いざ、シャンフロへ
「くぅぅ………ッ!疲れたぁ……」
午後三時半。コンビニのバイトを終えて、帰り道の途中に在るスーパーで買い出しを行った梓は、買い物袋と傘を持って雨が降り頻る中を、住居たるアパートへ向かって歩く。
サンラクが立てた、ルルイアス攻略最前線なるチャット部屋にて封将討伐と、情報交換に様々な事実の判明。ルスト&モルドのクラン:
(夕食迄に少し時間は有るから、シャンフロにログインしてクターニッドの一式装備起動に必要な、エネルギータンクの現物を撮影して、ルルイアス攻略最前線の皆に情報を共有しよう。あとは………座礁船エリアでまた財宝を探してみようかな?)
住居たるアパートに辿り着き、自室の扉を開いて鍵を閉める。手と嗽を洗い、トイレを済ませて水分補給から、食材を冷蔵庫に収納。布団を敷いて、ヘッドギアの動作チェックを行った梓は、布団へと寝転がってシャングリラ・フロンティアへとログイン。
セーブポイントたる建物の二階にあるベッドにて、梓はペッパーとして覚醒し、薄暗い室内にてゆっくりと身体を起こす。
「よっし、今日も今日とてシャンフロ頑張っていきましょうか!」
『ワンッ!』
「ワン?いや、今の鳴き声…………は?」
ピシッと頬を叩き、ベッドから降りようとした其の時。彼が耳にしたのは『犬』のような、或いは『狼』に似た鳴き声で。
周囲を見渡した先━━━━━━ベッドの近くの『影』に、仔犬サイズの『シベリアンハスキー』に似た黒毛白目のワンコが『おすわり』をしながら、尻尾をブンブンと振り。
目が合った自分に『出逢えた事に対する喜び』を表現しながら吠えたのだから。
何なのだコレは、一体何がどうなっているんだ?
其れがペッパーが、此の状況に対して抱いた感想である。何よりも自分は此の小さなワンコを『知っている』し、何ならつい先日に命懸けの『鬼ごっこ』をした間柄なのだから。
「…………アトランティクス・レプノルカ相手に、グランシャリオを使ったのが不味かったか……?何はともあれ、何でお前さんが此処に居るんだ。なぁ━━━━━━『夜襲のリュカオーン』?」
『クゥン♪』
タタッと駆け出しながらベッドに飛び乗って、胡座座りをするペッパーの胡座の空間にスッポリと収まった、ユニークモンスター。夜の帝王と謳われてNPCをも震え上がらせ、ワイバーンをおやつ感覚で食い殺し、ゴーレムを道端の小石の如く扱う最強種の一柱。
其れが何を思って、クターニッドの本拠地たる反転都市ルルイアスにやって来たのかが、彼には解らなくなり。
「ペッパーはーん、目覚めたみたい………な?」
そして此のタイミングで階段を跳ね登って、アイトゥイルがやって来て。胡座座りをしている彼のスペースに仔犬サイズのリュカオーンが居る事に気付き、口が開きっ放しになってしまう。
「ペ、ペペペ、ペッパーはん!?何でリュカオーンと一緒に居るのさ!?」
「アイトゥイル、実はな………」
アイトゥイルの驚愕の表情を前に、彼も頭が痛くなりながらも、努めて冷静に相棒たる彼女へと説明をしていく。
「……………という訳なんだが」
「はぁ………ペッパーはんの破天荒っぷりは、今に始まった事では無いのさ。ただ『カシラ』がコレを見てどう思うのかは、ワイも知らないのさね」
「だよねぇ…………」
アイトゥイルはペッパーとの付き合いから、もう下手な事では驚かないといった表情で、やれやれと首を横に振って。ペッパーは非常に遠い目をしていると、リュカオーンが『二足立ち』して彼の顔を見つめてくるや、目の前に『画面』が現れる。
『夜襲のリュカオーン(分け身)をテイムしますか?【Yes】or【No】』
テイム………其れはシャングリラ・フロンティアにおいて、モンスターや動物を手懐け・飼い慣らす事を指す。以前にシャンフロのwikiを確認した所、現在のテイム可能な存在はバディドッグ・バディキャットの二種類のみ。大型アップデートによって『新
「えぇ…………」
「ペッパーはん、どうしたのさ?」
「なんかリュカオーンの分け身を、テイム出来るようになったんだけど」
「えぇ………」
ペッパーもアイトゥイルも唖然になりながら、大きな欠伸をして丸くなった、小さな分け身たるリュカオーンを見る。
(………というかコレ、分け身とはいえユニークモンスターを『テイム』したって、シャンフロ史上前代未聞の大事件でしょ。……………どう考えてもテイムしなくちゃ、二次被害撒き散らす可能性が高いでしょ………)
