ペッパー、金策の為に樹海に行くの巻
「さて……どうしますかね」
特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】を攻略し、新たに【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が出現した。裏路地に隠れ、いざとなればサードレマから別のエリアに逃げられる状態にしながら、ペッパーはクエストのタイトルよりフラグ立ての予測を考察する。
「ペッパーはん、ペッパーはん。どないしたん?」
「アイトゥイル。前にクエスト受けてるって言ったけど、其れをクリアしたら新しいクエストが出て来てね。こういうタイトルなんだけど……」
「颶風……強い風の意味さね、けんど嵐を纏う…は、どういう意味なのさ?」
「其れが俺にもさっぱりでさ……」
マントの中から覗くアイトゥイルに見せるも、タイトルだけでは解らない状態で、完全に御手上げ状態になった。
「………………そういえば俺、サードレマの地図を持って無い。街中の大まかな構図と、先のエリアが解るように成るだけでも、一歩前進するかな」
今の大雑把なマップでは、広大な街と入り組んだ路地裏で迷宮になったサードレマで、土地勘が無ければ迷う事は確実。おまけにユニーク持ちの身である以上、情報を求めて自分を探しているプレイヤーも少なくない。
鉢合わせしたり、追われた際に逃走ルートが解らない様では、どうぞ捕まえて下さいと言い触らしているのと同じである。ならばと、ペッパーは再びエンハンス商会・サードレマ露店通り支部に滑り込み、サードレマのマップを購入。
再び路地裏に逃げ込み、地区の情報を頭の中に叩き込んでいく。
「此処を通って、此方にいくと『
此処からだと一番近いのは『
サードレマから先の3つのエリアの名前を精査し、ペッパーは次に向かう新エリアを決定する。
「アイトゥイル、此れから俺達は千紫万紅の樹海窟に向かう。新エリア探索だ、あと昆虫に会いたい」
「ふふふ…男の子は虫さ好きやね………」
「おう、昆虫はロマンが有るからな」
一昔前に流行ったアーケードゲームで、カードに刻まれた昆虫を呼び出し、じゃんけんの要素を組み込んでバトルする筐体ゲームが、ペッパーの記憶に在った。
永遠の弟が其のゲームのファンであり、彼の集めたカードを借りて時々一緒に遊んだ事を思い出しながら、彼はアイトゥイルをマントに隠して、人目を避けて移動。
千紫万紅の樹海窟があるゲートを潜り抜けて、新エリアへと足を踏み入れたのだった。
千紫万紅の樹海窟。
樹齢千年以上は下らないだろう樹木達の密集によって出来た天然のトンネルにより、太陽の光が僅かばかり地上に届くのみの世界。
地面や岩肌には光る苔達が光源となり、木々の合間から零れる其の僅かばかりの光や、葉々より伝い落ちる水の一雫を栄養として、華々が咲き誇り、光るキノコが生え、独自の生態系を形成したエリアだ。
「おおぉ…!ちょっとジメジメしてるけど、空気が澄んでて美味しい…」
「光の粒…生きる者達の命の煌めき…綺麗さ…」
「だね。此処の恵みを分けて貰う以上、感謝しないと」
合掌と一礼から1人と1羽の兎は歩き始める。
大きな腹を揺らし、木々の合間を縫いて舞う蝶。バスケットボール程の大きさを誇る、腹に引っ掻き傷に似た紋様を持つ働き蜂達。
大きな華に擬態して近寄った獲物を狩る蟷螂に、クワガタムシのハサミを持った巨大なカブトムシが居たり等、まさにザ・ジャングルといった生態系で構成されたエリアだった。
「さて…何から手を付けようかな」
虫とは基本的に、此方から手を出さなければ、襲ってきたり反撃したりしない生き物だ。蜂や毒蜘蛛は其の最たる例で、人間は毒を恐れるが故に、不意に頭や身体に落ちてきた虫に驚いて、振りほどこうとする。
