戦局変動
※クリスマスプレゼントの三話連続投稿です
オイカッツォ・サンラク・サイガ-0の連続攻撃を受けて、小さく鳴いたリュカオーン。確かに効いている『手応え』は有る、有るのだが…………
(………やっぱり変だな)
幾度も殴ってきたサンラクとオイカッツォ、フィールドを駆け回って分身攻撃からメンバーを守ったペッパーは、同時にそんな疑問を抱く。
(普通ダメージを受けたら、生物・オブジェクトには『ポリゴン』が出るはず何だ。だが此所まで、リュカオーンがポリゴンを溢した事は『一度』だってない)
(仕様なのか、もしくはリュカオーン自身の特性に起因してるのか………。だが、確かな事は『一つ』だけ………!)
(今目の前に居るリュカオーンの『正体』、其れを確かめないとサイガ-0さんの切札が、万が一にも
そんな思考を抱く中、リュカオーンがサイガ-0の方を見詰めて。踏ん張りの効かない空中に浮いた重騎士を、前足で裏拳でもするかのように後ろへと殴り飛ばす。
「ッ!!」
サイガ-0が
「くっ………!」
「レイ氏!」
「サイガ-0!」
「此所は俺が、ヘイトを受け持つ!」
ペッパーがミルキーウェイで描いたマナの軌道から降り、シャイニング・アサルトで全力疾走しながら、
クリティカルの感触と風雷エネルギーの蓄積が指先を通じて伝わるものの、リュカオーンは気に止めもせず。視線をサイガ-0の方に向けるや、其の方角に走り出したのだ。
「なっ……俺を無視した!?」
「レイ氏!リュカオーンがそっちに!」
「ッ、はい!」
回避行動を始めるサイガ-0だが、リュカオーンは回復する隙も時間も与えんとばかりに、本体と分身を動員した波状攻撃を仕掛けてくる。
リュカオーンの突然の行動変更、たった一人のプレイヤーを集中攻撃する動き、其れを見たペッパー・サンラク・
そう、彼等二人と彼女は『コレ』を知っている。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンとの戦いの最中、レディアント・ソルレイアで必殺技を二つ完封して、大立回りをしたペッパーに狙いを絞った時と同じだったが為に。
「エムル!ペッパーとペンシルゴンを経由して、此方に来い!んでもって『マナ・シェイカー』の準備だ!」
「は、はいなぁ!」
「マジか!マジかマジか!?サイガ-0一人に狙いを絞ってきた!!」
「ッ、此方の作戦が『バレた』………!?」
京極の答えは『正しい』。そしてシャンフロのAIは『凄まじい』。此所までの戦闘を通じて、リュカオーンを構成するAIは、『サイガ-0という白黒に変わる重騎士こそが奴等の砦』だと認識し、其れを切り崩せば瓦解させられると『結論』を出したのだ。
(サンラクがヘイトを奪取したとして、エムルさんが狙われたらどうする!?こうなったら『アレ』を使うか!?……いや迷うな!俺がちゃんと生き残れれば、皆を守りきれる!!!)
「ペッパーさぁん!」
「エムルさん、いっきます………よっ!」
奥歯を噛み絞り、万が一にもリュカオーンのヘイトがエムルに向いた場合に備えて、ペッパーは『鬼札中の鬼札』を切る事も視野に入れつつ、ペンシルゴンの肩を経由して跳躍してきたエムルをキャッチ。其れを砲丸投げの要領で、直ぐ様サンラクの肩目掛けて投げ飛ばした。
「ナイス、ペッパー!エムル、準備は良いか!」
「はいなっ!
