VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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特殊クエスト、進行します




Oneday to running ~追われる胡椒よ、珍味を味わえ~

「おっっっっっっっも………!?」

「…っこら、想定外…さ……!」

 

『特殊クエスト:沼地に轟く覇音の一計』の中で、エンハンス商会のレクスより、マッドフロッグの皮200枚の納品を行う依頼を受けたペッパーは、ヴォーパルバニーにして風来坊なるアイトゥイルの協力の下、何とか規定数の確保に成功した。

 

しかし問題は帰るまでの道程。……そう、アイテムインベントリの圧迫による重量問題とアクションの鈍化である。

 

幾ら物資を運ぶ事に優れたバックパッカーでも、此の量は流石に運ぶのも一苦労で、此れでは何時まで経ってもセカンディルのエンハンス商会に納品出来ない。其れ所か、アイトゥイルが見付かる危険も比例して高まる。

 

「こーなったら…!」

 

ペッパーは覚悟を決め、アイトゥイルに作戦を提示する。先ずはペッパーがマッドフロッグの皮を彼女に預かって貰い、ダッシュでエンハンス商会セカンディル支部へと走って、回収班を寄越して貰うように頼む。

 

其の間、アイトゥイルは岩影に隠れてやり過ごして貰い、10分以内に再び舞い戻って回収、エンハンス商会から寄越した回収班に皮を回収して貰い、あわよくば回収班の足へ相乗りし、セカンディルに安全な移動を考えた。

 

「ペッパーはん、必ず帰って来てさ……。其れなりに戦えは、すんけど………呼び寄せの酒で、酔ってる……のさ………」

「あぁ、10分で帰ってくる」

 

致命魂の首輪によって所得経験値は半分になったが、代わりに2.5倍のポイントを得る。200体のマッドフロッグを狩り、レベルが2つ上がった事で得た24のポイントを、敏捷10とスタミナ14に振り切り、スキル:アクセルとハイビートを使用し━━━━駆けた。

 

さながら此の時のペッパーは、ある意味『走れメロス』の様に、動けないアイトゥイルを救うため、荒野の岩肌を蹴り砕き、簡易食糧を噛りながら、ただただセカンディルのエンハンス商会を目指して駆け続ける。

 

そうして5分程走り続けて、エンハンス商会セカンディル支部へ到着。受付に「マッドフロッグの皮は揃えたけど、重すぎて運べないから回収班を直ぐに出して下さいお願いします!」と伝言して、また来た道を全力疾走で走っていく。

 

走って、走って、走って、走って。30秒オーバーしてはしまったが、アイトゥイルの隠れていた岩場に帰って来た。因みにアイトゥイルはまだ酔っており、ペッパーの顔を見た瞬間飛び掛かって「ちゃんと、戻ってきたさ~……」と言ってきた。

 

心配させてしまったアイトゥイルを、ペッパーが暫く慰めていると、エンハンス商会の馬車が大慌てでやって来て『遅くなり申し訳有りませんでした!セカンディルまで運びますので、どうぞ乗ってください!』と迅速な対応と、誠意の謝罪したので許すことにする。

 

そうしてペッパーとマントに隠れたアイトゥイルは酒臭さを纏いながら、マッドフロッグの皮達と共に馬車に乗って、セカンディルへ帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー様、ありがとうございます。依頼のマッドフロッグの皮200枚、確認致しました。細やかながらではありますが、報酬を御用意しましたので御受取り下さい………うっぷ」

 

エンハンス商会セカンディル支部2階の商談室にて、マッドフロッグの皮を納品した報酬として、3万マーニを貰ったペッパーは、酒の臭いに苦しそうな顔をしたレクスより次なる依頼を受ける。

 

「重ね重ね…依頼をしてしまい、申し訳ありませんが…。夜の帝王に認められたペッパー様の実力を見込み、依頼をお願いしたく存じます…」

「分かりました。如何なる御依頼でしょうか?」

 

マッドフロッグの皮の重さに苦しめられはしたが、3万マーニという大金を貰い、少しは努力が報われたとペッパーは思い、納品依頼の文句は言わずにおいた。

 

「ありがとうございます…ペッパー様!其れでは依頼内容を御説明させていただきます………」

 

ペッパーと旅人のマントに隠れて聞き耳を立てるアイトゥイルに、レクスは依頼内容を話し始める。

 

「以前、マッドフロッグの皮を使った新商品の開発を行っていると説明しましたが、実は其の内の『試作品』の1つが後少しで完成します。

 

そしてペッパー様にお願いしたいのは、其の試作品の性能を『沼掘り(マッドデイク)』というモンスター相手に『証明して欲しい』のでございます」

「沼掘り?何ですか其のモンスターは」

 

