VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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残照刻んだ武器の行く末




残照香る武器は鍛冶心を惑わせる

「また大変な事になったなぁ……」

 

サードレマの裏路地にて、大きな溜息を付くペッパーは数分前に別れたペンシルゴンから言われた言葉を思い出す。

 

「さてと…アイトゥイル、兎御殿への道を頼む。あっちに着いたらエンハンス商会で買った、報酬の葡萄酒挙げるから」

「はいさね、ペッパーはん」

 

よっと、と何の変哲も無い壁にアイトゥイルはラビッツへと続く(ゲート)を開く。潜り抜け、兎御殿の休憩所へと着いたペッパーは、アイテムインベントリから葡萄酒を3本取り出して、アイトゥイルへと渡す。

 

「ありがとさね、ペッパーはん。また何かあったら呼んでな~」

 

ふわりふわりと風が流れるように、彼女は兎御殿の外へと出て行った。そしてペッパーはベッドに寝転がり、ふぅ……と大きく息を吐く。

 

「………どーしよっかな」

 

朝からセカンディルで採掘と皮を集め、武器を強化し、エリアボスと戦い。本当に色々有りすぎて、頭と身体に疲れが乗し掛かる。エンハンス商会の依頼遂行、サイガ-100からのスカウト、ペンシルゴンことトワの意外な一面…兎に角沢山だった。

 

このままログアウトしても良いが……どうせなら最後に何か1つ、イベントフラグでも起こして、ログアウトした方が面白そうだとペッパーは考える。

 

「あ………」

 

ふと、アイテムインベントリを漁って取り出したのは、夜襲と戦いで瞳を切り裂いた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)。ティークとアイトゥイル曰く『夜襲の残照が刻まれた武器は御目に掛かった事がない』と呟いていた。

 

其れをもし、兎御殿の一流鍛冶師たるビィラックに其の包丁を見せた時、彼女は如何なる反応を見せてくれるのか?

 

「思い付いたからには、やってみますか」

 

少し悪い笑みを浮かべて、ペッパーは致命の包丁を仕舞い、1人兎御殿の鍛冶場へ足を運んで行ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビィラックさん、居ますか~?」

 

兎御殿の鍛冶場に足を運んだペッパーは、入口で部屋の主たるビィラックの名前を呼ぶ。

 

「おぉ、ペッパーやんか。どないした?」

 

奥の暖簾を開けて、ビィラックが出てくる。ペッパーは本題に入る前の手始めとして、彼はアイテムインベントリからユニーク武器:マッドネスブレイカーを取り出し、ロックオンブレイカーの製作秘伝書をビィラックに見せる。

 

「実は此れを見て貰いたくて」

「ほほぅ…。此れが噂のユニーク小鎚かいな、こりゃ良い面しちょるけん。しかも製造方法と、成長形態への必要な材料と鉱石の加工方法まで、事細かく書いちょるとはの…。人間の鍛冶師の加工技術も随分やるけぇな」

「ビィラックさん、此れって材料揃えれば作れますかね?」

「………ペッパー、わっちを誰だと思うとるん?わっちは鍛冶師じゃ、必要なもん揃えりゃキッチリ作っちゃる。其れが一流の仕事じゃけ」

 

当然の答えが返って来て、ペッパーも「ですよね」と苦笑する。

 

「ペッパー、わっちをからかいに来たんか?」

「いえいえ。……実はビィラックさんに本当に『診て』貰いたい武器が有りまして」

 

『見て』を『診て』と言ったのは、シャンフロの鍛冶師達が産み出した武器を育てるという話を、ロックオンブレイカーを作り、小鎚をフロンティア全土に広げ、自分も御世話になった、ファステイアの鍛冶師より聞いたからである。

 

鍛冶師にとっての武器は子供で、同時に直す『医者』のような存在(もの)。異常が出れば、責任を以て其れを直す。其れが一流の鍛冶師たる生き物のサガならば、残照が刻んだ致命の包丁をどう扱うかを聞けると考えて。

 

「ビィラックさん。此の致命の包丁は俺が夜襲のリュカオーンと戦い、片眼に突き刺して切り裂いた獲物です。アイトゥイルとティークさんは、此れに濃い残照が刻まれていると言いました。

 

鍛冶師としての視点から、此の武器の扱い方のアドバイスをいただければと思い、こうして此処に来たのです」

 

