此れは世界を調える神と、世界を創りし神の話
ペッパーが特殊クエストを攻略し、次なるクエストを解放した、ほぼ同時刻………。
現実世界にあるシャングリラ・フロンティアを開発したユートピア社では、地下10階にある女性がやって来ていた。黒のショートヘアに研究白衣と黒のミニスカートを着け、黒の女性物の靴を履いている。
彼女は『原典閲覧室』と呼ばれる大部屋の前に在る、認証装置の前に立って社員証を翳し、指紋認証と網膜認証の三重認証を行い、ロックが解除された扉の先に歩いていく。
「…………おい『
彼女の名は『
「何よ天地。私が何か変なことでもした?」
「お前の場合は目を離すとシナリオやら何やら書き換えに走るから、私が目ぇ付けとかないと直ぐに暴走するだろうが」
「此の『私の世界』で、おこぼれ貰って生きてる様な寄生虫には、決して言われたくないわ」
「其の私の世界とやらのゲームバランスさえ、お前じゃ『マトモ』な調整出来ねぇから、私がやってんだよ」
「言ったわね…!」
「あぁ色々言ってやるよ…!」
額同士をぶつけ合い、今にも爆発して喧嘩が始まりそうになる。其の時だった。
ピロリン♪『自動送信メール1件』
ディスクトップに自動送信メール1通が届く。創世は律を無視して、直ぐ様ダブルクリックで其の内容を確認する。
『ユニーククエスト:【インパクト・オブ・ザ・ワールド】
クリアユーザー:ペッパー
称号【沼鮫の鎮圧者】【覇音を成した者】【種族は違えど志は共に】【投擲道具のパイオニア】【エンハンス商会御用達】を獲得。
シャングリラ・フロンティア内、全エンハンス商会及び一部道具屋のアイテムカテゴリー【投擲玉】の
「…………………嘘でしょ」
ディスクトップに表示された、ユニーククエストの第二段階クリアの報せに、創世の表情はより険しくなる。当初想定していたクリア日数を、此のユーザーは圧倒的なスピードで攻略してしまった。
「何々、ペッパー…?………あぁ、コイツだよ。私が話したかった、ユーザーってのは」
其の後ろから、表示された画面を見た律は当初の目的を果たす為に、創世に言った。
「夜襲のリュカオーンの『AI』は、お前の要望通り……『前衛職』にしか
「じゃあ何で、私に聞いてきたのよ」
創世の疑問に律は、ただ存在する事実を言い放つ。
「此のペッパーって奴は、メイン職業がバックパッカー。……つまり『後衛職』なんだよ」
「……………………は?」
沈黙と静寂。そして…動揺。
「そんな筈無いでしょ!?私の可愛い、夜闇の支配者のリュカオーンちゃんが、か細くて弱い後衛職のバックパッカーにマーキングするなんて有り得ないわ!?!」
「其れが有り得たから私は来たんだよ!?一体どうなってやがるんだ!?大本の『原典』やらにそういう事態が起きるとか書かれてなかったのかよ!?」
律と声を張り上げて言い争い、創世は肩で息をしてディスクチェアにドカッと腰掛けた。
「………………一応、後衛職がリュカオーンのマーキングを受ける方法は、在るわ。
大前提として、夜襲のリュカオーンと『レベル差が100以上離れていて』尚且つ『
そして戦闘開始から『ノーダメージで20分以上適正距離を保ち続けてダメージを与える』、もしくはリュカオーンに『残照が残る程の傷を刻み付ける』………其れ以外は無い」
前髪を鷲掴み、創世は大きな溜息を溢す。
「……『普通』は無理よ、後衛職は大体MPや器用にリソースを使う。敏捷やスタミナにステータスを振る余裕なんてレベルカンストに近付いて、余裕が出来たくらいしか無い………!」
「………ペッパーってユーザーが何を思って、どういうステ振りをしたかは知らねぇが、リュカオーンがコイツを『認めた』。………其れだけは、変えようの無い『確かな事実』だ」
調律神たる律もまた、ペッパーというユーザーの存在に睨みを効かせ。対して創生神たる創世はペッパーの名を見ては、恐ろしい言葉を吐き捨てる。
「………ペッパー、此のユーザーは
「おい創世、勝手にシナリオやシステムを書き換えるなよ?アイツの首が飛ぶぞ」
「……解ってるわよ」
(………対策は必要。そうなると『オルケストラ』に観測させる?いえ、まだね………『色々足らな過ぎている』。なら、インパクト・オブ・ザ・ワールドの
神々は見つめている。
世界を動かさんと、藻掻き足掻く者を。
其の異質なる存在を、神は赦しはしない。
其のシナリオを崩さんとする者を、神は認めない。
世界を創りし神が、筆を取る。
異質なる存在を、詰ま着かせる為に。
其の心を減し折り、砕く為に。
世界は進まず、動かない…………。
標されたコタエが、神々を揺らす
※リュカオーンの