VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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準備は大事




人は其れを前進或いは進展と呼ぶ

「ふぁあ…………」

 

柄にも無く熱くなって、気付けば夜を明かしていた。曇天の空模様の様に眠気がどっと襲い掛かるし、多分油断してると欠伸をしかねない、そんな気がすると梓は思う。

 

(だけど、夜十時から朝六時までブッ通した甲斐は有った……フフフフ!)

 

百を越えて二百、或いは二百すら先の三百に迫る敗北の記録。何度地面に叩き伏せられたか、何度一本を取られてきたか。

 

だが、だが、だが。

 

梓は、地莉(チリ)・ペッパーは遂に龍宮院(りゅうぐういん) 富嶽(ふがく)の写し身たるトレースAIを『乗り越えたのである』。其の証拠にタイトル画面には、彼が裏ボス制覇済を証明するトロフィーが飾られているのだから。

 

「多分サンラクなら越えられるとは思うが……本当に厄介だもんなぁ………」

 

シルヴィア・ゴールドバーグしかり、レイドボスのユラしかり、龍宮院 富嶽しかり、特定の境地まで辿り着いた者の強さとは、他の者が思う人間の範疇を越えてしまっていると、彼は常々思っている。

 

尤も本人は『普通だよ』と言って気付いていないが、日本最強のプロゲーマーを相手に思考で読み勝ち、全米一位が操る白と金の流星に手が届き、レイドボスに少なからず手傷を負わせている此の男も、ある意味では既に『普通の範疇』を()()()()()()()()に立っているのだが。

 

「大学の講義とコンビニのバイトが終わったら、久し振りに双皇甲虫達に会いに行こう。素材確保と空中戦で何処まで食い付けるか確かめたいな………」

 

無尽のゴルドゥニーネや黒狼との戦いが控える中、眠気を押さえて大学へと向かう梓。其の目は達成感に満ち溢れていたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、某通学路。

 

夏服姿の陽務(ひづとめ) 楽郎(らくろう)は現在、大きな欠伸をしながら歩いていた。

 

「ふぁぁぁ………っ、眠………」

 

彼が欠伸をしていたのは、ゲームで『一徹』したからである。だが其の一徹は見方を変えれば、己の睡眠時間を削り潰しただけの価値が有るからだ。

 

(フハハハハ……!ペッパーの動きとヴルム・ハーフニィルのラスボス戦動画、そして龍宮院 富嶽の動きを見続けたお陰で、漸く『クリア』出来たッ!)

 

ニィィィィ……と笑い、思い出すは激闘の記憶。

 

ライオット・ブラッドを二本開けて朝六時半を過ぎるまで戦い通し、トレースAI相手に剣道のルールでは無くゲームシステム側の判定を利用した、謂わば『小技』で攻略した部分が大きい。

 

正々堂々と正面突破した訳では無いが、其れでも彼は確かに電脳空間に再現された、龍宮院 富嶽の写し身を倒したのだ。学校へ行く前にクリア済ゲームの棚に『龍宮院 富嶽全面協力! VR剣道教室・極』が加えられた時は、疲労感は一気に吹き飛ばされて晴々とした気分となり。

 

そして今は、ライオット・ブラッドを二本飲んだ事による反動が、疲労感と共に振り戻しになって襲い掛かってきている。

 

「まぁ授業中に寝なけりゃ何とかなるかぁ。もうそろそろ『集合場所』だが………」

「あ、あのっ!『陽務君』!おはようございます!」

「あ、斎賀さん。おはようございます」

 

声を掛けられたので視線を向けると、同じ学校の制服に袖を通す、高嶺の花にして同級生の『斎賀(さいが) (れい)』の姿が在り。声を掛けられたので普通に挨拶し、二人は並んで歩き始めた。

 

こうして楽朗が玲と学校へと歩いている理由なのだが、GAME-SHOP ロックロールにて彼女から『も、もし……陽務君が迷惑じゃなければ、で良いので……えっと、其の………!が、学校がある日は……い、いい、一緒に歩きません………か?』と誘われたからである。

 

其れ以来、彼は彼女と学校までの通学路を一緒に歩く様になった。そして登校途中の話題は、大体が『シャンフロ』か『他のゲーム』の事で。

 

「あ、の……陽務君……」

「何、斎賀さん?」

「えと………其の…。……『剣道教室』の進捗は、如何………でしょうか?」

 

剣道教室という要点での問い掛けに、楽朗はアレの事かと納得し。

 

「あぁ、エナドリ二本と一徹して裏ボス(・・・)を倒したよ。とは言ってもアレは、システム的な部分を突いた勝利だからなぁ………」

「えっ!?す、凄いですね!陽務君!」

「うおぁ!?」

 

彼の言葉を聞いた玲が、驚愕とキラキラした目で楽郎に迫ったので、思わず驚いてしまい。だが直ぐにハッ!となった玲はスススッと横に二歩下がった。

 

「………あ、すいません!ちょっと興奮しちゃって……!」

「あ、うん。大丈夫大丈夫……」

 

付かず離れず、そんな距離感で歩いていく二人。恋愛の空気に発展しそうな、或いは友達関係に転がりそうな、もどかしい雰囲気に誰かが『抱けェー!抱けェー!』と叫んでいる気がしなくもない中、玲は楽郎にこんな事を言ってきた。

 

「富嶽御爺様(・・・)は、其の……とても強い方でして。龍宮院流は私の二番目の姉が修めています。あ、実は斎賀家と龍宮院家は『親戚』でして。私と同年代の従姉妹の子は剣道をやってるんですけど、関西では敵無しと言われてて…………!?………りぇあぅ」

「斎賀さん?」

 

いきなり身内話を始めたかと思えば、普段の辿々しい雰囲気とは打って変わり。楽しそうに話していたのも束の間、変な声を出して止まる玲。

 

「あ、あの、すいません………」

「あぁ、いや……斎賀さんも(楽しそうに喋る)そんな一面が有ったなんて、意外だなぁ~って」

「ひゅぷゅ!?」

「えっ?」

「らんでもないれす!?」

 

ジョゼットみたいな奇声が上がった様な気がして彼女を見たが、顔を赤面させる玲しかいなかったので、テンションがコロコロ変わる愉快な女の子だなと思いながら、声には出さずに彼女の『うなじ』を見ていて。

 

そんな話で盛り上がっていれば、自分達の学校が見えてきた。

 

「お、斎賀さん。学校が見えてきましたね」

「あ、そうですね………」

 

楽しい時間とは何時も、あっという間に過ぎていく。学生の本分たる勉学に励むべく、二人は正門へと歩き出し。

 

「あ、陽務君………シャンフロの事、なのですが……」

「………あ、もしかして『アレ』?」

「えっと………対抗戦の、アレな件でして。……『了解』しました」

「…………解った、此方も準備する」

「はい。御迷惑を御掛けします」

 

要点を用いて簡潔に。しかしとても大事な対黒狼(ヴォルフシュバルツ)に向けた、一手を彼が打った事を意味していた。そうして正門を潜り抜け、二人は各々の学科へと歩き出した…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、楽郎は自身の教室に入った後にクラスメイトから取り囲まれた挙句、お前何で斎賀さんと一緒に登校してるんだよ!?やら、何時の間にフラグ立てやがった!?やらで質問攻めに逢う事になる………。

 

 

 

 

 

 






其れは来るべき時のサプライズ


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