帰る為に全力を尽くせ
「ふぅ…………」
「疲れたのさ……」
「さて………どうやって帰ろうか」
大穴の底の言わば『地の底』にまで落ちた事で、現状帰る為の手段がない………という訳ではないが、其れをやったなら『悪目立ち』にも程がある状態まっしぐら。
しかしペッパーが、其の選択肢を取らなくては行けないと考えたのは、アイトゥイルの存在であり。NPCである以上は、放置したままではあまりにも
「仕方無い……『
「はいさ」
見られたら見られたで、其の時は其の時として考える。ペッパーはアイトゥイルをコートの中に入れて、其の場で高速足踏みをし始め、自身の心拍数を増加させ始めた。
(超星時煌宝珠の起動条件は、心拍数が毎分100以上の状態になる事。そうなれば
「おりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
高速足踏みを続ける事、およそ五分。心臓がドクンドクンと鼓動を鳴らす中、ペッパーは両腕を広げて結びの音頭を取るかのように、両手を合掌。
超星時煌宝珠が起動して、ペッパーの身体を真っ白に染め上げながら、地底に生える光る苔以外に光が無い暗闇をも照らし、煌めき輝く一番星となる。
「さぁ…………行くよ!」
ホポンガの最終試練を越えた事で、バックパッカーの特性を引き継ぎ、変化した『
先ずは『
此のスキルは『夜』、もしくはフィールドの元々の状態が『暗闇』に近いか『暗闇である』場合のみ発動可能で、自身の視界内に存在している『漂うマナ粒子を磁力のように両足に集め』、其の集めた『マナを用いて己が思い描いた道を作り出す』と言うもの。
そして此の時に自身が移動した軌道は、暫くの間『フィールドに留まり続ける』為、そうして出来た道筋は正に『天ノ川』と呼ぶに相応しい美しさと煌めきを持つ。
(まぁ…………超星時煌宝珠を使ってると、天ノ川ってよりは『彗星』だとか『流れ星』だとかが似合うだろうけども)
上から下に吹き下ろす突風地帯に入ろうが、ペッパーの疾走を止める事は出来はしない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
真上に向かい、両足にマナを集め。吹き荒ぶ風にも負けず、携帯食糧を食らってスタミナを回復させながら、白く輝く一番星は風の中をも駆け抜け、暗闇さえも突き抜けて、遂に地上の光が見える場所まで戻ってきた。
「よし、仕上げッ!」
暗闇から光が射す所に戻って来た事で、効果が切れたミルキーウェイに代わり、大穴からの脱出用に温存していた
更にレベルアップで獲得したポイントを、スタミナに全て注ぎ込み、再使用時間を終えたセルタレイト・ケルネイアーも使って空中ジャンプを行い、穴の中心から縁にまで跳躍し続けた果てに、遂に彼は大穴からの脱出を成功させたのだ。
「っし!帰って来れたぜぇ!」
穴に向かって吹き込む風に押し込まれぬよう着地し、合掌を行って白刻閃を解除。空を見上げればすっかり夜の帳が落ち始めており、メニュー画面を開けば時刻は既に六時になった所だ。
「ん?」
ふと周りを見れば、周りには数人のプレイヤーが居て。此方を注視しながら、口をあんぐりと開けていた。対するペッパーはざわめく状況であれども、スッ……と立ち上がり努めて冷静に歩いて行く。
だが、其の内の一人が「あれペッパーじゃね?」と呟いた事を聞き逃さず。反応すれば悟られると考えた結果、一切迷う事無く一瞬で走り去って。其れを見たプレイヤー達は此処で漸く、さっきの黒装束を纏ったプレイヤーがペッパーだったと気付くも、時既に遅く逃げられた後だった………。
「ふぃい…………」
「何とか逃げ切れた様なのさ……」
ファイヴァルに戻ったペッパーは武器屋や道具屋、防具屋を巡って時刻が六時を完全に過ぎたのを目安に、アイトゥイルが開いたゲートを越えて、兎御殿の休憩室に一人と一羽は帰還した。
「あっぶねぇ………!やっぱりブラックトレンチロングコートは相応に目立つな……、早い所試練を乗り越えないと」
冥響のオルケストラの
「ふぅ………よし、アイトゥイル。ビィラックさんの所に行こう」
「ペッパーはん、あのカブトムシの素材を渡すのさね?」
「あぁ。インベントリアは無尽蔵ではあるけど、渡しておいた方が武器を作る時に、何処にどの素材を用いるか考えられる様にしておけば良いかなって」
「おぉ、アイトゥイル。其れに『ペッパー』殿、帰って来ていたで御座るか」
不意に自分の名前を呼ばれたので振り向くと、其処に居たのは全身に朱い甲冑と兜を纏った、二足歩行の細目な白兎が一羽。背丈はビィラックより少し高く、一言で言い表すなら『武士兎』が似合うだろう。
「『シークルゥ』兄さん!久し振りに帰ってきたのさ!」
「シークルゥ……あぁ、アイトゥイルが言っていたのは貴方でしたか。初めまして、ペッパーです」
「ウム、初めましてで御座る。拙者はシークルゥと申す」
身を屈めて手を差し出し、彼と握手を交わしたペッパー。其れを見ながらアイトゥイルは、シークルゥに問い掛ける。
「ところでシークルゥ兄さん、どうして帰ってきたのさ?」
「実は親父殿に紹介したい人がおってな。何せ『黄金の龍王』に其の実力を認められた、実に天晴れな人間を連れて来たので御座るよ」
「ジークヴルムさんに認められた?」
とんでもない事になったと、ペッパーは口に手を当てながら思考を重ね始める。つまり其の人間……
「ほれ、此方へ。拙者の妹の一人、アイトゥイルで御座る」
「あ、はい!」
シークルゥがアイトゥイルを紹介して、其のプレイヤーはペッパー達の前に姿を表した。橙色の忍者装束に身を包み、狐の面で顔を隠した濃い水色のショートポニーテールと黄緑色の瞳をした『少女』だ。
面を上げて顔を見せれば、右頬と額にはリュカオーンの
「初めまして!私『
爽やかな笑顔で挨拶をしてきた秋津茜、其の声はペッパーの記憶の琴線に触れたのだ。己の記憶が正しければ彼女の声を、自分は聞いた事が有る。
「あの~………何で名前が無いんですか?」
「あ、あぁ。実は此の胴防具の影響で……ちょっと待っていて下さい」
フードを上げて、顔を見せながら答えるペッパー。其れを見た秋津茜は目を丸くして、こう言ったのだ。
「あ………!もしかして『ブラックペッパー』さんですか?!」
「……………ん!?何で『便秘』の…!?」
其の時、ペッパーの脳内で電流が迸り。彼は答えに辿り着く。
「えっ………もしかして『ドラゴンフライ』!?」
「はい!私が『ドラゴンフライ』です!此処では初めましてです!『ブラックペッパー』さん!」
ベルセルク・オンライン・パッション………通称『便秘』。墓守のウェザエモンとの決戦に備え、サンラク・カッツォと共に特訓をしに来た時に、背中を押してくれたプレイヤー。
ゲームを越えて、ブラックペッパーはドラゴンフライとシャングリラ・フロンティアの世界で巡り合ったのだった…………。
三人目の到達者