この一悶着に終止符を
「君を『スカウト』したい。君の力を私達の下、リュカオーン討伐に際限無く奮って欲しい」
完全に予想の斜め上をいく、サイガ-100の発言。ペッパー、そしてペンシルゴンは頭に盥を落とされた様な強い衝撃を受ける。
「………は?ねぇサイガ-100さん、其れ何言ってるのか…意味、
「
不味いことになったとペンシルゴン、そしてペッパーは焦っていた。今自分が、自分達が握っている物は余りにも大きく、他者に明かせば混乱をより加速させる要素しかない。
先ずは、ユニーククエストによる恩恵――――――ペンシルゴンが知るユニーク武器:ロックオンブレイカーの生産・成長の秘伝書を唯一閲覧・鍛冶師に開示出来るのはペッパーだけで、其れが黒狼に知られれば、増産による戦力増加が必然的になる。
ペッパーにとってはユニークシナリオによって得た、ラビッツへの往来と兎御殿内の施設の利用に加え、エンハンス商会の会員証を持っている事で、通常のプレイヤー以上にアイテムの幅に差が生まれている為、黒狼にとってみれば十分過ぎる『宝』だ。
そして何よりも、現状PKクラン:阿修羅会が秘匿中の『ユニークモンスター:墓守のウェザエモン』の名を知っているという事。此れが1番の問題であり、ペンシルゴンは今、此の場でペッパーをキルしてでも、サイガ-100を含めたプレイヤーに『絶対に渡せない』。
というのも、此のウェザエモン。倒す倒せない以前に『
だからこそ――――――目の前に座り、ペッパーを自分のクランに引き入れんとする
「…………悪いけどね、
「ゲームで『
「別にぃ~?私にとっては、弄って楽しいペッパー君が手元から離れるのはヤダしぃ~?何より知り合いの傍に措かれるのが、私は気に食わないだけなんですけど~?」
何なんだ此の会話。ペンシルゴンは変な風に拗らせて面倒くさい状態だし、サイガ-100はサイガ-100で如何にもペンシルゴンを知っている口振りだしで、話に入る隙が無い。
「まぁ…最終的な判断はペッパー君に決めて貰った方が良いだろうな」
そして此のタイミングで爆弾ボールのパスが回ってきた。ペンシルゴンが見ている、ウェザエモンの情報は取引をした以上、サイガ-100にも渡せない。そんな事をすれば、自分がどうなるか等と想像もしたくない。
「スカウトは……正直嬉しいです。でも……今はまだ、無理です」
どうにも煮え切らない回答だと、サイガ-100は思った。シャンフロをペンシルゴンに奨められて始めたと言ったが、其れは嘘か真か、サイガ-100は確かめる術を持ち合わせていない。
成ればこそ、彼女はペッパーの真意を確かめる為に、質問を投げ掛ける。
「ペッパー君。君にとって彼女……ペンシルゴンは『尊敬する先輩』なのかな?」
「いや全然」
「ぅおい、ペッパー君!?其処はウソでも肯定しようぜ!?」
ペッパーは即答した。残念だったな、ペンシルゴンと
「だってペンシルゴン、人の不幸を喰らって生きる、血も涙もない外道ですよ?人が協力して作った落とし穴に、協力した人間を平気で落として其の様を笑い転げたり。
炭酸ジュース飲んでたら、横からナマハゲの面被って脅かして、咳き込んで噎せる様子を楽しんでたりだとか。
おまけに、コレクションアイテム含めて全クリしたゲームデータを、本人の目の前で『はじめから』を押してリセットしたりだと、振り返っても全くと言って良い程、ロクな思い出がありません」
思い出コロコロ、最悪ゴロゴロ。ペンシルゴンは今にも此方に殴り掛かりそうだし、サイガ-100も其れを止めようと手を伸ばしている。
「でも」
そう言って、ペンシルゴンを見つめて。其れからサイガ-100に視線を移して、彼は言う。
「コイツの行動には何時だって『信念』があった。たった一瞬…其の顔を見る為なら、あらゆる『努力』と『準備』を絶対に怠らない。
