VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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この一悶着に終止符を




Oneday to running ~追われる胡椒よ、修羅場を越えて(下)~

「君を『スカウト』したい。君の力を私達の下、リュカオーン討伐に際限無く奮って欲しい」

 

完全に予想の斜め上をいく、サイガ-100の発言。ペッパー、そしてペンシルゴンは頭に盥を落とされた様な強い衝撃を受ける。

 

「………は?ねぇサイガ-100さん、其れ何言ってるのか…意味、理解(わか)ってるの?」

理解(わか)っているさ。リュカオーンを相手にし、戦える実力を見込んでのスカウトだ。現に彼はサードレマまで辿り着いているし、何よりも『どのクランにも所属していない』。ならば…勧誘しない手は無いだろう?」

 

不味いことになったとペンシルゴン、そしてペッパーは焦っていた。今自分が、自分達が握っている物は余りにも大きく、他者に明かせば混乱をより加速させる要素しかない。

 

先ずは、ユニーククエストによる恩恵――――――ペンシルゴンが知るユニーク武器:ロックオンブレイカーの生産・成長の秘伝書を唯一閲覧・鍛冶師に開示出来るのはペッパーだけで、其れが黒狼に知られれば、増産による戦力増加が必然的になる。

 

ペッパーにとってはユニークシナリオによって得た、ラビッツへの往来と兎御殿内の施設の利用に加え、エンハンス商会の会員証を持っている事で、通常のプレイヤー以上にアイテムの幅に差が生まれている為、黒狼にとってみれば十分過ぎる『宝』だ。

 

そして何よりも、現状PKクラン:阿修羅会が秘匿中の『ユニークモンスター:墓守のウェザエモン』の名を知っているという事。此れが1番の問題であり、ペンシルゴンは今、此の場でペッパーをキルしてでも、サイガ-100を含めたプレイヤーに『絶対に渡せない』。

 

というのも、此のウェザエモン。倒す倒せない以前に『存在している事(・・・・・・・)』にこそ、阿修羅会は比重を置いている。アーサー・ペンシルゴンにとって其れは『堪え難い事』であり、そして其れを壊す為の『誓い』になった。

 

だからこそ――――――目の前に座り、ペッパーを自分のクランに引き入れんとする親友()に、永遠(自分)は譲れぬ想いと、()を渡さぬ為に言う。

 

「…………悪いけどね、モモちゃん(・・・・・)。いくら親友の貴女でも、今回ばかりは譲らないし、譲れない。ペッパー君は黒狼には……『アゲナイ』から」

「ゲームで『本名(ソレ)』を呼ぶのは御法度だろう。しかし珍しいな……お前が感情的になるなんて、随分と彼に入れ込んでるじゃないか」

「別にぃ~?私にとっては、弄って楽しいペッパー君が手元から離れるのはヤダしぃ~?何より知り合いの傍に措かれるのが、私は気に食わないだけなんですけど~?」

 

何なんだ此の会話。ペンシルゴンは変な風に拗らせて面倒くさい状態だし、サイガ-100はサイガ-100で如何にもペンシルゴンを知っている口振りだしで、話に入る隙が無い。

 

「まぁ…最終的な判断はペッパー君に決めて貰った方が良いだろうな」

 

そして此のタイミングで爆弾ボールのパスが回ってきた。ペンシルゴンが見ている、ウェザエモンの情報は取引をした以上、サイガ-100にも渡せない。そんな事をすれば、自分がどうなるか等と想像もしたくない。

 

「スカウトは……正直嬉しいです。でも……今はまだ、無理です」

 

どうにも煮え切らない回答だと、サイガ-100は思った。シャンフロをペンシルゴンに奨められて始めたと言ったが、其れは嘘か真か、サイガ-100は確かめる術を持ち合わせていない。

 

成ればこそ、彼女はペッパーの真意を確かめる為に、質問を投げ掛ける。

 

「ペッパー君。君にとって彼女……ペンシルゴンは『尊敬する先輩』なのかな?」

「いや全然」

「ぅおい、ペッパー君!?其処はウソでも肯定しようぜ!?」

 

ペッパーは即答した。残念だったな、ペンシルゴンと(ほく)()()んで。彼はこう見えて、やられた事は根に持つタイプの人間だ。此の際だと、ペンシルゴンの知り合いらしいサイガ-100に、色々と追い打ちに言ってやる事にした。

 

「だってペンシルゴン、人の不幸を喰らって生きる、血も涙もない外道ですよ?人が協力して作った落とし穴に、協力した人間を平気で落として其の様を笑い転げたり。

 

炭酸ジュース飲んでたら、横からナマハゲの面被って脅かして、咳き込んで噎せる様子を楽しんでたりだとか。

 

おまけに、コレクションアイテム含めて全クリしたゲームデータを、本人の目の前で『はじめから』を押してリセットしたりだと、振り返っても全くと言って良い程、ロクな思い出がありません」

