VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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月下に煌めく宝を探して




蒼天を舞う勇者、黄金の蠍に立ち向かう

エイドルトにて粗方の準備を整えたペッパーは、単身奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)へと戻り、満ちる瘴気を右手の呪い(マーキング)で弾きながら、ねっとりした気味の悪い岩肌の谷を登り始めていた。

 

「さぁて、彼処に行くのはレベル40台以来かぁ………懐かしい」

 

ペンシルゴンが選んだフィンガーレスグローブによって、手に関するアクション時の補正が若干上がり、ペッパーはロッククライミングをするかのように、軽々と岩肌を登り続けていき、瘴気の濃霧を突き抜けて懐かしき水晶のフィールドへと戻って来たのである。

 

「何時見ても綺麗な場所だ………夜だし、月光も栄えてるし、すっごい幻想的」

 

空気が澄んでいる上、現実世界とは違って街灯が無い事も相俟って、月光と星明かりを遮る物が雲以外無く、水晶の輝きは曇る事も無い。正に神秘の光景である。

 

「っとと、見取れてる場合じゃなかった。本命の金蠍を早いとこ探さなくちゃな」

 

ビィラックは言った。弩弓剣(アーチブレイド)を造るには、三体の強者が必要だと。そして其の内の一体は、月下の水晶を闊歩する孤高なる金蠍だと。

サンラクに聞いた事で確定した、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の変異体らしき存在こそが、金蠍こと金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)だと。

 

「金蠍も水晶蠍と同じ特性なら、音を立てたら出てくる危険性が高いからな。久し振りに『アレ』を装着するか」

 

インベントリから取り出すは、天覇のジークヴルムを模倣した一式装備・光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)。頭から始まり、胸と腰と脚に次々と装着し、最後に籠脚(ガンドレッグ)を装備。起動の合言葉たる『目覚めよ(Wake up)』と唱えるや、エネルギーが鎧の隅々まで染み渡り、背面と四肢のユニットが展開・エナジーウイングが形成される。

 

「よし、行こう」

 

全種装備時限定能力解放により、無限飛翔が可能となったペッパーはフワリと空中に浮遊し、上空へと舞い上がり。彼は先ず、此の水晶の地雷地帯(フィールド)を観測し始めた。

 

「大小長短太細……足場は最悪、水晶に擬態した水晶群蠍達の突撃圧殺………侵入者を生かして帰すつもり無しだなコリャ」

 

此処で金晶独蠍と戦う場合、先ずは水晶群蠍をどうにかして退かし、一対一(タイマン)状態を作らなくては、環境に邪魔されて戦いの土俵にも立てないだろう。暫く空中に浮遊しながら思考を重ね、ペッパーが出した答えは。

 

「━━━━━先ずは水晶群蠍達を落下させて、フィールドから捌けさせよう」

 

奇しくも其の答えは、嘗て此の地でサンラクがやった作戦と同じ『蠍落とし(スコーピオンフォール)』で。脳内で作戦を構築し、音も無く静かに水晶柱へと着陸したペッパーは、インベントリから『投擲玉:炸音』を取り出し、投擲スキルのアドヴェイン・スローを点火。

 

弾道予測を行って遠くに全力投球し、自身はわざとらしく音を立てながら地面に降り立つや、近辺で擬態していた水晶群蠍が四匹が眠りから覚醒(アクティブ)。水晶を砕きながらペッパーに襲い掛かる。

 

「覚悟しな、水晶群蠍達。あの日に逃げ帰った俺とは、一味も二味も違うって事を見せてやる!」

 

エナジーウイングが煌めき、ペッパーが水晶地帯を低空飛行を開始したと同時に、アドヴェイン・スローで投げていた投擲玉が何処かの水晶柱に直撃して、此のエリア全体を震わせる轟音を鳴らし。

 

其の強大な音が水晶に擬態し眠る、水晶群蠍達を睡眠から叩き起こし、元凶たるペッパー目掛けて襲い掛かった。

 

「さぁ、来い!水晶群蠍!」

 

