VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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戦いの舞台




殺意と怨讐の蛇に、我等が牙を打ち立てよ

「いや、なんじゃこりゃあ…………」

「でっっっっっ…………か」

 

ラビッツの地下。嘗てユニークモンスター・無尽のゴルドゥニーネが掘ったという其のトンネルを、ペッパーは最初『地下鉄を通す為に地盤を繰り抜く、専用巨大掘削重機で掘った空間』とばかり思っていた。だが其処に到着して状況を目の当たりにした彼は、己の思考の『甘さ』を否応無しに理解させられてしまう。

 

ゴルドゥニーネが掘った穴………其の()()は底の時点で乗用車が十台以上は横並びにしても、余裕で収まる様な圧倒的な広さ。其れも天井までの高さも其の横幅と同等レベルという状況に、ペッパーの思考は『無尽のゴルドゥニーネなる存在は、レイドボスタイプのユニークモンスターの可能性が有るのでは無いか?』と、己の思考を対レイド戦略に再構築し直し始めた。

 

「おっ。やぁやぁ、私の(・・)あーくんにサンラク君。其れにエムルちゃんにアイトゥイルちゃん、そしてノワちゃん」

「あ、サンラクさん………こんばんわ、です………」

「サンラクさん!ペッパーさん!」

「御晩で御座るな、御二方」

「今晩わです、ペッパーさんにサンラクさん!」

 

そんな折に声を掛けてきたのは、ペンシルゴンにサイガ-0と秋津茜、秋津茜のパートナー・シークルゥ、そしてレーザーカジキの四人と一羽。しれっと『私のモノ』宣言を仕掛けたペンシルゴンに、ノワがグルルル……!と喉を鳴らしながら威嚇し、暗闇に等しきトンネルで火花が散り合い迸る。

 

「あれ、お前等どーして此処に?」

「私達ログインしてから、各々のヴォーパルバニーに誘われる形で『ラビッツ防衛戦のユニークシナリオ』が発生してね。因みに『兎の国義勇兵(ラビッツ・ボランティア)』なんだけど、二人も同じタイトル?」

「いいや、今来たばかりだから受注はしていないけど………」

 

エードワードの話では、自分とサンラクは『無尽のゴルドゥニーネの分け身を倒す事』が内容だった筈。もしかすると此のユニークシナリオは、致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)を受注したか否かで『分岐』するのだろうか?

 

「いいえ。御二人には此方へ殺到するゴルドゥニーネの眷属達を我々が足止めをしている内に、奥に居る分け身を倒す事を御願いしています」

 

普段の宰相としてラビッツという、王国のトップを張る灰色のヴォーパルバニー・エードワード。今現在の彼は戦装束に其の身を包み、背中には精巧で緻密な彫り意匠が施された、仕込み杖らしきモノを背負い、歩いてきたのだ。

 

「おやおや、宰相閣下。御足労御疲れ様です」

「えぇ。其れと何故エムルは此処に?エストマには伝令役、シークルゥは私と最前線。アイトゥイルには後方支援を任せ、お前はエクシスにゼッタと留守番の筈だ」

「まぁ、色々言いたい事は有るだろうが………エードワード。俺達から二つ、言いたい事がある」

 

ヴァイスアッシュやイリステラ相手にも行ったロールプレイ、シャンフロというゲームにおいてはNPCやユニークモンスター相手の交渉をする際にも用いられる、ある種の『切札的要素』。タイミングをアイコンタクトで示し、ペッパーはインベントリアからヴァイスアッシュが真化させた、象牙(ゾウゲ)兎月(トツキ)呑黒(どんこく)】を。

 

サンラクが勇魚(イサナ)兎月(トゲツ)金皇照(こんおうしょう)】及び【冥帝輝(めいていき)】を手に取り、ダブルロールプレイでエムルを後方支援参加の為の舵を切る。

 

「俺とサンラクで今日、エードワードさんが仰った『分け身』。二人で必ず討ち果たす事を誓い、此処に居るヴォーパルバニー達を蝕む蛇の呪い………其れを今日、断ち切ってみせます。其れにエムルさんは、リュカオーンの影や深海三強、そしてクターニッドさんとの戦いを乗り越えてます」

「俺が言うのも何だが、エムルはまだまだヘタレな部分は有る。だが其れでも、アイツは何度も危機的な状況でも『ヴォーパル魂』を失う事無く、戦い通してきたんだ。エードワードが思っている以上に、奴は防人(さきもり)達の献身を無下にする程に『弱っちく』はねぇ。後方支援くらいさせてやれ」

 

暗闇の満ちるトンネルにて、眼鏡越しにエードワードの鋭利な視線がペッパーとサンラクに向けられる。国を束ねる国王としての威厳と眼光は、父親たるヴァイスアッシュの血筋を色濃く受け継いだ、強く重い光を宿している。

