アイテム周回という言葉がある。古今東西のゲームにおいて其れは、ある種の苦行としてゲーマーの中にはトラウマとして刻み込まれていたり、己の物欲センサーに引っ掛からないよう無心での戦いだったりと、あまり良い意味が持たれない。
かくいうペッパーも昔遊んだ某RPGにて、裏ラスボスに唯一勝算が見込める最高レアの装備と、名実共にゲーム内最強クラスの武器を作らんとして、朝昼晩と鉱山へ行ってはツルハシ使ってエンヤコラし続けた記憶がある。
ただ、其の素材はゲーム内で都市伝説レベルのドロップ確率を誇り、アイテムドロップのバフを何重に重ねて、装備も専用の物を揃えて初めてスタートラインに立つことが許される。
しかも其れが採掘出来る場所まで片道40分掛かる上、1回の挑戦で1個入手出来ればラッキーという、開発陣営の頭の中がどうなってるのかと、正気ではいられない確率であった。
最初はポジティブに意気揚々とやっていたが、ドロップ確率による終わりの見えなかった中盤以降、好きなアーティストの音楽を聴いて虚無感を誤魔化し、終盤に入る頃には採掘しながら裏ラスボスの攻撃パターンや戦術をWikiで調べては頭に叩き込む平行作業で規定数を確保。
潤沢に揃えた回復・復活・バフアイテムと、カンストに至らせた仲間と共に、裏ラスボスとの1時間以上に渡る死闘の末に、真のエンディングとスタッフロールが流れた時、初めて此の暗黒地獄から解放され、此処までやってきた甲斐が有ったと満足感に満たされた気がした。
「ファステイア坑道で鉄鉱石とか採掘資源を色々掘り出せたし、一部は売るとして武器や防具を新しくしたいな」
シャンフロからログアウトし、休憩がてら水分補給とカロリーメイトを噛る。
「幸運が10でも出身の恩恵でドロップが旨かった……じゃあもう少し幸運に振ったらどうなるだろう?
あとは敏捷も高めて、強奪しようとしてきたプレイヤーから逃げられる様にはしときたい」
梓が考えるキャラビルドの方針は、敏捷・筋力・スタミナを中心に、一部を技量・器用・幸運に振った低耐久高速機動仕様。
後衛職のバックパッカーが持つ特性を引き出しつつ、戦闘では他者の足手まといに成らぬよう立ち回るスタイルを目指す事にした。
「ビルドの方向は決めたし、シャンフロに戻るとしましょうか」
トイレを済ませ、梓はVR機材を頭に装備し、起動する。シャンフロの中の成りたい自分を目指すため、彼は再び歩み出す。
「ごめんくださーい」
ファステイアの宿を出たペッパーは、先ず最初に同街内の武器屋を尋ねた。
「おう、あんちゃん。何か用か?」
「はい、武器を作って欲しくて。材料は此方にあるので作れる武器と装備が作れたら、残りは売りたいです」
アイテムインベントリから取り出されたのは、鉄鉱石と銅鉱石が各々10個程、そして白磁石と呼ばれるレア物を2つカウンターに乗せた。
「おぉう…随分手に入れたじゃねぇの。おまけに白磁石たぁ、中々やるじゃねぇか」
「これで鉄製の武器と、軽くて防御を高められる装備を作れますか?武器の方は短剣で」
「ちょいと待ってな……武器ならコイツで、装備なら…こういうのがあるが、どうだい?」
店主の鍛冶師が画面に出したのは、銅鉱石と白磁石と鉄鉱石を用いて作る『
スロットとは、プレイヤーの頭・胴・両手・腰・脚に各々存在する拡張機能であり、初期段階では各部位で1つずつしか無いものの、レベルアップを行う事で解放されていき、装備時の恩恵を受ける事が出来る。
「じゃあ其れで…あ、先に必要な分以外売ったらマーニ足りますかね?」
「おう、それなら出来るぜ。やるか?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
