死刑宣告に抗え
鬼に金棒という言葉が有る。
ゲーマーとして捉えるなら、タンクプレイヤーに高倍率カウンター&リジェネ、高DPSプレイヤーに火力バフ&広範囲攻撃、超速挙動プレイヤーに移動中無敵&スーパーアーマーは、まさに其の為に有るというべき言葉だ。
更に解りやすく言うなれば『ベストマッチ』。様々なゲームに存在する、此のプレイヤーに此の武器を持たせると恐ろしいレベルで噛み合うよ!という、謂わば『パズル』の様に点在している多種多様な要素から、バグ含めて最高の組み合わせを探し出す。
事実としてゲーマーの中には『初回封入特典・DLC・エンドコンテンツから其のゲーム内のベストマッチを見付ける』事に尽力を注ぎ込む奴も多い、梓の場合も其の類いに片足を突っ込んでいたりする。
では、だ。
正解がコレである。
「だああああぁい!?」
既に十回は走馬灯を見た。というよりは先ず間違い無く、自分達三人に待っているのは『死』だ。レイドボスに物干し竿・幕末最強に長射程の得物・空気抵抗軽減能力の
其れがレイドボスたるユラの手で用いられよう物ならば、彼から半径五メートル以内は暴風域ならぬ暴刃域の『危険地帯』と化し、軽く被弾するだけで骨肉を軽々と斬り落とせる『致命の斬撃』に早変わり。
事実としてブラッドペッパーは右腕を右肩からスッパリ斬られ、サンラクは左二の腕から下を持っていかれて、当千は胸に斬り傷を負って危うく落ち掛ける寸前、そして周りのプレイヤーもレイドボスとの戦いに巻き込まれて、悲鳴を上げながら天誅されている。
「不味いね………」
正直に言えば、今のレイドボス相手に勝てる可能性は砂粒よりも小さく、蜘蛛の糸に等しい程に細い物でしかない。失敗すれば漏れ無く三人全員死亡、万に一つ成功したとしても今の満身創痍の此の身体では、生き残ったプレイヤーに漁夫の利天誅される未来以外に無い。
「フッ………」
だが、
レトロゲームをやってれば、負けイベントは予告無しに飛んで来るんだ。思考を負け色に染めるな、今の自分達に出来る事をぶつけろ。
「サンラク、当千。ユラさんに一矢報いる……いや『上手く行けば』だが、彼を『倒せる』作戦が有るんだけど………どうかな?」
「ほぅ?」
「…………聞くだけ聞いてやるよ」
「説明します。先ずは───────」
楽しい。楽しい。凄く楽しい。
こんなに楽しいのは最近の幕末のイベントと、ランカー達と戦っている時と同じくらい気分が高揚している。幕末最強、レイドボス、百人斬り………此処で色んな渾名が付けられて、色んなプレイヤーと斬り結んできた彼は『笑っていた』。
幕末ランキング二位の当千、圏外ながら此方に何度も食らい付いてみせたサンラク、そして真っ向勝負でランカーに匹敵し得る力を見せるブラッドペッパー。あの三人が即席タッグで、阿吽の呼吸の様な連携を!此処まで見せてくれるなんて!
「よっしゃやるぞ、血煙ィ!祭囃子ィ!」
「勇者ァ!ペッパァ!お前らの
「文字通り
当千を先頭・真ん中をサンラク・後ろにブラッドペッパーが付いて、此方へと突進してきた。
「良いね」
「ハッ。余裕こいた其の顔、青ざめさせてやるよ!レイドボスゥ!!!」
おそらくブラッドペッパーを後ろにしたのは、一番反射神経が優れて居ないから。此方の攻撃を最も予測出来る可能性が一番高いからと、ユラは思いつつも斬星竿を振り抜く。
「こんぐらいなら対処出来らァッ!」
刹那、当千が取り出したのは『十手』。江戸時代の警察が刀を持つ敵を相手に、武器を取り押さえる為に持っていた武器。
「十手」
「大十手『
「タイミングバッチリ、流石だッ………!」
当千の一手により、深く地面に突き刺した十手により斬星竿を差し止め、ユラの動きが一瞬だが止まり。そしてユラの視線の先にはブラッドペッパーが左手でリボルバーを。あの攻防で自分が空に投げていた、二発残っているリボルバーを手に取り。
「天誅ッ!」
一発目を額の真ん中へ、二発目を鳩尾目掛けて撃ち放つ。弾丸の軌道からして、二発とも当たればタダでは済まない。だが一発ならば問題は無い、そう判断したユラは首を傾けて回避し─────
「そう動いてくれるたぁ、こりゃあ『乱数の女神』に感謝しねぇとかぁ?」
二発目の発砲と同時、サンラクが右手に構えていたのはブラッドペッパーが握っていた『鍛冶の槌』。そして彼は発砲音と距離から、二発目の弾丸が通る『おおよそのポジション』に立っていて。
「わ……」
「ユラさん。俺は『サンラクが貴方の前で小槌を使った事が無い』事と、サンラクが『打ち出した弾丸の尻をジャストタイミングで叩ける』事の。二つの可能性を………
「名付けて『弾丸パイルバンカー』!デリバリーだレイドボスッ!」
ホームランの如く快音を鳴らして、ユラが回避した方角へと弾丸の軌道が変わる。そして────
「…………惜しいね、とても惜しい」
「マジか………!?」
「えぇ…………」
「嘘でしょ!?」
弾丸は確かに『直撃』した。だがユラは、レイドボスは三人の予測を『上回った』。斬星竿から手を離し、左手の甲の骨で弾道をずらし、受け流したのである。だが其れでも、不意打ちの一撃はユラの左耳をブチ破って風穴を開け、ダメージエフェクトを溢してみせて。
「楽しい、とても楽しい。……だから、負けない」
「ひきっ」
直後、当千の顎に衝撃が走り。
「楽しい、楽しい………本当に、楽しい」
「ちょ……ぐぶふ!?」
刹那、サンラクは腹パンに沈み。
「楽しい、だから…………負けない」
「るぐべ!?」
間も無く、ブラッドペッパーは一本背負いで地面に沈められた。ギアが更に上がったのか、其れとも此方の全力に対する礼なのか。幕末最強、恐るべし………。
「凄く、楽しかった。─────辞世の句」
「次は勝つ。首を洗って、待ってろよ……」
「ユラ君よ、勝利の余韻に、気を付けろ」
「レイドボス、見事天晴れ………楽しかった!」
三人の一句を聞き届け。左耳からダメージエフェクトを溢しながら、彼は斬星竿を構えて。
「またやろうね─────天誅」
月光に照らされながら朗らかな笑顔と共に当千を斬首、サンラクは心臓を一突き、ブラッドペッパーは開きにされたのだった…………。
終戦も笑顔で