VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペッパー、迫る刺客と時間との勝負




Oneday to running ~追われる胡椒よ、鉱石と皮を集めて~

「…今日は本当に色々有りすぎたわ………」

「せやね、ペッパーはん。どう見てもお疲れ様やけぇ、ゆっくり休んだってな」

 

ラビッツ、兎御殿の中にある休憩室に案内されたペッパーはベッドの上に寝転び、身を預ける。リスポーン地点が更新され、彼はセーブを行い、ログアウトの準備を進める。

 

「アイトゥイル。明日はシャンフロを1日中プレイ出来るから、行動に移る為にも例の『アイテム』、よろしくお願いします」

「任せんしゃい。準備して待っとるさかい、ペッパーはんも英気を養ってな」

 

シフトと大学の講義が無い明日ならば、特殊クエストを一気に進められる。情報が拡散していないとも限らない以上、セカンディルに留まり続けるのは危険だ。

 

ラビッツに雲隠れするのは、手も足も出なくなった時の『最終手段』としておき、一刻も早くクエストを終わらせなくてはならない。

 

特殊クエストのヤバさ、因縁との再会、ユニークの連続……激動の1日だったペッパーはシャンフロからログアウトし、現実へと戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……疲れた………」

 

外が夜に向かって暗さを増す中、現実に戻ってきた梓はVR機材を頭から外して、大の字に身体を広げる。其の頭に浮かぶのは、ニタニタと笑うアーサー・ペンシルゴンこと天音 永遠の顔。

 

「あー…嫌な奴の顔が浮かんだわ。頭も使いまくったし、夕飯作る気にもなれない………」

 

色々と、本当に色々あった。明日は自分の今後のシャンフロに、確実に影響を与えるであろう1日になる。

 

此処でしくじれば平穏無事なプレイライフは崩れ去り、情報を求める他プレイヤーやクランに、追われ続ける未来が待っているだろう。

 

「近所で食事を済ませて、早く寝て、早朝にシャンフロを始めよう…朝っぱらからプレイしてる人はそういる訳じゃないだろうし」

 

ゆっくりと起き上がり、スマフォを充電コードから抜き取って、梓は財布と鍵とスマフォを持ってアパートを出る。春の季節ではあるが、夜になるとまだ寒さも残った風が吹いて、少し肌寒く感じた。

 

「う~、さっむ。春だってのに寒いな…暖かいものでも食べようかな」

 

シャングリラ・フロンティアを始めて、1週間にも充たない初心者の自分が、特殊クエストを受注して以降、様々な恩恵に携わった。

 

「……明日の為にも早く食べて、早く寝よう………」

 

夜に向かう街を、梓は歩く。

 

そして………決戦の日はやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝4時。

 

 

ピピピピ…ピピピピ…とタイマーが鳴り、梓は布団の中でモゾモゾと動き、音の震源に手を伸ばして止める。

 

「ん、ふぁぁぁ………朝か」

 

身体を猫の様に伸ばし、カーテンを開く。外はまだ暗いが、西の方は少し明るくなり始めている。

 

「…………さぁ、勝負だ」

 

パチンと両頬を叩き、梓は行動に移る。最初にシャワーで身体と頭を洗って、眠気と身体を綺麗に流し、次に朝御飯でパンとベーコンエッグを焼き、飲み物にグリーンスムージーを用意して飲食。

 

トイレを済ませ、VR機材のチェック並びにやるべき事を再度確認を行い、布団を敷き直し、寝間着を着替え、布団に寝転がった。

 

「今日1日が…俺の運命を決める…!」

 

ゲームが起動し、現実の梓はシャングリラ・フロンティアのプレイヤー・ペッパーとなり、新たなリスポーン地点となった兎御殿のベッドへと流れていく。

 

彼の長い、長い1日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~ペッパーはん、よう眠れたかいな~」

 

