深淵の盟主は見届ける
レーザーカジキと
其れ即ち、クターニッドを撃破した………という事なのだろう。
「勝った…………のか?」
「一応警戒しておこう、万が一も有る」
『想像態の次段階が有ります!』みたいな雰囲気では無かったので、其の線は薄いとは思うが用心するに越した事は無いだろう。無限潜航で地上へと降り立てば、他のメンバー達もコロシアムへと集合してきていた。
「やぁやぁ、あーくんとサンラク君。二人共御疲れ様だね」
「皆も本当に御疲れ様、一応まだ何か有るかも知れないから気を付けよう」
警戒を続けつつコロシアムを見渡せば、蛸頭ゴリラ菩薩だったクターニッドが崩壊して。そして其の中から現れたのは、クターニッドの本体と思われる魔方陣。
「深淵のクターニッドさん。世界の理を変える絶大なる反転の力と、強靭無類で剛力無双の蛸足を振るう、偉大なる深淵の盟主よ。俺達は貴方との戦いを、決して忘れはしません。俺達の事を
「えっと…………ありがとうございました」
ペッパーの言葉、オイカッツォの言葉の後、魔法陣はゆっくり夜空へと浮かんで行って。ある程度の高さまで昇ったと同時に、全員の頭にクターニッドの声が響く。
其の声は此処まで戦っていた時に聞こえた、形容し難い『嫌悪感に満ちた声』とは違う、まるで『落ち着いた優しい声』であった。
『生命の輝き、
「倒したのかな?」
「………つ、かれたぁ~………」
「ルスト、御疲れ様」
「待て待て待て。深夜帯だし眠いかもだが、何か有りそうだから我慢してくれ」
魔法陣に目や口は無い。見上げる先に居るのは、複雑な模様の魔法陣であり、其れが歯車が回り続ける様に、唯々動いている…………『其れだけ』なのだ。だが『其れだけ』である筈なのに、確かに
其の視線はプレイヤー達一人一人を見て、アラバにネレイスを始めとしてシークルゥ・アイトゥイル・エムルの三羽を、リュカオーンの小さな分け身のノワを見て、そしてペッパーが其の身に纏う
『連なる二つの奇跡。相反する事も無く、共に在る事……
「ん?」
「おっ」
「どうし、ました………か?」
「いや、ちょっとね」
おそらくだが、自分達はクターニッドを相手に『何か条件』を達成した可能性が高い。墓守のウェザエモンの例を挙げるなら『天将王装を装備して、セツナの墓に祈りを捧げる事』で辿り着ける特殊ルート。そして『
だとすればクターニッドの特殊エンディング到達条件は『蛸極王装の復活させて装備し、NPCと一緒にクターニッドを撃破する事』だろうか? そう考えればアラバがルルイアスに居た理由にも説得力が出てくる。
だがよくよく考えてみれば、スチューデとの出逢いがフラグと成り、此処ルルイアスに引き摺り込まれたのも……つまりは『そういう事』なのだろう。
『遠く、遠く……遠くへ来た。星の海は最早遠く……然れど見上げた先の、あの海こそが私の故郷である。星の大海を征く旅人よ……滅べども其の旅路は継がれ続く……。人よ……人よ……偉大なる祖を持つ、其の栄誉を誇れ』
星の海に旅─────此の言葉を噛み砕くなら『元々神代の人類達は宇宙船に乗って、銀河や宇宙を旅していた』と捉える事も出来る。何れ『其の神代の人類が乗ってきた宇宙船』でも出てきそうだが、今はクターニッドを撃破した事を素直に喜ぶとしよう。
そして
『人よ、力を示せし人よ。其の旅路の一助を授く』
「シャア!報酬キタ!」
サンラクの歓喜とほぼ同時、宙に浮かんだ
『我が九の光輝、其の断片を二つ授けよう……』
「九つの中から二つ………か」
何故か『周回要素』の臭いを感じたのは、ゲーマーの勘か或いは気のせいだろうか?周りをクルクルと緩やかに回転する九つの光達、よく見ればアラバの周りにも在る。
