VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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とある人物と、梓の意外な関係




胡椒と鰹節のレトロゲーム対決 ~前編~

「う~ん…………」

 

シャンフロで大激動の時間を過ごした翌日、梓はバイト先のコンビニでシフト表を見つめ、脳内スケジュールを更新している。

 

其の理由が、Eメールアプリに届いた1通のメールであり、仮眠後に気付いた其れにはゲームフレンドの名前があった。

 

「大学の講義が明日から2日続けであって、バイトは今日と明後日……そうなると会えるのは4日後。で、其の翌日に講義とバイトがあるから、シャンフロをゆったりプレイ出来るは6日後になるんだな」

 

エンハンス商会に頼んだネックレスは、完成まで3日掛かると言っていた。ペンシルゴンも暫く雲隠れしていた方が良いと警告していたし、暫く休むには十分な期間になるだろう。

 

「彼処に行くのも久し振りだし、気合入れて『遊び』ますかね」

 

そう決めた梓は何時も通りにバイトをして、数時間後にアパートへと帰宅し、彼はタンスの奥に仕舞っていた『肩掛け鞄』と『決戦服』と書かれた箱を手元に持ってくる。

 

「此れを着るのは久し振りか…まぁ『此の姿』をするからには、思いっきり楽しまなきゃな」

 

そうして梓はEメールアプリで文章を綴り、4日後に会おうとメッセージを送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4日後…都市部から発進する電車に揺られ、都市部から少し離れた郊外の駅で降り、バスに乗り換え、梓は肩掛け鞄を持って、辺境のゲームセンターにやって来た。

 

「さてと…だ」

 

梓は目立たないように、こっそりとゲーセンに入店。足早に男子トイレに駆け込み、個室トイレの鍵をかける。

 

肩掛け鞄から茶色のボーラーハット(安売りセール)、黒淵のグラサン(中古)、髑髏の顎の刺繍を刻んだ特製のマスク(バザーで購入)を装着。

靴を黒の革靴に履き替え(閉店セールで格安品なので買った)、ワインカラーのベロアキルティングコート(父親が昔使ってた物)に袖を通す。

両手にフィンガーレスグローブ(通販で安かった物)、最後に真っ赤なマフラー(中古品)を首に巻き、背を伸ばして威風堂々と歩み、鞄を持ってトイレから『戦場』へと躍り出た。

 

普段は冴えない普通普遍の梓だが、このゲームセンターでは装いを新たに『最強のゲーマー』としての姿に変わる。

 

「…お、おい見ろ、アレ…!」

「なんだありゃ、コスプレかwwwww」

「おいばか!ありゃ『A-Z』だよ!このゲーセンじゃ殆ど負けなしのプレイヤー…!」

「え、マジ!?マジもんのA-Zか!!?」

 

此れが梓の『もう1つの顔』。此のゲーセンに限ってでは有るが、様々なジャンルのレトロゲームで、ランキング最上位に名を刻み、伝説やら最強やらと称えられる、レトロゲーマー『A-Z』となるのだ。

 

だが梓…否、A-Zにとってはそんな称号はいらない物で、ただ単純にレトロゲームを楽しんでいるに過ぎない。彼は静かに、ただ1つの目的地に向かって歩みを進め、そして辿り着く。

 

「よっ。待ってたぜ、A-Z。久し振りだな」

 

深く被ったベイカーボーイハットのキャップを僅かに上げ、サングラスから覗くトパーズ色の瞳から放つ視線が、A-Zに向けられる。

 

サングラスとマスクを付け、春先を意識した薄水色メンズと白シャツに、フランクなジーンズを身に付けた男性が1人、レトロ格闘ゲーム『ビルディファイト』の前で待っていた。

 

「あぁ、久し振り。というか夏に大会有るのに、こんな辺境のゲームセンターで、レトロ格闘ゲームしてるとか、随分余裕なんだな『ブシカッツォ』。大丈夫?また『アイツ』にボロ負けない?」

 

