VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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越えて、越えろ




倶なる天に示す証明(ホシ) 其の八

紫の聖杯によるダメージ反転が働いている間、クターニッドはダメージを受けた杯を『自傷によって再生させる特殊行動を取る』。

 

アバターと色調が反転する最中に緑の聖杯を叩きに行き、一時撤退する最中に其れを目撃したオイカッツォ(inサンラク)によりもたらされた情報は、集合地点に居たプレイヤーやNPCの顔色を、困惑や憤怒に疲弊で色付けていく。

 

「…………取り敢えず現状確認だね。今発動してる反転はアバター反転の白、色調を反転させる緑」

「後、ダメージを回復に変える紫」

「そう。しかも厄介なのは、クターニッドが持っている杯の効果は『重複』する上に、発動中に破壊したら戦闘終了まで『継続』される可能性が高い」

 

光った杯の種類を覚え、反転が元に戻った所を見計らって、杯を壊さなくてはならない。更には破壊する順番やタイミングによって、此の後に控えているだろう別形態(・・・)での戦闘に影響が出るのは明らかだ。

 

と、此のタイミングで『黒い光』が放たれ、プレイヤーやNPCを包み込む。

 

「うわっ!?」

「今のって何色!?」

「色調反転中だから………白、だって……おぉ?!」

 

視界に秋津茜(・・・)が映っている。掌を見れば、深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を装着する自分の姿(・・・・)が在る。

 

「も、元に……戻った……?」

「成程、クターニッドが持ってる杯は『ランダム』に光るが、同じ杯が光れば効果が切れて『元に戻る』って訳だ………!」

 

自分が製作・育成した元々の身体(アバター)に戻った事に、一同は安堵する。そして現在のクターニッドを攻略する上で、一番必要だった情報がエムルがもたらしてきた。

 

「サンラクさん、大体『30秒』間隔で光が来ましたわ!」

「よし、ナイスだエムル!」

 

アバターや色調、ダメージが回復に変わろうとも、時間を計ったエムルによって、クターニッドが持つ杯の発光間隔が割れた。其れによってペッパーの思考が、ある攻略法を導き出すに至る。

 

「皆、今装備してるクターニッドの一式装備には発光間隔と同じ時間だけ、装備者から半径30m内限定の反転能力を行える機構が有る。其れを使ってクターニッドの反転の能力に対抗出来ないか、少し確かめてみたい」

「OK。頼んだぞ、リーダー!」

 

一同が動き、ペッパー・秋津茜(アキツアカネ)・オイカッツォ・サンラクは三度になるクターニッドとの対峙をし、他のメンバーも色調反転とダメージ反転の効果が継続する中で、インベントリアを所持するサンラク・オイカッツォ・ペンシルゴン・京極(キョウアルティメット)は其の中から『回復ポーション』を取り出した。

 

「色調反転中の白の杯は『黒色』!」

「紫の発光前に出来るだけ削り切る、やるよ三人共!」

「了解だよ、ペンシルゴン!」

「ペッパー、囮は頼むぞ!」

「任せとけ!アイトゥイル!ノワ!ルストとモルドの援護を頼む!」

「はいさ!」

『ワゥ!』

 

ペッパーが深淵を見定む蛸極王装の能力の一つ『無限潜航(むげんせんこう)』で、空中で在りながら水中(・・)としての判定が残る夜空を自在に泳ぎ、クターニッドの周りを目障りな蝿の様に飛び回って注意(ヘイト)を集め。其の間に移動した四人が降りてきた黒の杯………元は白の杯目掛けて、小学生の運動会の玉入れじみたポーションを投げ当て始める。

 

回復の力を納めた液体の入った硝子瓶が、黒の杯に当たって砕けて割れて。黒の杯にブチまけられた液体(中身)が、硫酸が鉄を溶かすが如くアバターを反転させる白の杯を、ジュクジュクと蝕むようにダメージが入っていく。

 

「ペッパーが見付けた攻略法、まさに此の時の為に取っておけって事だったか……!」

「今ダメージ反転中だから、間違っても誰かに誤爆するのだけは止めてよ三人共!」

 

初見殺しも甚だしいが、其の初見殺しに備えてポーションを買い込んでいたペッパーもヤバい。実際回復をポーションではなく魚で代用したからこそ、此の局面において白の杯に明確なダメージを与えられているのは事実。

 

