蛹を破り、蝶は舞う
「させるかバカヤローーーーーーーーー!」
紫の発光を経てダメージと回復の関係が正常に戻った所を破壊し、藍色の発光による正常化からの残り十秒で、藍色の再発光が迫り来る中において、サンラクはフリットフロートによる跳躍と共に、
紫によるダメージ反転の中でポーションによる玉投げ合戦により、既に限界一歩手前に近付いていた藍色の杯は、当初の予定とは異なり一番最後になってしまったものの、漸く破壊するに至り。其の光はクターニッドへと吸収されたと同時に、プレイヤーやNPCの全員の頭に声が響く。
『世界が変わり果てようと根幹は揺るがず、されば人は星の海を未だ泳ぐのか……』
全ての杯が破壊され、九つの輝きを失ったクターニッドだが、其の巨体と共に在る触手が静かに『折り畳まれ始めた』。先程まで杯を砕かんとした自分達と戦っていた、
「マジかよ……」
「あれが普通の蛸なら滑稽なんだがな……」
「……身動ぎだけで、私達を殺せる蛸相手に下手に笑うのは厳しい」
ルストの言葉にサンラクが頷いたし、何なら自分も頷ける。滑稽な行動………幼稚園児の絵空事の様な事態すら、実力が伴っている場合にやられた場合は怯えや恐怖に憤怒の感情の方が勝るのは、人間なら誰しも良くある事なのだ。
有機的な蛸の形をしていたクターニッドの触手が、立体かつ直線的に胴体へと折りたたまれていくのを、メンバー達は目撃した。コンピュータ上でグラフィックを作る際の直線同士を繋ぎ、そして作る『モデリング』の其れを無理やり折り畳んでいく感じに。
巨大な触手が、眼球までもが、胴体へ折り畳まれて。其れはまるで、出来損ないのリンゴの貌をした『黒い塊』へと変わったクターニッドは、内側からぐむぐむと。まるで『クターニッド』という
『遠く、遠く、遠くまで来た。私は彼女の故郷を知らない。私の故郷は星の海と同胞と彼女の笑みであった』
「ポエムが来た、次の段階か?」
「いや、長文だな………『最終形態』か、其れとも……」
警戒するに越した事は無い。武器を構えつつ、膨張していくクターニッドを見ていると、いきなり其の膨張はピタリと停止し。僅かな時間を置いて、クターニッドに起きたのは『収縮』………しかも身体が萎むのでは無く、サイズだけが小さく圧縮され始めたのだ。
『此の世に
「まぁ骨が無いって蛸ですもんね!」
「ばぶっふぅ!」
「確かに軟体類なので骨は無いですけども……」
「
モルドが盛大に吹き出して、ペンシルゴンが槍の柄で秋津茜の頭を軽くコツンと叩いた。そしてレーザーカジキは生物的な解説をするのは良いが、出来るだけ気を緩めないで欲しい。
「だ、大丈夫だから……そんな目をしないで………」
サンラク・ルスト・オイカッツォ・ペンシルゴン・京極のジト目がモルドへ突き刺さる。ゲーマーというのは基本、損切り感情が出来る人間でもある。
戦力にならないなら全力で切り捨てに行くし、そうじゃなくても上手い理由を着けて避難させたりと、当たり前のように出来る。自分の場合は其れを加味した上で、どうやって攻略するかを思考するが。
『であれば、私は妄想を事実とし、幻想として生じ、空想より出でて想像と成らん。故にこそ、故にこそ我は仮想と成りて、血肉と骨を求む』
「
「秋津茜、ステイ」
「ご、ごめんなさい!」
オイカッツォが秋津茜を止めるが、今のポエムはクターニッドの『合計の形態数』及び『次の形態で成すべき事』の大きなヒントになる。
おそらくだが、ルルイアスへと招いた触手を振るう姿が『妄想態』。要石のギミックを解除した事により、魔法陣から九十六本の触手で、高速ホーミング攻撃を仕掛ける『幻想態』。其れ等を全て返した事で、九つの反転能力を宿した杯を持つ『空想態』に変わり、今は血と肉と骨を求めている『仮想態』という事になる。
