対人戦を磨こう
シャンフロからログアウトし、今日の夕食として回鍋肉・グリーンサラダ・わかめスープを作った梓は、炊きたての白米をかっこみ早々に食事を終えた後、食器の洗浄を行い、シャワーとトイレを済ませて寝間着に着替えるや、ダウンロードした辻斬・狂想曲:オンラインを起動させる。理由は簡単、打倒シルヴィア・ゴールドバーグ其れだけで有るが故に。
「さて、頑張るか……!」
願わくば、天誅なる意味を知る事が出来るように。彼はブラッドペッパーとなり、幕末の深淵に続く修羅へと飛び込む………。
「「「ログイン天誅ーーーーー!」」」
「「「ログボ天誅ゥゥゥゥゥゥ!」」」
「あ、こんばんわ!元気ですね皆さん!」
維新軍に入隊したからか、幕府側から狙われる様になった。ブラッドペッパーは周囲を警戒しつつも、其れは其れとして己をブチ殺さんとする他プレイヤーを、刀で斬るだけで無く脚で蹴り砕いたり、他のプレイヤーを倒して得た刀を投擲してみたりと、様々な攻撃方法を模索しながら、己の思考と経験を研鑽・強化していく。
「げぇっ!?ブラッドペッパーじゃねーか!?」
「ログインログボリスキル効かないヤベー奴じゃん!」
「天誅ウウウウウウウウウ!!!!」
「あ、すいません!其れは知ってますので!」
そして全神経を尖らせながら、勝利の余韻に決して浸らず、己を襲撃し得る可能性を常に考慮し。そしてあらゆるオブジェクトや視界の死角を常に意識し、攻撃を仕掛けるならどんなポイントが有用なのかを、彼は戦いの中でも思考し続ける。
「常に状況が変化する対人戦は、やはり学べる事が多いな━━━━ッ!」
「ぐべふ!?」
倒して、斬って、倒して、倒して。斬って、斬って、倒して、また斬って。ブラッドペッパーは少しずつ、己がゆっくりと『変わっていく』のを感じながら、其れでも此の変化を善しとして、幕末の世界を駆けていく。
そして同時に彼は思うのだ。
『前回の最後で自分に斬馬刀落とした奴、絶対に脳天へ刃をブチ込んでやる』━━━━━━━と。
「凄いね」
「!?!!!?!」
仰天、距離を取る。其処に居たのは、
着物と袴を着付け、羽織を肩に流すように掛けた其のプレイヤーの頭上には『ユラ』と掲げられ、ほわほわともぽわぽわとも言える、そんな気配を持つ此のプレイヤーが
だが、ブラッドペッパーが距離を取ったのは、そんな事等では無い。
誰か曰く『レイドボスさん』。
誰か曰く『千人斬り』。
誰か曰く『金魚鉢の中の鮫』。
一時期流行ったという『チーター』による跋扈さえ、其のプレイヤーを始めとした上位の面々は、圧倒的な戦闘力で撲滅し切ったなる、嘘のような本当の話が存在していたりいなかったり。
そんな此の『幕末』最強の存在こそが『ユラ』。目の前に立つプレイヤーこそ、此のゲーム最強の王者なのだ。
「君、始めたばかり?」と、いきなりそんな事を聞かれたので、此方も直ぐに「はい、そうですね」と答える。厳戒態勢は崩さない、全方位から襲い掛かる敵の気配を常に感じつつも、目の前のプレイヤー・ユラにブラッドペッパーは相対し続ける。
「見てたよ、最初の段階を越えてたのを」
「アレは勉強になりましたから」
何だろう、此の会話は。品定めをされてるのか、はたまた殺る瞬間を見定めて居るのか。
「お茶しない?」
「え?アッハイ、喜んで」
何故か茶会に誘われた。一体何が狙いなの
「抹茶、美味しいね」
「どら焼きや羊羹と一緒だとホッコリしますな」
「あんこ、好きなの?」
「甘味の中では特に」
「良いね」
いや、何だコレは。彼の奢りで注文された抹茶に、毒が入ってないか警戒し、彼方は羊羹・此方はどら焼きを食べ、抹茶を飲みながらもそう思う。
自分は斬って斬られて、血を血で洗う蟲毒の壺中、バトロアの極限到達点たる辻斬・狂想曲:オンラインをやっていた筈だ。其れが何故、不動の一位たるレイドボスと茶会をしているのか、段々と解らなくなってきた。
「桜餅………」
何故其処で桜餅を話に出したか、ブラッドペッパーには解らない。なので彼に聞いてみた━━━━━「春、好きですか?」と。ユラの動きが止まる。何かがヤバいとゲーマーの直感が囁く。
「何で維新側に?」
「刀と銃を扱って、戦える様になりたいと」
「ふぅん」と言う彼。厳戒態勢を解かないブラッドペッパー。と…………
「「「天誅ぅぅぅぅぅぅぅぅ!」」」
「レイドボス覚悟ァァァァ!!!!」
油断もへったくれもない、口を開けば天誅の響きが聞こえ、襲撃者が二十人。ブラッドペッパーも迎撃せんと、速攻で立ち上がり
「天誅」
「べきゃぽ!?」
「びか…!?」
「るヴぇ」
「は!?」
ユラがブラッドペッパーを除いて、刹那の内に錆び付いた見窄らしい刀を振るい、全員の首を寸分狂わず切り落とした。
「えぇ………」
千人斬りなんてよく言うが、アレは『歩く災害』だ。竜巻やら台風が人という貌を成して歩いているとは言うが、正に其れなのだ。
そして『カチリ』と空気に、まるでスイッチが入った音が聞こえた。奇しくも其れは、リアルミーティアスの本気の本気が引き出された時と同じ物であり。
「だぁい!?」
「━━━━━!」
直感と経験と体勢から、彼が『胴斬り一閃』を放つと見抜き、踏み込み前に避けた事で事無きを得る。問題なのは其れを、彼がインベントリから取り出した『
「凄いね」
「貴方も凄いですよ、ユラさん」
此れは『世辞』では無い。心の底からの『称賛』だ。今の俺では勝てるビジョンが見えてこない……………そう断言出来る程に此の人の実力は、先程の二十人の襲撃を返り討ちにした事で、天と地の差が有ると解ったからだ。
だが、
満月の光射す茶屋、其の場所の路道にて幕末ランキング一位の『レイドボス』ユラと、幕末ランキング圏外であるブラッドペッパー…………後に『
戦闘、レイドボス