最後の追い込みへ
午後三時半過ぎ。
コンビニでのバイトを終えて、朝よりも強くなった雨の中を歩き、住まいたるアパートへと帰って来た梓は、手洗いと嗽を行って布団を敷き、VRヘッドギアの感度等をチェックして寝転がり、シャンフロへとログインする。
「さぁて、シャンフロやりますかね」
本日の彼の目的は二つ有る。
一つはルルイアスの座礁船エリアに在る、金銀財宝宝箱を余さず回収し、六日目の夜にユニークシナリオ参加メンバーに分配する事。此れは一定期間を置く事で、座礁船内に適宜補充されている事が判明しており、全て持ち帰るのは事実上不可避な物。
無限インベントリこと格納鍵インベントリアが在れば話は別だが。
「ペッパーはん、おはようなのさ」
『ワン♪』
「アイトゥイル。ノワ。おはよう」
「ペッパーはん、今日はどうするのさ?」
「そうだな………アイトゥイル。アラバさん達は居るか?」
「シー兄さんとエムル、アラバはんにスチューデはんは隣のベッドルームに居るのさね」
「解った。大事な話をしておきたいと思っていたからさ」
アイトゥイルとノワを連れ、ペッパーは隣のベッドルームへと移動。其処には各々が武器の手入れをする、アラバとシークルゥにエムルとスチューデの姿が在った。スチューデはノワとペッパーの姿を見て、直ぐ様隠れてしまったが。
「皆さんに大事な話が有ります。俺達は明日の夜九時に、クターニッドへ戦いを挑みに行きます」
ペッパーの宣言に皆の視線が集まる。其の表情はいよいよ決戦かと身構える者や、漸くルルイアスから脱出出来ると、安堵しているようにも見えた。
「ルルイアスに滞在出来る時間は少ないですが、各々の成すべき事を成しましょう。そして必ず………クターニッドを倒して、全員生きて地上に帰りましょう」
彼の言葉にNPC達も『応ッ』と答える。パーティーの気合を入れ直した、後は自分も此処でやれる事をやりきるだけだ。
反転都市ルルイアスの中心地に建つ巨城から、アイトゥイルとノワを両脇に挟み走るペッパーは、遠距離攻撃無効能力を備えていた封将こと、アンモーン・オトゥーム在た塔近辺まで進軍、セーブポイントとして使用可能な家屋内部に侵入しては目視確認し、別の家屋を調べるを続けていた。
(多分此の近辺に有っても『おかしくない』んだがな……)
彼の目的はもう一つ。其れはスチューデの背中を押す為に必要な、
(おっと敵だ)
近くに在った家屋内部に逃げ込み、物音を立てずにやり過ごす。クターニッドの持つ反転の
「アイトゥイル、ノワ。物音を立てると、敵が寄ってくるから静かにね?」
「はいさ」
『ワゥ……』
マーマンゾンビが通り過ぎるのを待ち、周囲に敵の気配が無い事をアイトゥイルの聴覚や、ノワが影を渡りつつ探知する事によって索敵を行い。そうして、十七件目の家屋に入った彼等が目撃したのは。
机に置かれた『鯨とカトラスを重ねた海賊帽子』に、『カトラスが納められそうな鞘』。そして遺書か手紙か『一通の封書』が置かれていた。
「明らかに異質、なのさね…………」
『ルゥウ……』
「多分此れだな」
遺された物に手を合わせ、彼は帽子を取って埃を丁寧に払い除け。内側に何か書かれていないかを調べるも、特に何もなく。アイテムとして入手出来た物を調べれば『赤鯨の船長帽子』と書かれている。
(ビンゴ!スチューデさんの親父さんの帽子!)
