VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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最終試練前に、ゆったりと




勇者と魔王と黒兎、ゆるりゆるやか散歩道

「はぁ………あーくんに泣かされるなんて、思いもしなかったなぁ。……でも、嬉しかったよ?私の誕生日ちゃんと覚えてくれてた事」

「ふっ………そりゃどーも。準備した甲斐が有ったってもんだ」

 

蛇の林檎・サードレマ裏路地支店で食事を終えて、サードレマの街並みをペッパーはアイトゥイルを隠し、ペンシルゴンと共に歩く。所謂食後の散歩であり、其の足取りは非常にゆったりと、幸福に満ちている。

 

「あーくんは此れからどうするの?」

「影法師の最終試練を終わらせるつもり。まだ時間は有るから、適当にサードレマを散歩しつつ、其の時を待つって感じかな」

「そうなんだ……じゃあさ、あーくん。一緒にサードレマを歩かない?」

「まぁ、良いけど……後、他のプレイヤーも居るから注意してくれよ?」

 

ペンシルゴンからの誘いに、ペッパーは数拍の思考をしてから答えると、彼女はニッコリ笑顔で頷く。其の時の彼女の笑顔を見た彼は、何時もの黒い笑顔とは違い、とても可愛らしい物であった。

 

其れからペッパーとペンシルゴンは、サードレマの下層エリアの街中を何処に向かう訳でも無く、色々な店や施設を見て回り歩いていった。

 

露店通りではモンスターの肉を使った串焼きを食べて、美食舌によって正常になった味覚により、其れがラム肉に似たクセありながらも、じっくり煮詰めた頬肉の様な柔らかく美味しい物だったのを知る事が出来て。

 

衣服店ではNPCが売っている衣服を試着し、街民や酒場の看板娘になったペンシルゴンを見て、何着ても悔しい程似合っている彼女に「似合ってて羨ましい」とペッパーが小声で溢すと、彼女が本気のコーディネートを施した結果、店員のNPCが「御似合いですね」と言葉を発したり。

 

雑貨店では何か良いアクセサリーが無いかと探していた時に、ペンシルゴンがバンドの演奏者がよく使う、男性用のフィンガーレスグローブを見付けてきて、此れなら右手を隠せるんじゃないかな?と言い。

 

其れを見たペッパーは、フィフティシア含めた終盤の街で同じのがないか探してみようと考えるも、ふとダルターニャに此れを見本として見せたなら、同じ形状のを作れるか?と考えて、購入・装着してみたりして。

 

其の後、二人と一羽はサードレマの上層エリアに繋がる門に着き、ペッパーが取り出したエンハンス商会会員証で通り抜け、下層エリアと同じようにショッピングや散策を楽しんだのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間というものは、何時だってあっという間に過ぎ去っていく。Eメールアプリで時計を見れば、既に午後四時半を過ぎていて、ふと空を見上げれば少しずつ夕日の橙色を帯びていき、ゆっくりと時が迫りつつあった。

 

「楽しいね、あーくん♪」

「あぁ。悪くないな………」

「色々食べたり、買い物したりしたのさ」

 

上層エリアから下層の街並みを見下ろし、ペンシルゴンが朗らかに笑い。ペッパーは彼女の隣に立って、彼女と同じ景色を見ている。

 

と、ペンシルゴンはそそそ……と組んでいた自分の左手をペッパーの右手の方に寄せて、ちょんちょんと彼の右手の甲や指先に触れてきた。

 

「ん?どうした、トワ」

「…………………」

「いや、どういう事だよ…………」

 

疑問符を浮かべるペッパーに、だんまりしているペンシルゴン。彼女の横顔をジッと注意深く観察すると、耳の頭が若干赤くなっている事に気付く。

 

試しに左手の甲や指先を、さっきの御返しとばかりにちょんちょんと突っ付いてみると、其れに反応してか此方の右手人差し指に自分の左手人差し指を重ねて。其のまま人差し指と中指の間に、彼女は指を入れてきた。

 

(━━━━━いや、もしかして………?)

