VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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決戦日




倶なる天に(シメ)証明(ホシ) 其の一

時は遂に来た。ルルイアスに引き込まれてから六日目、とうとう此の日がやって来たのだ。

 

「今日の夜九時に、クターニッドとの決戦か……」

 

朝から台風による強風がロックを掛けた雨戸をけたたましく揺らし、降りしきる雨が激しさを物語る中で、一人朝食を食べ終え、トイレ・シャワーを浴び終えた梓は寝間着から服に着替え、櫛とドライヤーを使い髪を乾かす。

 

「最終調整はしておきたいよなぁ……。便秘か、ギャラクシーヒーローズか………。いや、今回みたいに反転の力を『選択肢』のように叩き付けてくるなら、彼処の世界(・・・・・)が適任か」

 

チャットを見れば、オイカッツォは昨日の深夜帯までレベリングを続けてレベル95まで至ったり、サンラクとサイガ-0は夜のルルイアスにてキリューシャン・スフュールと戦って勝利したり、ペンシルゴンはカイセンオーが五体合体してなるウルティマカイセンオーと戦闘したりと、ログイン可能なメンバーは皆各々やるべき事を成したらしい。

 

ログイン出来ていないメンバーも、今日のログインに備えて体調管理やスケジューリングをした事が、チャットを通じてユニークシナリオ参加メンバーに知らされていた。

 

「さてと………久し振りに行きますかね」

 

VRヘッドギアを頭に装着し、布団に寝転がる。起動するのはダウンロードした辻斬(つじぎり)狂想曲(カプリッチオ):オンラインこと、通称『幕末』。

 

一瞬たりとも気を抜けない、常時取捨選択を突き付ける、味方は己だけの蟲毒といった、文字通りの江戸時代末期の血と争乱と暴力が支配する世へと、ブラッドペッパーとなった梓がログインする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ログイン天誅!」

「ログボ天誅ッッッッ!!」

「すいません、其れは知ってますので!」

「グワー!?」

「余韻天ッベェ!!?」

「後先も考えてますがね俺?」

 

ログイン早々に幕府勢力からの天誅攻撃、初段を逆手抜刀で胴抜きからの、刀を投擲で頭にブッ刺して倒す。久し振りのログインだが、此の独特で殺伐とした空気は集中力を引き出させてくれる。

 

「天誅ーーーーー!」

「おっと、危ない」

「ぶべぅ!?」

「な、何で避けられ────」

「強いて言うなら………『天が教えてくれたから』。以上、天誅」

「と、問屋に装備を卸ギャフ!?」

 

他のプレイヤーを返り討ちにしてゲットした、大小異なる刀を握り、魔法の言葉を唱えてプレイヤーを倒す。今の気分は剣豪・宮本 武蔵の『二刀流』だ。受けて返す・手数で攻める・重ねて受けると言った、攻防一対にして流れる連撃を可能にする戦術は、一撃の『破壊力』こそ一刀流に劣るものの、敵を『休ませない』という観点では負けない。

 

最も此のスタイルが『シャンフロ』でも出来れば良いのだが、生憎リュカオーンの愛呪(あいじゅ)によって右手の装備枠は封じられている。グランシャリオは鬼札中の鬼札なので、嬉々として使えない………そうなるとやはり一時的とは言え、自由に装備を切り換えられるようにする為には、『ユニークモンスター・無尽(むじん)のゴルドゥニーネ』の毒が必要不可欠だ。

 

そんな事を思考の片隅に置きつつ、次々と襲い掛かるプレイヤーや時折忍者らしきNPCを切り捨てていると、プレイヤーの誰かが大声で叫んだ。

 

「皆逃げろォ!?レイドボスが来たぞォォォォォォォォォ!!?!?」

「ぎゃああああああああああああ!!!?」

「グワーーーーーーー!?!」

 

レイドボス………幕末において其の名を冠するプレイヤーは、唯一人しか存在しない。幕末最強にしてランキング一位のプレイヤー・ユラ、彼が今此方に向かってきているのだ。

 

「ユラさんが来てるのか……。五分持ちこたえるのを目標に挑戦してみよう」

 