聞き覚えが無いモンスターの名前にペッパーが質問すると、レクスは沼掘りの情報をマップを踏まえながら教えていく。

 

「沼掘りは、セカンディルとサードレマの間の道を沈めている、四駆八駆の沼荒野にある峡谷を縄張りとして住み着いているモンスターなのであります…」

 

沼を自由に泳ぎ、近付く敵を鋭い牙で噛み砕く、四足歩行の鮫のような見た目であり、開拓者の皆様も苦戦を強いられている…とか」

 

開拓者の名前が出た事で、ペッパーは沼掘りというモンスターが『エリアボス』である事に気付く。つまり次なるミッションは『支給される其のアイテムを使い、沼掘りを撃退もしくは撃破』であると予測出来た。

 

「ペッパー様も納品でお疲れのようであります。しっかり休息を取って、準備が出来ましたら受付の者に声を掛けて下さい。微力では有りますが、沼掘りの出現エリアまで馬車で送らせていただきますので」

 

沼地の仕様が働く中で、エリアボスとのバトルを行う以上、生半可な準備では痛い目を見る事になる。沼掘りの耐久が何れ程かは分からないが、マッドフロッグを狩った後の武器の耐久値では間違いなく壊れるだろう。

 

「分かりました。準備を確り整えて、依頼を随行させて貰います」

「よろしくお願い致します…!」

 

沼掘りに備えてやるべき事は『3つ』。

 

武器の修復、新しい武器・防具の調達、そして空腹を充たす為の━━━食事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい」

 

エンハンス商会を出て、ペッパーはセカンディルの武器屋へと足を運んでいた。

 

「おぅいらっ…っぶ、酒くせぇ…」

「すいません…マッドフロッグの皮納品の依頼をエンハンス商会から受けていて、其の時に連れが酒で誘き寄せてくれたんです。今はちょっとした用事で離れてますが」

「お、おぅ…そうなのか」

 

アイトゥイルの存在をバラさない為にも、其れらしい言い分を述べておく。

 

「で、今日来たのは武器の修繕とロックオンブレイカーの強化、其れと新しい武器の生産を御願いしたくて来ました」

「良いぜ、材料は有るかい?」

 

「此方に」とアイテムインベントリから沼荒野で採掘した鉱石類を次々に出して、カウンターに乗せていく。

 

「こりゃまた、随分集めたな…しかも沼豊穣の岩ったぁ中々御目に掛かれねぇ。こんだけありゃあ、ロックオンブレイカーは十分に強化出来るぜ、ペッパー」

「良かった…其れで武器の修繕は、此の致命の小鎚を。新しい武器なのですが、沼棺の化石から作れる『湖沼(こしょう)短剣(たんけん)』と『湖沼(こしょう)小鎚(こづち)』を1本ずつ。余った鉱石は売却して、制作費に当てる形で御願いします」

「よし分かった。だが、武器修繕と新しい武器作成、ロックオンブレイカーの強化が立て込む以上、昼過ぎくらいまで時間を貰うが、其れでも良いか?」

 

新しい武器と強化、時間は迫るが此所は彼を信じて、時間を預ける事にする。

 

「よろしくお願いします」

「任せな、しっかり作って置いてやるからよ」

 

こうして新武器とユニーク武器の強化諸々を含め、レクスの報酬金の大部分が出費で吹っ飛びはしたが、ペッパーに後悔はなかった。

 

その後、ペッパーは防具屋にてマッドフロッグの皮より作られた防具『(へだ)()の皮服装備一式』を購入、初心者装備であった皮装備をアップデートした。

 

「此所まで世話になったな」と初心者装備に礼を述べる。そうして全身を切り替え、最後に頭装備を変えようとしたのだが、隔て刃の頭マスクはプロレスラーのような変態スタイルの其れで有ったため、ペッパーは頭装備だけは皮の帽子を続投させることにしたそうだ。

 

「うーん、時間空いちゃったなぁ……」

 

納品依頼も終わり、武器の修繕と生産そして強化の段取り、防具のアップデートも完了した為、現状ペッパーはやることがなくなってしまった。

 

ログアウトすれば、スマフォで沼掘りに関する情報は獲られるだろうが、其れは昼飯を食べる時にでも調べられる。何か無いか…そう考えていた。

 

「ペッパーは~ん。マッドフロッグの舌手に入ったやろ~?宴にしないか~?」

 

マントの中に隠れているアイトゥイルが、そう言ってきた。ヴァイシュアッシュが酒の肴にするという珍味、気にならないと言えば嘘にはなる。おそらく彼女が、一杯やりたいのだろう。

 