 

其の行動を見たペッパーは、自身のプレイした『恋愛ゲーム』の中にあるヒロインの行動から、同様のシチュエーションが無かったかと洗い出し、とある学園物恋愛ゲームのヒロインとの関係進展イベント『夕日を背景に手を繋ぐ』という、一場面が在った事に辿り着き。

 

主人公が其の時に行った行動をなぞるように、彼女の左手に自身の右手を寄せて行き、指先を重ねながら少しずつ指の間に己の指を絡ませる。

 

するとペンシルゴンの耳がどんどん真っ赤に染まっていくのが見え、其れを見たペッパーは此迄散々やられて振り回された分を含め、彼女の耳元で恋愛シミュレーションゲームの主人公が、ヒロインに言った台詞を以て『トドメ』と言うべき言葉を放つ。

 

 

 

 

「━━━━━━可愛いな、トワ」

 

 

 

 

と。

 

其の一言はペンシルゴンの聴覚を通じ、三半規管を貫いて。脳内をアドレナリンがドバドバと溢れ流れて、全身に快楽物質を送り出し。そうして水蒸気爆発に似た音を立てて蒸気の放出と顔面赤面、及び全身骨抜きにされ、顔を両手で隠したまま倒れそうになった所で、ペッパーは彼女を御姫様抱っこする。

 

「今までやられた分、きっちり返したぜ」

 

耳元でそう言った所、ペンシルゴンは首をフルフルと横に振り回しており。彼女を運びつつ、ペッパーはEメールアプリで時間をチェック。時刻はもうすぐ五時を回ろうかという辺りで、彼は上層エリア内の裏路地付近にて待機し。午後五時を回った所を見計らい、裏路地に足を踏み入れた瞬間。

 

四度目となる地面の下に引き摺り込まれる感覚と共に、二人と一羽はサードレマの上層エリアから、忽然と其の姿を消したのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「挑戦可能な時間は逢魔時で確定……アイトゥイル、戦闘が始まるから離れる準備を頼む。あと、トワの様子も見てくれ」

「解ったのさ、ワイにどーんと任せてなのさ!」

 

四度目となる劇場への案内、下へ下へと落ちる感覚と共に中世ヨーロッパの劇場へと降り立ったペッパーは、影法師の愉快合羽からアイトゥイルを出す。

 

「ペッパーはん!武運を祈るのさ!」

「あぁ、必ず勝つ!」

 

そして何処からともなく現れた黒い手により、アイトゥイルと御姫様抱っこされているペンシルゴンを捕まえ、ステージから退場させていき。

 

『ラララ………ラララ、ラララ~♪ラララララ~~~ラーーーーーー…………♪』

 

同時に劇場内に歌声が響き始める。やはり其の歌声は綺麗で、自分だけ(・・)に聞かせているように、しかし何処か悲しそうな声で。

 

『ララ、ラララー♪ラララララ~、ラララ………ラララ~~…………♪』

 

スポットライトがペッパーに投射され、足元に在る影が蠢き離れて、己の前で形を作る。

 

『私は………貴方の強さを知り、私は、貴方の奏でる歌を、聴く…………。貴方の歌を、私は聞いた………貴方の強さを私は、見た━━━━━━』

 

飛来する影法師の愉快合羽に袖を通し、黒ペッパーが立ち上がる。

 

『影は何時も貴方を見る………』

 

其の身に纏う装備は全て『同じ』。そして左手には『兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】』を、両脚には『甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五』を装備した姿を見た事で、ペッパーは黒ペッパーが『何時の自分』を模倣したのかを知る。

 

『さぁ示して……最後にもう一度。………貴方の光を。影が見つめる、貴方の輝きを。揺らぐ事無い、貴方の強さを……!』

「覚えてるぜ、記憶に新しい……!『FM's(フォッシル.マイナーズ)クリサリスと戦った時の俺』だ!」

 

ペッパーは先に星皇剣(せいおうけん)グランシャリオを手に取り、右手に刻まれたリュカオーンの呪い(マーキング)から装備不可能力を取り払い、右手で黒鞘から剣身を抜き放ち。

 

左手には勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスを装備、そして両脚にはレディアント・ソルレイアを着けて、黒ペッパーに対峙する。

 

「さぁ、勝負と行こうか!」

『影と共に歩んだ、時間…………掛け替え無き、戦いの刻━━━!今こそ、貴方の力を………!』

 

 

 

 

ペッパーを示す物語、聖譚曲(オラトリオ)君という英雄伝(ヒーローズ・ウルティエラ)

 

 

 

 

曲名が響き渡り(タイトルコール)、遂にペッパーと黒ペッパーの最後の戦いが始まる。

 

 

 

 






いざ行かん、最終試練


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