新たな武器を携え、いざ往かん
※アイトゥイルのサブ職業をヴォーパルバニー・トラベラーに変更しました
「シャンフロ、
兎御殿・食事処にてティークが調理した、マッドフロッグの串タン焼きを食して、アイトゥイルと細やかな宴をしたペッパーは、一旦ログアウトをしてスマフォで沼掘りというモンスターの情報を調べていた。
「お、色々出てきた。何々……『シャンフロモンスター図鑑』?」
梓が見つけたのは、有志のプレイヤー達によるシャングリラ・フロンティアに生息する様々なモンスターの情報や、行動パターンに関するアレコレが記載されていた。
「へぇ…モンスターの出現地域に行動パターン、有効な攻撃方法やらも、随分事細かに書いてある…」
何時の時代も大規模で自由なゲームである程、考察や観測が行われ、プレイヤー達が敵の生体やパターンを調べ尽くし、後進に道を作る。梓は其れを見るのも好きなのだ。
「沼掘りの情報は…あったあった。………見た目は
鮫の頭部と背鰭に尾びれ、鯰の胴体にウーパールーパーの四足と、随分なキメラっぷりなモンスターに梓は若干引いた。
其れでも融合元の生物達の特徴を殺さずに、バランス良く如何にもエリアボスにデザインされた沼掘りは、見た目以上の強敵感を醸し出している。
「やってやろうじゃん、鮫鯰。必ずブッ飛ばして、サードレマの道を開けて貰う…!」
沼掘りの行動パターンや生態に関する情報を、梓は頭の中に叩き込む。沼地という仕様が働く中、自身のビルドカスタムで如何に迅速に攻略するかが問題になる。
「あぁくっそ………レクスさんマジで頼むぞ…!沼掘り相手に有効なアイテムください……!」
沼掘りとの『相性』を知って、NPCに神頼みをする梓は時間を見て、不安になりながらログインする。彼のキャラビルドは、沼掘りと沼地のフィールドを含め『最悪』だったのだ。
シャングリラ・フロンティアにおいて『フィールドの特性』は、現実世界の地形と重力の概念が『遜色無く』発揮される。
草原・荒野・舗装された道での歩行や走行、急斜面での転倒で転げ落ちによるダメージや、高所からの落下による死亡等、敵味方を問わず『平等』に襲い掛かる摂理だ。
そしてシャンフロを始めたての者が、最初に当たる壁こそ『沼地の仕様』と『沼掘り』で、仕様として片方の足が底を着くまで、沼に足を取られ続ける事で起きる『強制的な歩み状態』の付与が沼地では発生する。
そして沼掘りが起こす『ある特殊行動』が、プレイヤーを苦しめ、サードレマに辿り着けないままセカンディルで足止めを食らい続ける初心者が後を立たない。
総じて沼掘りは『初心者最初の通過儀礼』としても存在し、シャングリラ・フロンティアというゲームをプレイヤーに叩き付ける存在となっているのだ。
「………はぁ。どーしよ」
「ややや~…ペッパーは~ん。どうしたのさ、随分暗い顔してさ~…」
現実世界で沼掘りの情報を粗方調べ終え、再びシャンフロへとログインし直したペッパーは、兎御殿の部屋のベッドの上で目を覚ます。
其の横ではアルコールがある程度抜けて、微酔いまで回復したアイトゥイルが居て、自身の得物たる薙刀の刃を手入れしていた。
「以前、エンハンス商会で支部長のレクスさんから、沼掘り相手に新商品の性能を、証明して欲しいって頼まれたじゃない?で、沼掘りについて調査したんだが……俺『個人』だけだと少し厳しい」
「…ペッパーはん。ワイはおとんから、アンタの世話役を任されたさ。風来坊なワイでも、戦おうっちゅうオノコの覚悟に答えなきゃ、ヴォーパル魂が泣くでよ。大変ならワイを頼ってエエんさ」
弱音を吐きそうになるペッパーに、アイトゥイルは細目を静かに開き、言葉で背中を押していく。相変わらずヴォーパル魂が何なのかは分からないが、今は心強い言葉であり、応援だった。
ペッパーは改めて、彼女の━━アイトゥイルのステータスを見る。
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NPCN:アイトゥイル
レベル:79
メイン
サブ
体力:170 MP:235
スタミナ:80
筋力:58 敏捷:90
器用:73 技量:72
耐久:47 幸運:40
スキル
魔法
【座標転移】
【座標転移門】
【座標転移「凱旋門」】
【ランダムエンカウンター レベル1】
装備
武器:
頭:風来の唐笠
胴:風来の胴着物
腰:風来の袴
足:無し
アクセサリー
風呼びの風鈴
小物入れ(小)
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うん、やっぱり強いわ此の娘。アイトゥイルのステータスを見たペッパーは、心の中でそう呟いた。装備品の質も有るだろうが、全ステータスで自分よりも上にいる。
