VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペッパーとペンシルゴンのオハナシ、そして詫び品納品




黒幕魔王に爆弾パンチをぶちかませ

サードレマ・裏路地、蛇の林檎。

 

ユニーククエストとの取引で、アーサー・ペンシルゴンから墓守のウェザエモンと戦う為の方法を教えて貰ったペッパーだったが、ウェザエモンの恋人というユニークNPC『遠き日のセツナ』との会話により、リュカオーンの残照武器の存在が発覚した事で、彼女との『オハナシ』をしなくてはならなくなってしまった。

 

店内の一角に座って目の前のペンシルゴンに向き合うペッパーは、蛇に睨まれた蛙の気持ちを否応なしに体験している。彼女自身の顔()笑っているものの、身体から放つオーラは真っ黒であり、其の眼は頂点捕食者と同じ。

 

此れはどうやっても逃げられる雰囲気じゃない。

 

「さて、あーくん。色々グダグタするのはよろしく無いから、単刀直入に聞くけどさ。セッちゃんが言っていた『強い想いが籠った物』って何なの?」

 

やはり其れで来るよなとペッパーは思いながら、サイガ-100の時と同じように、切るべき手札と切ってはいけない手札についてを考え。

 

そして此の話し合いで、絶対に守らなくてはいけない要素は『ラビッツ』、そして『アイトゥイル』の2つに絞り込んだ。

 

「感情移入する程好きになったNPCの発言、相当気になりますか…トワさんよ」

「そりゃ、ね?セッちゃんが言った『クロちゃん』って言うのが、君が前に私が居る中でサイガ-100と話した『夜襲のリュカオーン』で在るとして、一体何なのかなって気になった訳なのだよ」

 

正直、残照武器に関してはあまり開示したくは無い。本来ならば、ランダムエンカウントである筈の『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン』を、夜になれば、何時何処に居て、何をしていたとしても、確定で誘き寄せられる特級レベルの代物であり、これが他者の手に渡れば悪いことしか起きる予感がしないのだ。

 

だが相手はペンシルゴン………生半可な情報では、根掘り葉掘り深掘りして、全て所か其の先に隠してある物さえも暴こうとしてくる。彼女という存在をよく知るペッパーは、額に嫌な脂汗を流しながらも、第一声にこう切り出した。

 

「……実はセツナが言っていた『クロちゃんの強い想いが籠った物』なんだが……。夜の時間帯は見せたり、振っちゃならねぇって『とある鍛冶師』に、口酸っぱく忠告されてるんだよ………」

「ほほぅ、其れで?」

 

彼は左手でペンシルゴンを手招きし、彼女に耳を貸すようように誘導。ゆっくりと近付いてきた彼女の耳元で、ペッパーは簡潔に事実を述べる。

 

「簡単に言うと……夜の時間にリュカオーンを持ち主の元に召喚出来る包丁」

 

其の言葉を聞いた瞬間、ペンシルゴンは目に見える動揺と共に、コントのボケ役みたいな引っくり返り方をした。ぶちかましたパンチが思いっ切りクリティカルしただろう、ざまぁみやがれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本っっっっっっっっ当に君は、私の予想を斜め上に軽々しく超えてくるね、あーくん………」

 

数分程掛かって、漸く本来の落ち着きを取り戻したペンシルゴンは、蛇の林檎のマスターがサービスで持ってきてくれた冷水を飲みつつ、頭を抱えている。

 

「此の情報は正直に言うけど、他者に開示したく無いんだよなぁ……。今さっきのトワみたいに、思いっ切り引っくり返るだろうし」

「当たり前だよ。そんなもの出されたら、誰だって引っくり返るに決まってる」

 

だからこそ、自分はやりたくは無かったのだ。しかしペンシルゴンはオハナシで開示を要求して、自らの手でパンドラの箱の蓋を開けてしまったのだから、自業自得である。

 

「サイガ-100と話した時に俺は包丁の存在は明かしていないが、公になれば残照武器を大金積んで買い取るとか、其れこそ実力行使に踏みかねないだろうと睨んでる」

「そうだね……サイガ-100(あの娘)は『リュカオーン討伐に関して』言えば、全プレイヤーの中で『一番積極的』だし、其の為なら『如何なる手段さえ厭わない』から」

 

目的の為なら手段を厭わない人間は、何かの弾みで『オカシク』なる事は多々ある。だからこそ怖いのだ――あの手のタイプの人間が、『目的を叶えられる』道筋が整った瞬間の爆発力は、何者にも遮る事も、止める事も叶わなくなる。

 

