届けられるモノ
「よしよし、良い感じで戻ってこれたな……」
「はいな、あとちょっとで着きますわ」
反転都市ルルイアスの四方に聳え立つ塔、各々に鎮座する特定の能力を無効化する封将にして、近距離攻撃無効化能力を宿す藤壺封将こと『バーシュド=メルナクル』をパートナーのエムルと共に討ち果たしたサンラクは、一路セーブポイントへ帰還する途中だった。
徘徊するクターニッドの眷属となった腐れ半魚人達の視覚を掻い潜り、ロップイヤーをピンッと立てるエムルの疑似ソナーで位置を大方予測。三回程見付かったが、建物の影に&ウツロウミカガミのヘイト切りで突破し続け、此処まで来たのである。
「周囲に敵影無し、上空………んん?」
角から周りを見て、サンラクが上を見上げると。空中を飛び回り、追跡してくる人魚達の首を斬り落とし、向かい側の建物の合間に着陸した人影一つ。SFサムライアーマーを其の身に纏って、腰の鞘に太刀を静かに納めるペッパーに、彼のパートナーたるヴォーパルバニーのアイトゥイル。そして右脇に抱えられた『黒毛のシベリアンハスキー』が居る。
「ふぅ………あの人魚め。見付けたら見付けたで、しつこく追い掛けて来る………」
「おぅ、ペッパー。サムライアーマー纏ってどーした?」
声を掛けられたペッパーが視線を向けると、同じように建物の合間に潜んでいるサンラクとエムルの姿が。彼は周囲を確認し、目にエフェクトを帯びた後に素早く通りを渡って、サンラク達の方に飛び込む。
「実はさっき、遠距離攻撃無効能力持ちのアンモナイト封将………『アンモーン・オトゥーム』を倒してきてな。クターニッドの一式装備起動に必要なエネルギータンクと、ちょっと重要なアイテムを手に入れたんだ」
「そうなのか。此方も近接攻撃無効フジツボ封将を倒して、エネルギータンクの一つ獲得したぜ」
どうやら互いに、距離関係の封将をブッ飛ばしていたらしく。サンラクは近接無効を倒して赤を、ペッパーは遠距離無効を倒して橙を、各々で手にしたようである。
そしてサンラクの視線は、ペッパーが先程迄抱えていたのを降ろし、今は彼の足元に寄り添いながら身体を擦り当てる、一匹の仔犬に注がれており。
「んで、ペッパーよぉ。ソイツ何だ?」
「リュカオーンの分け身。ログインしたベッドの影から俺に寄り掛かってきて、テイムしたらユニークシナリオEXが発生した。因みに名前はノワ」
ありのままを伝えた結果、サンラクとエムルはノワを二度見した後にギャグみたいなひっくり返り方をし、頭を強く打ったのだった。
尚、当のノワはと言えば大きな欠伸をしながら、ペッパーの足元へと、己の身体を擦り寄せていたのである…………。
「はぁぁぁぁぁ………。リュカオーンの分け身をテイムって、ペッパーお前マジかよ……」
「夜の帝王の小さな分け身を従えるなんて………私も沢山の開拓者さん達を見てきましたが、おとーちゃ……コホン。カシラでも聞いた事の無い『前代未聞の大事件』ですわ…………」
混乱と驚愕を切り替え、立ち上がりながらも大きな溜息を吐いている。
「特殊状態:【導きの灯火】が反応してない事から、ノワが本体じゃないのは解ってる。原因は昨日のアトランティクス・レプノルカとの戦いで、グランシャリオを使ったのが発端かも………」
「エムル。ペッパーはんは、本当に面白い御人なのさ………」
『ワゥ♪』
サムライアーマーから
「あ、ペッパーさんにサンラクさん!お帰りなさい!」
「秋津茜、ステイ。声がデカいと外の敵に見付かるぞ?」
「そうでした……!」
扉を開き、中に入れば秋津茜が元気に出迎え。他には愛刀をメンテナンスしているアラバとレーザーカジキ、シークルゥと遊んでいたが、リュカオーンの気配にビビって隠れたスチューデだった。
「ペッパーさん、サンラクさん。何か発見は有りましたか?」
