渦中のペッパーは
「あ、ペッパーはん。目覚めたのさ」
『ワンッ!』
ラビッツ・兎御殿の休憩室にリスポーンしたペッパーの視界に入ったのは、ヴォーパルバニーのアイトゥイルとユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの小さな分け身たるテイムモンスターのノワであった。
「やぁ、二人共。巨大装甲列車ヤスデ含め、色々敵を倒してきたから凄い事になったよ」
巨大モンスター四体の討伐、内二体は
「さて………本命は此方だ」
✕◯君の大熱波を受け、朽ち果てたアスカロンは一体どうなったのかと、インベントリを操作して頭装備のライノベレーの帽子を着けて。そして錆び付いた鋼は瘡蓋が取り除かれた様に、マグマの如く熱を纏いて赤々と灼熱に滾り燃え盛る、そんな真紅の
ペッパーは早速、変わったアスカロンのフレーバーテキストを黙読してみる事にした。
朽ち灯りしアスカロン(
再起への炎を宿した英傑の武器。未だ本来の力には程遠く、武器として使用する事は難しき魚神の
一先ず死んだだけの価値は有り、朽ち果てから朽ち灯りにランクアップしたので良しとする。しかし武器としては使える領域には立っていないので、次に冥府の深海の先の冷気を取らなくては進まないだろう。
「よし。アイトゥイル、ノワ。ビィラックさんの所に行って、アスカロンや
「はいさ!」
『ワン!』
報告・連絡・相談、とても大事。さて今のアスカロンの状態を見たビィラックが、一体どんな反応をするかと思いつつも、彼女の仕事場たる鍛冶場へと向かい。
「エヘ……エヘヘヘ………」
「ビィ………ラック、さん?」
「ビィ姉さん?!」
『グルル』
完全な上の空で金床に置いた人参を叩き続けて、ペースト状に加工して居るビィラックの姿を、一人と一羽と一匹は目の当たりにした。其の様子はニチャアとも言える顔立ちのまま、片言の様に言葉を発し続けていたので、まさか精神崩壊でもしてしまったのではないかと、ペッパー自身も本気で心配する程であり。
「ビィラックさん、ビィラックさん。朽ち果てたアスカロンの強化と、弩弓剣の素材に必要な最後のモンスターを狩りましたよー。あと耐久が減った武器を直したいんですが良いですかー?」
「フヘヘヘ………………んぁ?どうし────」
漸く反応したビィラックが視線を向けた事で、金槌がずれてしまい。振り翳されていた鉄が、彼女の手を叩こうとしたのをペッパーは見逃さず、自身のスキル:
「ほっ………ビィラックさん。弩弓剣に必要な『天貫く大山に居着く無限掘削の女王』を倒して、帰り道で朽ち果てたアスカロンに炎を灯して来ました。あとおまけにサイボーグじゃじゃ馬ヘラクレスオオカブト、巨大弾丸跳躍突撃オケラ、巨大重装甲騎士シオマネキも一緒に討伐しました」
「待て待て待てェ!?ワリャ、どんだけ倒したんじゃ!?」
「本命を狙おうとしたら、他のモンスターまで釣れたって感じですね………」
実際あのレベルの物量戦は、精神的にも相当な疲労が積み重なった。仮に再び同じ事をするならば、万全な状態にした上で戦いたい所である。
「かぁぁぁぁぁぁ…………。全く……ワリャ等は目ェ離すと、毎回毎回とんでもなぁ事をしよってからに……」
そう言いながらも分けられた泰山巌宝蛇蟲の素材達を持っていった後、彼女はペッパーが持つアスカロンを見て言った。
「最初に見た時からずっと『気になっとった』。此の剣刃は
「ん?元々は?」
「そうじゃ」とだけ言い、ビィラックはペッパーのアスカロンを渡すように手招きでサインを送る。其れに応じて手渡せば、彼女は鍛冶師として武器を眺めながらに語り始めたのだ。
「此の剣刃を手にした奴が『畝った方が格好良い』とでも言って、凄まじい熱を浴びせて熱したアスカロンを『畝り曲げた』後に、深海で冷やし固めたんじゃろうなぁ。ワチが其の場面に出会したなら、頭をぶん殴ってたけぇな」
「次はコイツに深海よりも尚深い、冥府の冷気を込める事じゃけ。其れが出来れば、後は材料を取り揃えて修復に移れる。其れとワリャがオーダーした
「ありがとうございます」
対抗戦も有るので、冷気採取は戦いを終えてからの方が良いだろう。ビィラックからアスカロンと武器を受け取り、替わる形で修繕する武器達を渡していた時。鞘から抜いて世界の真理書を外し、皹が入った星皇剣グランシャリオを見たビィラックの表情が固まった。