通常時の数倍の大きさを誇る『円形波状のエフェクトを持つ白い焔の様な魔法』が、エムルが持つ魔術書から放たれる。
サンラクが此の魔法が込められた魔術書を買い、エムルに覚えさせたのは、オプションパーツとしての拡張性の増加が理由の一つでもあり、購入した魔術書の中でも『一風変わった能力』を宿していたからに他ならない。
此の魔法は『物理的破壊力は一切無いのが特徴』であり、プレイヤーにぶつけてもダメージを与えられない。何なら『ある特定のモンスター』以外だと、MPを消費しても何も起こらないという始末。
だが、だが。
此の魔法は『ゴースト』、或いは『ポルターガイスト』、或いは『魔力で身体を構成する存在』に。詰まる所『非物質系存在ながら物質に干渉可能なモンスター』に対して、
即ち━━━━━━━━━━
『ガルァッ!?』
「シャア、『ビンゴ』!!分身を産み出し、同じように移動出来るなら、其の身体の構造は分身と『同じ』だよなァ、リュカオーン!!!」
そう。夜襲のリュカオーンの様な存在━━━━『闇を魔力で固めて形を作ったモンスター』には、目に見えてダメージが入るのである。
身体を構成する毛皮のような『闇』が揺らぎ、此迄如何にダメージを与えても崩れなかった毛並みが、ほんの僅かに。しかし大きな一歩である事を示すように、千切れて崩れ。だが其れも直ぐに再生されて、元に戻ってしまう。
(リュカオーンにダメージが入った!そして判ったのは、リュカオーンを相手取るなら『魔法職』の。エムルさんみたいに『霊体系へ干渉可能な魔法』持ちが居ると、ダメージを与えられる事。だがそうなると、判らない点が出てくる………)
そう、リュカオーンには『魔法系職種』なら効率良くダメージが通る反面、装備面の脆さと押し切られた場合に立て直しが困難になる事。
片や『物理系職種』は、リュカオーンにダメージがあまり通らないものの、装備や防具をガチガチに固められたり、スキルを用いて如何様にも立ち回れる利便性がある事。
魔法か物理か………どちらの攻略法を取るかによって、勝利した後の報酬に何かしらの『変化』が現れるのだろうか?
『グルルルルル………!!!!』
そしてリュカオーンはというと、エムルの加算出力マナ・シェイカーの一撃が、よっぽど腹に据えたらしく。サンラクの肩に乗っかっているエムルを見、歯軋りと喉を鳴らしてグワッ!!と言わんばかりに、飛び掛かりからの前足叩き付け攻撃を放ってきた。
「うぉおおおお!?流石だ、エムル!アイツはお前を、此の場で一番危険な兎だと判断したぞ!」
「ぴぃいいいいいいい!?おうち帰りたいでずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ヘイトがサイガ-0からエムルに移る。当初の狙い通り、サンラクは其のままエムルを乗せたまま、リュカオーンの注意を惹き付け、サイガ-0の切札発動の
だがリュカオーンは此所で、驚くべき行動を取ってきた。
「ヘイトが移った………今の内に!」
「レイちゃん、分身攻撃!しかも沢山!」
「えっ!?くっ……こんな時に!」
サイガ-0が攻勢に転じようとした刹那、リュカオーンの分身攻撃がサイガ-0に襲い掛かり。ペンシルゴンが気付いた事で回避こそ出来たが、次から次に飛び掛かってくる其れにより、攻撃に移れない。
「ちょっ、俺達にも仕掛けてきた!?」
「邪魔はさせないって事か……!」
「わあああああ!?」
「レーザーカジキさん、危ない!【
「ぬぅ……!手が出せぬ!」
「暴れ狂う、黒の波……!まるで闇の荒海の如し、なのさ………!」
其処かしこから分身攻撃に襲われて、一同が回避に精一杯になる中、ペッパーは此所が『分岐点』であると悟る。其れはパーティーを守り抜き、
だが此所で後悔するくらいならば、やるだけの事をやってから後悔するべきだ。
ペッパーは風雷皇の御手を装備解除し、インベントリから『武器』を。嘗てビィラックが自分に言った『約束』を破る覚悟と共に、彼は『
「皆!此れから俺が!リュカオーンのヘイトを『全部』、貰ってくぞ!!!」
堂々たる宣言、リュカオーンを含めて皆の視線が集まり。剣身を納めた黒鞘へ彼が右手を当てるや、其処から黒い靄が吸い取られ。くるりと回し、柄を右手で握り締め━━━━━彼は力の限りに引き抜く。
銀と空色と僅かな黒が彩り、七つの穴が空いた異質極まる剣が戦場に現れ、其の刀身からは黒の炎に似た『オーラ』が溢れ出す。
「さぁリュカオーン…………『鬼ごっこ』しようぜ?」
堅い笑顔で、しかし自信が宿る眼と熱を宿し。勇者はあの日、夜の帝王の瞳を切り裂いた『得物』を。
其の『真化』した刃の切っ先を、振り翳したのだった。
星の剣を抜き、勇者は囮となる