ましてや、夜闇を駆け回るリュカオーンを『確実』に引き寄せられる『残照武器』等、サイガ-100にしてみれば、喉から手が出るところか、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の全てを捧げてでも交渉して、手にする可能性すら出て来たのだから。

 

「取り敢えず、ペッパー君。君は引き続き、其の残照が籠った包丁を秘匿し続けてね。其れは何れ、私達の『切り札』になる時が必ず訪れる」

「当たり前だ。唯でさえ此方はユニーククエストも有るのに、これ以上の不発弾と面倒事を抱えるのは御免蒙りたいわ」

 

ウェザエモンとは別のユニークシナリオ――――『兎の国からの招待』と、シャンフロの全プレイヤーに恩恵をもたらすクエストを抱える身として、隠しておきたい情報は多々ある。

 

だが、最優先秘匿情報のラビッツ並びにアイトゥイルは、ペンシルゴンにも隠せたので良しとした。

 

「短いけど、オハナシは終わりにしましょうか」

 

此れで帰れる…そう思ったのだが、ペッパーは『ある事』を思い出して、ペンシルゴンを引き止める。

 

「あぁ、そうだペンシルゴン。そういや、渡しそびれてた物があったわ」

「ん?なぁに?」

 

ペッパーはアイテムインベントリの奥底に仕舞っていた、沼掘りの清歯から創ったネックレスが入った箱を取り出し、ペンシルゴンに手渡す。

 

「エンハンス商会に頼んで創って貰った、詫び品のネックレスだ。清歯のネックレスっていうらしいが、カルマ値とかいう数値が高いとデメリットが働くように出来てるみたいで、今のペンシルゴンには相性が悪いと思う。

 

気付かなかったとはいえ、本当にごめん。気に入らなきゃ、売却して金策の足しにするなり、好きにしてくれて構わない」

 

頭を下げて、ペッパーは謝意を見せる。此の状態はペンシルゴンからすれば、スクショも出来るし、何らかの煽りだって入れられるチャンス。彼女なら狙ってこない訳がない。多分数ヶ月は弄り倒される事になるだろうと、彼は身構えた。

 

「……あーくん」

 

そんな時だ。ペンシルゴンの声が聞こえて、ペッパーが顔を上げた。

 

 

 

 

 

「ありがとう………大事に、するね」

 

 

 

 

 

 

潤んだ瞳と赤くなった頬、嬉しさが溢れた心からの笑顔に、ペッパーの……梓の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

 

彼女の今の笑顔は、人を弄り倒して玩ぶ時の外道顔でも無ければ、カリスマモデルとしてカメラの前で取り繕った顔でも無い。

 

幼き日の、一緒に遊んでいた頃に見せた、まっさらな。何色にも染まっていない、天音 永遠の純心無垢な笑顔だった。

 

「あ………え、えっ………」

「ん~?どうしたのかな、あーく~ん?私に見惚れちゃったかな~?顔が赤いぞ~?ん~?」

「はぁ!?違うし!?全然、そうゆうんじゃないんだけど!?」

「では一体何なのかな~?ペンシルゴンお姉さんに言ってみようじゃないか~ホレホレ~」

 

どぎまぎで言葉が続かないペッパーに、此処ぞとばかりか弄りに来るペンシルゴン。何なんだ、此の感情は。一体何なんだ?……モヤモヤするし、ムカムカする。わからない、解らない、判らない。

 

「ホレホレ~。言っちゃった方が楽になるよ~?」

「言わねぇって!?」

 

(だけど……あの瞬間のお前は………)

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――『綺麗』、だったから」

 

 

 

 

 

 

 

 

意図せずに、ペッパーの口からホロリと零れた言葉だった。ペンシルゴンの動きが止まり、店内はより深い静寂に包まれて。

 

「……あ、え……?今…何、口走った……?」

 

僅かに早く覚醒したペッパーが見ると、其処には顔が完熟トマトの様に真っ赤に染まりきった、ペンシルゴンが居り。

 

視線が重なった瞬間、ボスン!と水蒸気爆発でも起きたかのような蒸気と音が鳴り、彼女は猛スピードで店を出ていってしまった。

 

「何だったんだよ……アレは」

 

結局、答えは見付からず。ペッパーはマスターに料金を支払い、其の足でアイトゥイルと合流。ラビッツへと帰還後、セーブ&ログアウトを行い、現実世界に帰って来た。

 

しかしトワの今までに見たことが無かった表情と、己の内に燻る理解出来ない感情に振り回され、悶々としたまま、翌日寝不足気味になったのである………。

 

 






其の贈り物に祝福あれ

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