此処からはハイライトだ
雲上流編の雲海地のエリアボス、アイシクル・シープ。雲を毛皮として纏い、角を媒介として空気中の水分とマナを取り込みながら氷結させ、天然の砲弾を産み出し放ってくる。
弱点となる火属性による攻撃も水を操って防いで来る上に、此のボスは体力のラインが一定を切ると露骨にプレイヤーから距離を離して、雲に隠れて氷結砲弾を放つ『引き隠り狙撃こと芋スナ化』してくるという厄介極まる難敵である。
「アイシクル・シープ、お前さんは中々の強敵だった。
緋色に燃える身体で雲を掻き消し、雲を焼かれて払われた事で攻撃手段を失い、アイトゥイル・ノワによって首筋を噛み千切られ、斬り落とされた氷の羊が大地に横たわると同時にポリゴンが崩壊。
アイシクル・シープの表皮と巻き角がドロップしたのを確認して、撃鉄を解除してからアイトゥイルの頭を撫で撫でしつつ、ノワにはティークが捌いた魚の切り身を与え、撫で撫でを行い。
そうしてアイトゥイルをコートに、ノワを影に擬態させ、ペッパー達一向は夜空に成りつつある空の下、シャンフロ第十の街にして、大陸最高高所の街たる『テンバート』へと到着したのだった………。
テンバートにてランドマークの更新を行い、宿屋にてセーブ&ログアウトを行ったペッパーは現実世界の梓に戻りつつ、今日の夕食はラーメンを作る事にした。
先ずは冷蔵庫の野菜室から人参・ピーマン・玉葱・もやし・貝割れ菜、冷蔵庫からは麺を一玉分と醤油ラーメンのスープの元、冷凍庫から冷凍豚挽き肉を取り出し。
野菜は一人前分切りつつ、残りは野菜室に戻して、フライパンと鍋を取り出して、フライパンには油を敷きつつ、鍋には茹でる分の水を加えて加熱。豚挽き肉を先に炒めて皿に移し、其の後に人参・ピーマン・玉葱を炒めて、もやしと豚挽き肉と合わせて炒める。
沸騰したタイミングで麺を投入して湯掻き、丼に付属のスープの元を入れ、適切な歯応えとなった所で火を止め。丸底の鉄笊を使って軽く湯切りを行い、スープの元が入った丼の中に入れて湯掻きの汁とゴマ油を一匙アクセントに加えて。
最後に挽き肉の野菜炒めと貝割れ菜を添えれば………。
「…………よっし、完成だ!梓流『五種野菜の醤油ラーメン』!」
スマフォで写真を撮影、いただきますと合掌して熱々の麺を啜り、野菜をスープに浸して食べる。敢えて生の状態の貝割れ菜がピリ辛のアクセントとなり、胡椒や辣油を加えずとも野菜を取れる小技だ。
今回はスープまで飲み干し、十分で完食して御馳走様でしたと合掌。食器と調理器具を洗い、トイレを済ませてシャワーを浴びた梓は、寝間着に着替えて布団を整え直し、再びシャンフロへとログインする。
「さぁて、シャンフロ頑張りましょうか。というかログアウトしても、青の聖杯の効果は切れてない………か。本格的に一回死んでリスポーンしないと駄目なんだ」
「ペッパーはん!」
『ワゥル』
テンバートの宿屋。ペッパーとして
「やぁ、アイトゥイルにノワ。良い子にしてた?」
「はいさ」
『クゥン』
アイトゥイルが頭に、ノワが胡座で出来た空間に収まり、ペッパーは開始早々サンラクにEメールアプリを使って、何処に居るのかを確かめる。其れから数分後、サンラクからのメールで彼は休憩を挟み、さっきまでフィフティシアにて他の開拓者達に追い掛け回されたらしく、エムルと共にイレベンタルへとゲート移動を行ったのだとか。
「えっと………『サンラクへ。俺達も此れから、イレベンタルへ向かう。念の為に時間差でイレベンタルを出つつ、