アイテムインベントリから致命の包丁を取り出し、以前ティークに見せた時と同じく、刃を自分に峰をビィラックの方に向けて、彼女の前に膝を着いて差し出した。

 

ふとビィラックの方を見ると、彼女はあんぐりと口が開いたまま呆然としており。

 

「わ……ワリャ……!!なんちゅうもん持っとるんや、ワリャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?????」

 

怒号に等しい声が、鍛冶場を越えて兎御殿全域に響いた。

 

そしてペッパーが持っている致命の包丁を、ビィラックは奪い取り、金床の上に乗せる。そして大急ぎで奥の部屋に飛び込むと、ガッチャンゴッチャンと慌ただしく何かを物色。

 

数分後に黒地の布と立て掛け棒、小さな筒を持ってくるや、布を棒に引っ掛け、テントのように包丁の刀身部分に影が出来るようにして覆い、其処に筒を持ってきて先端をクルクル回すと白い光が出てきた。

 

其の光を受けた致命の包丁の刀身からは、白い光を塗り潰して喰らうかのような、ドス黒い漆黒のオーラがズズズズズ…と溢れ出している。

 

「うわぁ…呪いみたいにヤバい雰囲気プンプン……」

「ペッパー…ワリャほんま、とんでもないもんを出しおってからに………」

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………と、ビィラックは思いっきり大きな息を吐き捨てる。頭を描き回し、天を仰ぎ見て、幾度も深呼吸を繰り返し。漸く落ち着き、思考と答えを調えた彼女は、ペッパーに言った。

 

「………此の筒の光は『月の光』を擬似的に再現したとか、オヤジが言っとった。そいで夜襲の眼ェ裂いたっちゅう噂は本当だった訳か……。しっかしまぁ、小鎚開発のキーマンがこんな事までやりおっとったんとは。全く、わっちに診せて英断じゃったわ」

 

現実で言うところのブルーライトみたいな物かとペッパーは思う。そしてビィラックはペッパーへ鍛冶師としての判断を提示した。

 

「結果から伝えるが……コイツは昼にぶん回すんならまだ良い。じゃが、夜になったら『絶対に振るっちゃアカン』。此の刀身に刻まれた夜襲の残照は、何処に居たとしても必ず其処へ行き、持ち主を必ず殺すという『夜の帝王の復讐の証』じゃけ。

 

自分の身と四肢が崩れ、首だけに成り果てようとも、夜襲は『必ずお前(ワリャ)を殺す』という宣言をしちょる。………だから自分の為にも、コイツは夜に振るうなよ?」

 

刻まれた残照に込められたメッセージが予想以上の激重だった事に、ペッパーは驚きを隠せない。そして一流たる鍛冶師ビィラックの言う言葉は、間違い無く本物であり、其の誓いを護ることにした。

 

だがペッパーは、此の時ビィラックと結んだ約束を『ある形』で破る事になるのだが、其れはまた別の話になる。

 

 

 

 

 

 

「あ~…今日は本当に色々有ったなぁ………」

 

シャンフロからログアウトし、ペッパーから梓へと戻った彼は、VR機材を頭から外して、思いっきり身体を伸ばした。時間を確認すると、午後4時を過ぎた辺りであり、実に9時間近くシャンフロをやっていた事になる。

 

「夕食は…まだちょっとだけ時間が有るし、1時間仮眠をとって…。メニューは野菜炒めとご飯と味噌汁に……あと何が良いんだろ……まぁ良いか、仮眠の後で考えれば……」

 

スマフォのタイマー機能で1時間後に鳴るように設定を行い、枕元に置いた梓は軈て小さな寝息を立てて、仮眠の床に着く。

 

そんな折、彼のスマフォのEメールアプリに1件着信が入った。

 

 

 

 

 

件名:バトルしようぜ

 

from:ブシカッツォ

 

to:A-Z

 

よぉ、A-Z。暇な日あるか?久し振りに『ビルディファイト』の相手してくれ。場所は何時ものゲーセン。負け越したままは癪だし、今度はキッチリ勝たせて貰うよ

 

 

 

 

 

 

 






王者の誘いが、梓を呼ぶ


ビルディファイト:VRゲームが主流となった現代で、其の流れに抗うようにロールアウトした、レトロアーケード格闘ゲーム。

昔ながらのコントローラーやアーケード操作、其処にスマフォアプリでビルドしたキャラクターでプレイ出来るのが売りであり、一部のユーザーから好評を受ける良ゲーである。
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