ペッパー、新たな活路を見出だす
ヴァイスアッシュの激励を受けた後、ペッパーはアイトゥイルと共に、兎御殿の鍛冶場にやって来ていた。
「ビィラックさん、居ますかー?」
「ビィラック姉さん、居るかいなー?」
「ペッパーにアイトゥイル。2人してどないしたよ?」
金づちや金床を始めとした、鍛冶師の道具の数々を磨いているビィラックが居り、何をしに来たのかといった表情で此方を見ている。
「あぁ、ビィラックさん。実はさっきまでアイトゥイルと一緒に、千紫万紅の樹海窟に行って来てて。其処でエンパイアビー・クイーンの
アイテムインベントリから討伐で手にした素材達をペッパーは取り出して、ビィラックに見せていく。
「因みにな、ビィラック姉さん。今ペッパーはんが見せとるクアッドビートルの素材は、ワイとペッパーはんで10分以上掛かって漸く討伐出来た程の、かなり強靭な甲殻しとるさね」
アイトゥイルの言葉に、ビィラックはクアッドビートルの素材の中にある甲殻を、両手で力一杯持ち上げて裏表を見渡し、表面の肌触りを見ながら言った。
「…こりゃ良い
ビィラックからの問いに、ペッパーは彼女に『クアッドビートルの素材を使った防具と、エンパイアビーの素材を使った武器を拵えて欲しい』と言おうとしたが、先程の甲虫達との戦いを振り返り、こう言ったのである。
「あ~、其れなんですけど……此の素材で『ガントレッグ』を造って貰えませんか?」
「……すまん、ペッパー。今何と言った?」
ガントレッグ━━━━━通称『
ペッパーはリュカオーンの
「…………つまりペッパーは、ガントレットを脚用に調整したもんが欲しい━━━というこっちゃか?」
「はい。近接戦闘時に今のまま左手だけでの戦闘だと、右側からの攻撃に弱いのに加えて、いざという時に足で攻撃を『弾ける』ようにしたいと考えまして」
難しい注文を依頼したかなと、ペッパーは思っている。其れもそうだ、籠手やガントレットならば鍛冶師たるビィラックには理解出来ても、未知なる武器を空論で作る事は出来ないだろう。
「ふぅむ…脚用のガントレット、いやガントレッグか………」
「やっぱり難しいですよね…」
「………ペッパー、ワリャは本当に『面白い』のぉ。発想が『秀逸』じゃ…。そんな武具を聞いたら、鍛冶師の血が騒がん訳がないわ…!」
未知の武具作りに怖気付くところか、ビィラックは未知を『楽しんでいる』。自分の力で新しい物を産み出す事に、喜びと生き甲斐を彼女は抱いているのだ。
「ペッパー。ワリャの想い描くガントレッグの形は、頭ん中に出来とるかいな?」
「え、其れって…」
「四の五の言わずに、紙やら何やらに描き出してみ。わっちは『名匠』じゃ、そんじょそこらの鍛冶師とは『経験値』と『深み』が違う」
「…ありがとうございます!」
ペッパーはそう言って、ビィラックが持ってきた紙と鉛筆に、自分が想い描くガントレッグの形を示していく。
ベースに在ったのは、ブシカッツォとのビルディファイトで彼がビルドし、自分のノブ=ナッシュと激闘を繰り広げたリーエル、其の腕脚兼用装甲として使われたリジェクターアーマー。
其れを元に、クアッドビートルの勇角で爪先を、エンパイアビー・クイーンの針で膝のバンデージを構成。装甲をクアッドビートルの甲殻達を用いた、ガントレッグのイメージを紙上に築いてみせた。
「……おぉ、こりゃまた……!」
「出来そうですか?」
「うむ…此れだけ鮮明なら充分じゃな。じゃが此の手のタイプの武器は、わっち自身初めて作る。早くて2日…長く掛かっても5日は時間が必要じゃ。それでも良いか?」
名匠ビィラックでも、万全を期して製作したいのだろう。時間こそ掛かりそうだが、何とかなりそうだ。
