VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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海原を往け、赤き鯨の船よ




大海を進みて、魚怪と遭遇(であ)

「船長!出航準備整いました!」

「よぉし!錨を上げて、帆を張れ!赤鯨海賊団スカーレットホエール号、出航だっ!」

 

スチューデの部下達が降ろしていた錨を上げて、畳んでいた帆を張り、船が夜のフィフティシアの港から動き出した。逆さ髑髏に赤鯨、尾びれにカトラスを握る赤鯨海賊団を示す帆は、夜風をたっぷりと受けて、恐るるモノ等何も無しと言わんばかりに、堂々と断絶の大海を進んでいく。

 

「わぁ…凄いですね!進んでますよ!」

「ウム、拙者は船に乗るのは初めてで御座………レーザーカジキ殿?」

「武士の兎さん……!」

「確かにすげぇ、モブ(AI)がちゃんと動かしてやがるな」

 

力自慢の男達が縄を引き、風を受ける位置を調節する光景は、海賊を題材とした映画では良くある物だったが、シャンフロともなれば其処に息遣い等のリアリティーが追加され、より臨場感溢れる物に変わっている。

 

船員の話によると、幽霊船が確認された海域までは暫く時間が掛かるとの事で、各自何時でも戦えるように準備せよと言っていた。

 

「此の手の船上戦じゃ『大砲』をブッ放すのが基本なのに、此の世界(シャンフロ)は『バリスタ』が主流なんだな」

「みたいだね、てっきり『火薬』が有るものかと思ったんだけど……」

「念には念を入れておく……」

 

オイカッツォ・モルド・ルストの三人はバリスタの確認や調節をしており、レーザーカジキはシークルゥに、秋津茜(アキツアカネ)は帆船に興奮している。

 

「敵の情報が欲しいが………俺やペッパーの場合、クソ犬が呪いを更新しやがったせいで、NPCが避けるようになったからなぁ……」

「あ、あの……サンラク、さん。敵の情報については……私が聞きました。何でも『魚と人がごちゃ混ぜになった異形の怪物』………と、船員さんは話して、ました」

「おぉ、レイ氏。サンキューです」

「い、いえ!とんでもない……です!」

 

サイガ-0のお陰で、クライング・インスマン号の船員………もといエネミーは『ゾンビタイプのモンスター』であると情報を入手出来たサンラク。そして彼の視線は、此の船上の一角に注がれる。

 

「……で、だ。ペッパーの奴は『どーなってんの』?」

 

サンラクを含め、オイカッツォと京極(キョウアルティメット)の視線の先には、グロッキーな表情で今にも吐きそうになっているペッパーと、其の背中を擦るペンシルゴンにアイトゥイルが居た。

 

「なぁ、ペンシルゴン。ペッパーは大丈夫なのか?」

「あぁ、サンラク君にレイちゃん。実は、あーくん……『船だけは酔っちゃう体質』なんだよね。飛行機や車、電車にバスとかは大丈夫なんだけど、船は波で不規則に揺れるから、平衡感覚とか三半規管をやられちゃうらしくてさ」

「……気持ぢ悪い……空中浮遊ぢだい……」

「此れは本格的に駄目そうなのさ……」

 

日本屈指のプロゲーマー・オイカッツォに思考で読み勝つ、レトロゲーマー・ペッパーの意外な弱点を知れたサンラクは、いつか船上関係のVRゲームで対決する事にし、クランリーダーたる青年に言った。

 

「んまぁ、今は夜の時間帯だし……戦闘が始まったら空中戦は任せるぞ?」

「オーゲー……其れまでに体調を調えと………う"っぷ」

 

サムズアップしながらも、吐く寸前のヤバい顔になるペッパーを見て、サンラクは「こりゃ駄目そうだな」と呟くのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界の大都市とは異なり遮る光が無く、空気も排煙等で汚染されておらず綺麗である為、夜空に瞬く星々は煌美やかに輝き、天ノ川や星雲が彩る宝石箱の様な美しい景色が其処には在った。

 

「いやぁ、こりゃまた絶景だなぁ」

「すぴー……すぴー……」

「そう、ですね……とっても綺麗、です」

 

以前ペンシルゴンに渡された釣竿で釣りをするサンラクは、穏やかな波の揺れで眠ったエムルを膝に置き。其の隣には奇遇(・・)にも、釣竿を購入していたサイガ-0が座っており、二人は並んで船上釣りをしている。

 

「エージェント・オイカッツォ。サンラクとサイガ-0の事を『どう見てます』?」

「エージェント・京極。アレは完全に『ソレ』な流れと見たね」

「ちょ、ちょっと二人共……邪魔しない方が良いんじゃ……」

「………興味が有る」

「ルスト!?」

 

