VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペッパー、ドデカ昆虫に出逢う





ギラファとコーカサス、そして胡椒

「おりゃあ!」

「いくで!」

 

千紫万紅の樹海窟。ペッパーとアイトゥイルの1人と1羽による行進は、現在1匹のカブトムシと交戦を繰り広げている。

 

「やっぱり堅いな!此の『クアッドビートル』って昆虫!斬擊より打撃の方が、まだ効果が有る!」

「この子は、かなり『出来る』さね…!」

 

クアッドビートル…千紫万紅の樹海窟に生息する甲虫型のモンスターで、5mは下らない巨体は堅く強靭な甲殻で身を包み、雄大なる剛角を用いた突進で意図も容易く木々を折り倒す力を持った、重量級パワーファイターだ。

 

事実、ペッパーが致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)等の打撃武器と打撃系統のスキルを立て続けに使い、アイトゥイルの援護も絡めて幾度も攻撃を行っているのだが、ポリゴンこそ溢れても中々沈まないでいる。

 

「こんなに堅いって相当な防御力だ…!コイツの素材は防具にしたら強い…絶対倒す!」

「ならワイも、もう一踏ん張り…するさね!」

 

振り回される雄角を避けて下側から回り込みつつ、ペッパーは剛擊・スイングストライク・レイズインパクトの3つのスキルを重ねた一撃、アイトゥイルは風来擊(ふうらいげき)月威(かつい)を、各々クアッドビートルの顎に叩き込む。

 

しかし其れでも。クアッドビートルは沈まず、そして倒れない。其れ所か角を土竜叩きの要領で振り回し、ペッパー達に襲い掛かってくる。

 

「耐久力えっぐ…!いい加減………!」

「倒れなさい!!なッ!!!」

 

アイトゥイルの酔伊吹を放ち、クアッドビートルを怯ませて雄角土竜叩きを封じ込め。ペッパーが、其の間を狙ってスキル:ラッシュで渾身の連打を叩き込み。

 

戦闘開始から実に20分、遂にクアッドビートルは倒れて、身体を構成したポリゴンが爆発した。

 

「だあああああ、やっとだぁ…!!」

「ふぅ…流石に疲れたさね………」

 

クアッドビートルの素材を回収し、一休みするペッパーとアイトゥイル。アイテムインベントリにはまだ余裕は有るものの、先程の戦闘もあり疲労の色が目立つ。

 

こんな時は甘味でもと、エンパイアビーの巣を物色した時に手に入れた帝蜂蜜(エンパイアハニー)を取り出してみる。

 

 

帝蜂蜜(エンパイアハニー)

 

 

エンパイアビーの巣から採れる希少な蜂蜜で、高濃度に圧縮された甘味の爆弾。働き蜂たるエンパイアビー・ワーカーが集め、エンパイアビー・クイーンのフェロモンを受けた蜜は、濃密かつ優しい味となり、女王と幼虫達、そして巣を支える者達の食事となる

 

一口で高い疲労回復と魔力充填を行える、千紫万紅の樹海窟が産み出した、命の結晶にして偉大なる宝液

 

 

近くの葉に帝蜂蜜を垂らし、味見として少し舐めてみるペッパー。

 

(……甘い)

 

通常の蜂蜜よりも味こそ薄いものの、此れでも充分に甘味を感じられる程の甘さを誇り、一舐めで確かに身体から疲労が取れていくのが解った。

 

「アイトゥイル、帝蜂蜜です。凄く甘いですよ」

「ありがとさ、ペッパーはん。流石にクアッドビートル相手には疲れてしまったのさ……」

 

葉に乗せた帝蜂蜜を指で絡めて舐め取るアイトゥイル、甘味を味わった其の表情は、とろ~んと蕩けて幸せ一杯に満ち溢れた可愛い笑顔だった。

 

「ふぅ…もう少しだけ探索したら、サードレマに帰りましょうか」

「そうするさね…因みになペッパーはん。帝蜂蜜は『ストレージパピオンの蜜袋』以上に、薬剤合成に重宝される代物でな?今度、薬剤師やっちょる子に会わせてあげるのさ」

「ほう…其れは楽しみですね」

 

また新しいアイトゥイルの兄弟姉妹に会える事を楽しみに、ペッパーとアイトゥイルは暫しの休憩を挟み、千紫万紅の樹海窟の探索を再開したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海窟をペッパーとアイトゥイルが歩き続け、30分が経過した。行けども行けども変化は無く、巨木と華々、ホラルマッシュルームや発光キノコに、生態系を築く生物以外に見当たらず、そろそろエリアの端辺りに差し掛かってきていた。

 

「何にも無いなぁ…」

「そうやねぇ…」

 

もう引き返して、樹海窟で入手したアイテムを売却か取っておくかの選択をしようか。そう思った時である。

 

「ペッパーはん、何か此方に来とるさ…」

 

アイトゥイルが指差す方を見ると、樹木の間をゆらゆらと舞い、仄かな光で此方に来ている1匹の蛍をペッパーは目視する。

 