コイツとゲーマーとしての付き合い始めは、およそ2年前辺りに遡る。何時ものように様々なレトロゲームで楽しく遊んでいた俺の前に、何処で噂を聞き付けたのかブシカッツォ――――いや、日本最強のプロゲーマー『魚臣(うおみ) (けい)』は、変装をして此のゲーセンにやって来た。

 

当時、格闘やシューティングジャンルのVRゲームで、タイトルを総なめにし最強の座に君臨していた名実共に『日本一』のプレイヤーで、1人のゲーマーとして憧れた存在。

 

そんな男が『最強レトロゲーマーのA-Z』に直接挑戦状を叩き付けに遠路遥々此処まで会いに来て、僅かに見えた眼と立ち振舞いで正体に気付いたと同時に、いつの間にか出来ていた二つ名を聞いた時など、ヤバいレベルで心臓に悪かったのを覚えてる。

 

結果だけを述べるのであれば、俺とブシカッツォのレトロゲームでの経験値の差は明確だった為、最初に戦った時は3ラウンド制を先に俺が2勝して、ストレート勝ちをしてしまった。其れも圧倒的な、自分でも生涯に渡ってドン引きするレベルの。

 

試合後、秘密裏に正体を指摘したら大当たりで、其の際にEメールアドレスを交換しろと迫られ、強制的に交友関係を結ばれた訳だが。

 

「は?負けないが?今年こそは絶対に勝つし?てか、相変わらず季節感バグりそうな見た目だな、春なのにそんな服装で大丈夫なんか????」

 

其の一件が有って以来、ブシカッツォ━━━慧は時折俺を呼び出しては、格闘ゲームでリベンジをしに来るようになった。一戦一戦を事細かに分析し、徹底的に詰めてくる理詰め型のプレイスタイル。そして誰よりも負けず嫌いで、一度会う度に想像以上の成長を見せ付けて、どんどん強くなっていく。

 

負けじと俺も、操作キャラの動き方を自身の身体でトレースしたり、キャラの見ている景色を視覚で意識した立ち回り方等を、脳内にフィールドに作って動かしたりして、其の進化に食らい付いた。

 

「同じ台詞を半年前にも聞いたし、此の格好は中二病心を擽るから良いんだよ、気にするな。………まぁでも、最新の大会で引き分けに出来たんだろ?負け続けを断ち切っただけ、俺は十分凄いとは思うが?」

「いや、駄目だ。引き分けは負けと同じ。アイツに勝つ……其れが俺の目標だ」

 

総対戦数はおよそ300近く、其の内の俺の勝率は5割3分━━━━━今はまだ勝ち越せているが、何れは抜き去られると確信している。

 

「相変わらず負けず嫌いだな、お前は」

「レトロゲームに張り込んでVRゲームやってねぇお前には言われたかねーよ?」

「お?言ったな?俺一応VRゲームやり始めましたけど~?累計1週間も経ってないが~?」

「自慢して言えることじゃねーだろが!?こちとらお前の何倍も長くやってんだぞ?!」

 

他愛もない会話、ちょっとした煽り弄り合いは、2人にとっての此のゲーセンでの挨拶みたいなもので。

 

「……んじゃ、やるか。A-Z」

「あぁ、やろう。ブシカッツォ」

『『楽しもうぜ』』

 

其れが終われば、お互いゲーマーとして強さ比べの時間。そして其の中で在る『暗黙の了解』━━━━━『最初の一戦で負けた方が、勝った方にラーメンを一杯奢る』がある。

 

アーケード用のICカードを取り出し、識別エリアにセット。A-Zとブシカッツォのビルディファイトが開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルディファイト。VRゲームが流行し、主流へとなった中で、其の流れに抗うようにして産まれた、アーケード格闘ゲーム。

 

アーケード由来の操作に加え、普段使っているコントローラー接続にも対応。様々なプレイアブルキャラクターの絶妙な能力調整により、近年のアーケードゲームの中では『良ゲー』と位置付けられた。

 