「よろしくお願いします。あ、あとすいませんが、湖沼の小鎚と致命の小鎚、二本の修繕も頼んで良いですかね?立て込む形にはなりますが……ガントレッグ製作を優先してください」
「ん、わかった。承ったけの」
修理費はピーツの所でアイテムの取引をした分で作ることにし、アイトゥイルに一旦鍛冶場で待って貰い、急ぎ足でペッパーはピーツの元へ向かった。
取引では、
其の脚でビィラックの元に戻り、二本の小鎚の修理費を支払い、兎御殿の休憩室に在るベッドでセーブ&ログアウト。此の日のシャンフロを終えたのだった……。
「さて、どうするか……」
シャンフロをログアウトし、ペッパーから梓に戻った俺ではあったが、1つの問題に直面している。其れは『VRの格闘ゲーム』の経験自体皆無である事。
レトロゲームで人体の構造等をトレースし、自分の身体で再現したりはしたのだが、実際に電脳空間で自分自身を動かして戦う事は初めて。何よりガントレッグを使いこなすには並の格闘ゲームでは、真に研鑽を積めるとは言い切れない。
必要になるのは━━━━━『理不尽な発生』と『異常レベルの攻撃速度』、そして何より『全方位から攻撃が飛んで来る』レベルの格闘ゲームだ。
「………カッツォなら、此の手の格ゲーを知ってるかな」
決めたのならば即行動がセオリーだ、梓は早速スマフォのEメールアプリを起動して、ブシカッツォへメールを送り。直ぐに彼から返信のメールが届く。其の内容を返信してを幾つか繰り返し、梓は『あるゲーム』の購入を決めたのだった。
因みに、其の際のやりとりが此れである。
件名:何かオススメある?
from:A-Z
to:ブシカッツォ
プロゲーマーの視点から、オススメの格ゲー教えてくれ。内容としては、理不尽レベルの発生の速さと異常レベルの攻撃速度、そんで全方位から攻撃仕掛けてくるタイプのが良い。脚でパリィする練習がしたい
件名:Re何かオススメある?
from:ブシカッツォ
to:A-Z
脚でパリィって、何が起きたらそうなる
まぁ、理不尽な発生と攻撃速度なら、前に俺が奨めた『便秘』は其の類いの格ゲーだから良いぞ
何なら、未経験のA-Zに戦闘レクチャーをしてやっても構わん。報酬は何時ものラーメン一杯で
あとダウンロード版がオススメだ
件名:ReRe何かオススメある?
from:A-Z
to:ブシカッツォ
あっじゃあパッケージ版買いますね^^
それと明日は鉛筆との約束があるから、明後日の夜あたりに便秘にログインするよ。待てずに他のプレイヤーと戦ってるかも知れんが
翌日、都内某所の電器店……。
「ありがとうございましたー」の掛け声を背に、ペッパーは店を出ていた。
「目当てのゲームは、内容が内容なだけに格安でゲット出来たわな」
電器店の中古エリアに鎮座していた、中古品のゲームのパッケージ版をレジ袋で揺らしながら、梓はアパートへ向かう帰路へと着く。
「永遠との約束のメールは今日来るし、其れを確認してから飛び込みましょうか。VRの……格闘ゲームの世界に」
ブシカッツォがオススメと言っていた、VR格闘ゲーム『ベルセルク・オンライン・パッション』━━━通称『便秘』。全ての攻撃が超速フレームで発生し、常識を逸脱した恐るべきバグ技達のオンパレード。
1日のログインユーザー総数100人以下でありながら、何故かプレイしていたユーザー達がゲームを離れたとしても、月日を跨いで時折顔を出したくなるという、不思議な魔力を含んでいる、所謂『クソゲー』の部類に入るゲームだ。
此の便秘の世界で、一介のプレイヤー『ブラックペッパー』として、ガントレッグを使いこなす為に足でのパリィの訓練をするべく、また新しい世界の扉を叩く。
其処で俺は、新しい出逢いを果たすことになる………。
胡椒よ、便秘にて技を学べ