利用出来る物は何だって利用するし、使えるものは全部使う。其の一瞬の為に、入念に計画は練り込むし、自分が持ってる小遣いでさえ吐き捨てられる」
認めたくは無いが。ペッパー…否、梓がゲームでの覆らない敗北イベントに抗う為、全ての武器やアイテムを使って戦ったり出来るのは、ある意味で永遠の影響を受けた結果でもある。本当に認めたくは無いが。
つまり何が言いたいかと言うと――――だ。
「俺は永遠と『ある約束』を交わして、シャンフロをプレイしています。其の約束を果たすまでは、俺は黒狼には入れません。約束を果たした後で、俺を迎えたい気持ちに変わりがないのであれば、其の時は交渉の席に着くつもりです。
だから………ごめんなさい」
一礼して断った。
此の選択に、後悔は無い。
「ふふふ…ははははは!そうか、其れなら仕方無いな!スッパリ断ってくれたお陰で、私も存外悪い気分じゃないぞ!」
サイガ-100が笑う。その高笑いは成程納得といった感じの笑いだ。
「其れにしても…ふふふ、君も中々に『やるじゃないか』。ペッパー君」
「……?どういう意味です?」
「おっと失礼………。そろそろクランの皆が待っているのでね、私は御暇させて貰うよ。あぁそれと…此処の代金は私が払っておく。ゆっくりしていると良い」
では、とサイガ-100は店主に代金を支払い、まるでクールに。然して威厳を持ったまま、蛇の林檎を去っていった。
「はぁああああ……………疲れたぁ。マジで緊張したぁ………」
サイガ-100が店から離れて、足音も完全に聞こえなくなった辺りで、ペッパーは緊張による疲れがどっと襲い掛かり、椅子に座ろうとした其の時。
ガシッと、ペンシルゴンが正面から抱き付いてきた。
「お、おい!?……ペンシルゴン、どうし……た?」
ぎゅっと、腕を背中に持ってきてのハグに、ペッパーは困惑していると、ふと耳に小さな小さな声が聞こえる。
「…………して」
ペンシルゴンが何かを喋っていた。ペッパーが「何て?」と問い掛けると、彼女は小さく細い声で言った。
「………………ぎゅっ、てして」
いや何故だ、どうして其処でハグを求める。そして店長、此方を見ないで恥ずかしいわ。
「どうしたんだよ急に」
「……………あーくんの、ばか。あんなに、ぼろくそにいわなくても……いいじゃん……………」
普段の雰囲気は何処へやら、ペッパーの胸に顔を埋めたまま、ペンシルゴンは声を漏らす。流石に言い過ぎたかと、ペッパーは反省した。まぁ、其れでもやられた事はまだまだある。少しだが、やり返せただけでも良しとするか……そう思いたかったのだが。
「ぎゅってしてくれなきゃ、やだ………。ゆるさないし、はなさない」
肌を伝ってきたのは、ペンシルゴンの……否、永遠の身体の震えで。やはり、かなり傷付いていたのかとペッパーは思い知った。
何を考えているか、自分には今も解らない永遠だが、彼女もまた人間で。外道や悪魔、魔王に黒幕と例えても、感情的になったりする事もあるのだと知った。
「……………悪かったって」
「あたま。なでなでして。してくれないと…ゆるさない………」
「分かったよ、ごめんな」
「ふたりでいるときは、トワってよばないと、あーくん………ゆるさないから」
「すまん…トワ」
「………………………ゆるす」
「……ありがと、トワ」
「……………………………うん」
蛇の林檎の店内は、抱擁し合う2人……とペッパーのマントに隠れていたアイトゥイル、カウンターから見守る店長の4人だけとなり、数分程此の状態は続いたそうだ。
ペッパーにとって激動の1日は、サイガ-100からの黒狼へのスカウトと、対する自身の意志をハッキリと伝え。
ペンシルゴンの此迄に無い、思わぬ一面を目撃した形で幕を閉じる。
此れは己の答え、偽り無き心の答え