VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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沼掘りとの決戦、其の決着です




Oneday to running ~追われる胡椒よ、鮫鯰との決着を~

『ギシャアアアアアアア!!!!』

「――――――ッ!其所ォ!」

 

沼掘り(マッドディグ)の飛び掛かりを、ペッパーは湖沼の短剣の刀身で受けつつ流し、胴にスキル:水平斬りで斬り付ける。

 

しかし沼掘りは、ペッパーからのダメージを許容するかのように、彼を無視して其の背後に居るヴォーパルバニーのアイトゥイルに狙いを定めていた。

 

「アイトゥイル!」

「見えとるよ、ペッパーはん」

 

小物入れから瓢箪水筒を取り、中の酒を口に一杯含む。酒の味を内に満たし、噛み付こうとする沼掘りに向けて、口より『妖炎』は放たれた。

 

『ギジャア!?』

「…『酔息吹』ってさ。ペッパーはん」

「任せろッ!」

 

アルコールを口に含み、プロレスの技の1つ『毒霧』の要領で、火炎放射を放つアイトゥイル。突然の高熱に怯む沼掘りに、ペッパーはハイビートのデメリットによるスタミナ回復減少を、ハイドレートワークによるステップ移動で補いながら頭部左側へと接近。

 

「鮫鯰!其のエラ、狙わせて貰う!!」

 

沼掘りの左側エラに向け、スキル:呀突と共に湖沼の短剣を深く刺し込む。

 

『ギジャガァ!!?』

「そしてぇ!ラダースラッシュ!」

 

間髪入れずに湖沼の短剣を左逆手にスイッチ。逆手持ちでの攻撃にダメージ補正が乗る、ラダースラッシュで追撃を入れ、沼掘りは急所たるエラから赤いポリゴンを放出して、沼地に『深く』潜っていった。

 

「やりますなぁ、ペッパーはん」

 

沼をベチャベチャと踏み鳴らし、アイトゥイルが此方に合流しようとして来る。此処までは、アイトゥイルの援護も有ってか、かなり順調だ。

 

(いや…寧ろ此処までが『順調過ぎる』……!)

 

ペッパーの思考には、沼掘りの『ある秘策』が水を含んだ注連縄のように絡み付き、乗し掛かっている。

 

「あぁ。だが、気は抜かずに…!?」

 

ズズンッッッッッッ……と。沼地が大きく震えた。

 

「こら、なんさね…!?足が動かな…!」

「まさか…『アレ』か!?」

 

足の裏が流れるプールの排水口の吸引に似たように吸い付き、動きが完全に封じられたのを感知した瞬間、ペッパーはアイテムインベントリから右手に炸音玉を、左手の湖沼の短剣をマッドネスブレイカーへと、直ぐ様切り替える。

 

沼掘りには、自身が追い詰められた際に繰り出す秘策がある。現実でのネット検索で調べた際に、要注意事項として其れは書かれていた。

 

此のエリアボスは『2つの異名』を持っている。1つは敏捷に重きを置き、軽量装備で戦うプレイヤーを其の巨体とパワーで押し潰す戦車の様を喩え『軽量殺し』。

 

そしてもう1つ、此れが沼掘りが『初心者最初の通過儀礼』とされる『特殊行動』。複数人で挑んだ場合、沼掘りは体力が一定数値まで減った瞬間、プレイヤー全員の足を沼に深く沈め、ランダムに1人を鼻先で真上に突き上げる。

 

飛ばされたプレイヤーは『落下による』ダメージで体力がほぼ全損して死亡し、たった1人――――『ソロ』で挑戦すれば、其の特殊行動によって確実に殺される事となってしまう。

 

故に付いた名は――――『ソロ殺し』。其れが、エリアボスの沼掘りというモンスター。

 

沼が震え、アイトゥイルの足元がより強く震える。沼掘り(ヤツ)の狙いは彼女。

 

「ッ………せるかよぉ!!!!」

 