鉱石資源を換金して白磁の短剣と鎖帷子を購入したペッパーは、出来るまでの間に時間を潰しといてくれと言われたので、其の間にもう一度ファスティア坑道でレベリング兼ねた金策を行うことにしたのであった。
「よっこいせーのっ!!……銅鉱石か、石ころよりは良い方だな」
ファステイア坑道へとやって来たペッパーは、坑内の採掘ポイントを転々としながら奥へと進んでいた。理由としては2つ、1つは奥地の方がより良い鉱物が採れる可能性がある事、もう1つは探索家の子の恩恵を得るための未開地への進出である。
「ステータスの幸運値は上がってないが、体感銅鉱石の採掘が良くなってるか…?探索家の子様々だな」
最初に訪れた時には石ころが大半を占め、鉄や銅のドロップ率はあまり良くなかったが、2度目の探索では若干ながら銅の出現率が伸びた気がしている。
「っと、到着だ」
ファステイア坑道・奥地。其処には沢山の鉱脈が無数に枝分かれて発光し、回りの鉱脈も輝く万華鏡を覗くかのような、自然が産み出した神秘の光景が其処には在った。
「うおぉ…!綺麗…」
採掘すればさぞかし貴重な鉱物資源が手に入るだろうと、期待に胸を踊らせるペッパーだったが、其の心中にはとある疑問があった。
(見た目沢山の鉱脈が在るのに、プレイヤーどころかモンスターも居ないんだよな…)
普通、此れだけの鉱脈があればプレイヤーなら食い付くのが当たり前の筈。そして其れを阻むモンスターが居てもおかしくはない。
警戒し辺りを見回してみたものの、ボスバトル勃発の気配は愚か、アクションすら何もなかったのである。
「ま、いっか。起きないなら起きないで、サクッと採掘してファステイアに帰ろう」
ツルハシをインベントリから取り出し、良さげな鉱脈の1つに狙いを定め、一気に振るうペッパー。しかし彼の耳に、今まで掘ってきた鉱脈とは違う『鈍い音』が響いた。
「………ん?今なんか――――」
其の時、背中を走るゾワリとした悪寒が襲い、ペッパーは其の場を即座に離れた。其処へ巨大な『何か』が真っ直ぐに、ペッパーが先程まで居た場所を塗り潰し、通り過ぎていく。
「な、なんだコイツ……!」
未知の存在の出現に際し、ペッパーは直ぐ様ツルハシをアイテムインベントリに収納し、スイッチする形で護身用ナイフを右手に装備、厳戒態勢を取る。
砂煙が晴れた暗闇の中に居たのは、全高3m全長30mには迫ろう鉱脈の岩肌を連ねた鎧に護られ、百足の如き無数の足を生やした巨大な
ファステイア坑道内では一番遭遇率が低く、しかし倒した際の経験値と、ドロップした鉱物を換金にすれば財布も膨らむというレアモンスター『
レアモンスターエンカウント
モンスター名
出現地:ファステイア坑道・奥地
推奨レベル:5以上
推奨パーティー数 2人以上
普段はファステイア坑道の奥地で鉱脈に化ける形で岩肌に擬態し潜んでいる。ツルハシの音が通常よりも鈍い鳴り方をしたなら、直ぐに其の場から離れる事。初撃に右左ランダムに、採掘を行ったプレイヤー目掛けて丸呑みにしようと、口を開けて突進してくるが、急な方向転換はしないためバックステップで十分回避可能。
表面や無数の足は鉱物の鎧で護られているため、斬撃属性の武器は関節か体内以外効果が薄く、打撃属性の武器か魔法属性の攻撃が推奨される。
またガロックワームは『自身に最も近いプレイヤー』を狙う習性があり、1人が
様々な鉱物を喰って其の身に纏っているため、討伐出来たのならば、レアな鉱石を手にすることも夢ではない。
見た目は『ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン』で登場したモンスター『