ルストの役目、レーザーカジキの役目、
彼女は夜空を見上げていた。視線の先には土製の巨大な拳に背中からカチ上げられたクターニッド、其れを追う様にして夜空を泳ぐクターニッドのパワードスーツを纏うペッパーと、其の触手に巻かれながら共に往くサンラクの姿。
シャンフロのロボとSFスーツ、更には其の
ふと視線の先にはアラバと名乗った鮫の魚人が、レーザーカジキと秋津茜を連れて来て。レーザーカジキは錫杖らしき杖を手に取りながら詠唱を開始し、秋津茜は例の必殺技を放つ為に待機している。
「すぅ…………ふぅ…………」
ネフィリムホロウのランキング1位・不動のチャンピオン『ルスト』として君臨している彼女にとって、復帰してからのユニークシナリオへの参加、ルルイアスでのレベリングにクターニッドの決戦まで良く持ちこたえたと、手に持つ弓を見ながら思う。
モルドがありったけのバフ魔法で強化したが、其れも永遠には続かない。今の自分が置かれている状況は、ネフホロのミニゲームの一つ『制限時間内で決められた弾数で、決められたターゲットを撃ち抜く射的』だと感じつつ、ルストは弓を構えてコロシアムの観客席を駆ける。
「狙い辛い…………けど、射つ」
『弓矢による攻撃時に命中補正』を与えるという、シンプルイズベストな弓系攻撃スキル『天眼の一矢』起動と共に宙を舞うクターニッドの背中に在る、八つの宝珠の内の一つを狙って射抜く。
魔法弓から放たれた矢は風を切り裂き、光の一閃が宙を高速で飛びながら着弾、バフによって強化された一射が見事に深淵の盟主の宝珠を一撃で砕く。同時に宝珠の在った触手は根元から崩壊し、ボロボロに崩れて失われるのを見た事でルストは確信する─────今の自分なら『八発』有れば、全ての宝珠を破壊出来ると。
「次」
弓矢による射撃時に『貫通力を高めるスキル』たる、『
「次、次、次…………」
『鶴瓶射ち』・『跳ね馬の騎射』・『一矢二鳥』。シャンフロを離れるまでの間に培ってきた弓系スキル達を一射毎に点火、魔力で作られたが故に非物理的な
其れ即ち、凄まじい勢いで連射を可能となった矢達が、クターニッドの背中に生えた宝珠達に直撃し、地面に落ちるまでの僅か数秒の間に次々と破壊していく。
「後、み─────!?」
だがクターニッドは、指を咥えてタダで殺られぬと謂わんばかりに、残された三つの触手の内の二つを振るい翳す。まるで其れ等を強く鞭の様に地面を叩き、跳躍でもしようとしているかの様に。
だが振るわんとした二本の触手達は、自身が振るうよりも速く、根元から『崩れ落ちたのだ』。そして深淵の盟主は自身の背中に着地し、同時に二つの『風』を仮初めの肉体に感じ。
頭を動かして無事な左目で見れば、自身の鎧を纏う勇者と半裸の鮭頭が、各々の剣を抜き放ちながら立っていて。勇者が「クターニッドさん」と言葉を放った。
「貴方の鎧を身に纏ったからこそ、其の触手達は貴方からすれば『軽く』。逆に俺達からは『重く』作用していた。きっと貴方ならば、何処かの局面で『残った触手を使って位置調整を仕掛けてくる』と─────
「まぁ、俺の作戦勝ちって奴だクターニッド。最後にもう一回、遠慮無く土ペロしな」
オーダー通り夜空を泳いで昇り上がったペッパーは、真上を取った瞬間にサンラクを
サンラクは
双刃一閃の衝撃が、クターニッドの巨躯を再び地面へ落とす。衝撃で巨体が跳ね上がる中、魚を囓りまくるサンラクを巨剛触手で胴へ巻いて離脱したペッパーが、言霊を紡ぎて『
「『無重力』」
本来ならば重力によって地面に落ちる筈だった巨躯が、自身と同じ『反転』の
「ルスト、やれェ!」
サンラクの言葉と同時に、ルストが放った空間を射抜く魔の矢が迸り、最後の宝珠を貫き砕く。漸く此処まで至った、此処が『王手』だ。
