鳴り響く鐘の音
カラーン……!カラーン……!
シャンフロの世界の各地にて、黄金の鐘楼が現れては荘厳なる鐘の音を深夜に轟き鳴らす其の光景を、深夜帯を主戦上とするプレイヤー達は見上げていた。
約二ヶ月前、プレイヤー達に衝撃を与えた『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン討伐』時の其れと同じである為に、ある者は「いやいやまさか………」と身構えて、またある者は「大型アップデート内容決定か」と淡い期待を抱き。
公表された内容を前に、またしても。そして等しく。衝撃を受ける結果となった。
『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様に御知らせ致します。現時刻を持ちまして、ユニークモンスター………『深淵のクターニッド』の撃破を確認しました』
「マジで!?」
「ウソだろオイ!?」
「深淵のクターニッド!?」
深淵のクターニッド……………以前であれば、ランダムエンカウントするリュカオーンやジークヴルムに次いで広く名が知れ渡っていた、ユニークモンスターの一体。
大型アップデート後の新大陸と、今自分達が冒険している大陸の中間の海底にいる『らしい』という事以外、其処へ『どうやって行く』のかまでは判らない状態だった存在が、今宵此の瞬間に討伐された。
そして其の栄誉を獲得したプレイヤーの中には、ある人物の名前が在る。
『討伐者プレイヤー名は『ルスト』・『モルド』・『アーサー・ペンシルゴン』・『
さらにユニークモンスターの討伐に伴い………ワールドストーリー【シャングリラ・フロンティア】が進行しました』
「またペッパーだ………」
「最大高度が討伐に関わってるのか……」
「ペッパーさぁ…………」
ペッパー…………夜襲のリュカオーンにより右手に
そして今此の瞬間、彼は深淵のクターニッドを撃破したという新たな伝説を、シャングリラ・フロンティアという世界へ己の名を刻み付けたのだ。
だが、其れ以上にプレイヤーの間で物議を呼び起こしたのは……………
「クラン:
「って事は、既にクターニッドへの行き方を手にしてたって可能性が……?」
「いや、じゃあ何で
「ルスト・モルド・秋津茜ってプレイヤーは知らないが………レーザーカジキは確か胡椒争奪戦争に出没してたプレイヤーだ」
「廃人狩りに人斬り、
ウェザエモン討伐を成した五人が作ったクラン、其のクランメンバー全員が今回のアナウンスで
そして当然ながら、彼等彼女等との接触を果たさんと動き出す者達も………………。
シャングリラ・フロンティア内・某エリア。
其処では『あるクラン』が翌日に控えた戦いに備え、訓練をし終えて休息を取っていた。クランの名は『SF-Zoo』………シャンフロに存在する動物やモンスターを生態含めて、徹底的な観測と観察を行って触れ合う事を活動目的としている。
当然ながらシャンフロ全域にユニークモンスター・深淵のクターニッドの撃破報告アナウンスは流れていた為に、彼等彼女等も其れを耳にする事になった。
「………………………………………」
「あ、あの…………
そして呼び出したのは
「皆。ちょっと私
そうしてフクロウを一羽、二羽、三羽とレーザーカジキに送り、飛んだ方角を見ながら彼女は走り出して。他のメンバー達は互いに疑問符を浮かべ、首を傾げたのだった……………。
怒髪衝天という言葉がある。
怒りのあまり髪が逆立ち天を衝かんばかりの怒りの感情……不倶戴天とは違うものの、最終的には『お前を殺す』といった殺意で落ち着くという意味では、似たような言葉では有る。
そして現在、此の瞬間。クラン:黒狼の中で唯一人、髪の毛が蛇となって暴れ狂いそうと思える程の怒りを抱き、自身が座るテーブルに『ヒビ』を走らせた人物が一人居た。
クラン:黒狼の団長にして、
「あ、あの……『何だ』あ、いえ!な、何でも無いですッ!?」
