ユニークシナリオの交渉へ
午後五時過ぎ………兎御殿の休憩室、其のベッドにて
「あ、ペッパーはん。こんにちわなのさ」
「こんにちわ、アイトゥイル」
パートナーの黒兎の飛び込みを受け止めつつ、ペッパーは彼女にこう言った。
「実はなアイトゥイル、此れから俺とサンラクに秋津茜は『深淵のクターニッド』に関わるユニークシナリオの交渉に向かうんだけど………先生は今居ますか?」
「…………ふへぇ!?ク、クククク、クターニッドなのさ!?!?ペッパーはん、クターニッドに挑みに行くのさ!?!?」
驚愕で細目が開眼し、此方を見詰める視線を前にしても、彼は変わらず「はい」と頷き答える。
「………頭は今、ジークヴルムはんの所に行ってて、兎御殿には帰ってないのさ。でも本当なのさ……?クターニッドに戦いを挑みに行くなんて」
「事実だ。サンラクが其れに関わるユニークシナリオに、俺と他の協力者達の力を借りたいって言っていたからね」
格納鍵インベントリア内に在るロボット、天将王装の能力である天王を交渉材料として、挑戦する為のユニークシナリオを手にする為にも、絶対に引き下がれないのだから。
「はぁ………ペッパーはんの破天荒振りは今に始まった事じゃ無いのさ。ならワイは、ペッパーはんの付き兎として、其の戦いを見届ける義務が有るのさ」
「えっ?いや、万が一の事を踏まえてパーティーから離脱して欲しいんだけど………」
パーティーを解散をしようと、ペッパーがメニュー画面を開くより早く、一つの画面が表示される。
『NPC・風来兎のアイトゥイルが、条件を充たすまでパーティーより外せなくなりました』
「…………マジかよ」
「ふふん……此れでワイは、置いてきぼりにされないのさ。さぁ、ペッパーはん!クターニッドとの戦いに行こうなのさ!」
さっきまで驚愕してたのは、一体何だったんだと疑問を抱くが、オートセーブ下で発生・進行したイベントは、セーブデータごとリセットする以外に除去方法は存在しない。ペッパーは頭を抱えながら、アイトゥイルを旅人のマントの中に隠し、ビィラックの鍛冶場に移動。彼女から修繕して貰った星皇剣グランシャリオを受け取り、一度休憩室に戻る。
そして午後五時半頃にサンラク・
深淵のクターニッドに挑む為のユニークシナリオの交渉。其れを知っているという、ルスト&モルドのコンビとの待ち合わせ場所として設定された『波止場の酒場』は、フィフティシア・造船所エリアの一区画に在るという。
「やぁやぁ、サンラク君・あーくん・秋津茜ちゃん。時間的にも良い感じの所で来たね」
サブリーダーのペンシルゴンを筆頭に、オイカッツォと
「レーザーカジキ君は?」
「そういや居ないな」
「メールバードは送ったが、時間までに合流出来るかどうか………。戦力として加わってくれれば有り難いけど」
実際、彼と秋津茜にシークルゥとの合体攻撃魔法は、リュカオーン遭遇戦で雲を打ち払い、透明分身を防いだ実績がある。サポートとしてもメンバー的に見ても、遠距離魔法攻撃が可能なプレイヤーは、此のクランにとって重要だ。
と、一羽のフクロウがペッパーの腕に止まって『
「道具の買い足しをするみたいで、少し遅れてくるって」
「魔法職はマナ管理も大事だからなぁ……」
「先に移動しておこう」
後で合流するレーザーカジキを心配しつつ、旅狼一向は交渉場所となる波止場の酒場を目指し、夕闇の空が満ち始めた造船エリアでの移動を開始する。
「……にしても、随分と治安が悪いみたいだね」
オイカッツォの言う通り、此のエリアの行く先で見えるNPCの男達は前歯が欠けていたり、身体に縫い傷や切り傷等の外傷を抱えていたり、飲んだくれや素行の悪そうな連中ばかりが押し込められた溜まり場の様にも見える。
ワールドストーリーが進行し、新大陸へ向かう為の造船が急速で造り始めた影響なのか、以前からこうなっているのかは解らない。だが道行く此方を、NPC達はそそくさと『避けている』気がしなくもないのだが、一体何故なのか?
「なぁ、アイトゥイル。道行く他の人達が俺やサンラクを見て避けてるのって、やっぱり『
「そうなのさ。ペッパーはんとサンラクはんの持っているヴォーパル魂から発せられる気配は、近付く相手を切り裂き引き裂くような威圧感を常に放ってるのさ。並大抵の奴じゃ、近付く事すら出来ないのさ」
リュカオーンの分身を討ち果たし、各々に刻まれていた
「っと、指定された場所は此処だな」
サンラクが見詰める先、英語で『RESTAURANT』と掲げられ、近くの看板には『波止場の酒場』との掛札が一つある、樽や舵輪の装飾で飾り付けられた、海が隣接する場所に似合う風情溢れる建物が見えて来る。
がしかし、そんな一向の目の前で店の木扉を粉砕し、店の外へ吹き飛ばされて転がる、少し大柄な男性NPCが。
「くそが、やりやがったな!もう許さねぇ!」
「大丈夫ですか!?」
「あぁ!?気安く喋っ……!?あ、おま……いや、何でもねぇ………」
随分ボロボロにやられており、怒り心頭で声を荒げる男にペッパーが声を掛けた所、荒々しい口調で反応し掛けたが、彼の右手とサンラクの胴と脚から放つリュカオーンの気配によって、冷静さを取り戻し。
「ちょ、ちょっと落ち着いて『ルスト』!あんまりやり過ぎない方が……!」
「うるさい『モルド』!此れで合っている筈だ!」
中から聞こえる騒ぎ声に、ペッパーとサンラク、ペンシルゴンが反応する。ルスト&モルド………数日前にサンラクが伝えた『ユニークモンスター・深淵のクターニッド』に関わる、ユニークシナリオを所持しているプレイヤー達の名前だ。
店内を見れば、複数人のNPCが気絶状態にさせられ伸びており、其の内の一人を何度も何度も踏みつける、小柄な銀髪褐色肌のヘソ出し装備を纏った少女と、其の少女を止めんとする頭一つ程背丈が大きな、細身で如何にも魔法使いな装備をした青年。
頭上のプレイヤーネームを凝視して見れば、少女には『ルスト』と、青年には『モルド』と表示。どうやらあの二人が件のユニークシナリオ所持者のようだ。
「オイオイ何やってんだ、此の場に居る誰よりも気性が荒いじゃねェの、ちっこいクセに」
「え?……あ、もしかして!?」
「何だと貴様ッ!」
先陣を切ってサンラクが話し掛けに行き、モルドの方はサンラクの姿を見て気付いたが、逆にルストはサンラクだとは気付かず。走り出すや拳を握り締め、いきなり殴り掛かってきた。
「うわっ!?ちょっと待て!?」
「黙れ、半裸の変態!」
咄嗟に回避したサンラクの近くに在った木造のテーブルが砕き割れ、乗っていた料理やドリンクが宙を舞う。
「ル、ルスト!其の人はNPCじゃないよ!?サンラクだ!」
「何………!?」
モルドがルストを羽交い締めにして暴走を止め、彼女がサンラクの頭上を凝視した事で、漸く落ち着きを取り戻し。
「………何だ其の格好は。まさか趣味か?」
「んな訳ねぇよ」
最早サンラクに対する、御決まりな質問が飛んで来るのだった。
ユニークシナリオの受注者