双皇の拳 vs 孤高の蠍
水晶地帯に音が鳴る。
甲殻と甲殻がぶつかり合う音が響く。
「たぁぁぁぁぁ!」
拳撃が、脚撃が、金蠍に叩き付けられる。
「水晶群蠍よりかは柔らかいが、其れでも硬いのには変わら━━━━━ッお!?」
レーザー型の毒液が放たれ、間一髪回避に成功しながらもペッパーは再び至近距離に肉薄し。アガートラムを起動しながら、
「ょしっ!さぁ、取るなら取れよ『回復行動』!其の回復が追い付かないくらいに、殴って蹴りまくってやる!」
戦闘開始からおよそ一時間半、ペッパーの挑発を受けながら、金晶独蠍は近辺の水晶柱に跳躍。月光の光を受けながら、頭部に入ったヒビを直しに掛かり。
「其の間に尻尾を抉りッ!追撃する!」
金龍皇装を纏ったペッパーが夜空を飛び、レディアント・ソルレイアに在るドリルバンテージと共に、連続膝蹴りスキル『グラッセル・ゼイリアス』を金蠍の尻尾の付け根に連続で叩き付けては、水晶と水晶の隙間を穿って穴を広げていく。
「お、直ぐに距離を取ってきた。やっぱり一筋縄じゃいかないよな………!」
金蠍が距離を取れば、ペッパーが再び肉薄する。そしてペッパーの脳内では、此の戦闘中に得られた情報を元にし、攻略チャートが高速で構築されていく。金晶独蠍と戦った中で、彼が此の金蠍を『戦闘及び継戦能力特化型の水晶群蠍の変異種』という位置付けに収めた要因は幾つか有る。
先ずは蠍の主力武器たる『巨大な両鋏』。蟹と同じ甲殻類に属する蠍の其れは、深海の水圧にも耐え抜く彼等とは違って頑強さこそ無いものの、獲物を捕らえる為の道具として用いるなら、十分な硬さと馬力を持ち合わせている。何より金蠍の
次に金蠍の全身に纏う『金の甲殻』。実戦的訓練で戦った水晶群蠍とは違い、金晶独蠍の甲殻は若干だが『硬度』を削っており、其の巨体の各所には『僅かな隙間』が出来ている。其の隙間は金蠍を攻略する上で『付け入る隙』でもあるが、同時に金蠍本体の機動力を底上げしており、更には体内の熱を外に逃がす為の放出口としても機能し、熱が籠らない為に動きを阻害しないのだ。
そして最後に、蠍型モンスターやエネミーのシンボルたる『鋭利な毒針』。突き刺し・薙ぎ払い・叩き付けの一連のアクションの他にも、金晶独蠍は己の針先から毒液を『放出』してくる。単純な威力に優れた『単発型』、スピードと射程距離では随一の『レーザー型』、攻撃範囲の広さと至近距離はレーアドライヴ・アクセラレートか、
此れだけの文面を見れば、金晶独蠍に対して『コイツどうやって倒すの?』等の声が上がるだろうが、ペッパーは既に勝利へのルートを導き出しつつあった。幾度目かになる金晶独蠍の距離離し、其の尾が『縦横に揺れた』のを彼は見逃さない。
「其れ『単発型』の毒液でしょ?」
ボン!と飛び出す毒砲弾を回避し、走りながらグラビティゼロを起動。振るわれる鋏で真っ二つになった水晶を足場に、広げたエナジーウイングの加速飛翔で乗り越えて、己の左腕に装着された
指先を『アイスピックの様に束ね』、スタミナの消費量で突発的な加減速や急停止急発進を可能にする、
『ギッギィィィ!?』
「よっしゃ!自己再生は有っても、眼球の回復には時間が掛かるだろう!?」
戦いの中でペッパーが気付いたのは、金蠍が毒液を用いた遠距離攻撃をする時に、尻尾の動き方には『差違』が存在している事だった。縦横に揺れれば『単発』・尾が揺れれば『レーザー』・針の根元が揺れれば『散弾』と、一見ランダムに見える遠距離にも、繰り出す前の『予備動作』が在る事に気付き。
其の予備動作を軸にして、次に金蠍の至近距離下での攻撃方法を引き出させ、其れを思考に置きつつも敵の動きを『誘発』させながら、少しずつ確実にダメージを蓄積させていく。
『ギギギ………!ギィギギギ……!』
「勝利への道筋は、少しずつ。着実に整ってきた………!だが慢心はしない。最後まで気を抜かず、お前を倒すぞ金晶独蠍よ!」
戦闘を積み重ね蓄積した風雷エネルギーによって、風雷皇の御手がバチバチとスパークを帯びる。まるで自分の宿した能力を使ってみよと、此方に使用を催促しているかのようで。
「此処からギアを上げるぞ、金晶独蠍。付いてこれるなら、付いてきな━━━━━
双皇甲虫の籠手に、風が纏い、雷が迸る。戦いが更なる加速を始める………。
通常の武器や防具が、人が獣や龍に『近付く為の物』であるならば、
『
其の権能が一つ『
「行くぞ!」
鳴り止まぬスパークが螺旋渦巻く風に反射して、まるで左腕だけが『雷雲』を従えているかの様に、金蠍には見えて。しかし、あの腕に『当たらなければ』どうとでもなると結論付けるや、己の尾を叩き付けて跳躍しながら、巨大なる左鋏を振り翳す。
左鋏を使ったのは、潰された右目と失った視野を補う為。尾を叩き付けて伸ばしたのは、小さな侵入者が己の死角に回り込んだとしても、速攻で感知出来るようにする為であり。
「━━━━━お前なら左目で死角を補うと………『信じていたよ』、金晶独蠍」
其れすらも『想定していた』ペッパーが、サキガケルミゴコロによる『未来予測』と幕末で習得した『死角と本命の攻撃視線』を加味した、レーアドライヴ・アクセラレートで瞬間移動し、金蠍の首筋近くに現れて。
彼は左拳を開いて掌に、金蠍の首裏を水平チョップを叩き付けた瞬間、金蠍の意識が数瞬ブツリと『断絶』させられた。
崩れ、前のめりに倒れていく金蠍。其の巨体の真下に再び現れたペッパーは、武装した己の巨大なる左手を拳と変えて、蠍の首に打撃を打ち込む。
重ねるは
衝撃によるダメージを一点に集中させる『コンパクト・イステル』、拳をより硬化させる『フルメタルフィスト』、クリティカル時に筋力を参照とした追加ダメージを加える『
そしてイクス・トリクォスとマーシフルチャージャー、最後に
拳を通じて伝わった、クリティカルの感触と共に其の巨体を殴り飛ばしたのだった。
不屈の意思が拳に宿る