更に此のゲームは、スマフォにインストールしたアプリでキャラクターやコマンド構成を自由自在に『ビルド』出来るのが特徴で、決められた規定能力値を如何に分配し、装甲の有無と重量上限を含め、何を強くし何を弱くするかの取捨選択が非常に重要となる。

 

其れでいながら、通常のプレイアブルキャラクターでも、ビルドしたキャラクター相手に十分に戦える上、プレイスキルとコマンド構成が絡み合えば、初心者でも上級者に勝てる可能性を秘めているのが、ビルディファイトの面白さなのだ。

 

「2ヶ月振りくらいか『ノブ=ナッシュ』。ブシカッツォに、思いっきりブチかましてやろうぜ」

 

データによって形成された円形のコロッセオに顕現するは、本能寺の変での織田信長をモチーフに白着物と黒袴を纏い、両手両足に格闘戦用ガントレットを、腰に軽量装甲を装備した、A-Zのビルドキャラクター。

 

其の特性は彼が格闘ゲームで主力とする『ヒット&アウェイ作戦』を実行する、所謂『後攻カウンタータイプ』であり、長く戦う体力(スタミナ)・確実に捌いて反撃する技術(テクニック)・相手の攻撃に沈まない耐久(ディフェンス)に能力配分の比重が置かれた、長期戦タイプのビルドだ。

 

「相変わらず何時見ても秀逸だな、お前のノブ=ナッシュ。だが、此方も攻略の為にビルドしてきたからな」

 

そう言って顕現するは、ブシカッツォ作のビルドキャラクター。金髪碧眼20代女性がベースとなったキャラで、肩には肩当て用の装甲、脚部にはリジェクターアーマーと呼ばれる、加速と攻撃力と重量上限リソースの大部分を裂いた、強化装甲を纏っている。

 

見たところ、俊敏(スピード)攻撃力(アタック)破壊力(ブレイク)を主軸に置かれた、一撃必殺型のスピードタイプだろう。

 

「今回は速さが勝利への鍵か、ブシカッツォ?随分思い切ったビルドキャラだな」

「コイツの名前は『リーエル』。お前に時間を与えたら、幾ら俺のプレイスタイルであっても、捲られて負ける。だから…其の時間を与える前にぶっ倒す!」

「やってみな………!」

「やってやるよ………!」

 

 

 

ノブ=ナッシュ VS リーエル

 

 

ROUND・1

 

 

READY…FIGHT!!!!

 

 

 

戦いのゴングは鳴る。ラーメンを賭け、そして己の意地とプライドを懸けて。

 

 

 






其の男、日本最強のプロゲーマー



ビルドキャラクター:ビルディファイトでは既存のプレイアブルキャラクター以外に、スマフォでインストールしたアプリを使い、自分の分身たるキャラクターをビルド出来る。

其の際にキャラクターの能力値を、決められた規定値で振り分ける事が可能になっている。また、ビルドキャラクターを含む全キャラクターに装甲重量限界というパラメーターが存在。此れ等は攻撃・防御・俊敏に影響を及ぼし、規定値を超過しないように調整する必要がある。


各種パラメーター説明

体力:キャラクターの総合体力値。0になるとKOされ、体力と耐久の数値が高い程、長期戦で有利になる

攻撃力:キャラクターへの攻撃に影響する数値。攻撃力の数値が高い程、相手に与えるダメージは大きくなる

耐久:キャラクターの受けるダメージを減らす数値。体力と耐久が高い程、長期戦に強く、打たれ強いキャラクターになる

破壊力:キャラクターの纏う装甲に対するダメージに影響を与える数値。破壊力が高い程、装甲を破壊しやすくなる

技術:キャラクターのガード並びに連続攻撃に影響する数値。技術が高い程、ガードによるダメージの軽減がより大きくなったり、連続攻撃がスムーズに行える

敏捷:キャラクターの機動力や移動速度に関係する数値。敏捷が高い程回避が速くなり、追撃時には間合いを詰めやすくなる



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