RPGゲームでの一時的に味方になってくれる、お助けNPCの立ち位置なのだろう。リュカオーンによる呪いの影響でまともにレベリングが出来ない場合の救済措置で、一期一会の関係。
其れでも今、此の時此の瞬間は。彼女の力を借りてでも、沼掘りを相手にエンハンス商会が作ったアイテムの性能を示さなくてはいけない。
「アイトゥイル。沼掘り相手に危険は付き纏うけど、協力よろしくお願いします」
「任されたさ。頑張ろなペッパーはん」
覚悟は決めた。兎の手も借りれる。成れば自分は、自分のやるべき事をやりきるだけだ。武器屋の鍛冶師が定めた時間まで、1人と1羽は沼掘りを相手取る作戦会議を行ったのだった。
兎御殿からセカンディルへと出て、ペッパーはアイトゥイルを隠して、武器屋に一目散に走り込む。扉を開くと店主がペッパーに気付き「待ってたぜ、ペッパー」と言ってきた。
「おっちゃん、武器は出来たのか?」
「あぁ。
店主はそう言い、最初に修復した致命の小鎚をペッパーのアイテムインベントリに直接入れ、続けてカウンターには2つの武器を置いた。
片方は蒼く輝く刀身と刃に、水面に反射する陽光の意匠が施された短剣。もう片方は透き通る水中と、射し込む光が水底を照らすような蒼の小鎚だった。
この剣に輝きを宿せるかは使い手次第だ。
クリティカル攻撃に成功時、一定時間耐久値の減少が半分になる。
この小鎚に輝きを宿せるかは使い手次第だ。
クリティカル攻撃に成功時、一定時間耐久値の減少が半分になる。
長き友となるの一文から、此の武器達は頑丈さに売りがあるのだろう。何よりペッパーが惹かれたのは、武器のネーム…五条と湖沼の読み方が似ていた事だった。
「すごい…!」
「そしてペッパー、お前さんが持ってきた鉱物のお陰で、ロックオンブレイカーは更に強化された。バカ弟子の作った武器ってのもあって、俺も久しく気合を入れて育てちまったぜ。あぁ、そうだ。コイツも渡しとく、何かの役に立つかも知れねぇ」
アイテムインベントリに2つの武器を仕舞った矢先、店主が自信満々にカウンターへと乗せたのは、蒼と銀の脈線が血脈のように走り、黒はより深い黒へ、インパクトを叩き込む両面に円錘の刺が付いた小鎚と、其の横にはノートが置かれていた。
するとペッパーの前で、以前ファステイアで貰った秘伝書が出て来るや、ノートを取り込んで再び消えた。
そして新しい武器の性能と秘伝書に加わった部分を確認したペッパーは、あまりの衝撃に身体が固まってしまう。
マッドネスブレイカー(ユニーク武器):四駆八駆の沼荒野で採掘される、潤沢な鉱物資源を用いて成させた、ロックオンブレイカーの成長形態。複数の鉱物により合金に均しき硬度あれど、其の真髄は未だ遠く、遥か先に。
戦闘時、装備者に最も近いモンスター及びプレイヤーに対するダメージ上昇に補正が掛かる。
此の武器で鉱物系アイテムを砕いた場合、其の希少度合いにより、武器の耐久を回復する。
ロックオンブレイカーの製造秘伝書+:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産、及び成長形態を製作する際に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。
此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。
(うわぁ……。ロックオンブレイカーの名前変わってるし、モンスター所か対人戦も出来る様に育てられて、秘伝書まで進化してるわ。………アレだ、孫の為に色々頑張った結果、気合入れすぎちゃう孫馬鹿のじーちゃん思考だコレ)
冷や汗がダクダクと流れ出し、何れはもっとヤバい能力を備えるんだろうなと、ペッパーは思う。
というより、此れが量産されて他のプレイヤーの手に渡った場合、シャングリラ・フロンティアというゲームのバランスが、大いに揺らぐ事は間違いない。
【世界を変えてしまう強すぎる『力』とは、己の身すら殺し滅ぼす『毒』だ……其れを努々、忘れるべからず】
とあるゲームで、師匠が人類の未来の為に世界を危ぶめ、汚名を被り、弟子たる自分が其れを止めるバトルが有り、勝利した弟子へ最後の言葉として師匠が送った超次元の剣客ゲームの台詞を思い出す。
(忘れるものか…。自分の手にある此の武器の存在を、課せられたクエストの重さを…!)
ロックオンブレイカー改めて、成長したマッドネスブレイカーの柄を力強く握る。
沼掘りとの決戦は、直ぐ其所に迫っている――――――。
新たな武器達、そしてユニークは成長する。