「グランシャリオにヒビ入っとるの………」
「女王陛下の命を賭けた魔法弾を、断風で一刀両断にしてダメージが入りました。俺自身の実力不足が招いた事ですから、もっと精進します」
「……………ならエエ。コレが単にふざけて傷入れたんなら、ワリャを殴っとったわ」
表情は固く、顰めっ面ながらもグランシャリオを受け取り、其の刀身を見つめつつも承諾したビィラック。そしてペッパーは狩ってきたモンスター達の特色を思い出して、脳裏に『ある事』が思い浮かんだので聞いてみる事にした。
「ビィラックさん、実は────────」
四体の巨大モンスター達との戦いで耐久値が削られた武具達に、思い浮かんだ事を成す為に『ある武器』を預けて、やって来ましたヴォーパルコロッセオ。深夜帯だからか、他のヴォーパルバニーにペンシルゴンの姿は無く、静かだが染み付いた死の空気が充ちている場所だ。
「ノワ、ボール遊びをしよう」
『ワンッ!』
明日は大学の講義もバイトも無い一日休みになっているので、デュエガンと剣道教室で鍛練をする事にしている。故に今の内に沢山遊んでおいて、ノワの機嫌を損なわないようにしておきたい所だ。
「よーし、行くぞー………それっ」
『ワゥル!』
インベントリアから取り出したボールを、ノワの前で振って。加減してポーンと放り投げれば、ノワは全力ダッシュで駆け出してスリーバウンド前に咥え取るや、尻尾を振りながら戻ってきた。
「偉いぞ~」
『クゥン♪』
ペッパーがボールを投げて、其れを取って戻ってきてを十数回行い、運動後に少し休憩を挟んで。今度はスレーギウン・キャリアングラーの骨を投げて、其れをノワが取ってを再び十数回繰り返し楽しむ。
其の様子をアイトゥイルは眺めながらに、瓢箪水筒に入れた酒をチビチビと飲みつつ楽しんでいると、ボールをリフティングするペッパーを見て蹴鞠をしようと誘い。
アイトゥイルの脚に合う大きさの玉を用いての蹴鞠を始め、脚パリィで培った脚捌きで彼女と遊んでいれば、ノワが頭にボールを乗せたままテクテクと近寄ってきたので、今度はボール保持時間比べをする事に。
「へぇ~~~~………あーくん、そんな事するんだぁ?へぇ~~~~………ちょっと私と『オハナシ』しようか?」
だが此のタイミングでやって来たのは、アーサー・ペンシルゴン其の人で。真っ黒な笑顔と青筋を浮かべる、端から見ても解る御立腹具合であり。ペッパーを其の場に座らせ、ノワが『グルルル!』と威嚇をする中、赤白の姿で走り回った姿がスクショを撮られて掲示板にアップされてたやら、浮気かな?浮気だよね?やらで非常に面倒臭い拗れ方をしながら詰め寄って来たのである。
そうして二時間に渡って沢山遊んで、沢山オハナシをして。ペッパー達は兎御殿へと帰還。休憩室にてセーブ&ログアウトを行って、シャンフロを終えたのであった………。
同時刻、フィフティシア某所………
「こんな深夜帯に呼び出して済まないな」
「かまへん、かまへん。緊急な雰囲気やったし、誰にでも『そーゆー』事は有るんやから、気にせんとこや」
「そうか」
とある場所にて、
「で、や………。今『クラン対抗戦』の渦中に在る団長はんが、自分に何の用件や?まさか『黒狼に就職せよ』と?…………前にも言うたけど、自分『リベはん』のイキリ具合にはウンザリしとるんねん。悪いけど他を当たってくれな」
「………………………………」
シャンフロプレイヤー内でも『レベルダウンビルド』によって、スキルや魔法を強化するプレイヤーは少なからず居る。其の
サイガ-100は知っている。シャングリラ・フロンティアをプレイするプレイヤーの中でも、サービス開始当日組に枠組みに当たり、自分や
其れも普通のレベルダウンビルドでは無い。
「実は君に入って欲しいのは『黒狼』では無いんだ。私を主体としてリベリオス派を
「……………詳しい話を聞こか?」
「あぁ、具体的にだが────」
そうしてサイガ-100は其のプレイヤーに事情を説明していった。
「成程なぁ………対抗戦は其れを成す為の『過程』の一部でしか無い、と」
「ペッパー君を引き込むのは『本気』だがな。其の為にも君の力を借りたい」
「フッ………ええよ。アンタとは大会でPVPし合った『仲』や、楽しくやりましょか」
そう言って彼は差し出した手で、サイガ-100と握手を交わす。
動く者達