クエストをクリアせよ
クエスト【永久に咲く花を探して】。此れはプレイヤーがクエストを受注後、千紫万紅の樹海窟に到達してから『五分以内に此のエリアの何処かに咲く、セツナトワの花を一本以上確保する』という内容だ。
広大なエリアの中から、特定のアイテムだけを探すのは難しく、虫型のモンスターも闊歩する中で妨害が入らないとも限らず、クリアには『ある程度のレベルを持ち、機動系に重きを置いたプレイヤーと、虫型モンスター達を退けられるアイテム』等を持ち込まないと、攻略難度は少し高いクエストになっている。
そう、
「トワ。五分でセツナトワの花『百三十本』見付けたぜ」
「いやぁ、あーくんが居てくれて助かったよ。蜂は飛び回って鬱陶しいし、花カマキリは奇襲してくるしで、結構探すのに苦労するんだよねぇ~此のクエスト」
ペッパー…………片手にリュカオーンの
そして五分経過時点で、ペッパー・ペンシルゴンは合計『百四十五本』のセツナトワを探し当てる事に成功し、セツナの墓に供えるならば充分な本数を確保出来た。
「此れだけ有れば良いか?」
「うんうん。上々だよ、あーくん。セッちゃんも喜んでくれるよ」
セツナトワの花は他の花とは違い、開花から五分と言う短い命では有るものの、其の五分以内に採取してインベントリorインベントリアに収納出来れば、なんと枯れる事が無くなるのだ。
五分の刹那を生きて、枯れる事無く永遠に咲き続ける━━━故にこそ此の花は『セツナトワ』。ペンシルゴンがセツナとの思い出を忘れぬように、彼女の墓参りの献花に選んだ理由をペッパーは納得出来た気がした。
「さてさて、サードレマに戻ろうか」
「そうだな。………ペンシルゴン。クエストと墓参りが終わったら、蛇の林檎で食事しないか?」
ペッパーからの突然の誘いに、ペンシルゴンが振り向いて。其の表情には期待が溢れている。
「へぇ~?あーくんから誘ってくるなんて、随分と意外だねぇ~??おねーさん相手に、一体なぁーに企んでるのかなぁ~???」
「フフフ……其れは着いてからの御楽しみってヤツさ」
「じゃあ、楽しみにしちゃおうかなぁ~?」
ニヤリと不敵に笑うペッパーと、ニヤニヤと笑うペンシルゴン。端から見れば、化かし合いでもしているのかと思われる雰囲気だが、思惑と読みが交錯し合っているだけなので、本当に正常だ。
一度サードレマに戻り、花屋の少女にセツナトワを見せるクエストをクリア。報酬として花はそのまま受け取る事となり、二人と一羽は再び千紫万紅の樹海窟へと向かう………。
ユニークシナリオのクリアによって、常に開きっ放しになった樹海窟の一角の壁に出来た穴を通り、辿り着いた枯れた桜の巨樹と一面に咲いたら彼岸花。空を見上げれば僅かな雲と晴天に太陽が覗く、あの日とはまた違った趣を含んだ『秘匿の花園』が眼前に広がる。
「此処に来るのも随分と久し振りな気がするな……」
「久々に来たのさね………」
「まだ一ヶ月程度しか経ってないけどね。其れでも激動の時間を考えたら、久し振りに思えても仕方無いかも。ありゃ、アイトゥイルちゃんも居たんだ?」
「ペッパーはんの居る所、ワイも居るのさ。ペンシルゴンはん」
フフンといったアイトゥイルの言葉に、ペンシルゴンの表情はムスゥ…なるものに変わり。其れも直ぐに見えてきた小さな墓を前にして、何時もの自然な状態へと切り替わる。
「セッちゃん、久し振りだね。今日はペッパー君とアイトゥイルちゃんも一緒に来たよ」
「刹那さん、御久し振りです」
「御久し振りなのさ」
ペッパーは採取した沢山のセツナトワの花達を、ペンシルゴンは大きな花瓶と水が入った瓶を各々取り出して、花瓶に水を注ぎ入れ、墓にセツナトワを献花。