「レーザーカジキ。さっき俺とサンラクは封将を倒してきてね、其の事でちょっと話したい事が有るんだ。秋津茜も良いか?」
「はいっ」
スチューデにとっては、残酷な事実に成り得る可能性が高い。そう思える程に、自分が手にした物は重い物なのだから。
エムル・アイトゥイルにスチューデ達の足止めを任せつつ、ペッパーは足元から離れないノワを連れ、サンラク・レーザーカジキ・秋津茜の三人と共に二階へ移動。直後、ログインしてベッドから起き上がってきたルスト&モルドのコンビと鉢合わせ、ペッパーの近くに居るノワの事について聞かれ。
事情を説明した所、ルストが弓矢を構えて一触即発の大惨事に成り掛けるが、モルドの説得で何とか血生臭い戦いが起きずに済み。そしてペッパーはルストとモルドの二人に関係有りのアイテムを見せるべく、此のまま話へ混ぜる事とした。
「え~………コホン。議題は俺が倒してきた封将の一体、遠距離攻撃無効能力持ちのアンモ騎士ことアンモーン・オトゥームが持っていた此方のアイテムです」
円を作り、インベントリアから取り出した『赤鯨のカトラス』を中心に置くペッパー。
「赤鯨のカトラス?………!」
「えっ、コレって………!」
「成程。そういう事か、ペッパー?」
「あ、もしかして………?」
「えっ、どういう事ですか!?」
ペッパーの言わんとした事を読み取った秋津茜以外の全員は、カトラスを見つめて。今一読み切れなかった秋津茜はサンラクからの耳打ちで、漸く事を理解するに至った。
「俺達が挑戦している『ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】』……………此れは未だ終わってはおらず、現在も進行し続けている。そして此のシナリオは、所謂『マルチエンディング』の可能性が非常に高いと俺は読んでいる」
マルチエンディング────其れはプレイヤーの行動や選択によって、様々なルートへ分岐・変化が起きていき、其の果てにノーマルやグッド、バッドにトゥルーという様な、複数存在する
ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】を例に例えるなら、幽霊船 クライング・インスマン号を発見とボスの撃破、そして幽霊船を沈める事が『ノーマルエンド』。
護衛対象のスチューデが、クライング・インスマン号との交戦中に死亡、またはスカーレットホエール号が撃沈された場合は『バッドエンド』。
プレイヤー全員とスチューデの生存、並びに全対象がクライング・インスマン号に乗り込む事で、ユニークシナリオEX【
「そして此のカトラスは、スチューデのユニークシナリオをトゥルーエンド………とは行かなくても、グッドエンドへ持っていくのに必要なアイテムの可能性が高い」
「あぁ。そしてカトラスを見せたら、イベントフラグが立つだろうし、本来は依頼主のルストとモルドが持つべきだが、此の場合は『ロールプレイに強い奴』がコイツを渡すべきだと考えてる………ってか?」
サンラクの言葉に、ペッパーが頷く。シャングリラ・フロンティアというゲームは、要所要所に置ける『ロールプレイング』を求められている事が多く、其れに成功すれば更なる情報を引き出す事が可能だ。
「で………誰が行くよ?」
「うーむ………取り敢えず、俺が渡してみる」
呼吸を調え、立ち上がった勇者の背中を仲間達は追い。彼は一階に降りてスチューデの前に立ち、カトラスの持ち手を小さな少年へと向ける。
「スチューデさん、此れに見覚えはありませんか?」
「な、何だよ…………って、コレ!お、おま、お前……コレを何処で………!」
スチューデがカトラスの、赤鯨のエンブレムを見ながら叫ぶ。目が、声が、真実を求めるように震えていた。今回のロールプレイに求められる
数々のTRPGやレトロギャルゲーを通じて鍛えられた、ロールプレイングの真髄─────照覧あれ。
ペッパー、ロールプレイ