此の杯は当然ながら、プレイヤー用にダウングレードしては居るだろうが、近距離の赤・遠距離の橙・スキルの黄色・魔法の黄緑・性別の青・色調の緑・ダメージの紫・ステータスの藍色・アバターの白と、各々の要素を反転可能とするアイテムの価値は、一言では言い表せない程に絶大だ。
青で性別を切り替えれば女性限定装備の神代の大いなる遺産を装備出来るし、白でプレイスタイルが似てるプレイヤーと
他にも土壇場で距離無効の赤や橙を使う事で一時的な無敵状態の確保や、紫によってダメージを回復に転換。緑の色調反転でフィールドギミックを探したり、黄緑や黄による対純魔・対脳筋へのメタを張る事も出来るので中々に面白い。やはり反転とはシンプルかつ、強大な力なのだと常々思う。
そして─────ペッパーには『ある確信』が有る。おそらくクターニッド相手に『其れが出来る』という確信が。だがペッパーが口を開くよりも早く、先に動いた者が一人居た。
「タコさん! これ『四つくらい』貰えないんですか!!」
「秋津茜!?」
「茜ちゃん!?」
「秋津茜さん………?」
秋津茜だった。何か根拠や策が有る訳では無いが、其の度胸は一体何処から湧き出しているのかと、此方が聞きたいくらいの度胸を以って、彼女はクターニッドに『直談判』をしたのだ。
いや、寧ろ
『…………』
「せめて『三つ』欲しいです!」
「秋津茜、お前……勇者かよ」
沈黙によって、静寂が訪れた。プレイヤー達は『さっきまで殺し合った相手に、よくそんな要望言えたな』と驚愕し、NPC達は『神にも等しい相手に、よく気軽に話し掛けられるな』と驚愕する。
そしてペッパーはクターニッドという『存在』を考えれば確実に『通る』と、此の『交渉』は成功すると睨み。
『三つ授けよう』
完全に予想が的中した。
「やった!ありがとうございます、タコさん!」
「嘘だろオイ!?」
「嘘でしょ!?」
交渉が成功した理由…………其れはクターニッド自身が『TRPGのゲームキーパー』の様な、そんな立ち位置に立っている事。そして『最大の山場を越えた事で、多少の要求ならば通る程に寛容になっている』とペッパーは予想したからだ。
ルルイアスというクターニッドが用意した『盤上』を、招かれた
此れはあくまでも、クターニッドとTRPGの特性を踏まえただけでしか無いので、正解は『世界の真理書』を見なくては解らないだろう。だが其れ以上に、秋津茜というプレイヤーがヤバイ。天運と天賦の才能の合わせ技というべき、そんなリアルラックの完スト具合がヤバイ。
「何をどうやったら見付けられるの」と言いたくなるような隠し要素すら、発見出来るゲーマーは確かに存在する。特定の場所・特定のアイテム所持・特定の呪文・特定のアクション──────そんな『特定』の多重奏を突破し、隠し要素を見つけるタイプだろう。
(というか俺も、インパクト・オブ・ザ・ワールド見付けてるじゃん。秋津茜の事言えないわ)
「いや、まさか直接値切りするとは思わなかったが、でかした……と言っておこう……うん。よくやった秋津茜」
「はい! 以前サンラクさんがリュ……リュカ、ローン? リュカ
「リュカ
『グルッ』
そう考えれば、サンラクも人の事が言えなかった。皆の視線がブッ刺さり、青筋を浮かべている事から『おのれリュカオーン』とでも、心で叫んでいるのか。
何にせよ秋津茜のファインプレーで、報酬が更に一つ増えたので九つ在る杯を見る。一つは確定として、個人的に気になっていた杯が『二つ』有るので、残りはコレとコレを選ぶ。
そして────嗚呼
「皆、直ぐに立って!クターニッドさんの
『!』
ペッパーが叫び、周囲警戒を開始し。墓守のウェザエモンの討伐に関わった、サンラク・ペンシルゴン・オイカッツォ・
ルルイアスの【青】が蠢いた。
帰るまでが遠足だ