VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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最後の追い込みへ




五の夕時。勇者は街を三度駆け、忘れ物を見付ける

午後三時半過ぎ。

 

コンビニでのバイトを終えて、朝よりも強くなった雨の中を歩き、住まいたるアパートへと帰って来た梓は、手洗いと嗽を行って布団を敷き、VRヘッドギアの感度等をチェックして寝転がり、シャンフロへとログインする。

 

「さぁて、シャンフロやりますかね」

 

本日の彼の目的は二つ有る。

 

一つはルルイアスの座礁船エリアに在る、金銀財宝宝箱を余さず回収し、六日目の夜にユニークシナリオ参加メンバーに分配する事。此れは一定期間を置く事で、座礁船内に適宜補充されている事が判明しており、全て持ち帰るのは事実上不可避な物。

 

無限インベントリこと格納鍵インベントリアが在れば話は別だが。

 

「ペッパーはん、おはようなのさ」

『ワン♪』

「アイトゥイル。ノワ。おはよう」

 

相棒(パートナー)のヴォーパルバニー・アイトゥイルと、テイムされたユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの小さな分け身たるノワが、此方の目覚め(ログイン)に気付いて駆け寄って来て。アイトゥイルは肩に乗り、ノワは胡座姿勢の空間に各々収まる。

 

「ペッパーはん、今日はどうするのさ?」

「そうだな………アイトゥイル。アラバさん達は居るか?」

「シー兄さんとエムル、アラバはんにスチューデはんは隣のベッドルームに居るのさね」

「解った。大事な話をしておきたいと思っていたからさ」

 

アイトゥイルとノワを連れ、ペッパーは隣のベッドルームへと移動。其処には各々が武器の手入れをする、アラバとシークルゥにエムルとスチューデの姿が在った。スチューデはノワとペッパーの姿を見て、直ぐ様隠れてしまったが。

 

「皆さんに大事な話が有ります。俺達は明日の夜九時に、クターニッドへ戦いを挑みに行きます」

 

ペッパーの宣言に皆の視線が集まる。其の表情はいよいよ決戦かと身構える者や、漸くルルイアスから脱出出来ると、安堵しているようにも見えた。

 

「ルルイアスに滞在出来る時間は少ないですが、各々の成すべき事を成しましょう。そして必ず………クターニッドを倒して、全員生きて地上に帰りましょう」

 

彼の言葉にNPC達も『応ッ』と答える。パーティーの気合を入れ直した、後は自分も此処でやれる事をやりきるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反転都市ルルイアスの中心地に建つ巨城から、アイトゥイルとノワを両脇に挟み走るペッパーは、遠距離攻撃無効能力を備えていた封将こと、アンモーン・オトゥーム在た塔近辺まで進軍、セーブポイントとして使用可能な家屋内部に侵入しては目視確認し、別の家屋を調べるを続けていた。

 

(多分此の近辺に有っても『おかしくない』んだがな……)

 

彼の目的はもう一つ。其れはスチューデの背中を押す為に必要な、最後のピース(・・・・・・)を探す事。レトロゲーマーとしての直感とユニークシナリオを『トゥルーエンド』に持っていく為に、絶対に確かめなくてはならない『物』なのだから。

 

(おっと敵だ)

 

近くに在った家屋内部に逃げ込み、物音を立てずにやり過ごす。クターニッドの持つ反転の権能(チカラ)によって産み出されたマーマンゾンビ達は、音及び光に対して敏感で有り、僅かな物音や火による明るさに反応して其の方角へと接近していく特性を持っている。

 

「アイトゥイル、ノワ。物音を立てると、敵が寄ってくるから静かにね?」

「はいさ」

『ワゥ……』

 

マーマンゾンビが通り過ぎるのを待ち、周囲に敵の気配が無い事をアイトゥイルの聴覚や、ノワが影を渡りつつ探知する事によって索敵を行い。そうして、十七件目の家屋に入った彼等が目撃したのは。

 

 

 

机に置かれた『鯨とカトラスを重ねた海賊帽子』に、『カトラスが納められそうな鞘』。そして遺書か手紙か『一通の封書』が置かれていた。

 

 

 

「明らかに異質、なのさね…………」

『ルゥウ……』

「多分此れだな」

 

遺された物に手を合わせ、彼は帽子を取って埃を丁寧に払い除け。内側に何か書かれていないかを調べるも、特に何もなく。アイテムとして入手出来た物を調べれば『赤鯨の船長帽子』と書かれている。

 

(ビンゴ!スチューデさんの親父さんの帽子!)