だが此所でクターニッドはペッパーに対し、黒の杯をぶつけに行くという荒業に出たのだ。其れも回復ポーションを大量に浴びた状態であり、何よりも反転効果が働く此の状態は毒液まみれに等しい物であり。

 

「ッ、危な!?」

 

下手すれば自分の纏う鎧を溶かされると、咄嗟のガードではなく反射的に回避の選択肢を取ったペッパー。そして『お前なら其の行動を取るよな?』と言わんばかりに、クターニッドの目が喜悦(・・)による弧を描いて笑うのを見て。

 

同時にプレイヤーとNPCが見ている視界が、一瞬で『黄緑色の光』に包まれる。

 

「ダメージ反転が元に戻った!レーザーカジキとルスト、そしてエムルにアイトゥイルは遠距離攻撃で白の杯を狙え!」

「回復ポーション投げ中止!今なら普通にダメージが通るよ!」

「────射抜く!」

「【加算出力(アッドブースト)マジックエッジ】ッッッ!」

「行きます【アクアクラスター】!」

「【華魔威断(カマイタチ)】!」

 

サンラクとペンシルゴンが、クターニッドの注意を惹くペッパーをサポートするように、メンバーに指示を出し。ペッパーが注意を惹き付けた事で、安全に移動出来た魔法と物理の遠距離攻撃手段持ち達が、一斉に色調反転した黒の杯────即ち白の杯に持ち得る最大火力による集中攻撃を、此れでもかとばかりに叩き込む。

 

バフをモリモリに盛られた剛弓から放たれた一矢が、加算詠唱による威力上昇を施した魔法刃が、雨のように叩き付ける水の槍達が、旋風に乗って敵を裂き斬る妖の名を乗せる風魔法が、黒の杯へと打ち込まれ。再びアバターの反転なんぞさせんとばかりに、ある種の憤怒が籠った怒濤の攻撃達によって杯には致命的な亀裂が迸り。

 

「貰うよ、白の杯!」

 

振り下ろされる触手の合間を潜り抜け、次の発光まで残り五秒といった所で、京極の繰り出した風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】の太刀先による牙突が、走った亀裂に駄目押しを叩き込んで刺し。

 

「オイカッツォ!」

「はいっ───よぉ!」

 

同じく其所へ全力でダッシュし、京極が作った種火(きずぐち)をオイカッツォが渾身の混合拳気(こんごうけんき)火緋彩(ヒヒイロ)】で柄を拳で殴り付け、パイルバンカーの一撃が業火(はかい)に変えて。遂に黒の、色調反転下でアバターを反転させる『白の杯』を打ち砕いた。

 

「よっしゃあ!白の杯ブッ壊」

「30秒ですわーーーーー!!!」

「何でくっ………!?ステ────」

 

黒の杯が存在を維持する力の根幹()を失って消える最中に、世界を『黄色の光』が塗り潰し。ペッパーが言霊を放たんとするも一歩遅く、次の瞬間には左手に握る六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)と、右手に握る星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ。

そして兎月【暁天(ぎょくてん)】が重くなり(・・・・)、同時に巨剛触手が機能停止(・・・・)した事で装備を維持出来なくなって武器が溢れ落ち。同時に彼の目の前のウィンドウは『装備出来ません』の表示が現れたのだ。

 

「な──そうか、色調反転中の黄色は『藍色』か!!何が入れ替わって!?」

 

ステータスを要求しない勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディス以外の武器全てが装備出来なくなったペッパーの、確認の言葉を遮るようにクターニッドの触手が襲い掛かる。

 

天獄が装備出来なくなった事で、一式装備時限定能力が封じられたペッパーは、ミルキーウェイを起動。グランシャリオを、巨剛触手より離れて地面に落ちた武器達を、速攻拾ってインベントリアに入れ込み、更に回収したイーディスを構え、突差に弾い(パリィし)て受け流すが、クターニッドの触手の圧倒的な力によって押し飛ばされ、地面をゴロゴロと転がされてしまう。

 

「あーくん!今確認したけど、入れ替わったのは『筋力と耐久』だよ!」

「敏捷かスタミナだったらヤバかった………!」

 

ペッパーが立ち上がった其の刹那、まだ『20秒』しか経っていないのにも関わらず、クターニッドが持つ『橙色の杯』が瞬き輝き、視界を『橙色の光』が開拓者達とNPCを包み込む。

 

 

 

今再び、クターニッドによって世界が引っくり返された。

 

 

 






反転地獄に躍り狂う


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