サンラクにEメールを送り、ペッパーは其れから十分程アイトゥイルやノワを撫で撫でしつつ待ってから、アイトゥイルにイレベンタルへのゲートを繋ぐように頼み、補充したマナポーションと濁り酒を渡して。其れを受け取ったアイトゥイルはゲートを開き、ペッパーはアイトゥイルをコートの中へ隠し入れ、ノワを自身の影に擬態させた後、扉を開いてイレベンタルの路地裏へと転移する。
夜の時間帯になった為に人通りは夕方の比では無い物の、逆に人が多くなったからこそ動くには丁度良い時間であり、ペッパーは其の脚で無果落耀の古城骸へと続く門へと向かって行く。其の途中でもやはり女性プレイヤーから声を掛けられたり、挙句人生初の軟派に遇い掛けたりと、青の聖杯の威力の凄まじさに内心ビビり震えながら、何とかイレベンタルより脱出。
人の気配が近辺に無い場所まで移動後、ノワの影擬態を解除及びアイトゥイルをコートの外に出し、物陰に隠れながらサンラクへEメールを送信して情報共有。其れから数分後、サンラクがエムルを頭に乗せてやって来た。
「ようペッパー………って、青の聖杯使ってるのか」
「あぁ。何故か女子プレイヤーから声掛けられたり、挙句男子プレイヤーから軟派され掛けた」
「あ~………女子受け良さそうだもんな、其の見た目」
ライノベレーの帽子・黒コートを纏う其の姿は、性別反転によって益々アダルティさがマシマシとなっており、ヒロイックなプレイスタイル故にベタな台詞を吐こう物なら、女プレイヤー達を問答無用でノックアウトしに来るだろう。中身は男ではあるが。
無事に合流を果たした二人と二羽と一匹は、目的地を目指して進み続け────────。
「到着、だな」
「此処か」
外壁は戦闘なのか衝撃なのか、おそらくは外的要因によって破壊され、原型こそ輪郭を持てどもズタボロになった城が建つ。パーティーはエントランスだろう正門を潜り抜けて、城内へと足を踏み入れる。
すると薄暗い城の内部………先ず間違い無く『神代時期の建物』だろう内部は、来客を『もてなす』が如く照明を灯して、廊下やエントランスを明るくしてきた。
「わわっ!?」
「明るくなった………のさ」
「どうやら外郭は壊れてても、施設自体はまだ『生きてる』みたいだな」
「設定的に『神代時代の遺跡を大昔の国が城として使って、何やかんや有って滅びた』……そんな感じかね」
「はいな、確か『とうーいつせんそー』………?だったかで使われてたって、おとー……コホン!頭から聞いた事が有るですわ!」
ライブラリに質問すれば色々と答えてくれるだろうが、多分数時間の長話になるとは思う。話を聞くのは嫌いでは無いのだが、人間という生き物は自分の興味の無い文言を、脳が受け付けないように解釈する生物でもある為、短く簡潔に纏めてくれた方が助かったりするのだ。
「多分、可能性が有るとしたなら『地下』………だよな」
「だろうな。先ずは地下に続く穴や吹き抜けを探そうか。後レイ氏から聞いたが『コントゥアル・ナイト』なる、固定エンカウントの『線画の騎士』が居るらしい。何でも魔法を吸収して、自分を強化するとか」
「純魔御断りか………俺とサンラク、アイトゥイルとノワで前衛を張って、其の騎士を倒そう」
作戦は決まった、一向は此の城の地下に在るだろう『三つのΔ装置』を探す為、探索を開始する。
「あの人、格好良いなぁ…………」
「というか、あの半裸誰よ?変態?」
「あ、行っちゃった……というか速!?」
「兎ちゃん達に黒いバディドッグ連れてたね……」
「こんな時こそ、他のプレイヤーさん達に聞いてみようよ」
「そうだね!スクショも撮ったし!」
彼等は知らない。
二人の気付かぬ場所で、新たな問題が起きようとしていたのを…………。
火種は何時何処から出るか解らない