兎御殿のベッドで目を覚ましたペッパーの視界には、顔を覗き込むようにしてアイトゥイルが胴に乗っており、酒を呑みながら微笑んでいた。

 

「アイトゥイル、おはよう。早速だけど頼んだ物は用意出来てる?」

「ワイを誰やと思っとるん?バッチリ準備出来たさかい」

 

ホレッと目の前に積まれたのは、大きな酒樽。ペッパーは早速其の性能をチェックする。

 

 

呼び寄せの風酒(沼蛙)

 

マッドフロッグの身体から取れるエキスを使い、製造された濁り酒。製造方法は秘匿されている。

 

其の酒を飲みて、産み出されし息は沼蛙の本能を擽り、其の場所に同種同族を引き寄せる。

 

 

「つまりコレをアイトゥイルが呑んで、吐いた息がマッドフロッグを呼び寄せて、擬似的な群れを作り出せるのか。凄いなアイトゥイル」

「フフン、当然じゃきに。しかも200体ともなりゃあ、並みの量ではいけないさ。依頼を進めんなら御世話係のワイも、全力でペッパーはんを手助けするよ」

 

『NPC『風来坊のアイトゥイル』からパーティーの申請が来ました。受諾しますか?』

『YES』or『NO』

 

と、SEがピロリンと鳴り、ペッパーの前にセレクト画面が表示される。

 

「よろしくお願いします、アイトゥイル」

 

YESボタンをクリックし、アイトゥイルがパーティーに加わった。時間は余りない、此処からは1分1秒の行動が運命を別けてくる。

 

「で、ペッパーはん。早速、四駆八駆の沼荒野に行くのかい?」

「あぁ。でもその前に、アイトゥイルは俺が移動してる間は、マントの中に隠れていて欲しいんだ」

 

唯でさえユニークによる複数の爆弾を抱えている状況で、アイトゥイルが他者の目に止まれば、其れこそ大騒ぎによる大混乱は避けられない。

 

リュカオーンの一件もある以上、アイトゥイルとの関係が明るみになれば、頭のキレるプレイヤー…アーサー・ペンシルゴンみたいな連中が、ユニークシナリオを嗅ぎ付けて接触してくる可能性は高くなる。

 

「それじゃあ失礼しますけ。ペッパーはん、移動頼むさね」

 

兎御殿の部屋の壁に、アイトゥイルは扉を作り、ペッパーのマントの中へと隠れる。1人と1羽の特殊クエスト攻略が始まりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セカンディルの裏路地。何もない場所に扉が産まれ、ガチャリと静かに開かれる。

 

「戻ってこれた…閉じ込められた訳じゃなかった」

「誘拐したと思ったんかいな、ペッパーはん」

「昔やったゲームで、バグのせいで部屋から出られなくなった事が有ってね…ちょっと怖い思いをしたんだよ……」

「な、何の話か分からんけど、あんまぁ良いことや無かったんね…」

 

裏路地から顔を覗き、人通りを見る。やはり早朝というだけあり、NPCとプレイヤーの往来は少なく、スムーズに街の出口に移動出来た。

 

そのままペッパー達は四駆八駆の沼荒野へと移動し、周りに人の気配が無いことを確認して、作戦を開始する。

 

「アイトゥイル、大丈夫そう?」

「大丈夫、大丈夫さ、酒は上手いし、良い感じさぁ……ペッパーはんこそ、酒の匂いは平気さね?」

「心配してくれてありがとう、此方は大丈夫だよ」

 

大酒樽の酒をグビグビと一気飲みの要領で飲み干し、其の味を口一杯に留め、喉を鳴らして胃に納め。口から桃色の吐息が空気中に漂い始める。

 

「さぁて………こっから暫く待てば効果は出るけぇ……。其の間に何かするんさ………ペッパーはん……?」

 

酒を呑んで酔った影響か、其れとも年上のお姉さんからか、アイトゥイルが艶やかな花魁のような口調と、トロリと蕩けた目を向けてきた。

 

