修行をしよう
兎の国・ラビッツ、防衛戦線引き上げまで残り四日。及び
本日は講義もバイトも無い一日休みであり、朝食に手作りの玉子サンドを作って完食し、御試しに買ってみたインスタントコーヒーを一杯飲み干した梓は、朝から『デュエル・ガンナー』────通称『デュエガン』にて修行を行っていた。
「──────ッ!」
今回彼が挑戦しているのは、
謂わば『反射的に』・『効率良く』・『最速の挙動』で行動を起こせるか。其れを武器の性能確認の名目で、此の訓練を行っている『企業』がプレイヤーに提供している『事業』なのだとか。
「うーむ………70点かぁ、まだまだ動きに無駄が多いって訳ね」
デュエル・ガンナーの世界はサイバーテクノロジーが発展した超未来で、別次元のチキュウと呼ばれる惑星を舞台にした『決闘型ガンアクションゲーム』。プレイヤーは幕末─────人間性を捨てたPVPガチ勢がランカーを占める、最凶レベルの修羅の國たる『
世界に散らばる反乱分子を叩き、世界の平和と安寧を守る『企業』。
裏社会に潜みアウトローな戦いで、世界を破壊して革命を画策する『レジスタンス』。
其の二つの陣営にも属さずに、己の意志と金や報酬でどちらの味方にも敵にも付く『傭兵』。
そして傭兵の括りにも入らず、何処にも属していない『無所属』の四陣営で戦う事になる。
各々の陣営にはメリットデメリットがハッキリと分けられており、企業は武器や装備に報酬金に困る事が無い代わりに、企業所属故に武器使用含めた様々な制約に縛られ。レジスタンスは武器使用と改造制限が無い代わりに、限られた物資と金の遣り繰りに苦心必須。
傭兵は実力が認められれば報酬や武器装備がウハウハだが、敵からの逃走・決闘による敗北・受注依頼の失敗で信頼度を一気に消失して再度の上げ直しが面倒。無所属は特段損失は無いが恩恵も無いという、どの陣営でも『リスクリターン』が極端に出来ているのだ。
そして決闘とも成れば、当然ながら『対価』を賭けなくてはならず、更に陣営によって賭けられる物や質が左右される事となるので、必然的に決闘では『負けられない』が要求される。故に初心者は『先ず射撃訓練で自身の能力を把握し、地道に周回を重ね続けてから決闘へ行くべし!』と、デュエガンwikiにも
「所属勢力は何時でも変えられるし、一通り経験してから本格的に所属する勢力を決めよう」
早撃ちの動きを続け、続いては反射神経を鍛える移動式の的当て訓練も行い、報酬の金銭で弾丸を買って武器の修理をし。
此れを何度も何度も────気の遠くなるような『反復練習』を続けて、ダイヤモンドの原石を加工していく様に、粗削りな自身のモーションを少しずつ洗練させていく。
「ふぅ……今日は此のくらいで切り上げて、今度は剣道に行こう」
サイバーテクノロジー溢れる重油と酸性雨降り注ぐ超未来都市、其の一区画に在る施設より梓は────此の世界ではペッパー・ミニョネットとして生きる彼は、現実世界へと舞い戻った。
昼飯にレトルトカレーを食べ終えて、ソフトをチェンジし電脳世界の剣道教室に『
彼が現在挑んでいるのは『
「ずっと気になっていたんだよな………」
剣道には段位が存在しており、其れは此のゲームでも同じで。プレイヤーが攻略を続けて一定の段位に到達すると、戦う相手はマネキンから剣士に変わって、剣士から段位者になると攻略難易度が『跳ね上がる様』に出来ている。
古武術の縮地でもやっているかのような踏み込みに加えて、受け方や攻め方も剣道修練者特有の其れに代わり始め、ヒット&アウェイ作戦に+αを加えた戦い方を工夫し戦う、良い経験になったのは間違い無い。
そしてAI剣士でも『五段』から先になると、今まで剣道道場内に在る何の変哲も無い『掛軸』に、文字が刻まれるようになった。まるで繋げる事で何かの言葉へと変わる様な、そんな雰囲気を宿して。
「達人クラスは本当に強い………。でも、俺が戦ったウェザエモンさんや剣の師匠に比べたら、まだまだ生温い………!」
負けたなら敵を学び、己を見返して修正する。一度で心が折れるなら、死にゲーなんぞ出来はしない。理不尽難易度や武器の制限等と、レトロゲームをやってれば遭遇する事はザラだ。故に此の程度では、地莉・ペッパーは止まらない。
何十の敗北をしようが、唯一度の勝利を掴み取り。彼は段位を越え続け、遂に最後のボス………『通常ラスボス』まで辿り着いた。
「越えてみせる!」
越えました(一勝四十九敗)。
決め手は受け流し、からの胴体逆手一閃の一本。ありがとう幕末、あの修羅の世界で身に付けた技術が役に立ったよ。今度感謝を伝えに、そちらの世界へ天誅しに行きます。
評価はCだったが、今までの剣の戦い方を総動員しつつ、敗北の積み重ねから得てきた全てをぶつけ、漸く勝ち取った勝利。掛軸に書かれた文字を確認し、再びタイトル画面に戻れば何の変哲も無い、道場の風景が在るのみで。
しかし此の画面には『あからさま』に書道の筆と墨汁、書初め用の紙が置かれており、文字を記載出来るように出来ている。
「確か今までの掛軸の文字を繋げていくと………『若き芽よ 西へ東へ 研ぎ
『全国に居る剣道を志した若き才能達よ、其の才能を磨き上げて私を踏み台に越えていけ』と、そう
だがペッパーは此の手のゲームにおける短歌には、何かしらの『真の意味』が籠められており、其の意味を解き明かす事で初めて発見可能な『隠し要素』が有る事を、レトロゲームを通じて何度も見付けたり体験した事が有る。
「此の短歌……。西へ東へ、って部分がどうにも『気になる』んだよなぁ………」
昔に例えるなら日本の中心を『京都』として、仮に龍宮院 富嶽が京都に在住していたなら、短歌の内容にも誤異が生じずに『成立』する。ならば此の短歌は京都に居る『想い人』か、或いは『別の誰かに』向けたのか、そんな短歌の可能性が在る。
「………………まぁ、今考えるべきは『裏ボス』だな。其の御尊顔を拝ませて頂きましょうか」
短歌を筆で刻み、扉を開いた地莉・ペッパーが入場する。同時に彼の目の前には三つのリザルト画面が表示された。
『モード選択で二刀流が解放されました!』
『オンライン対戦モード・改が解放されました!』
『隠し難易度、AI範士・極が解放されました!』
「あの人が……龍宮院 富嶽────!」
出力された竹刀を手に取り、電脳空間の道場にて顕現する白髪白髭の着物袴を身に纏う、竹刀を二刀流で構える仙人かと見間違える老人が現れて。
「ぶぎゅ!?」
僅か一秒で距離を詰められ、三秒後に竹刀で脳天を。剛力と錯覚する重さと速度によって、迷い無くブッ叩かれた結果、地莉・ペッパーは地面に叩き伏せられる末路を辿ったのである…………。
剣聖の強さ