ペッパー、6日振りのシャンフロへ
※ピーツの毛色を修正しました
ブシカッツォとのアーケードゲーム、ビルディファイトを終えた日から2日後。シャングリラ・フロンティアに実に6日振りのログインを果たしたペッパーは、ベッドの上で思いっきり体を伸ばして立ち上がる。
「っし!およそ1週間振りのシャンフロやりましょうか!」
先ずは兎御殿からサードレマへ行き、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部で、沼掘りの清歯を用いて作った、ペンシルゴンへの詫び品たるネックレスを受け取る。そしておそらく、投擲玉の売れ行きも其処で聞けるだろう、とにもかくにもアイトゥイルを捜さなくては話が始まらない。
「アイトゥイル~!居ませんか~!何処ですか~!」
大声で彼女を呼んで耳を澄ませてみたものの、返事や反応は無いまま。彼女自身風来坊ならぬ風来兎である為、また何処かで酒を飲んで、風が吹くまま、ゆるりゆらりと旅路を歩いているのだろうと、自分の中でそう思うことにする。
「じゃあ、どうするかな…兎御殿の探索でもしようかな?」
ティークやビィラックの所に顔を出しても良いが、他の場所も行ってみようと考え、ペッパーはアイトゥイルを待ちながら、兎御殿の中を歩いてみる事にした。
「やっぱり広いなぁ、兎御殿。…造りも隅々まで細かいし、シャンフロ開発陣の熱量が伝わるなぁ……」
兎御殿を散策しながら、廊下の木目や襖の肌触り、質感といった感覚を肌身で感じるペッパーは、辺りを見回し歩いていく。
「此処等辺は畳が続くエリアか…あ、そう言えば靴脱ぐの忘れてた」
装備枠から隔て刃の皮ズボンを外そうかと考えたが、よくよく思考すると外した場合、更に格好がおかしな状態になってしまうと至ったペッパーは、装備解除を諦めて合掌してから畳に足を踏み入れる。
「んお?ペッパーやんけ、どないした?」
そんな時、畳が敷かれた区画の一角に布を敷き、様々な雑貨品を露店のように並べた、1羽の黄茶毛色のヴォーパルバニーが其所に居た。
「あ、初めまして。えっと、名前を聞いても良いですか?」
「オラは『ピーツ』って言うんや。頭から聞いた話やと、アイトゥイルねーちゃんが世話しとるっちゅう、夜の帝王の目ェ切っ裂いた人ってな」
「えぇ、はい。其の通りです…」
やはりというか、リュカオーンの眼を切り裂いた事が兎御殿のヴォーパルバニー、延いてはラビッツ全土に知れ渡っている事実は大きい。
理不尽の権化相手に、自分の敗北が確定した未来へ抗い、己の存在を夜襲の瞳に物理的に刻み付けた事が、こうも大事になっていると改めて実感する。
「聞くにペッパーは、バックパッカーっちゅう職業なんよな?何か良い品持ってたりするん?」
と、ピーツが商談らしき話題を持ってきた。バックパッカーは他者との取引を行う事もある職業、露店商らしきピーツからすれば、自分を商人として品物の取引が出来ないか、そう考えているのだろう。
「うーん…すいません、今売れるものが無くて…。良い品物が手に入ったら売買出来ますかね?」
「ありゃ、そら残念やね。売買に関しちゃ、品物次第にはなるけど大丈夫やで」
「ありがとうございます、其の時は宜しくお願いします」
兎御殿で店を出すという事は、相応のアイテム等が取り揃えているのだろうと期待し、ペッパーはピーツと別れる。そして其の足でまた、兎御殿の散策を再開しようとした時だった。
「ペッパーはん、ようやっと戻ってきたさね?」
「どぅおわ!?びっくりした!?」
ピーツの後ろの窓から声が聞こえて、直後アイトゥイルが現れた。
「んおー、アイトゥイルねーちゃん。数日前にぶらぶら旅してたんに、いつの間に帰ってきたんか」
「山彦みたいに、ペッパーはんの声が聞こえたのさ…。おとんから御世話係を任されたさに、ワイも無責任で放っぽるほど――――――柔さないよ?」
アイトゥイルの細目が僅かに開いた時、背筋がゾクゾクっと震えた。漫画やらアニメやらゲームでもそうだが、普段温厚で細目なキャラが何らかの理由で開眼する時程、強いものは無いとはよく言われる理由が、少し理解出来た気がする。
「で、ペッパーはん。今日は何処に行くのさ?」
「えっと、サードレマのエンハンス商会・露店通り支部に行って、フレンドに渡すプレゼントを取りに。其の後はまだ決めていません。ゲートお願いします」