「そうだね…アイトゥイルにはマッドフロッグの狩猟に手助けして貰ったから、労いも込めてパッとやりますか」

「おー…。さーすが、よぅわかってるさねー」

 

やる事を決めた、なれば善こそ急ぐべし。ペッパーは足早にセカンディルの裏路地に飛び込み、アイトゥイルが扉を作り、ラビッツの兎御殿へと帰還したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおぉ!!こりゃまた、新鮮なマッドフロッグの舌やんか!!」

 

兎御殿に戻ったペッパーとアイトゥイルは、其の足で食事処のティークに会いに行き、マッドフロッグの舌を見せていた。

 

「ティーク~。ペッパーはんと細やかな宴にするさ~。おとんも好きな『アレ』、作ってくれへ~ん?」

「おいおいアイトゥイル姉よ、呼び寄せの酒で酔いまくってんげ、大丈夫だか?」

「そりゃ~ペッパーはんとの宴さ~。大丈夫~大丈夫~」

 

ほぼ酔ってる状態で、まだ酒を飲むのかと心配になるが、ペッパー自身も珍味の味とやらには興味がある。

 

「ティークさん、俺も先生が好きな味を食してみたいです。よろしくお願いします」

「……おぅし、分かった。直ぐに支度するけん、座って待っとりや」

 

マッドフロッグの舌を手に取り、席に座って待つよう言ったティークに従い、1人と1羽は近くの席に隣通しで座る。

 

暫く待っていると、厨房の方から肉を切り、そして焼く音と塩の香りが漂い始め、走り小腹が空いた胃が『ぐぅ~』と音を鳴らした。

 

「あ…良い匂い」

「おとんもワイも『エードワード兄さん』も、此の匂いが好きさ~…」

「へー…」

 

アイトゥイルの口から、またしれっと新しい兄弟の名前が出てきたが、今此の瞬間には関係が無いと思い、ペッパーは料理出来上がりを待つ。

 

そして………

 

「へい、御待ちどう!ティーク印の『マッドフロッグの串タン焼き』だ!おあがりな!」

 

お盆で運ばれて、竹のコップに入った冷水と白い長方形の皿に乗った料理が出てきた。串に刺されて塩焼きにされた其れは、見た目は焼き鳥でいう所の鶏皮の様。

 

ペッパーは早速、其の料理の性能を調べてみる。

 

 

 

マッドフロッグの串タン焼き

 

食王ティークが作った、マッドフロッグの舌を塩のみで串焼きとした一品料理。噛む程に味が染み出し、深みを増していく

 

1度噛み始めたが最後、己の意志で止めぬ限り、肉汁が口を満たし続ける

 

空腹度を25%回復する テイクアウト可能

 

 

 

「美味しそうだ…」

「あ~…これさ、これさ…。この匂いが酒に合うのさ~」

 

瓢箪水筒を開けて、早速串焼きに囓り付いて酒を飲み出すアイトゥイル。対するペッパーは合掌と「いただきます」を述べ、匂いを嗅いで、口を大きく開けて含む。

 

(ん……?確かに食感は砂肝みたいでコリコリはする……だけど………)

 

鶏皮の見た目ながら、砂肝特有の食感と微弱ながらの味は有る。だが、食べてはみたものの『味が薄く』感じるのだ。

 

(何だろう…薄味なガムを噛んでるみたいに味がしない……。通にしか解らない味か?じゃあ俺は、まだ早かったのかな……?)

 

ペッパーは気付いていない。シャンフロの食事において、プレイヤーには味覚に『デフォルト状態』が付与された状態でスタートするシステムがある事を。

 

此れは運営がVRゲームの食事でしか満足出来ず、現実の食事を受け付けなくなり、餓死をする可能性を防ぐ為の措置で、ある『特定の条件』を満たさない限り、人間本来の味覚が『開花』される事は無いのだが、ペッパーは其れを知らない。

 

「………ティークさん、コレ美味しいです」

 

不味くは無かったが、作ってくれた者へ失礼に当たると考え、ペッパーはティークの気持ちに配慮し、礼を述べる。

 

「そりゃあ作った甲斐が有ったな。ペッパー、お前さんが何かしら食糧を入手したら、オイの所に持ってきな。代金は貰うが、最高の一品を拵えてやるぜ」

「マジすか。ありがとうございます」

「ペッパーはん、ペッパーはん。水でもいから~乾杯しよさ~」

 

乾杯をせがんでくるアイトゥイルに苦笑しながら、ペッパーは竹のコップを持ち上げ、瓢箪水筒に軽く当てた。

 

英気を養い、彼は迫る時の中で束の間の休息を堪能したのである………。

 

 

 






英気を養うは、沼蛙の串タン焼き

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