 

思い出コロコロ、最悪ゴロゴロ。ペンシルゴンは今にも此方に殴り掛かりそうだし、サイガ-100も其れを止めようと手を伸ばしている。

 

 

 

「でも」

 

 

 

そう言って、ペンシルゴンを見つめて。其れからサイガ-100に視線を移して、彼は言う。

 

「コイツの行動には何時だって『信念』があった。たった一瞬…其の顔を見る為なら、あらゆる『努力』と『準備』を絶対に怠らない。

 

利用出来る物は何だって利用するし、使えるものは全部使う。其の一瞬の為に、入念に計画は練り込むし、自分が持ってる小遣いでさえ吐き捨てられる」

 

認めたくは無いが。ペッパー…否、梓がゲームでの覆らない敗北イベントに抗う為、全ての武器やアイテムを使って戦ったり出来るのは、ある意味で永遠の影響を受けた結果でもある。本当に認めたくは無いが。

 

つまり何が言いたいかと言うと――――だ。

 

「俺は永遠と『ある約束』を交わして、シャンフロをプレイしています。其の約束を果たすまでは、俺は黒狼には入れません。約束を果たした後で、俺を迎えたい気持ちに変わりがないのであれば、其の時は交渉の席に着くつもりです。

 

だから………ごめんなさい」

 

一礼して断った。

 

ペンシルゴン(天音 永遠)が目論み、静かに準備を続けている『墓守のウェザエモン(ユニークモンスター)』の討伐を、此の目で見届けたいと思ったからだ。

 

此の選択に、後悔は無い。

 

「ふふふ…ははははは!そうか、其れなら仕方無いな!スッパリ断ってくれたお陰で、私も存外悪い気分じゃないぞ!」

 

サイガ-100が笑う。その高笑いは成程納得といった感じの笑いだ。

 

「其れにしても…ふふふ、君も中々に『やるじゃないか』。ペッパー君」

「……?どういう意味です?」

「おっと失礼………。そろそろクランの皆が待っているのでね、私は御暇させて貰うよ。あぁそれと…此処の代金は私が払っておく。ゆっくりしていると良い」

 

では、とサイガ-100は店主に代金を支払い、まるでクールに。然して威厳を持ったまま、蛇の林檎を去っていった。

 

「はぁああああ……………疲れたぁ。マジで緊張したぁ………」

 

サイガ-100が店から離れて、足音も完全に聞こえなくなった辺りで、ペッパーは緊張による疲れがどっと襲い掛かり、椅子に座ろうとした其の時。

 

ガシッと、ペンシルゴンが正面から抱き付いてきた。

 

「お、おい!?……ペンシルゴン、どうし……た?」

 

ぎゅっと、腕を背中に持ってきてのハグに、ペッパーは困惑していると、ふと耳に小さな小さな声が聞こえる。

 

「…………して」

 

ペンシルゴンが何かを喋っていた。ペッパーが「何て?」と問い掛けると、彼女は小さく細い声で言った。

 

「………………ぎゅっ、てして」

 

いや何故だ、どうして其処でハグを求める。そして店長、此方を見ないで恥ずかしいわ。

 

「どうしたんだよ急に」

「……………あーくんの、ばか。あんなに、ぼろくそにいわなくても……いいじゃん……………」

 

普段の雰囲気は何処へやら、ペッパーの胸に顔を埋めたまま、ペンシルゴンは声を漏らす。流石に言い過ぎたかと、ペッパーは反省した。まぁ、其れでもやられた事はまだまだある。少しだが、やり返せただけでも良しとするか……そう思いたかったのだが。

 

「ぎゅってしてくれなきゃ、やだ………。ゆるさないし、はなさない」

 

肌を伝ってきたのは、ペンシルゴンの……否、永遠の身体の震えで。やはり、かなり傷付いていたのかとペッパーは思い知った。

 

何を考えているか、自分には今も解らない永遠だが、彼女もまた人間で。外道や悪魔、魔王に黒幕と例えても、感情的になったりする事もあるのだと知った。

 

「……………悪かったって」

「あたま。なでなでして。してくれないと…ゆるさない………」

「分かったよ、ごめんな」

「ふたりでいるときは、トワってよばないと、あーくん………ゆるさないから」

「すまん…トワ」

「………………………ゆるす」

「……ありがと、トワ」

「……………………………うん」

 

 

蛇の林檎の店内は、抱擁し合う2人……とペッパーのマントに隠れていたアイトゥイル、カウンターから見守る店長の4人だけとなり、数分程此の状態は続いたそうだ。

 

ペッパーにとって激動の1日は、サイガ-100からの黒狼へのスカウトと、対する自身の意志をハッキリと伝え。

ペンシルゴンの此迄に無い、思わぬ一面を目撃した形で幕を閉じる。

 

 

 

 






此れは己の答え、偽り無き心の答え

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