頭を抱えながら、ペンシルゴンからのオハナシにクラン:
「アイトゥイル、俺ってユニークモンスターに好かれる特異体質だったりするん?」
「ワイにも解らないのさ………多分そういう星の元に産まれてきたと、割り切るしか無いのさね」
だよなぁと、ペッパーは遠い目になりながら小さな分け身を抱き上げ。彼はテイムした証たる『名前』を与えた。
「名前は……『ノワ』。黒の『ノワール』から取った名前。今日からお前の
『ワンッ♪』
ペッパーが名付けを行った事がトリガーになったのか、彼の前には新たなウインドウが表示される事になる。
『夜襲のリュカオーン(分け身)をテイムしました』
『パーティーに『テイムモンスター・ノワ』が加わります』
『ユニークシナリオEXの条件を満たしました』
『ユニークシナリオEX【黒は始まり、闇皇へ至る】を開始しますか?【Yes】/【No】』
完全に想定外所か、新たなユニークシナリオの発生によって目眩が生じながらも、ペッパーは此れを受注し、彼は無言で立ち上がると、リュカオーンの分け身───『ノワ』は彼の足元に在る影に飛び降り、寄り添いながら付いて来るのを見た事で、今現在が昼間で有る為に影の範囲内に居ないと、己の存在を維持出来ないのではと考える。
其処でアイテムインベントリの中に収納されている
尚、一階に居たアラバ・レーザーカジキ・シークルゥ・スチューデは、騒ぎを聞き二階へ駆け付け。ペッパーがリュカオーンを引き連れてる事に対して驚愕で狂乱し掛けたので、理由を説明した所で全員纏めて引っくり返る事となったのだった………。
「アレがアラバさんの言っていた『半魚人ゾンビ』、そして上に居るのが『人魚』、か…………」
「そうなのさ。アレに見付かったら、何処からともなく大量発生して、雪崩れの様に襲い掛かって来るのさ」
大混乱のセーブポイントから出て、建物の影やフィールドの死角を縫い、アイトゥイルとリュカオーンをコートの中に抱えるペッパーは、都市を彷徨い歩き続ける半魚人の一個小隊を建物の角から見て、空を優雅に泳ぐ数人の人魚達を見上げて呟く。
アラバ曰く『人魚の歌声には足を重くする力が有る』との事らしく、其の歌声に釣られて半魚人が無尽蔵に殺到するという、誰の目にも明らかなハメ殺しと解る『凶悪コンボ』をぶつけてくるらしい。
「クターニッド、やっぱりそう簡単に攻略はさせてくれないよな…………。俺の『
リュカオーンとアイトゥイルをコートの中に入れ、反転都市ルルイアスの街並みを駆け抜けながら、時折別の建物に身を隠して息を殺し、アイトゥイルの耳や自身の感覚強化系スキルで索敵を行い、彼は移動を続けていく。
「さぁて、封将の能力を確かめるとしよう」
「はいさ」
『ワンッ』
色々とヤバい爆弾を抱えながらも、ペッパーは其れにも負けないよう、ルルイアス攻略のモチベーションを高める。彼が訪れた塔、其処にはサンラクが遭遇した『アンモ
其れは新たなる混沌をもたらす
小さな分け身を育てて、リュカオーンの本体討伐を目指そう!分け身に対する愛情や関わり合い具合により、ユニークシナリオクリア時の最終的なリザルトに関わるよ!
………なんだこの、超難易度のたまごっち。いやもっと言うなら、パンドラの塔 君のもとへ帰るまでか?
夜襲『彼をルルイアスに引き込んだそうね?彼は私のモノだから、私の小さな分け身をルルイアスに送り込んだ。ついでにユニークシナリオも起こしたよ』
深淵『途中参加?パーティーの最大人数に押し込んでるんじゃないよ』
夜襲『ハ?アナタガヤッタンデショ?』
深淵『……………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。………あぁもう今回限りの特例で良いよ。代わりにシナリオのクリア難易度跳ね上げるけど、そっちの異論は認めない。OK?』
夜襲『ハ?ドウイウコトカナ?』
深淵『其のままの意味ですが、ナニカ??』
天覇『報酬はどうする気?』
不滅『あんまり難しくするなよ?』
墓守『イレギュラーにも程がある………』
深淵『聖杯を増やすのは確定、あとは………其の聖杯は『アレ』にしよう』
天覇『………あぁ『アレ』か。良いんじゃないか?』
無尽『また母親達に怒られそう…………………』
冥響『……………そうね』
ジズ『何やってんのかね、夜襲のバカチン』
リバイアサン『其れは其れとして深淵からの議題、あっちに送ったよ』
ベヒーモス『ナイス』