決めたなら、其の足はもう止まらない。取り敢えず逃げてきたプレイヤーを次々に切り捨てて、声のする方角へと進み続けるブラッドペッパー。

 

「ゲェッ!?『血煙』じゃねーか!?」

「よりにもよって、何でコイツが此方来てるの!?」

「あ、どうも!先輩方、元気ですね!というか血煙って何ですか天誅!!」

「お前の『二つ名』だよ!天誅ッッッッ!!!」

「其れは見た事ありますんで、いただきます!」

「ぐべぇ!?」

 

何時の間にか自分に物騒な二つ名が付いていた事に驚きつつも、ブラッドペッパーは自身に向かってくる他のプレイヤー達を切り捨てては、武器やアイテムを回収していき。

 

「あ、ブラッドペッパー」

「ユラさん。御久し振りです」

 

此処は大江戸の町並み、大通りの一つにて真正面より対峙するは双雄。

 

「やる?ブラッドペッパー」

 

片や幕末の不動にて最強たる絶対王者。

 

「えぇ、待った無しで」

 

片や幕末環境に超速度で適応した鬼才。

 

「「…………………………」」

 

静寂一瞬。幕末の町から声が途切れた────其の刹那。

 

『天ッ誅────!!!』

 

双雄共に瞳に修羅を纏い、レイドボスと血煙は今再び、大江戸の町にて激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赦菜(シャナ)という幕末のプレイヤーが居る。辻斬・狂想曲:オンラインを初めて一年を迎えた中級者たる彼女は、とあるプレイヤーが考案した『ログイン天誅』を用い、幕末に飛び込んできた初心者(ニュービー)達を狩り、レベリングを行っている幕府軍所属のプレイヤーの一人だ。

 

「くっ………またブラッドペッパーを仕留められなかった………!」

 

思い出すのは何時だって『あの日』だ。何時もの如くログイン天誅を狙い、何も知らない初心者に幕末の世界を味わわせようとし、彼女は他のプレイヤーに混じって其のプレイヤーに斬り掛かった。

 

「やっぱり『リスキルやスタート地点待ち伏せタイプ』で来たか!」

(は?えっ、どういう事!?)

 

疑問を唱える事すら遅く、彼女はログイン天誅に初見ながら対処してみせた新規プレイヤー、ブラッドペッパーに斬り殺されてリスポーンした。

 

其れからまた彼女は、ブラッドペッパーのリスポーンやログインを狙って天誅を敢行したものの、彼からは「其れは知ってますので!」と爽やかな笑顔で、悉く返り討ちにされたのである。

 

二度目のログイン・リスポーンを繰り返しながらランカーなら余裕で対処可能な天誅たる、上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅をも越えたブラッドペッパーに、再び赦菜はキルされて。復讐に燃えて、何としてもブラッドペッパーをキルせんとし……………『あの戦い』を目撃した。

 

幕末ランキング一位・ユラと、幕末ランキング圏外・ブラッドペッパーの世紀の一戦を。僅か一分という、あまりにも短く。しかし僅か一分の中に濃密な、呼吸すら忘れてしまう戦いを見た。ブラッドペッパーが天誅を唱え、錆丸の斬撃に突貫し。右腕を両足を斬られ失いながらも、最後の最後にユラへ一太刀届かせた瞬間を。

 

「あ………」

 

そして今日、彼女は再びユラとブラッドペッパーの決戦を目撃する。

 

錆光の斬撃が飛び、様々な刀が投げられて。銃声が鳴り響き、研ぎ澄まされた(はがね)同士のぶつかる音が木霊し。後ろから迫った別のプレイヤーに首を斬られ、リスポーンの為に意識が落ちる最中の彼女が最後に見たのは。

 

 

 

 

 

誰よりも笑顔で『此の瞬間を楽しんでいるのは俺達だ!』と主張する、ユラとブラッドペッパーの二人の。狂喜と殺意を内封した瞳と、純粋無垢で全力で遊戯(ゲーム)に興じる笑顔だったのだ…………。

 

 

 

 

 






修羅に通じる者


※今回のブラッドペッパーの生存時間

対レイドボス 記録3:15:03



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