始まる
シャングリラ・フロンティア第15の街にして、現時点で
午後八時半、此の
「……………とまぁメールでも伝えたけども、こうなった以上は戦争は避けられないので、各々覚悟を決めて行きましょう」
「其の割には
「そりゃあそうだよ。既に他のクランにも今日午後九時に黒狼館集合要請を掛けたし、此処まで仕込んだ爆弾が弾けるんだから。ンフフフ………」
代金を払い、夜の街を駆ける五人は敵の懐、クラン:
余談だがアイトゥイル・エムル・ゼッタの三羽のヴォーパルバニー達と、リュカオーンの小さな分け身たるノワはラビッツに御留守番させて、ペンシルゴンは
全ては会談中に余計な詮索をされて、話が拗れるのを避ける為に。
黒狼館とはクラン:黒狼がフィフティシア内に建設した建物であり、彼等彼女等が拠点としている大型の建物である。ファンタジー物のゲームやアニメでは所謂『ギルド』の様に見立てられる其れは、数多在る街灯にも負けぬ灯りを纏い、エンブレムが掲げられた幕を垂らして、我等は此処に在りと存在を示すかの様に建つ。
「にしてもデッカ…………」
「まぁシャンフロ最前線を張ってるクランだからねぇ。構成メンバーも玉石混淆とはいえ、強い奴は普通に強いし」
正面に見えてきた巨大な建物を見たオイカッツォが呟き、京極が補足を加える。黒狼は『確かに強く』、シャンフロの最前線を張り、リーダー含めて強いメンバーも『多く居る』。だが強い事とメンバーの多さは、必ずしも『合致』する事は無い。其れが黒狼が抱える『問題』なのだから。
「んで、ペッパーよぉ。此の談合に呼んだ『スペシャルゲスト』ってのは誰なんだよ?」
「其れは御楽しみだ。きっと驚くぞ?」
フッと微笑しつつも自信に満ちた眼差しと共に歩き、黒狼館の正面扉に備え付けられたベルを鳴らし、数回のノックを行ったペッパー。そして扉が開かれると『黒狼のエンブレムを腰に巻いた双子のプレイヤー』が、ひょっこりと顔を出す。
「夜遅くに失礼致します。本日の談合に来ました、クラン:旅狼のリーダー・ペッパーで御座います」
内容を軽く説明すれば、コクコクと頷いた後に扉を開いて中へと案内する双子達。そうして五人が中に入ると、
そして大広間のテーブルの先にはサイガ-100が此方を射殺さんばかりの視線をペッパー達に向け、其の後ろでは本当に申し訳無さそうに此方に視線を向け、ペコリと頭を下げる『穏健派プレイヤー』の面々の姿が在った。
「京極、何したんだよ………」
「ペッパーとサンラクに襲い掛かった、黒狼の連中を全員斬り伏せて装備を全部奪っちゃった♪」
何て事をしてくれたのでしょうと、ペッパーは頭を抱える。出来るだけ穏便に済ませたかった談合が、此の瞬間不可能に成ってしまった事を、彼は否応無しに理解してしまったからだ。
「見てよペンシルゴン。ああいう目を見てると、僕は此処までPKerやってて良かったと思えてくるね」
「否定はしないけど、割と大概な事言ってるって自覚有るのかなー京極ちゃーん?」
火に油を注ぐ様に、ニヘラと嗤う京極とペンシルゴンにPKの被害者に成ったプレイヤーが、怒りに拳を握り締めては歯軋りしているのが見える。現在の黒狼は『穏健派と強硬派』に意見が分かれており、其の争いで強硬派が勝った事で今の状態に在る。
大事なのは今回の戦いでクラン:黒狼の強硬派メンバー達の鼻っ柱を折り。そして膿を出すかの様に『放逐』する事によって、サイガ-100を主体とした『嘗ての黒狼』を取り戻す事なのだから。
「……随分と楽しそうだな
「んふふ……そう見えちゃうかな、サイガ-100ちゃん?」
異なる思惑が複雑に絡み合った談合や、個性派のメンバー達の手綱を握らなくてはならないのは、ペッパーやペンシルゴンだけではない。其れはクラン:黒狼のリーダーたるサイガ-100もまた、様々な感情渦巻くクランメンバー達の意見や意志を背負い、此の談合の席に着いて居る。
今にも爆発してしまいそうな雰囲気の中、用意された席にペッパー達一行が座り、双つの狼の名を持つクラン同士の話し合いが始まらんとし────。
『失礼します』と鈴を転がした様な声と共に扉が開かれ、全員が規格を統一した騎士甲冑を其の身に纏い、彼等彼女等に護られながら入ってきた『女性』に、黒狼所属のプレイヤーと旅狼所属のプレイヤー………正確にはペッパー以外の全員が唖然と成る中、彼女を護る団長は自らの意志で名乗ったのだ。
「今宵の旅狼と黒狼の談合────我等クラン:聖盾輝士団とイリステラ様が、立会人として此の場に参加させて頂きます」
「ペッパー君、コレ夢じゃないよね?マジで『聖女ちゃん』に協力取り付けたの??」
「アレが噂に聞く『慈愛の聖女イリステラ』………か。初めて見たよ、クランリーダー」
「リュカオーンの呪いを解けるってユニークNPCが彼女ってかい………現役アイドル顔負けじゃねーか」
「なぁーにやったら、そんな大人物を呼べるんですかねぇ………」
黒狼所属のプレイヤーがざわめき、旅狼所属のプレイヤーもまたペッパーに質問するカオスが起きるが、寧ろペッパーはこうなる事は要請が受理された時点で読めていた。其れも事前にクランメンバーにも明かさない事で、前々から決めていた『聖盾輝士団はサプライズにしか現れない』という、ペンシルゴンの描いたクラン談合の筋書きに自ら一計を投じたのである。
『クラン:旅狼は聖盾輝士団とも繋がりを持ち、更には慈愛の聖女イリステラを動かせるだけの力を持っている』
其の実力の一端を黒狼に見せ付ける事によって、談合中に高確率で発生するだろう血生臭い戦いの可能性を、少しでも摘み取る事が彼の目的である。尤もこんな状況で手を出す『大馬鹿野郎』は居ないと信じたいが、イキりにイキって怒りに震える連中が
言わば此れは『先制攻撃』…………シャンフロの最前線を走る黒狼相手に、クランメンバーや規模で負けている旅狼が勝つ為の『第一の布石』であり、今宵行う『議題』を越える為に必要な事でも有るからだ。
「成程…………どうやら君達旅狼は、私達黒狼の予想を遥かに越えている、らしい…………」
「そうでしょうか?」
「…………悪びれたり、嘘を付いている様子は無いのだろうが………君も『大概な事』をしている、か……。
奴というのは多分ペンシルゴンの事だろう。取り敢えずは第一段階、開幕で黒狼にフルパワーのアッパーカットを叩き付け、ショック療法じみた一撃という先制攻撃を叩き込んだ。
だがまだまだ油断も気も抜けない、談合はまだ始まったばかりなのだから…………。
引けないし、負けられない戦い