其の蛍は此方に近付いてきて、1人と1羽の目の前を淡く光を放ちながら通り、ペッパーとアイトゥイルの周りを一周した後、振り子の様に左右に揺れて、何処かに導こうしているように舞い踊っている様だった。

 

「ペッパーはん、アレなんやろさ?」

「行ってみよう…付いていけば何か在るんだと思う」

 

蛍の光に導かれ、1人と1羽は歩みを進め、軈て蛍達が作った天ノ川へと辿り着く。

 

其の光の先には、樹海窟で見てきた大樹の何れよりも太く、大きな大樹が天を衝くかのように聳え、其の周りはまるで『整地された』様に木々と花が無く、不自然な円の空間が出来ており。

 

其の巨木の間には、黄金色の中に翡翠の輝きが光る、巨大な『宝石』が見えた。

 

「もしかして、レアアイテム……か!?」

「綺麗さ…近くに行けば、何なのか解るさね?」

 

ゆっくりと慎重に、ペッパーとアイトゥイルは進み、草木が無い円のような場所の入口まで来た。

 

普通ならば進む所だが、ペッパーは此処から先に1歩でも足を踏み入れようものなら、確実に侵入者扱いをされて『ボス戦』が開始される予感を心に抱いている。

 

更に彼が思考したのは、アイトゥイルの存在………もしかしたら。シャンフロのNPCは、死亡したならば『二度と生き返らないかもしれない』とも考えて。

 

「すまないが、アイトゥイルは此処で待機してて欲しい」

「……理由を聞いても良いさ?」

「此処から先は、おそらく強い敵が待ち構えている。俺達開拓者達は幾度死んだとしても、蘇って再び立ち上がれる。でも、アイトゥイルや他の人達は死んでしまったら元も子もない。其れに……女の子を死地に赴かせるなんて、男が廃るだろ?だから……俺に守らせてくれ」

 

自分の思考した理論が、本当に正しいかどうかは解らない。其れでも僅かな可能性が存在するならば、万全を期す。其の慎重さこそが、ペッパーというゲーマーの本質なのである。

 

「………解ったさ。ペッパーはん、気を付けてな?」

「ごめんよ、アイトゥイル。他の開拓者に見付からないように、近くで隠れていて」

「うん。あとなペッパーはん…………今の、とても『格好良かった』よ」

 

唐笠を深く頭に被って、近くの草むらへと隠れる際にアイトゥイルがそう言っていた。多分ではあるが、説得は成功したのだろう。

 

「…じゃあ、往きますか」

 

意を決し、ペッパーは円の内側に足を踏み入れる。直後、円の内と外との境界線を『風と雷より創られたフェンス』が覆い、彼は閉じ込められてしまう。

 

やはりボス戦かと予想が当たった事で、一先ず安心したペッパーだったが、其れも数瞬。声が樹海に轟いた。

 

『汝……何故、此処ヘ……来タ…!!』

『今スグ………ニ、立チ…去レ……!!』

 

続け様に起こるは、肌身をつんざく風の重圧と、空気を震わせる雷の煌めき。堂々と立つ二本の巨木の天頂より、声の主達は開拓者の前に降り立ち現れる。

 

片や、玉虫に似た艶やかで美しい翡翠の甲殻と、風を纏う羽根を振るわし、長く発達した大鋏を誇る、世界最長のクワガタムシたる『ギラファノコギリクワガタ』。

 

片や、漆黒の身体と黄金色の前はねを持ち、電雷を帯びる三つの剛角を携えた、闘争心の塊たる世界最強のカブトムシ『コーカサスオオカブト』。

 

「おいおい…まるで風神と雷神じゃないか」

 

ボス戦に相応しい、如何にも大物と呼べる二体の昆虫の皇者に、ペッパーのゲーマーソウルが疼く。クアッドビートルとの戦闘経験から、打撃系統の武器が効果的と考え、更に耐久面でも優秀かつクリティカル時に耐久減少を抑える、湖沼の小鎚を左手に装備した。

 

と、ペッパーのアクセサリーたる旅人のマントが風に煽られ捲られて、右手のリュカオーンの呪い(マーキング)が顕になり。其れを見た昆虫達はこう言った。

 

『…!来タカ……『勇者』、ヨ…!』

『黒キ、夜闇ノ……王が、認メシ…『勇者』…!』

「勇者?と言うか、リュカオーンを知っているの?」

 

彼の問い掛けに、二体の昆虫は何も答えを返す事は無く。然れど彼等は、命の鼓動たる風と雷を纏い。声を張り上げ、開拓者に言う。

 

『我ハ…『颶風ノ申シ子』!ティラネードギラファ!』

 

翡翠の甲皇虫はそう述べて。

 

『我ハ…『雷嵐ノ申シ子』、カイゼリオンコーカサス!』

 

漆黒と金色の甲皇虫はそう述べて。

 

『『呪イ携エシ勇者ヨ…!其ノ『力』ヲ、我等に示セ!!!!!』』

 

