VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ヒロインズ、動く




夜天に星を、勇気に灯火を 其の三

ペッパー(あーくん)の耳が小刻みに動き続けている━━━━━━━七つの最強種(ユニークモンスター)・夜襲のリュカオーンとの突然の遭遇。想定外の事態と、パーティーに居る三羽のヴォーパルバニー達の存在。そしてシャンフロのNPCに掛けられた特性を加味して、どうするかを此の瞬間も一生懸命考えている。

 

(あーくんにとって、幾度も敗れてきた相手とのリベンジ戦なんてシチュエーション━━━━━━━『ゲーム』をしてる時の彼なら、絶対に燃えない訳が無い)

 

梓が様々なレトロゲームをプレイしている姿を、隣や近くで観てきた永遠は、彼のモチベーションが灼熱の如く燃え上がり、唯でさえ深い思考が更に冴え渡る瞬間を、彼女はよく知っている。

 

ある時は、主人公のヒロインを殺した仇敵との因縁にケリを着ける時。

 

ある時は、幾度挑んでは届かなかったライバルとの、真の決着の時であったり。

 

またある時は、世界の命運と全てを託されて、黒幕との最終決戦の瞬間に。

 

そしてある時は、宇宙を滅ぼさんとする剣の師を止める為の闘いで。

 

(だけど、今のあーくんは『燃えていない』。寧ろ『躊躇ってる』様に見える………)

 

情報が渡る事・NPCを失う危険性(リスク)・クランリーダーとしての重責(プレッシャー)…………其れ等が絡み合って、雁字搦(がんじがらめ)の鎖の如く、彼の思考を縛っているのだと、ペンシルゴン(天音 永遠)は感じた。

 

其れは遠からず正解であり。彼女は愛した人に最高のエールを以て、彼のゲーマーの炉心へ火を灯し、焼き尽くす程の業火へと変える。

 

ゲームをしている時の彼は何時だって真剣で、自分はそんな本気で楽しんでいる彼が、彼女は大好きなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイガ-0にとって、リュカオーンとの戦闘は此れで『四回目』だった。

 

最初の出逢いは、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)にも属していない、当時はソロの時に接触して成す術も無く散り。

二度目は装備も整ってきた頃の、野良で組んだパーティーで行動中に接敵し、ボウリングのピンの気持ちを味わい。

三度目はクラン:黒狼に所属・レベル80台辺りに成った頃、今の主力級のメンバー達と共に挑んだが、一分で壁のシミへ変えられ。己の姉のサイガ-100に至っては、リュカオーンに『捕食』されたのを目撃した。

 

(どうしましょう………)

 

此のパーティーには三羽のヴォーパルバニー達が……NPCが居る。旅狼(ヴォルフガング)にとって兎達が大切な存在である以上、此所で退く事は出来ない。

 

そしてサイガ-0にとって、此の場で最も機動力の有るプレイヤーに兎達を任せ避難を促し、残りのメンバー全員で適当な時間稼ぎをしつつ全滅後、もう一度イレベンタルからエリア攻略をし直す……という考えが在った。

 

(━━━━何て浅はかで、酷く恥ずかしい考えだろう)

 

きっとそんな事をしたならば、自分を頼ってくれたクラン:旅狼に。そして何よりサンラクに近付いて、隣に立ちたいと願う自分に対し、あまりに失礼極まりない。

 

何時だって思い出すのは、あの雨の日に見た彼の太陽の様に明るい『笑顔』。宝石や宝物を見付けて、無邪気な子供の様にキラキラと、輝く眩しい笑顔に惹かれ。

 

そんな彼と仲良くなりたいと、強く願って此所まで来たのだから。

 

(陽務君は、此の瞬間を『楽しんでない』。彼の足を、何かが縛って止めている………)

 

目の前に宝石や宝物が在るのに、其れを掴む事に戸惑っている。余計な柵によって、動けなくなっている。遠からず、然して正解に辿り着いたサイガ-0は、未だに迷い。

 

しかし鳥面から見える瞳の奥底で、今此の瞬間も揺るがず燃える、彼の炎を見ながら。彼女は言葉を紡いでみせた。

 

 

 

 

「あーくん。此の瞬間を君はずっと、心の底から待ってたんじゃないかな?強くなった君の実力を、呪いを刻み付けたリュカオーンに見せる絶好のチャンス………思いっきり『楽しんじゃおう』よ?」

 

