんだなと思いつつ、さてどうやってキョージュを探そうかと考えていた矢先。ペンシルゴンが、此方の手を掴んできた。
「えっ、おいペンシルゴン?」
「ねぇねぇ『あーくん』、そんな事よりキョージュさんを探そうよ。私達の目的って『アレ』に関する会談をする事だからさ?」
「ちょっ、おま!?」
さらっと二人で居る時の呼び方を、考察クラン相手にブチ咬ましたペンシルゴンに、ペッパーは目を見開き、ライブラリの面々がざわついた。ある者は驚きを、ある者は何かを察し、またある者はニヤニヤし始めて。
「……君達、
激渋ボイスと共に囲んだメンバー達を割って、キャルンキャルンな魔法少女の衣裳とアバターをした、クランリーダーのキョージュがコホンと咳き込んで現れた。
「あ、キョージュさん。その、御久し振りです……」
「うむ。最大高度獲得おめでとう、ペッパー君。積もる話は色々有るが、今回の目的は一つだ。立ち話も何だし、別室で話をしようか」
「進展しているようで何よりだよ」と言ったので、ペッパーは顔が引き吊りそうになり、逆にペンシルゴンはニッコリ笑顔になったのである。
ライブラリ内・某一室……所謂『教室』たる其所には、木と金属のマリアージュにより形を成した、机と椅子が縦横列に並んで在り、目の前には黒板が有る光景たるや『学校』と呼ぶに相応しい。
図書館の中に教室が有るとは此れ如何にだが、気にしてはいけない気がするのは何故だろうか。
「其れでは諸君、始めるとしようか」
机と椅子の位置を組み直し、一般的な学級会議等で用いる『コの字型』に、中央にペッパーとペンシルゴン、そしてキョージュが対面する形で向き合った。
「ペッパー君。ペンシルゴン君。前置き無しの単刀直入に言うが………我々ライブラリが君達に話をしたいと声を掛けたのは、以前クラン会談時にペンシルゴン君が私に見せてくれた、『世界の真理書【墓守編】』に書かれていた内容。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンに由来する一式装備こと『
チラリとペッパーが周りを見ると、ライブラリの他のメンバー達も興味津々な様子で、此の会談を見守っている。七つの最強種に由来、もしくは模倣によって産み出された神代の技術による結晶ともなれば、其の価値は絶大の一言では片付けられない。
「無論此れが超極秘情報である以上、ライブラリのメンバー達も公には開示しない事を皆了承してくれた。此の世界に唯一つのみのユニークともなれば、此れを巡っての『戦争』が起こる可能性も考慮している。我々としても多くのユニークを保持している、クラン:旅狼の
「おやまぁ……其れはキョージュさん含めて
無言…………しかし煌々と眼を光らせ、微笑し頷いたキョージュ。此の発言は実質、先々に置いても『クラン:ライブラリはクラン:旅狼の肩を持つ』といった宣言に等しく、其れを先んじて提示する事により、此方が持っている天将王装の開示を要求してきた訳だ。
チラっとペンシルゴンを見れば、ニッコリと笑って返してくる。此の時の彼女は『やっちゃいなさい』と言って来ていたか。
「解りました。ライブラリの皆さんの心遣い、感謝致します」
そう言ってペッパーはアイテムインベントリから、秘匿し守り続けている悠久を誓う天将王装を取り出して、ライブラリの面々の前に提示する。其れを見た瞬間やはりと言うか、考察クランの目の色が変わり、ざわめきと考察の話し声が広がるのが解る。
「諸君、触ったり実際に装着したい気持ちは解る。が、所持者であるペッパー君の許可を頂いてからだ」
「フフフ……其処ら辺の事、よく解ってるじゃない」
「ゲームであろうとも、人様の物を扱うなら敬意と感謝、そして許可は取るべきと考えているからね」
一連の流れの中、ペッパーのライブラリに対する評価が二段階程上がった。そして彼は天将王装を着たいと目を光らせるプレイヤーに向けて、注意事項と称した『ある事実』を伝える。
「えっと、此の天将王装なんですが………先に言っておきますと『男性用装備』ですので、御気を付けて」
其の一言で男性アバターは歓喜し、女性アバターは絶望に沈むという、ある種のカオスが巻き起こった。そして「成程……」とキョージュが呟いたのを、ペンシルゴンは聞き逃さない。
「さてキョージュさん……
「フフフ……流石はペンシルゴン君だ」
ゾワリとペッパーの背筋が逆立つ。此れで終わりではない、寧ろ此所からが本番だったと直感する。
「真理書に書かれていた、墓守のウェザエモンの一式装備の存在。其れを見て、私は『一つの仮説』を立てた。そして今日、ペッパー君が其れを持ち歩いている事で、其の仮説は『ある確信』に変わった━━━━━と言っても良い」
表情は崩さず、しかし其の興味は底知れず。キョージュは己の言葉を用いて、自分の『答え』を指し示した。
「クラン:旅狼は『ユニークモンスターに由来、もしくは模倣した一式装備を探せる』━━━━━そんな『ユニークシナリオを受注している』…………違うかね?」
辿り着いた、ライブラリの答え