「分かったさ。じゃ、行きましょか」
兎御殿の壁にアイトゥイルが扉を創り、開かれた景色の先へ1人と1羽は足を踏み入れる。
サードレマ・露店通り付近、路地裏。
アイトゥイルが形成した扉を出て、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部の近くにやって来たペッパーは、彼女をマントに隠して人の往来を確認し、サササッとエンハンス商会へと滑り込む。
「あ、ペッパー様!い、いらっしゃいませ!」
そんな彼に、店員の1人がリュカオーンの呪いに震えながら、声を掛けて。他の店員が直ぐに奥へと走っていく。数十秒後、最初に出逢った時に沼掘りの清歯をネックレスにする事を奨めてくれた女性が出て来て、手には小さな箱を持っている。
「ペッパー様、よくいらっしゃいました。此方が加工商に依頼しました、沼掘りの清歯を用いたネックレスです。どうぞ、御拝見下さいませ」
「ありがとうございます、拝見致します」
箱を開くと、現実のチェーンタイプのネックレスであり、中心には勾玉の形に加工された沼掘りの清歯が、真珠のようにキラリと光っている。
早速、彼はネックレスの性能を確認してみた。
清歯のネックレス
沼掘りの希少部位、清歯を用いて創られたネックレス。清廉潔白を象徴する御守りとして、女性から高い人気を持つ一品
装備した者の罪が深く、咎を重ねる程、其の清なる白は血と黒でくすみ、其の業を白日の下に曝すであろう
カルマ値の低いプレイヤーが装備すると、最も高いステータスに3%の上昇補正を追加する
カルマ値の高いプレイヤーが装備すると、最も高いステータスに3%の下方補正を追加する
(うわあああああああああああ!!???完全にやっちまったあぁあああああ!?!?プレイヤーキラーのペンシルゴン相手に、こんなものをプレゼントしたら、此方は何されるか解ったものじゃないよ!!?最悪だ!?よりにもよって、絶対最悪なプレゼントになるだろコレェ!?)
「ア,アリガトウゴザイマス。ダイジニシマスネ………」
地雷所の話じゃ済まないアクセサリーに、冷や汗ダクダクになりながらも、平静を取り繕ってアイテムインベントリの奥に仕舞うペッパー。と、女性が自分の目の前で深々と頭を下げて言ったのである。
「ペッパー様。この度は私達の商会に御協力いただき、感謝しか御座いません」
「………………へ?」
真剣な話の雰囲気を感じるペッパーに、女性は御礼と共に感謝の言葉を紡ぎ始める。
「エンハンス商会を利用する、開拓者様の方々から『漸く沼掘りを倒して、先に進むことが出来ました』との、感謝の言葉を始めとし、様々な投擲玉によって苦難を切り開く事が出来たという『声』が届きました。
此れもペッパー様の御尽力有っての事。本当に、本当に………ありがとうございます」
そうして目の前には、クエスト完了のリザルト画面が現れて、ペッパーは不安と期待を織り混ぜながらチェック。書かれていた内容に、彼は心の中でホロリと涙を流した。
『エンハンス商会は新たなる道具を産み出した』
『エンハンス商会から多大な信頼を勝ち取った』
『特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】をクリアしました』
『称号【投擲道具のパイオニア】を獲得しました』
『称号【エンハンス商会御用達】を獲得しました』
『新たな技術がフロンティア中に広まった』
『フロンティアのエンハンス商会並びに一部の道具屋で【消費アイテム:投擲玉】が追加されました』
『アイテムカテゴリー【投擲玉】が解放されました』
『特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】を受注しますか?』
『YES』or『NO』
(うん、まぁ知ってた……知ってたよ……。段階式解放型クエストって、予想してた時点で大体こうなる事くらいはさぁ………。
嗚呼もう、俺の行動一つ一つホント責任重大だぁ泣きたい………)
1つの戦いが終わり、新たな戦いが始まる。ペッパーの開拓者人生は、またしても安寧は訪れる事はなく、喧騒と激動の怒濤に呑まれていく。
世界は未だ進まず。
其れでも、人の想いは重ねて積もり、軈ては世界を動かす力となる…………
次なるクエストが始まる