VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ラーメンを賭けた、ビルディファイトの決着




胡椒と鰹節のレトロゲーム対決 ~後編~

ブシカッツォがビルドしたキャラクター:リーエルは、脚部に装備したリジェクターアーマーによる浮遊移動の恩恵と、推進力の一点集中による圧倒的かつ爆発的な初速、そして最大加速時限定では有るが、装甲貫通能力付与を可能にしている。

 

300戦に渡る戦いを通じて、ビルドキャラクターの能力振り分けによる恩恵を1から検証し、緻密なデータとして収集。A-Zの戦闘スタイルを過去に渡って遡る事により、彼がゲーマーとしてある種の生命線である『反射神経』が、他のゲーマーよりも劣っている事に行き着いた。

 

しかし、其れでも。其の弱点に行き着いたブシカッツォが、A-Zに今も勝ち越せていない『真』の理由。其れは、A-Zが僅かな可能性さえも考慮する思考と読みの『深さ』、そして突如として繰り出す『隠しの一手』に有った。

 

 

 

――――――もしかしたら、必殺技を囮に通常技をぶちかます可能性が頭に過ってさ。其処に投げ技を合わせたって感じかな

 

――――――万が一、あの場面で攻められたら逃げられないから、反撃出来る体力を残しておいて、カウンターに全力を注いだ

 

――――――もしも、ダッシュ攻撃じゃなくて投げ技を仕掛けて来ても良いように、距離を調整して備えて其処を腹パンでダウン出来るよう意識したよ

 

 

 

戦いが終わった後、ブシカッツォは決まってA-Zが勝負の節目となった場面で、どのような選択をしたのかを聞くようにしている。そして聞くたびに、彼の持つ読みの深さと隠したサブウェポンを、何度も目の当たりにしている。

 

今回ビルドしたリーエルの、リジェクターアーマーの腕脚のスイッチと、最大加速時の装甲貫通機構による初見殺しの牙を表立たないように調整、砂煙と蒸気で隠し。此処ぞと言う場面で切ったのだが、左腕部と両脚部のガンドレットを砕くのみで、左腕と両脚を持っていく事は出来なかった。

 

(A-Zの思考領域は、俺が想像しているよりも『一段か二段』くらい上にある。其れでいて『直感』が鋭いのか、初見殺しに引っ掛からない事が多い。此の手のタイプのゲーマーは『稀有』だ)

 

プロとして世界の強豪達と戦うブシカッツォにとって、オフの日はレトロな格闘ゲームも其れなりに嗜み、楽しんでいた。

 

『辺境のゲームセンターに出没し、店内の最高スコアを片っ端から塗り替える、最強のレトロゲーマーがいる』――――――そんな噂を2年前のある日耳にした。

 

プロとして其のゲーマーの実力を知る為に、ゲーマーのプレイスタイル等の諸々の情報を集め、最も得意としているゲームの練習を重ね、あの日初めてA-Zと対峙し。

 

結果は、3ラウンド制の2連続ストレート負けという……惨敗。人生で『2度目』の、苦くて渋い敗北を味わったのだった。

 

其れ以来幾度も戦い、漸く勝率は五分辺りにはなったが、A-Zの思考の深さは未だに底が見えず、完全に読み切れないままである。

 

「!」

 

ブシカッツォの画面越しでは、右腕のガントレット以外を失い、体力ゲージが4割程削れながらも、未だにガードを堅く構えるノブ=ナッシュの姿が。必殺ゲージは既にレベル3からMAXまで、半分貯めれば到達する状況である。

 

「どうした、ブシカッツォ?積極的に速攻狙うキャラクターが、ガンガン攻めないでどうするんだ?」

 

平手を上に、手招くノブ=ナッシュ。明らかに誘っている。狙いは恐らく、必殺ゲージ・レベルMAXから繰り出す、ノブ=ナッシュ最強の大技にして、耐久防御型の神髄に等しき御業(イカれた一撃)臥薪嘗胆(がしんしょうたん)絶撃(ぜつげき)』。

 

受けてきたダメージを拳に乗せて放つ其の技は、直撃時にキャラクターが受けたダメージと同じ数値を、相手キャラクターに与えるというシンプルな物。しかし、耐久と防御に比重が置かれたキャラクターが、レベルMAXにセットした場合に限り、話は180度引っくり返る。

 

発生こそ並で、見てからでも回避可能。しかし直撃すれば、同じタイプのキャラでない限り、漏れ無く『一撃必殺が確定(ワンパンリーサル)』するからだ。

 

「そりゃ攻めるさ。タイムアップでの勝ちなんて、ゲーマーとしてはナンセンス。だから…お前が仕掛けた策を全部踏み越えて。俺が勝つ」

「其れでこそ、だ。全部受け止めてやるよ」

 

左脚のリジェクターアーマーが、リーエルの左腕にスイッチし、炎と白い蒸気が上がる。

 

『エクスプロージョン・チャージ』はレベル3以上で発動した場合は其のラウンド中、レベルMAXで発動したならば全ラウンドに渡り、攻撃力と敏捷を大幅に上げるバフ技である。

 

今回のビルドキャラたるリーエルは通常でも高い攻撃力を持ち合わせているが、エクスプロージョン・チャージを使用することで、常に最高速度に到達した状態に入ることが出来るように、ブシカッツォが細かな調整を施した。

 

其れ即ち━━━━━━━

 

 

「!!!!」

 