彼等にとって其れは、自分達への攻撃であると認知するには充分な要素になる為、そうなった時は一先ず落ち着いて、地面や木の樹面に身体や頭を接地させ、彼等を返してやると襲われる事はない。
「キノコとか採れるかな?」
ペッパーは近くに生えた、淡い光を放つ白いマッシュルームの前に歩み寄り、アイテムインベントリから
根本をラダースラッシュで、獲物の頸を刈り取るように切り離し、手に取ってアイテムの内容を確認する。
ホラルマッシュルーム
千紫万紅の樹海窟で採れるキノコの一種。淡い光を放つ茸は樹海の地を優しく照らし、花華の光合成を支えている
樹海窟のキノコの中では珍しく、食用としても親しまれ、シチューを始めとした煮込み料理で使われる事もある
「樹海窟では珍しいって、他のは毒キノコですか…」
「ホラルマッシュルームさね…串焼きやソテーにすると美味しいのさ…」
「なら、ティークさんに調理して貰おうかね」
どんな味なのだろうかと想像しながら、ペッパーとアイトゥイルは樹海窟散策を再開。
所々に生えるホラルマッシュルームや薬剤に使える綺麗な花を採取しながら歩いていると、目の前の大樹の合間に巨大な蜂の巣が。
其処には働き蜂達が舞い踊り、其の中心に一際大きな女王蜂が鎮座、近くを少し大きな蜂達が護衛する形でフォーメーションを取っている。
「あれは…」
「ペッパーはん。彼処に居るんは『エンパイアビー・クイーン』っちゅう奴やね。周りのは『エンパイアビー・ワーカー』と、ちょっと大きいなんが『エンパイアビー・ハンター』さね」
「エンパイアビーの巣か…」
あれ程の大きな巣を作る女王蜂と其処を支える蜂達、謂わば一つの王国だ。ペッパーは考える……其の軍団を潜り抜け、あの女王を自分の手で倒せたなら、自分は少しは強くなれるだろうか…と。
夜襲のリュカオーンに届く牙を磨き、尻をひっ叩く力を身に付ける為にも、彼はコロニーへ挑戦してみたいと思ったのだ。
「アイトゥイル、此れから俺達はアレを攻め落とすよ」
「お~……其れはまた、随分大胆に言ったねぇ。ペッパーはんや」
「リュカオーンのリベンジの為にも、戦闘経験は積んでおきたいからね。それじゃ…作戦を伝えるよ」
そう言ってペッパーはアイトゥイルに耳打ちで作戦内容を伝達。1人と1羽によるエンパイアビーの帝国陥落作戦が始まる。
「こんにちわ、エンパイアビーさん達」
アイトゥイルを肩に乗せ、ペッパーはエンパイアビー・クイーンが形成し、作り上げた巣に居座る大樹の前に躍り出る。彼の手には白鉄の短剣より切り替え、残照が刻まれた
其の殺気に気付いたクイーンが、警戒のフェロモンを放ち始め、ワーカーとハンターが羽音を鳴らし、羽ばたいて此方を威嚇する。
「アイトゥイル、コロニーを攻略するよ」
「さぁて…ペッパーはん、あの女王をどうやって倒すさ?」
「蜂や蟻を含めた、群れを成すモンスターへの対処は、昔から決まってる。配下は全無視して頂点の頭を狩る、其れがセオリーだ!」
スキルの二艘跳び・アクセル・ハイビート・ハイドレートワークと、現状ペッパーが持ち合わせている、ありったけ移動スキルを点火し、樹面を蹴り上げて駆け上がる。
彼の行動を攻撃の意思有りと判断したエンパイアビー・クイーンが前肢を振るうや、女王の子供達のエンパイアビー・ワーカー達が、一斉に襲い掛かって来た。
「おいおい、そんなに近寄って大丈夫か?ワーカー達よ……其の行動は『足場』にされるぞ」
迫るワーカー達の位置を捉え、脳内でクイーンへの最短ルートを割り出し、万が一の場合に備えた別ルートを平行して構築。二艘跳びで強化された跳躍力でペッパーは『真上』に跳び、近くに来ていたエンパイアビー・ワーカーの腹部を思いっきり『蹴り飛ばす』。
所謂『三角跳び』と呼ばれる移動方法を、ワーカーを利用する形で行いながら、大樹の樹面をステップとダッシュで重力の魔の手に抗い、ペッパーはクイーンが居座る巣の近くへと迫り行く。
(此処までで25秒、ハイビートの制限時間まで35秒…!)