 

だが彼の威光に対し、ペッパーとサンラクは一ミリたりとて退かず、そして揺るがず。そうして数瞬、此方の意志が確固たる物だと悟ってか、エードワードが負けを認めるかの様な溜息を一つ付いて言った。

 

「……はぁ、良いでしょう。ですがアイトゥイル共々、二人に付いて行くのは駄目だ。あくまでも『後方支援』に専念する事……………良いね?」

「は、はいな……!」

「解ったのさ、エー兄さん」

「万が一って時は、俺達の帰り道を作ってくれ。頼んだぜ、二人共」

「はいな!私、準備してきますわ!」

「御任せなのさ!」

「ノワも他のヴォーパルバニー達の援護を頼むよ」

『ワン!』

 

ノワと共に走り出したアイトゥイル・エムルを見送っていると、エードワードが此方をじっと見ていて。先程の視線が『国王』としての物なら、今の視線は『兄弟姉妹』に対する物に見える。

 

「随分と『妹の扱い』が御上手な様で」

「お前と一緒で、俺も『お兄ちゃん』ってヤツなのさ」

「何となく解るんですよ、自分も『兄や姉に弟や妹』に囲まれてたので」

 

兄貴や姉貴はちゃんと仕事して自炊しているし、チビ達は皆各々で将来の夢を見付けて努力し始めたらしい。親父と御袋がアレなので、自分達はそうならないよう心構えをしていると思いたい所である。

 

「成程……では皆さんは此方に、防衛戦前の最終作戦会議を始めます」

 

戦略シミュレーションゲームのアクションパート前の、ブリーフィングフェイズでしか味わえない感覚に背中を押されながら、エードワードの案内で六人は巨大なトンネルの片隅に建つ、頑丈に作られただろう煉瓦と鉄で作った小屋へと招かれ、中に入ると机を囲む様にしてヴォーパルバニー達が居り、一斉に其の視線が此方へと向けられる。

 

彼等彼女等の身体に刻まれたユニークモンスター・無尽のゴルドゥニーネの呪い、其れはまるで『硝子に皹が入って亀裂が入った様な傷痕』が身体の一部に刻み込まれ、一匹の例外も無く()()()()から『黒い黒煙』が漏れ出しているのだ。

 

ユニークモンスターの呪い(マーキング)はどうやら各々で異なるらしく、夜襲のリュカオーンが牙や爪を用いて呪いを刻む為に『引っ掻き傷』や、遠目に見れば『鎖』の形状をしており。天覇のジークヴルムの場合は、こんがり焼かれた顔を狐の面で隠している秋津茜の物から、おそらく『火傷』の様に染み付いている。

 

クターニッドやオルケストラ、ウェザエモンにヴァイスアッシュと、各々のユニークモンスターから付与される呪いの形状は解らないが、間違い無くゴルドゥニーネの呪いは『身体(アバター)に宜しくない』成分で出来ていると見て良いだろう。

 

「成程………。此の皹割れ模様がゴルドゥニーネの刻んだ呪いであり、毒なんですね」

「下手に動いたら割れそうだな、コリャ」

「えぇ。此の(呪い)は他者へ伝染し、身体を蝕む蛇の毒……ヴァイスアッシュの()()ですら、直接食らえば『タダでは済まない』程の恐ろしさを誇る────そういう毒なのです」

 

そして、とエードワードが。皹割れを刻まれたヴォーパルバニー達が。ペッパーとサンラクの目を見ると同時に、二人の前に『ユニークシナリオ』が表示される。

 

 

 

 

『ユニークシナリオ【兎の国防衛戦(ラビッツ・ディフェンシブ)】を開始しますか?【Yes】or【No】』

 

 

 

 

 

「此れが最終確認(・・・・)です。ペッパー殿、サンラク殿。此処から先はもう引き下がる事を、指揮官として認める事は出来ません。─────宜しいですね?」

 

ヴァイスアッシュのユニークシナリオ、EXとは異なる枝分かれによって発生する、別のユニークシナリオ。そして呪いを受けたプレイヤーが背負う装備不可等の、重い制約を一時的に取り除ける毒を手にする為の戦い。

 

「………ハッ。こちとら爬虫類程度で怯える程、()()()()()をしちゃいねぇんだ。分け身をブッ倒して、マムシ酒にしてやんよ」

「任せて下さい、エードワードさん。此処に居る全員に、必ず勝利を捧げます」

 

二人の指先は迷う事無く、Yesボタンをクリックし。此処にシナリオ開幕が告げられた。

 

 

 

 

 






覚悟はとっくに出来ている


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