「サンラク、さん━━━━やりましょう。リュカオーンに出逢えた、今此の瞬間の偶然を。此のゲーム(シャンフロ)を。『全力で楽しみましょう』」

 

 

 

 

 

嗚呼……ちゃんと言えて良かった。此の瞬間をきっと、自分達は忘れることはないだろう。好きな人の迷いを断ち切り、其の背中を押せたのだから。

 

全身を覆った鎧によって見えないサイガ-0と、現実の己と殆ど似せて作り上げたペンシルゴン、二人の微笑みが二人の戦士に向けれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくん。此の瞬間を君はずっと、心の底から待ってたんじゃないかな?強くなった君の実力を、呪いを刻み付けたリュカオーンに見せる絶好のチャンス………思いっきり『楽しんじゃおう』よ?」

 

「サンラク、さん━━━━やりましょう。リュカオーンに出逢えた、今此の瞬間の偶然を。此のゲーム(シャンフロ)を。『全力で楽しみましょう』」

 

ペンシルゴンの言葉、サイガ-0の言葉。ニュアンスこそ異なるものの、本質は『楽しむ』という事実を突き付けた二人に、ペッパーとサンラクは自分達を縛る鎖が音を立てて壊れ、思考と身体が軽くなったのを感じた。

 

「そりゃあ………そうか」

「………簡単な事だからこそ、解らなくなる時が有る」

 

ゲームとは『楽しんで』なんぼなのだ。確かにプレイ中に後悔したり、反省したりする事は多々ある。其れがゲーマーならば直の事で。しかし其れを理由に、戦いの手を止めたくはないのだ。

 

「はははっ……ふははははは!いやぁ、すいませんレイ氏。俺、そんな『つまんなそーな顔』してましたかね?」

「あ、いえ!そんな事、ありま……せん!」

 

ニヘラっと少し下衆味を含んだ笑顔を鳥面に浮かべ、サンラクが笑い。

 

「…………ありがとう、ペンシルゴン。お陰で今、俺に『やるべき事』が見えた」

「そう、其れで良いんだ。あーくん」

 

ペッパーの眼に灯火が点き、彼は皆に言った。

 

「皆、リュカオーンに警戒しながら聞いてくれ」

 

夜の帝王たる黒い狼は、此方のやり取りの空気を『察して』か、忠犬の如く『お座り』の姿勢をしながら、尻尾をブンブンと振っている姿が見える。

 

「サイガ-0さんは、俺達のクラン:旅狼(ヴォルフガング)への移籍を希望している」

 

其の一言にペンシルゴン・サイガ-0以外の全員の視線が、ペッパー唯一人に向けられた。

 

「えっ、マジ?」

「其れ本当?ガセじゃない?」

「他ならぬ、サイガ-0さん本人が言いました。ですよね?」

「はい。其の通り、です」

 

オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)が疑うも、サイガ-0の口から事実だと証明する事で迷いを払い、同時に今回の戦いで獲られた情報が、黒狼(ヴォルフシュバルツ)に渡る危険性は『ある程度』緩和されたといって良い。

 

クランリーダーの説明、サイガ-0の言葉が、皆の意思を一つに結んだ。此所でリュカオーンを倒すという、満場一致の考えに。

 

「……………やろう、レイ氏。此所で勝って、フィフティシアへ凱旋してやろう」

 

サンラクが其の手に、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)湖沼(こしょう)小鎚(こづち)を取り。

 

「戦おう、皆。此の戦いは、絶対に負けられない」

 

ペッパーが其の手に、風竜骨の筋鞭(ストーム・ウィッパー)を取り。

 

其れを見た旅狼のメンバーも、サイガ-0も。レーザーカジキも、ペッパー・サンラク・秋津茜のパートナーたる兎達も、各々の得意なスタイルを成す為の武具を取って。

 

彼等の闘志を、彼女等の意思を。リュカオーンはどう感じたのか、一同には解らない。だが夜の帝王は口角を吊り上げて、僅かに『グルルッ』と喉を鳴らし、前足を大地に叩き付ける。

 

其れを合図として、クラン:旅狼のユニークモンスター・夜襲のリュカオーンとの遭遇戦が、静かなる残骸の荒野にて火蓋が切られた。

 

 

 

「覚悟しろ、夜襲のリュカオーン!」

「あの頃の俺達とは、一回りも二回りも違う……!」

『俺達の力を見せてやる!!!』

 

 

 

 






夜を、闇を、勇気で照らせ


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