ワーカー達を越えてきたペッパーに、護衛を務めるエンパイアビー・ハンター達が動き出す。クイーンは彼が先程見せた三角跳びを封じる為、前肢を指揮者の振るうタクトの如く動かし、古代ローマ帝国の侵攻に抗ってみせたスパルタの戦略『ファランクス』の構えで迎え撃つ。
「アイトゥイル、酔伊吹で中央に風穴を開けてくれ!突破して、クイーンを討つ!」
「任せなさいな…!ペッパーはんの覚悟、ワイも応えてみせるさ!」
速度は弛めず、其の脚は停めず。樹面に着地し其のまま走るペッパーは、ハンター達の迫る針山に怯む事無く前進。アイトゥイルもまた瓢箪水筒に入れた酒を口に含み、唇を細くして一点集中の火炎放射を放ち、真ん中を固めたエンパイアビー・ハンターを焼き落とし、道を作り上げてみせた。
「女王様に至られては、御機嫌麗しく!然して其の御霊、我は頂戴致す者也!!!」
ワーカーを越え、ハンターを越えたペッパーを、クイーンは遂に自らの手で仕留めんと、羽根は羽ばたきて風が巻き起こる。
「飛ばすつもりか!此処で落とされる訳にはいかない!!」
スキル:サンダーターンで鋭角移動を行いながら、強風を避けて女王の真横に向かう。しかし女王には手を振れさせないと、エンパイアビー・ハンターが態勢を立て直して迫ってくる。
「アイトゥイル!酔伊吹の再使用は!?」
「あと8秒待ってさ…!」
「なら1周分樹を走り回って、時間を稼ぐ!」
アクセルとハイビートの効果終了まであと15秒、ペッパーは重力の特性を加味した螺旋上昇走りに、不安定な樹面を沼掘りとの戦いで活躍したスキル:アクタスダッシュを使用して駆ける。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!なんぼのもんじゃああああい!!!!」
樹面を駆けて、駆けて、駆けて。ペッパーとアイトゥイルはエンパイアビー・クイーンの巣の真上へ、遂に走り出た。
「来るぞ、アイトゥイル!」
「はいさ!」
クイーンが羽ばたき、尾の鋭き針を1人と1羽に翳して、刺し殺さんと突撃。ペッパーは身を委ねるように上体を後ろへずらし、クイーンの渾身たる針を致命の包丁の刀身で『受け止め』。鉄と鉄にぶつかり合い、火花が散る。
直後にクイーンが目撃したのは、目の前に迫る赤く強い火炎の息吹きであり、自分の身体を羽根を焼かれ。怯んだ其の数秒を置いて、自身の首に刃の感触が突き刺さった。
「スキル:呀突!そして━━━水平斬り!」
致命の包丁によるクリティカルの上昇効果、及び頸への攻撃と喉笛を切っ割かれた事で、エンパイアビー・クイーンを構成したポリゴンは弾け飛び、ペッパーはエンパイアビーの巣の上に着地。
一方のエンパイアビー・ワーカーとハンターは、クイーンを失った事で蜘蛛の子を散らすようにして散開し、此方に襲って来る事は無かった。
「……っしゃあ!女王討伐成功だ!アイトゥイル、力を貸してくれてありがとう!」
「ううん。クイーンにトドメさしたんは、ペッパーはんさ。本当に格好良かったのさ…!」
互いに健闘を称え合い、ハイタッチをした後、ペッパーとアイトゥイルはエンパイアビーの巣を物色。中には『エンパイアビーのハチノコ』や『
其の後、1人と1羽は樹面を伝って地上に降りて、地上に落ちたエンパイアビー・クイーンを含め、三角跳びで蹴り飛ばした時にクリティカルで倒れたエンパイアビー・ワーカーと、酔伊吹により焼かれながらも辛うじて残ったハンターの素材回収。気分はウッハウハしながらも、油断する事は無く森を奥へと進むのであった………。
ジャングル素材わんさかホイホイ