一徹からの現実戻り
「━━━━━━ん━━━━━あーく…………」
「ん………んんん……?」
シャンフロからログアウトして、ペッパーから現実世界に戻った梓は、ゆさゆさと身体を揺らされながら意識を取り戻す。
「おーい、あーくん。朝だよー」
横向きの布団に上半身だけが乗っかった状態であり、隣には水着姿の天音 永遠の姿。通常なら一体何が起きた!?と混乱するだろうが、生憎昨日の事をよく憶えている。
「おはよう、トワ………ふぁぁぁぁ」
「おはよう、寝坊助あーくん♪いやぁ、本当にヤバかったね」
身体を起こしつつ背伸びしながら、昨日の事を思い出す。永遠の告白とキス、其れから恋人となった直後に『色々』を経て。シャンフロでは仲間達と共に、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンとの遭遇戦を、一晩掛かった戦いを乗り越えて、NPC含めた全員生存での攻略による達成感……其の大きさは計り知れない。
「今日はバイトは無いし、大学の講義は………明日以降に回すかな………」
スマフォで予定表とコンビニバイトのシフトを見比べ、確認した後に彼は再び布団に寝転がる。本当に色々と有り過ぎたので、午後五時までゆっくり仮眠を取り、午後六時から始まる深淵のクターニッドのユニークシナリオ交渉に、本腰を入れたいところだ。
「おーい、あーくーん。朝御飯、食べよー?」
「……其れもそうか……」
眠気の身体に鞭打ち、彼は冷蔵庫や炊飯器の中身を見て、朝御飯はおにぎりを作る事に決めた。
手を洗い、茶碗に御飯を一杯分取り、両手には塩の瓶から数振りの塩をまぶし、飯を手に乗せて空気をふんわりと込めるように。三角形に白おにぎりを整形していく。
手をもう一度洗って水気を取った後は、同じ工程を一回繰り返して自分の分を作り上げ、彼は更に一度手を洗い、食品棚の中から海苔の入ったパックを出す。
おにぎり用にカットされた海苔を二枚取り、コンロで軽く焙って水分による湿気りを飛ばした後、各々のおにぎりに付け。後はマグカップ二つに牛乳を入れ、テーブルに持っていって簡単な朝食は完成した。
「トワ、御待たせ。梓作『白米のおにぎり』だ」
「おぉ~。シンプルなおにぎりだね」
『いただきます』と合掌し、おにぎりを頬張る梓と永遠。空気を含みふんわりと仕上げた三角米塊は、程好く噛めばホロホロと解れて。白米の甘さと塩っ気が混じり合い、食べる手を促してくれる。
「美味しい……!」
「そりゃ良かった。パンも良いが、日本人なら米も食べなきゃな」
そうして食の手を進め、十分で完食した二人は『御馳走様でした』と合掌。梓は食器を洗い、歯を磨き、仮眠を取る為に布団を直そうとした矢先、先に歯を磨いていた永遠が布団に寝転がったのだ。
「………俺此れから仮眠を取ろうとしてるんだが、何やってんだ永遠?」
「何って?私も同じく仮眠がしたいんだ。何なら一緒に寝る?ほら添い寝だよ、あーくん。恋人同士に成れたし、身体も重ねた。もっともっ~と、恋人としての行為をしようぜ~?」
絶対に此方が寝た所を見計らって、美味しく頂くつもりじゃないだろうか?
