沼掘りこと鮫鯰との戦闘開幕
セカンディルの武器屋にて、修繕した致命の小鎚と新武器、成長したマッドネスブレイカーを受け取ったペッパーは、急ぎ足でエンハンス商会の門を叩いた。
「ペッパーです。レクスさんに準備が出来ましたと伝えてください」
受付担当に話を通すと「畏まりました!直ぐに支部長に連絡します!」と直ぐ様行動に移った。と、受付と入れ替わる形で、商会内の開いていた窓を潜り抜けた1羽のカラスが飛来、ペッパーの腕に舞い降りようとしている。
「わわっ、カラス!?何だ!?」
突然の来訪者ならぬ来訪烏に驚くも、敵対している訳ではないようで、左腕を差し出してみるとカラスは其所に止まった。同時にテロリン♪のSEと『
シャンフロのメール機能かと納得すると同時、ペッパーは此のメールに嫌な予感を感じた。というのも、沼掘りの情報を精査している時に伝書鳥なる仕様表記が有ったので、彼は気になり調べたのである。
そう、此の伝書鳥――――――『フレンドを結んだ者同士』が連絡を取り合う手段として、用いられているのである。何よりもペッパーは現在シャンフロにて、フレンドを結んでいるプレイヤーは『唯一人』しか居ない。
(絶ッッッッッッ対、永遠からだよ此のメール……)
100%アーサー・ペンシルゴンからのメールだ、出なければ出ないで此方が何をされるか解らない。リスキルすら生温い事を仕出かしそうと考え、ペッパーは仕方無く内容を確認する事にした。
――――――――――――――――――――――
あーくんへ
やっほー元気~?まだセカンディルかな?ペンシルゴンお姉さんだよー♪
クエストは順調そうかな?前にサードレマに着いたら連絡入れてねって言ったと思うけど、あんまり遅いし何より此方が待てなくなっちゃって、メール送っちゃった♪
改めて……サードレマに着いたら連絡頂戴ね。墓守のウェザエモン討伐を受注する為の方法、直接会ってお姉さんが教えてあげる。無論、まだ討伐の為の段取りやメンバーは精査中だし、此の事は決行日まで他のプレイヤーには絶対ヒミツだよ?
もしバラしたら~……解るよね?
それと。あーくんが今も元気にしてて、お姉さんは安心したよ。また一緒にゲームしたり、遊んだりしたいな
アーサー・ペンシルゴンより
――――――――――――――――――――――
人の不幸を嗤い、黒幕で魔王な彼女からの手紙等、煽られると思っていたが、真面目な内容を送って来た事に彼は驚くと共に、警戒心が強くなる。
縦読みで隠されたメッセージでも付けたのかとも思ったが、幾度読み返そうと其れらしい記述はない。
しかしペッパーにも1つ、自分の中に定めた『人』としてのルールがある。『メールには必ず返事を出せ、例え相手を振る結果になったとしても』――――だ。
「仕方無いな……えっと、伝書鳥は使えるな。カラスを選択して、うわ結構高い。………で、返事はまぁ『分かった、そっちも気を付けろよ』で良いか」
文章を綴り終えると昔ながらの封筒が出現、其の中に手紙が納められ、手紙を届けたカラスが嘴で摘まみ、ペッパーの腕を離れ、エンハンス商会の窓より外の空へと飛び立って行く。
同時に支部長のレクスがやって来た。
「ペッパー様、お待たせ致しました。此方が
そう言って渡されたのは、マッドフロッグの皮を加工して高校野球の硬球状に整えた、5コのボール状のアイテムだった。
投擲玉・炸音(試作型):エンハンス商会が製作した試作品モデル。強い衝撃を与える事で内部の機構が作動し、強力な音波が発生する。
(よっし、沼掘り相手に有効なアイテムきた!)
一先ず変な物ではなく、有効に機能しそうな物であったので、ペッパーは安心する。そして同時に、此のアイテムの残数こそが沼地という仕様の中で、高機動低耐久の自分が攻撃を食らわずに済む可能性が残された、タイムリミットでもあると覚る。
(沼掘りは『あの行動』を行ってくる以上、実質的に『4回』しか回避する術がない訳だ。沼地で使えるスキルを使えば、何とかなるとは思うけど)
「ペッパー様、どうか御武運を」
「ありがとうございます」
レクスより託された依頼だ、キッチリやりきってサードレマへ向かわなくてはならない。ペッパーはレクスの言った通り、商会正面に付けていた馬車に乗り込み、沼掘りの出現地域の近くまで運んで貰う事になった。
だがしかし、エンハンス商会に居たプレイヤーの1人が物陰よりペッパーを観察し、其の情報をあるプレイヤーへと送っていた事に、彼は気付かなかった。
其のプレイヤーの腰に巻かれた白い布には『盾と剣を噛み持つ黒い狼』のマークが刻まれていたのである。
馬車に揺られて数分後、ペッパーとマントに隠れたアイトゥイルは、サードレマへと続く峡谷沼地の近くまでやって来た。
「ありがとうございます」と彼は言い、商会の職員も頭を下げて馬車を近くの岩影まで移動、待機する。やはり投擲玉の性能を見るために、実際の戦いを見届ける観測者が必要なのだろう。