此処からの攻撃全てが(・・・・・・・・・)装甲破壊能力付与を受けた状態になる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「必殺技を放つ前に、此のラウンドを貰うぞA-Z!」

 

リジェクターアーマーが機関銃の如く、リーエルの目にも止まらぬ連打と重なり、ノブ=ナッシュを袋叩きにし始めた。

 

「うわあああああ!?袋叩きじゃねーか!」

「擬似的なガトリングボヤージュかよ!?」

「ヤバイって、A-Zが手ェ出せてねぇ!」

「決まっただろ、これ絶対!」

 

叩き付けられる破撃の嵐がノブ=ナッシュの腰部の装甲を、右腕に残されたガントレットを砕き割る。体力はどんどん削られていき、3割を切り掛ける。

 

――――――――しかし。

 

筐体から『ゲージMAX!!!!』の音声が響いた。体力が削り切られる前に、体力と耐久に比重が置かれたビルドが、反撃を可能にする一手に届く。

 

「きた!必殺ゲージMAX!」

「やっちまえ!A-Z!!!」

「ぶちかませー!!」

 

観衆の期待、ブシカッツォの警戒。

 

だが、A-Zは必殺技を起動しない。

 

リーエルの攻撃に晒され続けるノブ=ナッシュを、画面越しに見ながら今尚ガードを崩さない。

 

誰しもが、此のラウンドの勝負をA-Zが捨てたと考える。

 

(なわけねぇだろ!)

 

ブシカッツォ、唯一人を除いて。

 

(コイツがそんな生温い考えをした事なんか、一度たりだって無い!耐えて耐え抜き、最後の最後に逆転する!其れがA-Zとノブ=ナッシュだ!)

 

だからこそ。

 

(だからこそ!)

 

「俺が――――勝つ!!!」

 

リーエルのラッシュから左アッパーが、状態が下がったノブ=ナッシュの鳩尾を正確にぶち抜き、体力は遂に1割に到達。

 

最後の一撃(リーサル)、繰り出すは右ストレートの顔面粉砕。

 

だが、しかし。

 

『レベル1! FINISH MOVE!』

 

必殺技発動の音声。

 

カチ上げられたノブ=ナッシュの上体が押し留められ、押さえ込まれたバネが巻き戻るように、腕を大きく広げ、リーエルを掴まえようとする。

 

(此処で組み技………!いや、まだ『回避』は出来る!)

 

組み技の仕様上、其の挙動は真っ直ぐにしか進まない。されど、ノブ=ナッシュの耐久からすれば、此処で1発2発攻撃をしても耐えられる事を、ブシカッツォは『知っている』。

 

なれば……………ブシカッツォは、リーエルに『バックステップ』を踏ませた。組み技を回避し、右ストレートで〆る。其の為に。

 

 

 

 

 

 

「………………ありがとう、ブシカッツォ」

 

 

 

 

不意にA-Zが、自分に礼を言ったように聞こえた。画面を見るとノブ=ナッシュが、まるで見知った『魔王』に似たドス黒く獰猛な笑みを浮かべていて。

 

 

 

 

「お前なら此の局面。バックステップを踏んでくれると――――――信じていたよ(・・・・・・)

 

 

 

 

 

そうして、彼は悟った。此の瞬間、此の盤面こそが、A-Zが狙った勝利への転換点であり。

 

 

山彦(やまびこ)猫騙(ねこだま)し!!!』

 

 

組み技だと思っていた其れが、レベル1の時は『相手キャラクターに2秒間の強制スタン付与&次に受けるダメージを1,5倍』にする、組み技『偽装(フェイク)』のデバフ技だと。

 

 

 

『レベル3! FINISH MOVE!』

 

画竜点睛(がりょうてんせい)一本背負(いっぽんせお)い!!!』

 

 

 

発動時の掴みに失敗すると、問答無用で技が不発に終わるだけでなく、重大な隙を晒す大き過ぎるデメリットを抱えた代わりに、其の威力を保証された必殺の投げ技。

 

逃げられる筈だった計算が、猫騙しにより強制スタンで動きを止められ。たかが2秒、されど2秒。ノブ=ナッシュの一本背負いの掴みモーションが、リーエルを捉えるには余りにも、そして充分過ぎる時間だった。

 

(やられた、くそ………)

 

ブシカッツォは内心で悔しがる。

 

A-Zは戦いのゴングが鳴り響く前から、リーエルのリジェクターアーマーが『脚だけでなく腕にも装着出来るかもしれない』思考の片隅に置き、組み込んでいたのだ。

 

体力調整を破綻させ、片腕と両足のアーマーを犠牲にしたのは、リジェクターアーマーの持つ『ギミック』が正しいかをどうかを、実際に確かめる為。

 

そして両腕にリジェクターアーマーを取り付けを誘い、最高のタイミングでレベル1の必殺技『山彦の猫騙し』で2秒間の強制スタン。

 

レベル3の『画竜点睛一本背負い』の確定コンボによる、一投確殺を実現する事こそが、A-Zの最終到達目標(リーサルポイント)だった訳だと、リーエルが投げられる中でブシカッツォは気付くに至り。

 

渾身の一本背負いで背中から叩き付けられたリーエルの体力は0となり、筐体の画面並びにスピーカーより『KO!!!!』の表示とゴングが鳴り響き。

 

『WINNER! ノブ=ナッシュ!!!!』の文字が画面に刻まれた。

 

 






臥薪嘗胆が成し獲た勝利

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