「う、うん……ロックオンブレイカーの強化とセカンディルで鍛冶師のおっちゃんが作ってくれる『ある武器』が欲しいんだ。だから、採掘して待ち時間も有効活用するぜ……」

 

変な扉が危うく開きかけ、ペッパーは其れを誤魔化すように、ロックオンブレイカーを取り出して、吐息が満ちた場所より少し離れた、沼荒野の採掘ポイントへ移動した。

 

「此処等辺で良いかな。アイトゥイル、マントの中に隠れて」

「ん……承ったさ………」

 

酔って何処かへ行かないように、アイトゥイルを寄せて、ペッパーはロックオンブレイカーを振るい、採掘を開始した。出身:探索家の子による恩恵+僅かに上がった幸運値、そしてリュカオーンとの戦闘で大幅強化された筋力とスタミナ、極め付けにユニーク武器の能力が噛み合い始めた。

 

 

「灰色鉄鋼…灰色鉄鋼…石…石…沼棺…石……灰色鉄鋼!終わった次!沼棺……灰色……きた!銀色鉄鋼!……石…石……石…灰色…鉄鉱石………沼棺…終わり次!石、石、沼棺!…石叩き割りまくって……銀色ォォォォォォ!」

 

採掘時間およそ40分、ペッパーはお香を置いた付近の採掘ポイントの大体を掘り尽くし、灰色鉄鋼14・鉄鋼石7・沼棺の化石8・銀色鉄鋼4、そして『沼豊穣(ぬまほうじょう)(いわ)』というレア鉱石と十分過ぎる程の成果を得る。

 

「さぁて…!いよいよ、お香の効果を確かめに行きましょうか…!」

「ふふん…酒の効果は保証するさ………」

 

採掘で頭のギアが噛み合い、テンションが高まっているペッパーに、アイトゥイルは未だに酔っている。設置した場所に向かい、岩影から覗き込んだ2人の目の前に広がっていた景色は――――――

 

 

 

地層のような見た目のブロック形の大蛙・マッドフロッグが、数百匹に及ぶ大群衆を作り、沼にまみれてゲコッゲコッと鳴いていた。

 

 

「カエル嫌いの人にとっては地獄だろうなぁ…コレは」

「群衆闊歩…沼蛙達の……歌合戦……。匂い誘われ…唄謳い………さ。ペッパーはん、あのマッドフロッグは全部狩るのさ?」

「………いや。所定数取れたら、後は全員逃がそう。武器の耐久値もそうだが、絶滅したら困る人も居るだろう。其れにプレイヤーには、敵対しないモンスターみたいだからね」

 

風情に詩を奏でるアイトゥイルの問いに、自然の摂理とクエスト達成のため、ペッパーは一度合掌をして致命の小鎚を取り出し、マッドフロッグの群れへと飛び掛かった。

 

当然リュカオーンの残したマーキングに反応した蛙達は、我先にと跳ね逃げていくが、ペッパーは次々とマッドフロッグの頭に打撃を叩き込み、苦しまぬように一撃で仕留めていく。

 

斬撃に強い特性を持つマッドフロッグに打撃武器を使い、100体ほど殴った辺りで致命の小鎚の耐久が限界に近付いて、ペッパーはロックオンブレイカーに切り替え、狩りを続けた。

 

そして設置していた、引き寄せのお香の効果が尽きた頃、マッドフロッグの皮200枚が集まって、狩りは終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

因みに狩りを終えて、耐久値の減ったロックオンブレイカーには、採掘した沼棺の化石を1つ使って耐久値を回復し、マッドフロッグを狩る最中に『マッドフロッグの舌』なるレアアイテムが幾つかドロップした。

 

アイトゥイル曰く『鶏皮みたいな砂肝で、中々の珍味さ。オカシラも……コイツを、酒の肴にする事もあるんさ………』と言っていたとか。

 

 






鉱物資源と皮、両方を手にせよ
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