右手に持った炸音玉を握り締め、圧力変形によるコブを作り。膨らんだ風船を糸針で貫き割るように、ペッパーはマッドネスブレイカーの円錐のインパクト部分で、思いっきりブッ叩いた。

 

同時に炸裂するのは『音』。其れも先程の比ではない、雷が今此の時、此の瞬間、此の場所に落ちたかのような『覇音』。

 

人が生み出しし計略が、音と共に沼地に轟いた。

 

其の覇音は、四駆八駆の沼荒野全域を越え、セカンディルとサードレマを越えて、跳梁跋扈の森の中腹とサードレマから往ける『とある森』にまで響いたという。

 

 

 

 

 

 

 

「――――はん、――――パーはん!」

「……うぅん……はっ!?沼掘りは!?ソロ殺しは防げモガ!?んぐぅ!?」

「ちゃあんと防げたよ、ペッパーはん」とアイトゥイルが顔を覗き込んで、自分の口に水を含んだ気付け草なる状態異常回復アイテムを詰めて飲み込ませ、スタン状態を回復させている。

 

「でも驚いたね…神鳴り様の逆鱗に触れた様な、年の移ろいを鳴らす鐘楼の様な、とても大きくて力強い音だったさ…」

 

ほらアレをと、アイトゥイルが指差す先には沼掘りが居り、其の巨体は完全に伸びきってしまっている。

 

事実、水中に置ける音の伝導率は空気の約4~5倍。沼地で水泳判定が入り、水中と同義の場所に居る沼掘りにとっては、寝耳にロックバンドの演奏を大音量スピーカーの最大ボリュームで叩き付けられた様な物だ。

 

自分の鼓膜が潰れなかっただけ、幸運だっただろうか。

 

「ペッパーはん」

「あぁ」

 

1人と1羽に此れ以上の言葉は要らなかった。ペッパーはアイトゥイルが拾い、手渡してくれたマッドネスブレイカーを改めて握り、沼地を進む。

 

湖沼の短剣で切り裂き、破壊部位となった頭部左エラの前に立ち、剛撃・スイングストライク・レイズインパクトの3つのスキルを同時に起動。

 

「去らばだ、沼掘り(マッドディグ)……今回は俺とアイトゥイルの勝ちだ。だけど次は、俺一人でお前を倒してみせる」

 

アイトゥイルが居なければ、確実に苦戦し、そして負けていた。其の事実を認めて、沼掘りに礼儀として今の自分が持つ最大打撃を叩き込む。

 

破壊されて急所と化したエラを、マッドネスブレイカーが着弾、衝撃が穿ち貫いて沼掘りの頭を構成するポリゴンが弾け飛び、其の巨体は沼地より消え去り。

 

ペッパーのレベルが1つ上がった事を報せるSEだけが、静寂の沼地に聞こえるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー様、そして付き人のヴォーパルバニー様、お疲れ様でした。炸音玉の性能、しかと記録致しました」

 

戦いを終え、エンハンス商会の職員が回復ポーションとマナポーションで、激戦により疲弊したペッパー達を回復してくれた。

 

「回復ありがとうございます。人語を喋るヴォーパルバニーを見ても驚かないんですね?」

「初めは驚きました。ですが、ペッパー様と友好を築き、共に沼掘りと戦っておりましたので、信頼に値する存在だと、私は判断致しました」

「ほほ~ん…中々見る目があるさね、アンタ」

 

シャンフロのNPCとモンスターは基本的には敵対しており、フィールドに連れ出せば危険が伴う。そんな中で自分の目で見て、己の心に従った此の職員にペッパーもまた、信頼に値する人物だと思った。

 

「今回の戦いを通じて、ペッパー様が炸音玉に対する改善点が有りましたら、何れ程小さな事でも良いので、教えていただけますと幸いです」

 

炸音玉の感想を聞かれたペッパーは、戦いを通じて感じた事を正直に述べる。

 