封書は頑張れば読めるかも知れないが、ペッパーは其れを読む事はしない。船長帽子から察するに『遺書』である可能性と、コレと鞘に帽子をスチューデに届けたならば、十中八九『死体が在る此処まで連れて行って!』と依頼され、護衛系ミッションに発展する可能性が極めて高い。
(やるしかないよな……一応オイカッツォに連絡して、一緒に動けるか確かめてみよう)
Eメールアプリを起動し、ペッパーはオイカッツォへと連絡を入れる。内容としては『スチューデのユニークシナリオをトゥルーエンドに持っていく為の、重要なフラグを発見した。護衛系ミッションになる可能性が高い、協力してくれないか?』といった簡潔な内容であり。
其れから三分後、オイカッツォから連絡が帰って来て。『マジで?!解った、場所はルルイアスの中心地の城でな!』と返信が帰って来た。其れを見届けたペッパーは『赤鯨の船長帽子』・『赤鯨のカトラスの鞘』・『海賊の手紙』なる三つのアイテムをインベントリアに収納。
アイトゥイルとノワを再び両脇に抱え、マーマンゾンビや人魚の視界を掻い潜り抜けて、ルルイアスの巨城を目指し、猛スピードでUターンするのだった。
およそ一時間後、ルルイアス中心地巨城に戻って来たペッパー・アイトゥイル・ノワは、先に到着していたオイカッツォと合流。其の足でスチューデ含めたNPC達が居る、ベッドルームへとやって来た。
「スチューデさん。少し御話が有るのですが……よろしいでしょうか?貴方に関わる、大事な事です」
「な、何だよ……?」
愛呪の力にビビりながらも、そう言ったスチューデにペッパーはインベントリアを操作、赤鯨の船長帽子と赤鯨のカトラスの鞘、そして封を開けていない海賊の手紙を彼の前に出す。
「えっ……!?コレ、パパの帽子に……カトラスの鞘……!!其れに……パパの手紙……!!コレ、何処で………!?」
「スチューデさんに以前話しましたが、アンモナイトの騎士モンスターが居た塔の付近を探し回った時、とある家屋の中の机に置かれていた帽子とカトラスの鞘、そして其の手紙が在りました」
そうしてペッパーはスチューデに其れ等全てを手渡し、小さな海賊は遺された手紙を開き、内容を読み始める。ペッパー・オイカッツォ・アイトゥイルが身構え、護衛系ミッション突入に備える中、スチューデの両目から涙がボロボロと溢れて零れ出して。時折「パパ……パパ……!」と言葉が漏れる。
「おいおいおいおい、コレ大丈夫かペッパー……」
「大丈夫、と思いたいが…………」
NPC達も何だ何だと心配する中、スチューデはゴシゴシと涙眼を擦って涙を振り払い、何かを『決意』するように。自身が被る帽子に父親の赤鯨の船長帽子を重ね着、カトラスの鞘へカトラスを納めて、堂々と宣言したのである。
「僕様は………いや
スチューデから迷いが消え、其の背筋からはナヨっている気配が取り払われた。其れは謂わば『前へ進む覚悟』を決めた、一人の男の出で立ちにも見えていて。
「ペッパー、お前のお陰で覚悟が決まった。………ありがとう」
「ど、どういたしまして……」
遺書一つで人は此処まで変われるのかと、若干心配になりつつも、あれ?護衛系ミッションの流れじゃないのコレ?と思ったが、そうはならなかった事に内心少しだけ安堵したのだった………。
無くし物を見付け、小さな海賊は一皮剥ける
遺書の内容
スチューデへ
お前がコレを読んでいるって事は、オレは既にくたばったんだろう。クライング・インスマン号に乗り込んで、此の薄青の都市に引き込まれた後、塔の一つに居るアンモナイトの騎士に挑んで────オレは負けた……。
戦いで致命傷を食らった以上、正直もう長くはねぇ…………。何よりアイツ等との、約束の証のカトラスを奪われちまったのが、オレとしては唯一の無念だ。
だがな………オレはコレでも満足はしてるんだ。スチューデや、アイツ等を。スカーレットホエール号の仲間を、船長として守り抜けた事がな。
最後に一つ………スチューデ。スカーレットホエール号二代目船長は、お前だ。任せたぜ……