開戦
クライング・インスマン号。
赤鯨海賊団船長にして自称大海賊を名乗るスチューデ、彼の父親が己の命と引き換えにして単身で乗り込み、部下と船を守り命を散らした其の船は、一言で言い表すなら『異形の船』だった。
船体には大穴小穴が空きに空き、マストは折れて何処かに無くなってしまっている。そして何よりあんな状態で海に浮かんでいるのが、異質を極めている。
シャンフロの誇る物理エンジンは、物質の重力だけでなく船体を浮かせる『浮力』も同じように働く。ならば船としての浮力等無い筈のクライング・インスマン号が『浮いている』という事実は、一体どう説明を付ければ良いのか?
「超常パワーで浮かんでいるのか……其れとも『誰かが浮かして』るのか、ウッブ………気持ぢ悪い………」
「あーくん、しっかり……!」
船酔いでグロッキー状態が解けないペッパーを、ペンシルゴンが肩を貸す形で立ち上がらせる。全員の視線が集まるクライング・インスマン号。
時折落ちる雷光が照らす、其の船上には無数の人影………否、『魚と人とゾンビがごちゃ混ぜになった』
「う、うわああああ!?来るなぁ、この野郎ォ!!?」
「おい、落ち着け!此処から撃っても当たらないぞ、もっと引き付けてから撃つんだ!」
「ちょ、其れは僕様の台詞だぞ!」
「そんな台詞は自分が立ってから言いな!へっぴり腰で親父の敵が討てんのか?」
「ぐっ……チクショウ!」
発狂しバリスタを射たんとする船員をオイカッツォが沈め、其れに反応したスチューデをサンラクが奮い立たせていると、クライング・インスマン号が加速して此方に突っ込んでくる。
「船長!幽霊船が全速力で突っ込んできます!」
「ッ……正面突破で、引き殺しに来たか!」
「船長!早く避けねぇと!?」
部下達が慌てふためく中、スチューデは非力さを噛み締めながら。しかし赤鯨海賊団の船長として、スカーレットホエール号を知る者として、彼は選択する。
「……いや、此のまま『迎え撃つ』!下手に回避したら船に穴が開く!其れに
そう言ったスチューデはサンラクを見て、サンラクもまたスチューデの瞳に宿る炎を見た。
「船長が言うなら、そう信じよう。お前ら!確り何かに掴まれ!此のまま激突しに行くぞ!」
『了解!!!』
「各員!衝撃に備えろー!!!!」
舵を切り、スカーレットホエール号をクライング・インスマン号の真正面に陣取らせ、スチューデが叫び。皆が縄やマストに掴まって衝撃に備え。
「始まる……クライング・インスマン号攻略戦!
レディアント・ソルレイアを両足に装着し、合い言葉と共にペッパーが浮遊した刹那。二つの海賊船が嵐渦巻く夜の元………激突した。
衝撃が迸り、物理エンジンによって互いの船が、大きく揺れる。そしてクライング・インスマン号の船上から、マーマンゾンビが梃子の原理でも使われたかのようにぶっ飛び、スカーレットホエール号に打ち込まれる。
「わあああああ!?」
「確り掴まれ、エムル!」
二隻の船はぶつかった衝撃で船首同士が食い込み合い、ちょっとやそっとでは離れない状態になっていた。
「船の損傷確認急げ!!」
船長として、船の確認を呼び掛けるスチューデの後ろに、激突時に吹っ飛んできたゾンビが立ち上がり、カトラスを片手に斬り掛かる。
「させるか!」
が、其れを止めたのはレディアント・ソルレイアの浮遊滑走と、
「お、お前……!」
「ナイスガッツだ、スチューデさん。此処から先は俺達の仕事!皆、行くぞ!」
「はいさ!」
先程までのグロッキー状態は何処へやら、
「お。空中走ってるからか、調子を取り戻したみたいだなペッパー。んじゃ、俺も負けてらんねぇ!」
「アタシも張り切りまくりですわー!」
「アイツばっかり、良い所は持っていかせないよ!」
「僕もリュカオーン戦では活躍出来なかったから、暴れまくるッ!」
「よーし!私も頑張りますよ!」
「秋津茜殿、油断なされるなよ!」
「ぼ、僕も!」
「あーくん達も燃えてるねぇ……よっしゃ、お姉さんも張り切って暴れちゃおう!兎ちゃん達も暴れちゃってぇ!」
各々が得物を取り、乗り込んでくるマーマンゾンビ達を次々と打ち倒す。だが、敵はどんどんスカーレットホエール号に乗り込んできて、海に落とせども船体をよじ登って復帰してくる。
「落としても登ってくる……!」
「此れじゃキリがない……」
「やっぱり、ちゃんと『倒さない』と駄目っぽいな……!サンラク!エムルさん!オイカッツォ!クライング・インスマン号に乗り込んで、敵の増援を止める事って出来るか!?」
「おっし、やってみるわ!カッツォ、エムル、行くぞ!」
「はいですわー!」
「任せな、クランリーダー!」
サンラクは
「おーおー、熱烈歓迎……って雰囲気じゃなさそうだ」
「俺達が乗り込んできたから、対象を此方に切り替えたみたい」
ギギギィ……!と唸り声を上げ、威嚇し包囲するマーマンゾンビ達を睨み、オイカッツォが拳気【赤】を両拳に宿す。
「んじゃ、此方も御披露目と行こうかね」
「あ?また新しい武器ー?ユニーク自慢ですかー???」
「フッ、今まで世話になってきた武器を強化したから、初陣に丁度良いなってさ」
ユニーク良いなーの視線を横目に、敵の数が多い程に自身の全ステータスが上がる『
初期より彼を支え続け、硬く頑強さに加え、クリティカルを出せば一定時間、耐久値の減少を半減する能力を持つ『
古匠ビィラックの手により通常強化ではなく、真化によって更なる耐久特化の武器に生まれ変わった、片手剣と片手鎚。魔剣や伝説の武具には届かずとも、弱き刃を重ね合わせ、鍛え紡いだ剛鉄は、英傑が振るうに相応しき強さを得た。
「さぁ、初陣と行こうか………『
「はいな!」
襲い掛かるマーマンゾンビをフォーミュラードリフトで抜き去り、単発威力・クリティカル共に発生率の高い『
傑剣への憧刃・傑鉄への鐵鎚、此の武器達には共通する特徴として『とんでもなく耐久値が高い』事と、『クリティカルを出せば耐久値が減らない』事を『武器の能力』として持っている。高機動幸運戦士を突き詰めたサンラクにとって、長時間戦える斬撃武器と打撃武器は必須であり、ビィラックに頼んで湖沼の短剣と湖沼の小鎚の
お陰で
「ハッハァー!斬り潰してオメェ等全員、腐れつみれにしてやるぜぇ!エムル、ぶちかませ!」
「マジックエッジィィィィィ!」
「乗ってるなぁ、サンラクの奴。ととっ、此方も負けてられない……なっと!」
斬打が走り、魔法が唸り、拳が荒ぶる。クライング・インスマン号の船上が騒がしくなる中、船の一室にて座っていた一体のマーマンゾンビが目覚めたのを、二人と一羽は知らない…………。
旅狼、大暴れ