そしてそんな二人を帆船の生命線の一つ、マストの影から覗き見つめるオイカッツォ・京極・ルスト・モルドは其の成り行きを見守っていた。

 

「皆さん、どうしましたか?」

「あの~、皆さんどうしたんです?」

「秋津茜殿、レーザーカジキ殿。此のような場面では『見守る』事が最善手なので御座るよ。ささっ、此方に」

「「???」」

 

一団が固まり、マストの影から何かを見ているのが気になった秋津茜とレーザーカジキだったが、逸早く状況を察したシークルゥが教えて彼等彼女等の所へ案内する。

 

「……なんか、皆マストに集まってない?トワ」

「そうだね、あーくん。はて、一体………おやおや?へぇ~………ンフフフ、コレはコレは………」

「サンラクはんと、サイガはん……なのさね?釣りしてるみたいなのさ」

 

グロッキーな状態ながらもメンバー達の様子に気を配るペッパーと、サンラクとサイガ-0の様子にニヤニヤしているペンシルゴン、一眼望遠鏡で二人を見るアイトゥイルが更に離れた場所で見ており。

 

(こ、こここ、コレって恋人達がやる………『相合釣り』!?おち、おちちちち、落ち着くの!落ち着くのよ玲!大丈夫……!慌てない……!陽務君との距離を詰める、こんな絶好のチャンス……!絶対に物にするの……!)

(うわ!?何かレイ氏興奮してねぇか……釣り好きなのか?)

 

想い人・サンラクの隣で釣りをしている状況に、心中パニックになり掛けるも、幾度も深呼吸を続けながら、荒ぶる己の感情を凪いだ水面の様にするサイガ-0。だが肝心のサンラクには、サイガ-0が実は釣りキチか何じゃないのか?という誤解を抱かせていた。

 

「う~ん……其れにしても『月が綺麗だ』……」

 

何気無く夜空を、リュカオーンの時には曇りになるか否かを見ているしかなかった月を、徐に見上げたサンラクの呟き。だが恋愛以外(・・)の全てを与えられたサイガ-0(斎賀 玲)には、此れに対する返しを知っている。

 

「!?そ、しょんな……!私、もう『死んでも構いません』………!」

「えっ何で?!?!」

 

驚愕するサンラクだが、此の状況とやり取りを見ていたペッパーと京極、そしてペンシルゴンは其の意味に気付く。

 

(此れは、ほぼ『確定』したかな………?)

(はっはぁ~ん?まぁた『楽しく』なりそうだねぇ??)

(へぇ~~~サンラク君も『春』が来そうな予感だね……フフフフ)

 

三者三様の感情を抱いていた時である。再び夜空を見上げていたサンラクが、逸早く其の『変化』に気付いた。

 

「…………なぁ、レイ氏」

「は、はゅい!?な、何でしょうか!」

「シャンフロってさ………急に『天候』が変わる事って有る?」

「えっ?いえ、其れは……!」

 

どうやらサイガ-0も、サンラクの言葉の意味に気付き。

 

「あ、あれは……!船長、前方!西の空に『あん時と同じ』のが来た!」

「何!?」

 

他のメンバー達も何だ何だと西の空を見る。其処には煌美やかな夜空に、突如として広がる『黒曇』。其れが徐々に広がり、軈てスカーレットホエール号を含めた此の近辺の海域と、星々を遮るように染め上げて。

 

直後大粒の雨が降り始めて、轟々と船体を叩き付けるようなスコールへと変わっていく。

 

「こ、怖くなんか……怖くなんか無いぞ!僕様はパパの息子なんだ!」

「此の手のイベントは『2パターン』ある。霧の中から現れるのと、もう1つのパターンが…………『下』だ!」

 

ゴロリゴロゴロと雲間を照らす白の光、刹那に暗闇を切り裂く落雷の一閃が海面に落ちて、爆音が耳と身体をつんざき貫く。

 

「「わああああああああ!?」」

 

スチューデと船員の一部が悲鳴を上げ、ペッパー達が見つめる先の海面が爆ぜ、水柱と共に起きた大波が船体を揺らした。

 

「皆、掴まれー!」

「わぁ!?」

「うわわわ!?ぎゃん!」

「秋津茜殿!レーザーカジキ殿!」

「くっ……!」

「ルストぉ!」

 

ぐわんぐわんと揺れる船で転がる者に、持ちこたえる者、そして豪雨の中で『其れ』を目撃する者。

 

「アレだ……!アレが幽霊船………『クライング・インスマン号』だ!!!」

 

舵を取るスチューデの叫び声にプレイヤーが、NPCが船首を含めて、船体のあらゆる場所に穴が空いたボロボロの船を視界に収める。

 

いよいよユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】が、本格的に開幕するのであった……。

 

 

 

 






出現、クライング・インスマン号


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