ユニーククエストを進めよう
双皇甲虫との戦いから二日の時が経った。時刻は午後四時半過ぎ、バイトを終えてシャンフロにログインしたペッパーは現在、アイトゥイルと共に『ファイヴァル』へとやって来ていた。
「久し振りに来たな、ファイヴァルには」
「そうさね、ペッパーはん。小鎚を作る為に来た以来なのさ」
コートの中にアイトゥイルを隠しつつ、ペッパーは道具屋でアイテムを購入。街を駆け抜けて外へ出て、ファイヴァルからセブラセブルへと行く為の関門にして、常に風が吸い込まれるように吹き込み続ける『
此のエリアは常に風が
しかしペッパーが此処を訪れたのは、他でも無い『己のユニーククエスト』を進行させる為だ。古匠ビィラックは言っていた━━━━『三体の
其の中の一つに『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』なる存在が居て、現実世界でシャンフロのwikiを調べた結果、此れは天頂地朽の大穴の『何処か』に居ると彼は予測したのだ。
「アクセサリーも切り替えを忘れずに、だな」
アクセサリーとしてセットされたパピオンドールから、
窪みの中を歩き進むペッパーは、大穴の底に一体何が在るのかと気になりつつも、時折壁を伝って現れるアシナガクモのような巨大蜘蛛が、リュカオーンの
(ビィラックさんの説明から察するに、何処かにイベント用のフィールドへ続く『入口』が在ってもおかしくは無いが……)
ペッパーは壁を背にしつつ、両手で叩いた時の『音』及び背中から伝わる『感触』で、此の大穴に在るだろう『異質』な部分を探す。
「ペッパーはん、ペッパーはん。此所にビィラック姉さんの言っていた『強者』が居るのさね?」
「間違いなくね、多分此の穴の窪みの何処かに入るための入口が隠されてる」
アイトゥイルに説明しつつ、探索の手を止めないペッパー。そして一人と一匹がファイヴァルとセブラセブルを繋ぐ大穴の、丁度中間地点まで辿り着いた時にペッパーは『其れ』を見付けた。
「………ん?」
此迄飽きる程に触った壁が、此の場所だけ『僅かに脆い』。掌から伝わる感触とゲーマーとしての直感が、ペッパーに答えを伝えてくる。ギルフィードブレイカーを左手に装備、思いっきり壁を叩けば、人が入れるサイズの『入口』が現れた。
「此所か……?」
「中は暗いのさ……」
底の見えない大穴よりは薄いが、此の先も負けず劣らずの暗さが待ち構える。しかしペッパーは開拓者、アイトゥイルを守りながら強者に打ち勝ち、
暗闇に目を順応させ、ギルフィードブレイカーから
「何だこりゃ……」
「明らかに罠の匂いしかしないのさ……」
アイトゥイルの言う事は正しく、先程から全身の毛という毛が張り詰め、全方位を警戒せよとのメッセージを脳へ送ってきている。
「敵は何処だ………上か?壁の中か?其れとも地面の下に居る?」
周囲警戒をするも一向に現れない敵に、ペッパーの警戒心は益々強くなり。そして此処で『ある仮説』が浮かび上がってきた。
(ビィラックさんの説明は『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』……。暗き深穴が此のエリアを、揺り篭が此の場所を指しているとするなら……!赤子が寝ているなら、ソイツは『命の鼓動』を刻んでいる筈━━━━!!!)
言うが早いか、
━━━━━━━━ドクン!
「
僅かな音すらも逃さない、超人的な聴覚さえもスキルながら発動出来る。アイテムインベントリから掘削用に備えて買っていたツルハシを、シャベルを取り出して、鼓動が聴こえた場所に向かうべく、土を掘り出し始めるペッパー。
掘って、掘って、掘って。掘って、掘って、幸有りおにぎりを頬張り、また掘って、掘り進め。掘削開始からおよそ一時間が経過する頃━━━━遂に彼は『目的の存在』と対面した。
「コレは………『蛹』なのさ?」
「みたい、だな………」
真下に掘り進め、シャベルの穂先が当たった所を中心として、慎重に土を退かし掘り出したペッパーとアイトゥイルが見たのは、生命の鼓動を鳴らす巨大な蛹の一部。見た感じは『カブトムシ』によく似た橙色の表皮を持った蛹であり、しかし掌で触れてみれば此れが『生命体』であると、心臓を鳴らす脈の鼓動が伝わってくる。
「さて、どうしようか………。周りを掘り出して、全体を見定めてか『パキン』………パキン?」
真下を見下ろせば蛹の表皮が皹割れて、一部が陶磁器の様に落ちている。其の瞬間、ペッパーの全身の毛という毛がゾワッ!と逆立ち、今すぐに此処を離脱せよと緊急命令を発して。彼はアイトゥイルを抱えるや、シャベルとツルハシを其のままに、穴を三角跳びで駆け上がって脱出した。
其の直後━━━━━此の空間を激震させながら、地面を砕き割って現れる『二本の角』。続く形で土を盛り上げ、姿を見せるは全長5m超えの『巨体』。千紫万紅の樹海窟にいたクアッドビートルとは異なり、前羽は『白』で角は『二本』の其の姿は、以前昆虫図鑑で見た『ヘラクレスリッキー』に似通っている。
「アイトゥイル、気を引き締めろ!コイツがビィラックさんの言っていた『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』だ!」
「はいさ!」
其の名を『
自身の目覚め、そして叩き起こした者を倒す為、FM'sクリサリスは産声と言う名の、怒号を上げたのだった。
彼の者、其の
蛹を破りてカブトは目覚める