「あーくん、今君さ『美味しく頂くつもり?』って考えてるでしょ?」
「何故バレたし」
「ンフフフ……恋人の考え事くらい、私には御見通しなのだよん♪」
寝転がってニヤニヤニマニマと悪い笑顔を浮かべる永遠、相変わらず憎たらしい程に良い笑顔だ。
「はぁ……解った。俺も眠たいし、午後六時にはシャンフロでクターニッドのユニークシナリオに関する交渉も有る。今の内に休んで、集中力を取り戻そう。………添い寝って言ったが、逆に俺が抱き着いて寝たり、俺から誘ったとしても………文句は無いよな?永遠」
「え?」と言うより早く、梓は布団にダイビングからの永遠を抱き枕のように抱き締める。突然の攻勢に、流石の永遠自身も予想出来なかったようで、呆気に取られた上に顔が真っ赤に染まっていく。
「ふぁ、ひゅ……!?」
「嫌だったか?」
耳元で囁けば、更に顔や耳が赤く染まっていく永遠。流石にやり過ぎてしまえば、色々としっぺ返しが飛んできそうなので、此のくらいにしておくかと思っていた時である。永遠の両腕が自分の首後ろで交差し、ぐいっと顔に引き寄せてキスをしてきたのだ。
「ん……あーくんって時々、私がコレされたら弱いって………気付いてやってるでしょ?」
「さぁ、どうかな?レトロ恋愛ゲーで学んだ可能性だって有るぞ?」
「もぅ……でも、嬉しいよ♪」
朗らかに、艶を帯びて笑った永遠の表情は、世界の誰よりも、何よりも綺麗で。今此の瞬間の表情は世界で唯一人、自分だけが見て知っているという、圧倒的な優越感が心に満ちる。
「永遠………良い、か?」
「━━━━━うん。………あーくん。いっっっっぱい……私を愛して、ね?」
永遠がゴムを渡してきて。
二人の瞳は『獣』に変わる。
唇を重ね、指が絡み。
互いが互いを喰らいながら、時は過ぎていく……。
ピピピピッ♪ピピピピッ♪と、スマフォからアラームが聞こえてくる。時刻は午後四時半、あれからおよそ三時間の交わりと其処から寝た甲斐有って、視界はハッキリ・眠気はスッキリの全快状態だ。
「あーくん、おはよう……すっごく『激しかった』ね♪」
「…………おはよう、永遠。お前が『底無し』だとは思わなかったわ………」
永遠のおはようのキスで目が覚めると、其処には水着の紐が解けて、大事な場所が見えている永遠の姿が有った。激しい時間だった……互いに燃え、熱を帯び、理性で制御したとはいえ、ゴムを全部使い切るまで重ね合ったのは、正直言ってヤバい。性欲恐るべし……。
「フフフ……あーくんってば、けっこー大胆だよねぇ?私を抱いて、おまけにあんなに『熱く』なるなんてさ。でも嬉しいよ?………君の温もりを、君の本気を、君の愛を。私は感じられて、すっっっっっっごく幸せだから♪」
「………晒すなり何なり好きにしろ。俺はもう覚悟は出来てる」
「あーくんが私を大切にしてくれる限り、コミュニティ含めて他には絶対に漏らさない。ちゃんと約束するよ」
起き上がりに頬へキスをして、永遠はスマフォを操作して出前を頼む。頼んだのはカツ丼と澄まし汁のセットで、深淵のクターニッドに関わる交渉に勝てるようにと、願掛けの意味を込めた物であり。
梓は野菜が足らないと、レタス・トマト・キュウリを使った簡単なグリーンサラダを作り終えて待つこと二十分、部屋に取り付けられたインターホンが鳴って、出前が到着。
永遠から金を渡された梓が応対し、サインをして出前を受け取り。二人は昼を飛ばしての、早めの夕食を堪能する。因みに永遠が頼んだカツ丼の出前の御値段は、二人で一諭吉に迫る物だった。やっぱり
食事を終え、梓は手洗いと水分補給。永遠は水着姿からシャワーを経て、手洗いと水分補給を行い、なんとバニーガール姿にチェンジし。梓と永遠は一つの布団に二人で寝転がり、VRヘッドギアを頭に装着。
梓はペッパーに、永遠はアーサー・ペンシルゴンに変わり、シャングリラ・フロンティアの世界へと飛び込んでいくのである……。
英気を養い、そして出陣