「そうですね…先ず手触りや硬度は申し分ありませんでした。音の威力も沼掘りを気絶させる力があり、十分だと思います。

 

其の一方で、投げる際に滑り止めと言いますか、縫い目の突起があると便利ですし、軽い力でも中の装置が起動して音が発生するようにすると、使い勝手が良くなると思います」

 

5個ある内の2個しか投げなかったが、1つで沼掘りの特殊行動を封じる事が出来た。其れだけでも十分過ぎる成果だろう。

 

「分かりました。今回の戦いを支部長に御伝え致します。数日以内に今回の改善点を含めた製品版を製作し、エンハンス商会で販売致します。

もし宜しければ、此方を他の街に在るエンハンス商会の受付にて呈示してください。ペッパー様の旅路の御力添えに成れるかと」

 

職員はメモに改善点を書き込んだ後、ペッパーのアイテムインベントリに『銀のプレート状のアイテム』が加わり、彼が其れを確認すると、またとんでもない物だった。

 

 

エンハンス商会会員証

 

エンハンス商会の運営する商店を利用、並びに商品の取引を行う際に必要となる特別な会員証。

 

千万以上の大きな取引を行った商人か、商会からの多大な功績と信頼を置かれた者にしか与えられない証明書であり、商人が一流を目指す際の指標の1つとなっている。

 

其れは商会からの信用であり、君が築いた信頼である

 

 

 

(なんか信用置かれてるんですけど。しかも商人の登竜門みたいな記述あるし。アレかな?開拓者じゃなくて、商人に成れってスカウトなのかな?バックパッカーは商売する事もあるからって理由で)

 

エンハンス商会がどのくらいの規模の商いを行っているかは解らないが、会員証を発行しているのは其れなりの大きな商会であるのだろう。今後は普通の道具屋だけでなく、エンハンス商会での買い物にも役立ちそうだと考え、持っておく事にした。

 

「其れでは私はセカンディルに戻ります。試作の炸音玉はペッパー様が御持ちに成られて大丈夫です。其の旅路に幸多からん事を、御祈り致します」

 

そう言って職員は岩壁に退避していた馬車に乗り、ペッパー達に手を降ってセカンディルへと帰って行った。

 

「終わったさね、ペッパーはん」

「うん。ありがとうアイトゥイル、でもサードレマに着くまでが沼掘りとの戦いだ。勝って兜の緒を締めよ…ってね」

「あぁ~…そう言えば『シークルゥ兄さん』も、そげな言葉遊びを呟いてたさね」

 

また知らない兄弟姉妹の名が出て来て、ペッパーは疑問を抱く。

 

(アイトゥイル…エードワード…ビィラック、そしてシークルゥにティーク……。皆名前に『アルファベット』が入ってるんだよな…。もしかして先生の子供達は、そういう感じなのかな?)

 

色々と考察が頭の中を過るが、沼掘りとの戦いで疲れた頭では考えは纏まらなかった。

 

(まぁ…いっか。ユニークシナリオを進めれば、何れ真実に辿り着く時は来るし、其の過程を楽しむ事もゲームの醍醐味だ)

 

軈て明かされる其の時を楽しみに、ペッパーはアイトゥイルをマントの中に隠して、峡谷を沈める沼地を渡る。目指すはサードレマ、ペンシルゴンが話した『墓守のウェザエモン』と戦う為の情報が、もうすぐ其所に迫っている。

 

 

 

 

『沼を泳ぐ獣は覇音により鎮まった』

『エンハンス商会は戦いを見届けた』

『致命の兎と共に沼渡りを成し遂げた』

『称号【沼鮫の鎮圧者】を獲得しました』

『称号【覇音を成した者】を獲得しました』

『称号【種族は違えど志は共に】を獲得しました』

『特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】が進行しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろか………フフフ、待っているよ。ペッパー君」

 

そして黒狼を追う者達が、サードレマで待っている。

 

 

 

 

 






1人と1羽で掴んだ勝利


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