「さてっと…アイトゥイル、此所が沼掘りの生息地域みたいだよ」
「ようやっと着いたさね~ペッパーはん」
声を掛けると、マントの中から現れて地面に降りるアイトゥイル。1人と1羽の目の前には、見渡す限りの沼と峡谷が広がり、周りは切り立った崖となっていて、馬車で通るのは非常に困難な道だ。
沼地に足を踏み入れ、ペッパーはアイテムインベントリから、新造したばかりの湖沼の小鎚を左手に装備し、一歩また一歩と歩みを進めていく。
が、其の歩みは中府付近に差し掛かる所で止まり、彼は辺りを見渡して、岩壁を背にする様に移動した。
「ペッパーはん?どうしたのさ?」
「いや……フィールドを見ていたら、ちょっとした作戦を思い付いてね。あとアイトゥイル、俺の背中に乗って」
「分かったさ、失礼するね」
アイトゥイルが背中に乗り、ペッパーは中央へ足を踏み込む。すると、沼地が大きく揺れ始め、目の前の泥は大きく大きく、空気を送られて膨張する風船の様に盛り上がる。
そして弾けて泥が辺り一面に散乱し、其の中心に奴は居た。鮫の頭部と牙に、エラと背鰭と尾びれを持ち。鯰の胴体にウーパールーパーの四肢を持つモンスター。
セカンディルからサードレマへの道を繋ぐ沼道に縄張りを敷き、初心者開拓者達を苦しめるエリアボス『沼掘り』の御出座しだった。
『ギシャアア………!!!!』
「出たな、鮫鯰…!此方は急ぎ身なんで、とっとと倒させて貰うぞ!」
沼掘りもペッパーが臨戦態勢を敷いている状況に、直ぐ様沼の中へと潜行する。此のエリアボスの厄介な点の1つが、プレイヤーは歩み状態の強制に対し、沼掘りは水泳状態である事。当然ながら、機動力には雲泥の差が生まれる。
「さぁ、先ずはコレだ!」
ペッパーは所持スキルの1つで、筋力の数値10に付き1秒間、悪路での走行を可能にする『アクタスダッシュ』を起動。背鰭を出して迫り来る沼掘りに背を向け、真っ先に『岩壁』の方へとダッシュする。
「ペッパーはん!?そっちは行き止まりやよ!?」
「分かってるよ、アイトゥイル…『此れで良い』んだ」
アクタスダッシュの効果が切れ、再び強制歩み状態に。自ら行き止まりを選んだマヌケな獲物を食らうべく、沼掘りは沼地より飛び出して、鮫特有の剣山の歯を突き立てようとした。
「鮫鯰。お前からすれば、俺がマヌケに見えたか?だとしたら、お前の方がマヌケだよ」
ギリギリまで沼掘りを引き寄せたペッパーは、スキル:スライドムーブが発動し、横へと滑走する。そして沼掘りの目の前には、硬い岩肌の壁が在り、鼻先から思いっきり激突する。
『ギジャア!?』
「もしかして、ペッパーはん…コレが狙いさね?」
「鮫鯰が沼の中を泳げるなら、進行方向を絞り込ませれば良い。沼で足を取られて死角からの攻撃をされようなら、此方は防ぐ手立てはアイトゥイルが知らせてくれる方法以外無いからな。其れに此の岩壁だ、利用しないなんて勿体無いし」
鼻先をぶつけた沼掘りに、ペッパーはスキル:アクセルで距離を詰める。しかし沼掘りも直ぐに体勢を立て直し、ペッパー達を噛み砕かんと牙を振るう。
「ペッパーはんだけに見とれ取ったら、痛い目見るやね?」
背中に乗っていたアイトゥイルが跳ね、沼掘りの顎に嵐薙刀・虎吼を一文字で振るい、斬撃スキル:風来刃・夜叉斬りを使って怯ませる。
「ペッパーはん、行きなさ!」
「ナイス、アイトゥイル!ハイプレス&スイングストライク!オラァ!」
沼掘りが怯みによる体勢の崩れ、其れを元に戻そうとする所に、ノックバック補正を付与した湖沼の小鎚の打撃が追撃。沼掘りの巨体が横に倒れるも、直ぐに再潜行を行ってきて、状況は振り出しに戻る。
「逃がすかよ!アイトゥイル、耳を塞いでて!」
アイテムインベントリから、エリシオン商会が作った試作品の投擲玉・炸音を取り出して、筋力50以上から繰り出す『握力』で握り、岩壁に叩き付ける様に『投擲』する。
岩にぶつかり、皮が破れた瞬間。沼地には『巨大な音』が鳴り響き、音に驚いた沼掘りが沼の中から飛び出した。
『ギジャアアア?!?』
「ぐおぉ……っ!?思った以上に…!!」
「大きな音…さね……!!」
思っていた以上の音に、敵味方問わず動きが止まる。しかし怯みはせど、ペッパーの動きは止まらない。スキル:ハイビートで敏捷に補正を与えつつ接近、沼掘りの横っ腹へ、打撃によるダメージに上昇補正を掛ける『剛撃』と、連続での攻撃によるスタミナ減少を抑制する『ラッシュ』のスキルを重ね掛けた、連打を叩き込む。
『ギシャアア…!』
「まぁ、まだ沈まねぇよな」
「新造した武器はもう1つ有る。試し斬りと試し叩き、付き合って貰うぜ…!」
湖沼の小鎚をアイテムインベントリに仕舞い、代わりに湖沼の短剣に切り替える。
同時に沼掘りは大口を開けて右側から飛び掛かり、ペッパーもまた鋭き視線で刃を構えたのだった。
別名、ソロ殺しのエリアボス