言うが早いか、ペッパーに襲い掛かってきたのである。

 

(あっるぇ?もしかしてコレ、同時に相手しないといけないタイプ???)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者とは何ぞや?其れがペッパーの第一の疑問であった。一般的に勇者とは、ゲームならば魔王討伐の為に国王から選ばれたり、一昔前に流行った異世界ブームでは、転生したり転移によって別の世界から呼び寄せられたり等、様々な形ではある。

 

彼等は確かに自分の事を勇者と呼んだ。夜闇の王たるリュカオーンに認められた勇者だと。自分は勇者では無いし、どうゆう意味なのかも聞きたかった。しかしそんな暇は、二体の戦闘に突入してから吹っ飛んでしまった。

 

「どわああああああああああああああ!?!?」

 

縦横無尽に疾走する突風に、天より降り注ぐ豪雷の轟き。クアッドビートルより頭一つ抜けた巨体から繰り出す突撃が、考察に回す思考の全てを回避と反撃に持っていかざるを得なくなっていた。

 

そして何よりも、ペッパーが疑問視したのが。

 

(何でだ…!?何で…ダメージ表現の『ポリゴン』が出てない?!)

 

此れまで戦ってきたモンスターにも、ダメージを受ければポリゴンやら残照やらが出ていた。痛みとは生物が身を守る為の『防衛機能』、正常な痛みが在るからこそ無茶をしなくて済むし、自分の限界も計る事が出来る。

 

しかし開始から既に4分、ヒット&アウェイ作戦でティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの攻撃を、各々捌き続けて反撃もしたが、此処まで一切『ポリゴン』が溢れた形跡が無い。

 

「くっそ…!せめて右手にも『装備出来れば』、此の嵐みたいな攻撃にも抗えるが…!」

 

片腕プレイを強いられた事が、此処に来て重く乗し掛かり、そして彼の動きを一瞬鈍くさせた。そして其れが両サイドからの二体の甲皇虫達の突撃に繋がった。

 

「しまっ――――――!」

 

二艘跳びでも避けられない。角と鋏に押し潰されて、自分はぺしゃんこにされて、殺られる。彼の脳裏にそんなビジョンが過った。

 

「ッ!!?」

 

と、其の時。ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスは共に、ペッパーの頭上を通り過ぎて、高くに羽ばたくや、其の身が眩く発光し始め。

 

『呪イ刻マレシ、勇者……ヨ!…オ前ニハ、マダ…早イ………!』

 

ギラファは翡翠色の輝きと、鋏の間に絶大な力場と風を発し。

 

『力、未ダ…足リズ……、我等ニハ……届カズ……!

 

コーカサスは黄金色の輝きと、3本の雄々しき剛角の中心に稲妻が迸り。

 

『『風ト嵐ヲ従エ………、出直シテ…クルガ、良イ………!!!』』

 

 

樹海に吹き荒れる颶風と、樹海を貫き迸る雷光が、ペッパーへと叩き付けられ。体力は1まで削り取られて、バトルフィールドを外まで追い出されてしまった。

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサス。

 

千紫万紅の樹海窟・双皇樹にて出逢った、二体の甲皇虫との戦い。ペッパーにとっては、リュカオーンの呪い(マーキング)による右手装備不可のデメリットを叩き付け、シャンフロを始めて三度目の敗北を経験する事になり。

 

そして此の時の敗北こそが、特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が本当の意味で始まる、トリガーとなっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が進行しました』

 

 

 







新たな強敵、二体の甲皇虫



ティラネードギラファ&カイゼリオンコーカサス:特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】を受注後に千紫万紅の樹海窟に出現する特殊エリア『千紫万紅の樹海窟・双皇樹』にて、二本の巨木の先に在る特殊レアアイテム『皇樹琥珀(おうじゅこはく)』を守護している全長8mクラスのギラファノコギリクワガタとコーカサスオオカブト。

戦闘時に対峙したプレイヤーの使った、武器の系統と属性によって、どちらかが戦闘に参加する。斬擊・魔法・近距離武器ならばティラネードギラファが、打撃・弓矢・遠距離武器ならばカイゼリオンコーカサスが、各々相手として立ち塞がる。

但し、特殊クエスト:【岩砕きの秘策】と【沼地に轟く覇音の一計】のどちらか1つでも『A+』以上でクリアした場合、二体が戦闘に参加。此の時の二体にはスキルや攻撃を行っても、HPが一切減少する事は無い。

また、戦闘時に二体の攻撃はプレイヤーの体力が少なかろうと、防具やスキルが劣悪であるのに関わらず、HPを強制的に1で止める、謂わば『峰打ちだ』の状態であり、死亡する事は無いものの、戦闘開始から5分後に強制敗北イベントが発生し、バトルフィールドの外へと追い出される。

つまりは初戦時は絶対に倒せない、強制敗北イベントという奴になります。




モチーフはティラネードギラファが風神、カイゼリオンコーカサスが雷神。
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