VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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致命兎の王が語る、昔の噺




人は蒼空(ソラ)に夢を抱く、そして蒼空(ソラ)にて争う

完全に負けた━━━━。

 

二本の巨大樹に居座り、自身をリュカオーンの呪いを刻まれた勇者と呼んで、突如二体同時に襲い掛かってきて。攻撃してもダメージを負った気配は無く、最後の最後に体力を1まで減らされ、バトルフィールドから吹っ飛ばされたペッパーは、心中でそう思って。

 

「………………あ~、くそ。やられたわ」

 

大の字に仰向けながら、樹海の合間より僅かに溢れる光の帯を彼は見て、悔しさを言葉に変えて溢した。そんな彼の顔を覗くように、アイトゥイルが顔を出して言ってくる。

 

「ペッパーはん、大丈夫さね?」

「アイトゥイル…、俺負けちまったよ」

 

ティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサス。フィールドの状態、シチュエーション的にも、二体が同時に襲ってくる可能性は十分考慮出来た筈だった。だが、戦闘開始前に二体がリュカオーンの呪いを知っている発言に加え、思わぬ形で得られた特殊クエストのヒントにより思考が滞った結果、敗北してしまった。

 

幸い体力が1残っているのは、昆虫タッグの良心なのか、弱い者を殺す趣味では無いのか……何にせよ自分はこうして生きている。

 

「どないする?また戦うのさ?」

「いや……このまま行っても、おそらく『二の舞』になるだけだ。あの2体の甲虫の台詞のおかげで、3つ解った事がある」

 

アイテムインベントリから薬草を取り出し、口に丸めて飲み込んだ後、ペッパーはアイトゥイルに戦闘で得られた情報を伝えていく。

 

「先ず1つ目に、戦闘開始時にギラファが『颶風の申し子』、コーカサスが『雷嵐の申し子』と口上した事。今受注している特殊クエストのタイトルが【颶風を其の身に、嵐を纏いて】。間違いなく、あの二体の甲虫が鍵を握っている」

 

堂々と叫ぶようにして、わざわざ口上まで行って攻撃を仕掛けてきたのだ。アレは完全に『我々が特殊クエストの目標ですよー』と、大々的に言っているようなものである。

 

「次に2つ目は、ギラファの『お前にはまだ早い』と、コーカサスの『力足らず』。これは推測の域では有るけど、俺の『レベル』が規定値(キャップ)に到達していない事が考えられる」

 

ゲームでも特定のランクやレベルに到達する事で、始めて解禁される武器やアイテムが存在するように、大前提となるレベル指標があるのだろう。

 

「そして3つ目が、『風と嵐を纏い、出直して来い』。其の台詞から、あの2体には『特定のアイテムか特効能力持ちの武器』が無いと、そもそもダメージを与えられない可能性が極めて高いって事だ」

 

呪霊系統のゴーストモンスター等が、浄化系統のアイテムでないと実体を捉えられず、ダメージが入らない事をペッパーは嘗てのレトロゲームで経験している。

 

詰まる所、あの二体の甲虫は『特定の行程』を踏んだ上で挑戦しなければ、倒す所かダメージすら入らない『ギミックモンスター』だと、ペッパーは読んだのである。

 

「となると、さ。此処は撤退するん?」

「あぁ。一先ずサードレマからラビッツに帰って、対策を練り直さないとだ。あの2体にリベンジする為にも、態勢を整えなくちゃな」

 

そうと決まれば、善は急げ。得た情報を持ち帰り、安全圏で思考して、今後の対策を組み立て直さなくてはいけない。ペッパーはアイトゥイルをマントに隠して、千紫万紅の樹海窟を走り、サードレマへと帰っていく。

 

しかし其の途中で、1人と1羽はクアッドビートルに樹液を横取りに来たと、勘違いされて襲い掛かけ回されたペッパーは、怒りのマッドネスブレイカーをクアッドビートルに叩き込みまくり、アイトゥイルの援護も有って10分での討伐に成功。

 

致命魂の首輪により経験値が半分になりながらも、漸くレベルが1つアップし、さっさっと素材を回収してサードレマへと急ぎ帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟とサードレマを繋ぐ門を潜り抜け、人気の無い裏路地に逃げ込み、アイトゥイルが開いた兎御殿行きのゲートを越えて帰還したペッパーとアイトゥイルは、御殿の縁側に移動して腰掛け、早速作戦会議を開始する。

 

「一先ず今後の目標としては、特殊クエストは進行させつつ活動範囲を広げ、レベリングを行うために、サードレマから行ける3ヶ所のエリアに住むエリアボスの攻略と、其の先にある3つの街に到達する事を、此の先の目標にします」

「成程…ワイの扉を作る魔法も、一度行った街にしか作れないのさ。活動範囲拡張は急務と言う訳なのさ」

 

サードレマは街としては確かに広いものの、何時までも留まれば、他のプレイヤーによって此方が何処から出てくるか等の、法則性を暴かれる可能性が在る。

 

活動範囲が広がれば、追手が来たとしても別の街に避難出来るメリットも有るので、やらない手はないだろう。

 

「そしてもう1つ……『風と嵐を纏う』。此れが何を意味するのかを、先生に聞いてみたいと思う。先立ちの御方なので其れを知っているかもしれないですし」

「確かに…ワイも其の意味は解らんさが、オカシラなら知っている可能性も大いに有るさね。ただ……」

 

アイトゥイルは当たり前の、しかし納得の行く言葉をペッパーに言った。

 

「オカシラは何時も兎御殿に居る訳じゃないのさ。何処かに出掛けてるらしいんけど、何をしに行ってるのかは、ワイにも解らないのさ」

 