アサイラムサインで進行ルートを割り出し、金色の鎧を纏う勇者は蠍達を引き連れ、低空飛行で前へ前へと突き進む。前方・左右から襲い掛かる蠍に、じんわりとした冷や汗をかきながらも、目指すは水晶巣崖から瘴気の谷間に続く崖唯一つ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

蒼空を舞う勇者が、水晶の地雷地帯を低空飛行で乗り越えて、谷間へと飛び出し。侵入者を追う蠍は崖前で急ブレーキを掛けるも、シャンフロの誇る物理エンジンが成した慣性により、後ろから突撃してきた同胞に押し出される形で次々と落下死の結末を辿っていく。

 

そして何匹かの蠍は、落ちる同胞達を足場にして次々と跳躍するが、ラビッツのヴォーパルコロッセオでレディアント・ソルレイアによる空中戦を幾度も練習し続けたペッパーにとっては、此れを躱わす事は容易であり。

 

水晶群蠍が振るう鋏や針を回避し、物理エンジンからの死刑宣告を受けて、落ちていく彼等を静かに見送っていった。

 

そうして静かになった水晶地帯から、ペッパーは装備を解除。岩肌を伝って瘴気満ちる谷の中に降り、落ちて砕けた水晶群蠍達の亡骸達に合掌後、其の素材を一つ残さずインベントリアに収納して、再び岩肌を素早く登って行く。

 

「此の辺りの水晶群蠍達は、粗方退かした。して御目当ての金晶独蠍は…………!」

 

ヒョコッと水晶の崖から地平を覗けば、閑散とした地雷地帯を闊歩する、一匹の金蠍の姿が。

 

水晶群蠍よりも巨体であり、両鋏や脚に針は更に鋭利かつ攻撃的に進化を遂げ、自分を追い掛けずに水晶へ擬態していた賢い水晶群蠍を見付けては、其の暴力的で荒々しい武器を振るい、捕まえては砕いて捕食し、本能のままに狩りをしている。

 

「アレが金晶独蠍、サンラクが言っていた水晶群蠍の変異体………。そしてビィラックさんが、弩弓剣(アーチブレイド)製作の素材に必要としている、強者の一体か………」

 

水晶群蠍の実力は、ラビッツのユニークシナリオ・実戦的訓練の中で、嫌と言う程味わった。あの硬さ以上ともなれば、討伐するには数時間掛かる。

 

そして何よりも、此れから自分がやろうとしてるのは縛りプレイ(・・・・・)。其れも『格闘・打撃スキルのみ』での、格上相手を討伐するというトチ狂った戦いをしようとしているのだから。

 

「フッ……上等だ」

 

レトロ狩りゲーでもやった、初めて触る武器種でラスボス狩猟の緊張感を思い出しながら、ペッパーは金龍皇装を全種装備として金晶独蠍に声を掛ける。

 

「やぁやぁ、金晶独蠍!俺の金とお前の金!どちらが本物に相応しいか、勝負と行こうぜ!」

 

ペッパーからの宣戦布告をどう受け取ったかは、蠍の心境を知る術を持たない彼には解らない。だが少なくとも、己の狩りを邪魔しに来た『敵』であると金蠍は認識したのだろう。

 

巨体を跳躍しながら鋏を振るって強襲を掛けるが、其の鋏は小さな侵入者の繰り出した『巨大な拳』によって弾かれ、阻まれる。

 

「金蠍、お前を相手にするならば!此の拳を振るうに遜色無し!さぁ、初陣戦だ!思いっきり暴れよう━━━━『風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』よ!!!」

 

其れは兎の国の若き古匠、ビィラックが作り上げた甦機装(リ.レガシーウェポン)の一つ。颶風の申し子・ティラネードギラファと雷嵐の申し子・カイゼリオンコーカサス、二体の双皇甲虫の素材を用いて神代の技術と織り交ぜ合わせて、現代へ復活させた武器。

 

巨大な左腕となったペッパーと、水晶の地を闊歩する孤高なる金蠍との戦いが、幕を開ける。

 

 

 

 






己の強さを見せ付けよ


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