「レーザーカジキ!」
「秋津茜!」
『さぁ──────ぶちかませッ!』
「四の道は無数への可能性、四の光は夢幻への道筋を示すもの…………。水は渇きを癒し、火は温もりを与え、土は芽吹きをもたらし、風は揺蕩い命を運ぶ」
『門魔法』と呼ばれる魔法が、シャングリラ・フロンティアには在る。其れは特定分野に属する魔法を極めた者のみが習得可能な魔法であり、此の
魔法ギルドに属し、水・火・土・風の四属性を極め抜き振るう魔法使い…………其れを目指してレベリングやクエスト、時にシナリオをクリアしながらプレイしていたレーザーカジキは、ある時『ユニークシナリオ』と出会った。
名を『フォースオブエレメント』。水・火・土・風の四属性の魔法を持つ、一定レベル以上の魔法使い系列職業プレイヤーが対象となる其れは、幾つかの試練と御使いをこなした果てに、レーザーカジキへ報酬として渡された『一冊の魔導書』から習得した魔法────其れが『
「巡り満たす水よ。暗闇を照らす炎よ。生命を育む土よ。音色を奏でる風よ。四の素と輪廻は廻り、歯車は噛み合い、大いなる力の奔流は出で顕る………」
増乗幅響門の発動には、先ず前提条件として『詠唱』を、其れも『完全詠唱』で行わなくてはならない。他の魔法と違って無詠唱による『妥協』を許さず、プレイヤーに対して『フルパワー』以外の能力行使を認めない。
だが此の門魔法の厄介な点は、完全詠唱だけでは無い。詠唱時に『一定のリズム・発声・読み上げ速度』で唱える必要が有り、其の
「水と火は弾きて、土と風もまた弾き。水と土は交わり、火と風もまた交わり。水と風は融けて、火と土もまた融ける。四にして偉大なる素、其の理は我と共に在らん…………!」
しかしながら、レーザーカジキが此の門魔法を成功出来た理由には、一重に『フェアクソ』をプレイし、最終的にはクリアまで至る中で鍛えられた、彼自身の『不動の心』による部分が大きかった。
御機嫌取りの三時間、大陸の端から端への転移、ポンコツ極まるAI等々………襲い掛かる理不尽の数々で、煮えくり変える寸前だった怒りのマグマに、静かに蓋をして落ち着かせる事で、調べて得られた『報酬の三分間』の為に堪え忍び。
其の時に得られた経験が、彼の増乗幅響門発動成功率を飛躍的に向上させる事となったのだ。
「万里を越え、円環の門は開かれる……!潜り抜けし水よ激流へ…!潜り抜けし炎よ爆轟へ…!潜り抜けし土よ鳴動へ…!潜り抜けし風よ暴嵐へ…!雄々しき波動となりて困難を砕く導と成らん━━━━━!【
開かれた門魔法にして、彼の切札。同時に回復していたMPを一瞬で持っていかれた事による、圧倒的な倦怠感が少年の身体に乗し掛かる。
其れでも彼は倒れない──────皆が繋いだ此のバトンを。最後のアンカーたる少女へと託すまでは、絶対に此の身は倒れてなるものかと、彼は誓ったのだから。
「秋津茜、さん……!……御願い、します───!」
「はいっ!」
狐面の忍者少女が前に出た。目の前には門、其の先には触手を失い無重力の中に浮かぶクターニッド、上にはペッパーとサンラクが自分に向けて叫んでいる。隠した呪い刻まれし顔を晒しながら、一生懸命に覚えた印による手の動きを完遂、思いっきり息を吸い込む。
繰り出す奥義の名を『
「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
放たれた天を
まるで極太のコロニーレーザーか何かと、見間違うだけの熱と速さと破壊力を秘めたまま、逃げる手立てを失ったクターニッドへと叩き付けられ。
想像態たる深淵の盟主を。盟主の後ろに在ったコロシアムの観客席を。唯等しく、文字通り。
残響を掻き消して