ラビッツの頭を張るヴァイスアッシュは、何時でも兎御殿に居るとは限らない。機会を見計らって聞くのが良いだろうと、ペッパーがそう思った時である。

 

「おぅ、どうしたぁ二人とも。随分と考え込んでるみてぇだがよぉ」

 

ドスが効いた強い声が後ろから突然聞こえ、振り返ると何時から其処に居たのか、ヴォーパルバニーの大頭・ヴァイスアッシュが立っている。

 

「ほひゃあ!?先生!?」

「あ、オカシラさぁ~。何処行ってたんさね?」

「まぁ、オイラの『顔見知り』んとこにな。んで、何か有ったか?」

「はい。実は……」

 

ペッパーはヴァイスアッシュに、千紫万紅の樹海窟に探索に行った事、其処でエンパイアビー・クイーンの巣やクアッドビートルと戦った事。

 

そして樹海窟の奥の方で、蛍が導かれた先に居たティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスと遭遇し、彼等が自分を『勇者』と呼び、『風と嵐を纏い出直して来い』と言った事、そして自分は殆ど何も出来ずに敗北した事を、包み隠さず話した。

 

「ほぉ……おめぇさん、あのクワガタとカブトムシ相手に、こっぴどくやられたのか」

「ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの事、知っているんですか?先生」

 

問い掛けに「まぁ、な」とヴァイスアッシュは答え。ペッパーとアイトゥイルの近くに立って、人参型の煙管で煙を吸い込み、縁側から見える空へと吹いた後、彼はこんな事を呟く。

 

「なぁに……こいつぁ、一線を退いた老兎の独り言葉。…聞くも聞かぬも、おめぇさん次第だぁ」

 

ペッパーは此れから、ヴァイスアッシュが特殊クエストに関わりそうな、重要な話をするのかもしれないと予感し、縁側で腰掛けていた姿勢を正座へと直して、背筋を伸ばして静聴する。

 

「むかぁしむかしの、そのまた昔の噺さ。とある人間の一人が、蒼空を翔ぶ事を夢に見た」

 

ヴァイスアッシュが語り始めたのは、空を夢見た一人の先人の話。人が空を翔ぶ夢物語を叶えた、人間の話。

 

「そいつぁ蒼空を翔ぶために、色んな馬鹿をしたってなぁ。実験、研究、肉体改造………其れ等諸々行って、一つの『答え』を世界に産み出したってんだ。人はそいつの答えで、蒼空へと舞い上がり、自由に翔ぶ力を得た。人は鳥みてぇに、蒼空を舞えるようになったのさ」

 

実験と研究は解らなくもないが、肉体改造とは一体何をしたのか。マッドな雰囲気が漂うが、どうやら其の研鑽が実り、人々が空を翔べるようになって、其の人は夢を叶えたのだと解る。

 

「だがなぁ……示した答えを、他の連中が奪い取らんと争いが起きてな。そいつぁ夢に見た蒼空が、哀しみで染まってく様を嘆いて、産み出した(モン)をたった一つ遺して、他全てをぶっ壊した。そして遺った一つを『器』・『機構』・『魂』の三つに分けて、別々の場所に仕舞ったらしい」

 

化学や発明は人を豊かにする。一方で豊かに成れば成る程、其れを用いて更に豊かに成ろうとする連中は、何時の時代も当たり前のように現れる。他者を突き落として、其の利益を独占しようとする輩もまた然り。

 

欲望とは『底無し沼』だ。一度でも土壺に嵌まれば、脱け出すのは容易な事じゃない。際限が無いからこそ、誰かが其れを断ち切り、負の連鎖を終わらせなくてはならない。其れが産み出した者の、運命であり、責任であるのならば尚更だろう。

 

「そんでぇ、其の内の一つたる『魂』は、今もクワガタとカブトの奴等が、何世代に渡って、今尚守り続けててなぁ。……律儀で筋が通った奴等さ」

 

二本の巨木の先に見えた宝石。おそらく其れが、空を翔ぶ『答え』の為に必要な、三つの要素の一つで間違いないだろう。

 

「クワガタとカブトムシはよぉ…今も待ち続けてるのさ。そいつが描いた、蒼空へ翔ぶ夢と願いを紡げる…強き者が現れるのを。

 

アイツ等が、おめぇさんを『勇者』って呼んだのぁ、犬っころに力を示して認められたからってだけじゃねぇ。人と人の(えん)繋いで、此処まで来たってのもある」

 

ヴァイスアッシュの台詞から、ペッパーは此れまでクリアしてきた2つの特殊クエストの評価によって、あの二体の昆虫がどちらか単独で戦うか、もしくは両方同時に戦う事になるのかで分岐していた事に気付く。

 

そして同時に、此処までやって来た事の全ては、決して無駄では無かったのだと思った。

 

「だが………おめぇさんは、まだ『弱い』。己の牙を研ぎ澄まし、ヴォーパル魂を高め、そいつが遺した『夢』を継げるだけの実力を、胸張ってアイツ等に示してやりなぁ」

 

そう告げて、ヴァイスアッシュは去っていく。ペッパーはヴォーパル魂の事は解らないままではあったが、彼の其の大きな背中を見て、「はい!先生!」と述べた。

 

今の自分は弱い。然れど逆に捉えるならば、自分はまだ『成長』の余地を残している事。成すべきは、己自身のレベルアップ。致命魂の首輪が掛かった状態でも、必ず規定値に到達してみせると、闘志を燃やしていくのであった……。

 

 

 

 






強くなるため、決意を新たに


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