二人と一羽は手を合わせ、刹那の………今は亡き彼女の墓に祈りを捧げて。
一分に近いの沈黙の後、ペッパーは己が装備するブラックトレンチロングコートにアイトゥイルを隠し、静かに秘匿の花園を後にする。
残されたのは彼岸花の赤にも負けない、永遠に咲き続けるセツナトワの花達が、風に揺れて仄かな香りを放つのみだった………。
三度戻ってきたサードレマ。裏路地を駆使して、他のプレイヤー達の視界を潜り抜け、辿り着いたNPC運営のカフェ、蛇の林檎・サードレマ裏路地支店。墓守のウェザエモンとの戦いでも作戦会議場として使用した此の場所に、ペッパー・ペンシルゴン・アイトゥイルはやって来て。
ペッパーは此処で別室にペンシルゴンを待機させ、自分はコートに隠したアイトゥイルと共に、店のマスターと話をする。
「マスター。頼んでおいた『例の物』は?」
「えぇ、注文通りに」
「ありがとうございます、本日はよろしくお願い致します」
「御任せを、金額分の働きをさせていただきます」
最終確認を終え、ペッパーはペンシルゴンの待つ部屋へと舞い戻る。
「ねぇ、あーくん?おねーさんを部屋に一人きりにするとか、君は何を企んでるのかねぇ?」
「フフフ……
テーブル席で対面し、ニヤリと笑いを崩さないペッパー、そして彼の肩に乗っかるアイトゥイル。そして二人と一羽が待つこと、およそ一時間。ドアをノックして店のマスターが、白丸皿に『バースデーケーキ』を一つ乗せて持ってきた。
何の因果か偶然か、其れは『クラン:
「えっ………え?」
目の前に出されたバースデーケーキに、驚愕の表情をしているペンシルゴンに、ペッパーとアイトゥイルは彼女に言葉を伝えた。
「「ハッピーバースデー、ペンシルゴン」なのさ」
ドッキリ大成功と言わんばかりの渾身のドヤ顔を咬まして、ペンシルゴンは漸く事態が飲み込めたのか、数回の深呼吸の果てに彼に言った。
「覚えて、くれてたんだ……私の誕生日………」
「忘れたくても、忘れられる訳ねーんだよなぁ……。トワがずっと前に『今日は私の誕生日だー!二人とも祝えー!』って久遠共々、俺の事を巻き込んだのをさ……」
『誕生日プレゼント!私の為に簡単な物でも良いから用意しろー!』と彼女に言われて、買いたいレトロゲームの為にコツコツ貯めていた小遣いが、其の一件で吹き飛ばされたのを、梓は今も覚えている。
結局、其のレトロゲームはサンタクロースに御願いして、クリスマスプレゼントに貰った訳なのだが。
「因みに其のケーキの果物達はシャンフロの大陸内に有る最高級品を取り揃えて、店のマスターに作って貰いました。其れに昔、トワはこんなこと言ってただろ?確か………『いつか大きくなったら、フルーツたっぷりのホールケーキを一人で食べたーい!』………ってさ」
渾身の声真似を絡めて言ってみると、ペンシルゴンは唖然となって。其れからこう言ってきた。
「………あーくん、もしかしてそんな事まで覚えてたの?」
ペッパーが「嫌だったか?」と返せば、ペンシルゴンは首を横に振った。其の瞳は潤み、今にも泣き出しそうな其れであるが、悲しくて泣きそうなのではなく、嬉しさで泣きそうな状態である。
「ううん………すっごく嬉しい。こんなサプライズバースデー………私、シャンフロで味わえるなんて、正直思いもしなかった、から………グズッ……」
感窮まったのか、とうとうペンシルゴンは泣き出して。ペッパーとアイトゥイルは互いにコツンと、作戦成功として軽く拳をぶつけ合う。
そしてペンシルゴンはケーキを食べ進めた結果、称号【美食舌】を獲得するに至ったのであった…………。
其れは此の世に産まれた全ての命への祝い