 

封書は頑張れば読めるかも知れないが、ペッパーは其れを読む事はしない。船長帽子から察するに『遺書』である可能性と、コレと鞘に帽子をスチューデに届けたならば、十中八九『死体が在る此処まで連れて行って!』と依頼され、護衛系ミッションに発展する可能性が極めて高い。

 

(やるしかないよな……一応オイカッツォに連絡して、一緒に動けるか確かめてみよう)

 

Eメールアプリを起動し、ペッパーはオイカッツォへと連絡を入れる。内容としては『スチューデのユニークシナリオをトゥルーエンドに持っていく為の、重要なフラグを発見した。護衛系ミッションになる可能性が高い、協力してくれないか?』といった簡潔な内容であり。

 

其れから三分後、オイカッツォから連絡が帰って来て。『マジで?!解った、場所はルルイアスの中心地の城でな!』と返信が帰って来た。其れを見届けたペッパーは『赤鯨の船長帽子』・『赤鯨のカトラスの鞘』・『海賊の手紙』なる三つのアイテムをインベントリアに収納。

 

アイトゥイルとノワを再び両脇に抱え、マーマンゾンビや人魚の視界を掻い潜り抜けて、ルルイアスの巨城を目指し、猛スピードでUターンするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

およそ一時間後、ルルイアス中心地巨城に戻って来たペッパー・アイトゥイル・ノワは、先に到着していたオイカッツォと合流。其の足でスチューデ含めたNPC達が居る、ベッドルームへとやって来た。

 

「スチューデさん。少し御話が有るのですが……よろしいでしょうか?貴方に関わる、大事な事です」

「な、何だよ……?」

 

愛呪の力にビビりながらも、そう言ったスチューデにペッパーはインベントリアを操作、赤鯨の船長帽子と赤鯨のカトラスの鞘、そして封を開けていない海賊の手紙を彼の前に出す。

 

「えっ……!?コレ、パパの帽子に……カトラスの鞘……!!其れに……パパの手紙……!!コレ、何処で………!?」

「スチューデさんに以前話しましたが、アンモナイトの騎士モンスターが居た塔の付近を探し回った時、とある家屋の中の机に置かれていた帽子とカトラスの鞘、そして其の手紙が在りました」

 

そうしてペッパーはスチューデに其れ等全てを手渡し、小さな海賊は遺された手紙を開き、内容を読み始める。ペッパー・オイカッツォ・アイトゥイルが身構え、護衛系ミッション突入に備える中、スチューデの両目から涙がボロボロと溢れて零れ出して。時折「パパ……パパ……!」と言葉が漏れる。

 

「おいおいおいおい、コレ大丈夫かペッパー……」

「大丈夫、と思いたいが…………」

 

NPC達も何だ何だと心配する中、スチューデはゴシゴシと涙眼を擦って涙を振り払い、何かを『決意』するように。自身が被る帽子に父親の赤鯨の船長帽子を重ね着、カトラスの鞘へカトラスを納めて、堂々と宣言したのである。

 

「僕様は………いや俺様(・・)は『二代目スカーレットホエール号船長のスチューデ』………!偉大なる親父を超える、海賊になる男だ!」

 

スチューデから迷いが消え、其の背筋からはナヨっている気配が取り払われた。其れは謂わば『前へ進む覚悟』を決めた、一人の男の出で立ちにも見えていて。

 

「ペッパー、お前のお陰で覚悟が決まった。………ありがとう」

「ど、どういたしまして……」

 

遺書一つで人は此処まで変われるのかと、若干心配になりつつも、あれ?護衛系ミッションの流れじゃないのコレ?と思ったが、そうはならなかった事に内心少しだけ安堵したのだった………。

 

 

 

 






無くし物を見付け、小さな海賊は一皮剥ける

















遺書の内容



スチューデへ


お前がコレを読んでいるって事は、オレは既にくたばったんだろう。クライング・インスマン号に乗り込んで、此の薄青の都市に引き込まれた後、塔の一つに居るアンモナイトの騎士に挑んで────オレは負けた……。

戦いで致命傷を食らった以上、正直もう長くはねぇ…………。何よりアイツ等との、約束の証のカトラスを奪われちまったのが、オレとしては唯一の無念だ。

だがな………オレはコレでも満足はしてるんだ。スチューデや、アイツ等を。スカーレットホエール号の仲間を、船長として守り抜けた事がな。

最後に一つ………スチューデ。スカーレットホエール号二代目船長は、お前だ。任せたぜ……



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