そして各々の形態は『ミニゲーム』のような物を経て、少しずつ『実体』へと迫りつつある事。即ち最終形態であろう『想像態』に向け、自分達が何をしなくてはならないかが、秋津茜の放った何気無い台詞によって、ペッパーは『ハッキリ』と判った。
「全員周囲警戒!NPCの安全を最優先で確保しつつ、敵の攻撃に備えて!今のクターニッドは『腹を空かせてる』、だから
「は、出前!?」
「出前………?………!サンラク、さん!」
「レイ氏の考えてる事は多分『正しい』、全員周囲を警戒しろ!一気に来るぞッ!」
サンラクの声の直後、縮小と圧縮の成れ果ての末に空間に空いた、光をも呑み込む
「マジか…………!」
「アレって………『ランダムエンカウンター』!?」
「オイオイオイオイ!?!」
ペッパー・サンラク・オイカッツォがクターニッドがやらんとする事に気付き、クターニッドは其の答え合わせをするが如く声を放った。
『命脈の波濤に抗え、闘争こそが命の本質故に』
同時に起動したクターニッド専用に調整されたランダムエンカウンターが発動、其処からコロシアムへモンスター達が一斉に解き放たれたのである。
クターニッドの眷属と成ったマーマンゾンビに人魚、二十体合体のハイパーウルティメットカイセンオー、深海の強者達が集うという此の状況を表すならば、まさに『地獄』の二文字こそ相応しい。
「死ぬですわーっ!?此れ絶対死ぬですわーっ!?!」
「エムル、泣き言はラビッツに帰ってからだ!兎に角腐れつみれ含めた敵を、一体でも多く倒せ!よっしゃモンスタートレイン逝くぞオラァ!」
「其れだと死ぬですわァァァァァァァ!?」
ゾンビゲーと無双ゲー、格ゲーに狩りゲーを全て足して割らなかった様な、一週周って世紀末の様な光景にエムルの悲鳴が木霊しながら、現れたギガリュウグウノツカイことアルクトゥス・レガレクスをモンスタートレインしたサンラクが、マーマンゾンビと人魚の軍勢に押し付け倒していく。
「………なにこれ」
「所謂『仲間を呼ぶ』コマンド!マーマンゾンビを一体でも倒さないと、クターニッドの最終形態の体格にも関わる!一体でも多く倒して!」
「………解った、モルド」
「うん!」
「レーザーカジキ!複数体を狙える魔法を使って、マーマンゾンビと人魚達を攻撃してくれ!魔法は
「はいっ!」
『ルゥガァ!!!』
モルドのバフを受けたルストが矢を放ち、レーザーカジキはフレイムクラスターを降らせながら、マーマンゾンビや人魚達を次々と討ち取る。オイカッツォやペンシルゴンを始め、近接職業のメンバーも現れた敵を倒しては次の敵にも同じ事を繰り返す。
クターニッドが行ったランダムエンカウンター……言い換えるなら『真・ランダムエンカウンター』と言える其れにより呼ばれたモンスター達は、現れてから『15秒が経過』すると黒い穴に成ったクターニッドに吸い込まれ消えて行く。おそらく仕留められず吸い込まれた敵が其のまま、クターニッドの食事にされるのは間違いでは無い。
「ウェザエモン・
右手に握るグランシャリオ、真ん中に納められた蒼桃色の宝玉が輝き、ペッパーは
(
晴天流の派閥の中でも其れは、取分『吐息』によって吐き出される空気の振動へ着目し、空気中を満たすマナ粒子を振動させる事により、不可視の攻撃を可能とする技でもある。
彼が再現せんとする
水中というダイレクトに衝撃波が襲い掛かる特性、そして空中及び地上でもあり更には水中としても判定が働く、此のルルイアスの環境。其れ等を存分に活かして利用した、其の奥義の名は。
人間やNPCとノワを除き、敵にのみ届く波長と音域で放つ、ウェザエモンの絶技。其の一喝が、襲い掛かる海の猛者達へと叩き付けられた。
荒れ狂う者共へ一喝