表面上は冷静に見えて、しかし冷やされた感情であり。触れれば肉を焼き尽くす『熱さ』は無く、触れるだけで肉を微塵に斬り刻む『鋭さ』を内包した視線……………其れも『眼球だけを動かしての返事』を前に気圧された団員はそそくさと撤退。
大慌てで安全圏まで逃げ戻った彼は、小声で他メンバーと相談し始めた。
「無理無理無理無理! リアル上司より怖いわ?!」
「頼む! 今居るメンバーの中で、団長にコミュニケーションできるのお前しか居ないんだって!」
「壁タンクのお前が前に出ろよ!俺達を守って!」
「ほら、俺は精神攻撃系の対策してないから……さ?」
「ちょっと!?「じゃあ魔法職に行ってもらおう」みたいな顔でこっち見ないで!?」
クラン「黒狼」では現在、ほぼ確信を以って語られる噂がある。『
二人の関係は決して『悪く』は無かった。多少強引なれども無茶をしない程度で団員達を引っ張っていくサイガ-100と、其れを火力面で支えるエースにして切札のサイガ-0。
端から見ても良好だった二人の関係は、此処最近のサイガ-100の様子や反応の変化が、如実に現れていたのだ。まるで『常に刃のような冷たさを纏い、サイガ-0の話をすると露骨に機嫌が悪くなる』…………といった具合に。
人間関係という物は、永遠に『仲良し』という形では続かない。外的要因や内的要因で突如『親密』や『破綻』、もしくは『終焉』等も有り得る事態だ。
姉妹喧嘩等と今更格別に珍しいものでも無いだろう………。そう結論付けて事態の沈静化を謀ろうとしたメンバー達だったが、よりにもよって今日此の瞬間に出されたのは『同盟関係に有るクラン:旅狼がサイガ-0を引き連れて、ユニークモンスター・深淵のクターニッドを撃破した』という、あまりにも間の悪過ぎる
「コレ………不味い雰囲気だよね?」
「解る、ちょっとじゃ済まない事になりそう」
「………黒狼、どうなるんだろう………」
シャンフロのトップクランに所属するプレイヤー達は、素人が大半という訳では無い。シャンフロが『初MMO』なサイガ-0だったり、団員達含めて誰も知らないが『VR初挑戦』のペッパーと、驚異的な才覚を発揮する手合いが存在する。
しかしながら大抵は『他MMOを経験者』が多いし、ゲーム内の『マナー』や『行動』に責任や、正しい認識を持っている。そして当然ながら、ゲーム内における『人間関係の悪化』が終焉の始まりと成る事も、少なからず心得ている。
クランやギルドは仲良しの組合以前に団体行動であり、例え優秀なプレイヤーが幾人所属していたとしても、自分達の
だが其れでも、
何よりもトップクランの黒狼が、旅狼というポッと出のクランに、ユニークモンスターを先んじて攻略されているのも、非常に不味い以外の何物でもない。
トップクランであっても……トップクラン『だからこそ』。其処には非常に『面倒臭いプレイヤー達』が居るのだから………………。
シャンフロ、某所。此処では現在、あるプレイヤーが一人クエストを受けていた。其のクエストを漸く終えて『盗賊ギルド』へと帰還した彼は、ユニークモンスターの討伐アナウンスを聞いていた。
「アズサ兄………姉御……………」
彼の名は『オルスロット』。今は亡きPKクラン・
(『相手の動きを見る』事。ずっと俺が解らなかった事。そして俺のビルドは『敵の攻撃を耐え忍び肉薄戦で勝つ』事。………今なら俺がやりたかった事が、ちゃんと出来る………!)
己を見詰め直し、ずっと解らなかった『答え』に辿り着けた事を、何時か二人に見せて見返してしてやろうとし。深夜になったので今日は此処までにしようと、ベッドルームへ向かうべく歩き出し。
『もし、其処の者よ』
「ん?」
オルスロットが見たのは『メンポを着け』、あからさまに『忍者』と思われる装束に身を包む、今まで盗賊ギルド内には居なかった『NPC』。
『御主、『忍者』にならないか?』
「……………は?」
新たな出逢いは、突然に訪れた。
各々が修羅場、青年は出逢う